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62話 妖精の国

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 空が陰り夜が来ると、森の雰囲気はガラリと変わる。
 クロエは、大きな木の幹に空いている穴の中でうずくまっていた。

「・・・ゲイル様のバカ」

(浮気犬にロリコンジジイ・・・私のご主人様はロクな奴が居ないじゃない)

 クロエは、自分の見る目の無さを嘆いていた。

「これからは、私が手綱を握ってやるんだから!」

(もう、自分の召喚獣に振り回されてばかりじゃいられないわ!)

 クロエは、自分が魔王として、召喚獣のボスになる事を決意する。

「あれ?」
 
 すると、クロエの目の前を小さな光が通り過ぎた。

(何だろう?)

 光は3つあり、クロエの周りを飛んでいる。
 目を凝らしてみると、小人に羽が生えた様な姿の可愛らしい男女が飛んでいる。

「・・・妖精?」

「こんな所にワンちゃんがいるよ?」

「犬って言うより人間の女の子に見えるけど?」

「入口にいたら僕たちが通れないじゃないか」

 妖精達は、クロエの周りを飛び回り、あーだこーだと話している。

「凄い!妖精さんだ!」

(まさにファンタジーね!可愛いし素敵!)

 クロエは初めて見る妖精の姿に魅了されて、瞳を輝かせていた。

「このワンちゃん、私達に懐いてる見たいよ?」

「飼ってあげる?」

「良いね!こっちにおいで!」

 妖精に手招きされたクロエは、何の警戒心も抱く事なく、ふらふらと立ち上がって妖精についていく。

「ほらっ、こっちだよ!」

「おいで、ワンちゃん」

 妖精達はクロエの周りを飛んで、キラキラと輝く鱗粉を撒いていた。

「綺麗・・・」

(あれ?なんか意識が・・・眠くなってきちゃった)

 そのまま、クロエは意識を失って夢の中に堕ちていった。

 次に目を覚ますと、クロエは檻の中で目を覚ました。
 屋外に設置された檻は背の高い草に囲まれている。

「え?ここはどこ?」

(昨日は、森の中で妖精を見て・・・ダメだ、思い出せない)

「あっ、ワンちゃんが起きたよ!」

 檻の周りに空から降りてきたのは、昨日見た妖精達だった。
 しかし、明らかに昨日とは違う事がひとつだけある。

「妖精が大っきくなってる」

 昨日は掌サイズだった妖精達は、クロエと同じか少し大きいくらいのサイズになっており、人間と変わらないサイズになっていた。

「キャハハハハ!違うよ!ワンちゃんがちっちゃくなったんだよ!」

 妖精の女の子が腹を抱えて笑っている。

「私が、小さくなった?」

(確かに、やけに草木が大きく感じる・・・私の身体が妖精サイズになったって事!?)

「そうだよ!これからは私達のペットとして妖精の国に住めるんだよ!」

「嬉しいでしょ?」

「永遠に僕達と楽しいことをして遊ぼうね!」

 妖精達はクロエを取り囲んで笑みを浮かべる。
 それが、無性に怖くなる。

「ペットって、私、人間だけど?」

(せめて友達でしょ?)

「何言ってるのさ?ウェアウルフは犬の魔物だろ?ならペットだよ!」

「そうそう!ペットペット!人間は要らないよ!」

「みんなにワンちゃんの芸を見せるって言ってあるし、ちゃんと躾けてあげるからね!」

「そ、そんなの嫌よ!私を元の場所に帰してよ!」

(なんか怖い、この妖精達は危険な気がする)

 クロエの野生の感が危険信号を発している。

「そんなのダメよ!」

「ペットは飼い主に逆らえないんだぞ?」

「逃げようとしたら、虫の餌にしちゃうからね?」

 妖精達の目は笑っておらず、冗談では無いと理解したクロエは、顔を青ざめる。

(ど、どうしよう!?逃げる?でも、身体が小さくなってるし、どうやって元に戻れば?)

 妖精達の力や能力も未知数な今、下手に逆らえば、命が危ないと考えたクロエは、取り敢えず妖精達に従うことにした。
 
「わ、私は妖精さん達のペットです!逃げたりしないから安心して下さい!」

(油断させて、隙をみて逃げよう!)

「そっか!ワンちゃんは偉いね!」

「危うく、手足を切らないといけないところだったよ!」

「目玉もくり抜いて逃げられない様にするのは、可哀想だもんね」

 妖精達は笑顔で恐ろしい事を話しているので、クロエは恐怖で足が震えていた。

(どうしよう、逃げる勇気が無くなってきたんだけど・・・最悪、犬になるのも悪くないよね?)

 クロエは、取り敢えず従順な犬になる事を覚悟した。
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