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異物

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~小さな村~

 サボに連れられて、俺は、島の中心に位置する小さな村に着いた。

 道すがら、サボに聞いたところ、村は人口2000人程の小さな村だという。

 この島には、ここしか村は無く、主に、漁業と果物の栽培で生計を立てているらしい。

 特段争いも無く、平和にくらしているとのことだ。

 村を見ると、周りに壁はなく、村の道はあまり整備されていない。

 所々に民家があり、カゴを持った婆さんや、魚を吊るした棒を担いでいる筋肉質な青年が道を歩いている。

 平和な村、それが第一印象だった。
 壁がないのは、外からの侵略がないためだろう。
 これは島民の特権だ。

 村の周りはジャングルに囲まれており、技術レベルは余り発展はしていない事がわかる。
 
 サボに案内されて、俺は村の中を進む。

 村の中を歩いていると、人とすれ違う度に、物珍しい感じに話しかけられる。

 だいたい、俺が話すよりも早くサボがマシンガンのように話してしまうので、実質、俺はほとんど話していないのだが。

 俺が空から降ってきたこと、砂だらけにされたことや、これから俺に美味しい魚をご馳走してやることなどを、サボが得意げに話している。

 途中、今夜は【宴】という、気になるワードも聞こえてきたが、期待は刺身を食べてからすることにした。

 ・・・そうこうしながら、サボが一軒の家の前で止まる。

 家は木造で平屋の50坪ほどの大きさだ。
 牢屋ではなさそうで、少し安心した。

 家の前に着くとサボが言った。

「ここが俺んちだ!大したもてなしはできないが、まあ、入って寛いでくれ!」

 俺はサボに促されながら、家に入る。

 中は簡素だが、案外ちゃんと整頓されていた。

 居間に当たるところに案内されて、座布団の上に座る。

 隣の部屋の扉が空いていたので、目を向けてみると、目を見開き驚いた。

 そこには、2メートル以上の生簀があったからだ。

 俺は、直ぐに生簀に近づき中を見る。
 生簀には綺麗な青魚や、赤色の魚などが9匹ほど泳いでいた。

「これは、なんですか?」

 俺は興味深々に聞く。

「うまそうだろ?そこの赤いやつを今からさばいてやるから待ってろよ!」

 サボは網を持ってきて、80センチほどの大きな赤い魚を捕まえる。

 赤い魚は、見た目は、金目鯛のような形をしており…非常に美味しそうである!

 サボが台所で赤い魚をさばいている間に、色々と聞いてみると、この村では、氷が取れず、冷蔵庫に当たるものが無いため、一家に一個生簀を持っているらしい。
 魚は生きたまま生簀で保管するか、干物にしているとの事だ。
 
 どうやら、生簀の水は、漁師の人が、海から荷車で持ってきてくれるらしい。いつでも新鮮な魚が食べられるのは嬉しいが、生簀の作成や維持は大変そうである。

 俺は、サボが赤い魚をさばくのを期待に満ちた目で見ながら、待つ。

~数分後~

 目の前に広がるのは、大皿に乗った赤い魚の刺身盛、刺身は肉厚に切られており、透き通るような白身が光っている。
 その右には、兜ダシを使ったスープ!中には大きな貝や野菜がふんだんに使われており、とても豪華だ!そして左側には、シンプルだが、油の乗ったいい香りがするテールの塩焼き。
 最後に、この島特産の芋を使った煮物。
 芋は白く、里芋に似ている。
 この島では芋が主食らしい。

 俺は、目の前に広がる料理に興奮を抑えきれず、震えている。
  そんな俺を見かねて、サボが言った。

「どうだ!旨そうだろ?残さず食べろよ?」

「頂きます!!」

 俺は先ず、兜ダシのスープを手に持ち、口にする・・・。

 旨い!

 赤い魚のダシがしっかり出ていて、野菜や貝といい感じにハーモニーしている。

 次は刺身だ!

 小皿にある塩と、山椒のような木の実を少量、付けて食べる。
 最初はフグのようにコリっとした食感の後、トロのように、口の中で溶けて消える。

 すんばらしい!!

 余りの美味しさに、目から鱗が落ちる。

 俺は、夢中で食べた。

 全て平らげると、サボがドン引きした目でこっちを見ていた。
 俺は、食事のお礼を良い、夜の宴会も楽しみにしていることを伝える。

 サボは引きつった笑顔で、生返事を返す。

~翌日~

 ・・・俺は今、非常に頭が痛い。
 理由の一つは、昨日のレンの歓迎会で、飲みすぎてしまったせいだ。

 ・・・二つ目の理由は、レンだ。
 
 俺は、家の水槽を眺めながら、悩む。
 一匹も魚がいないこの水槽を眺めながら。

 今朝起きると、テーブルの上に豪華な刺身やスープに焼き魚等が、大量に並んでいた。
 
「サボさん、おはようございます!朝飯準備しておきましたよ!しっかり食べて下さいね!」

 レンがおはようの挨拶と共に、笑顔で言った。
 そして、この水槽である。

 ・・・レンのやつ、全部食いやがった。
 平均70センチを超える魚を、朝から8匹近く食べてしまうレンの胃袋には、朝から大きな衝撃を受けた。

 しかし、今は、もっと深刻な問題が起きている。
 昨晩、この島の守り神が祀られている社の周りで、宴をしたのだが、宴もたけなわになった頃、急に風向きが変わったのだ。
 夜中はずっと強い風が吹き荒れ、今朝は、激しい嵐になっている。この数十年、こんな嵐起きたことがない。
 海辺では、そこらじゅうに雷が落ちており、近づくことも出来ない。
 海で大きな影を見たという話も聞く。
 そして、嵐は、この島を中心にして、起きているようなのだ。

 ・・・とても嫌な胸騒ぎがする。

 何か、不吉なことが起きる前兆なのではないのかと・・・。


~レン編~


 俺は確信した。

 世界に気付かれたと・・・。

 宴を開始するまでは良かった。
 その後がいけない。
 まさか宴の場所が、この島の守り神の社だったとは・・・油断した。
 神に縁のある場所には、世界の目があることが多い。

 世界は、神が創造する。
 それぞれの世界には、各々の神、所謂【創造主】が存在する。
 世界の壁を突き破って侵入した俺は、この世界にとっては【異物】である。
 自分の身体に異物が入ってきたら、どうするであろうか?
 
 ・・・当然、排除しようとするだろう?

 今、まさに世界は、俺を排除しようと動き出していた。
 
「今回は思ったよりも早かったな・・・」

 美味しい食べ物が食べられるこの世界には、もう少し居たかった。
 しかし、俺は、この世界から去る決意をした。

 ・・・ただ、まだやり残したことがある。
 そして、俺は、サボの家の水槽に向かった。



 引きつった顔のサボと一緒に、豪華な朝飯を平らげた後、俺は玄関へと向かい、サボに礼を言う。

「大変お世話になりました。とても美味しい料理をありがとうございました。俺はそろそろ、この島を去ろうとおもぃ・・・!?」

 ズドン!!!!!!!!

 凄まじい閃光が走り、轟音と共に凄まじい衝撃が俺の全身を襲った。
 
 「があぁあああ!!」

 俺の真上に雷が落ちた。

 全身に電気が走ったような感覚、いや、実際に電気が走っている。
 凄まじい衝撃と全身の血液が沸騰するような痛みで、うめき声が漏れた。
 雷の持つエネルギーは凄まじく、意識が飛びそうになるほどの衝撃と痛みで脳が悲鳴を上げている。

 俺は、片膝を地面に着き、何とか耐える事が出来た。
 しかし、余りに唐突の出来事に、状況を把握することもできず、凄まじい閃光で、目が眩んでいた。

 ・・・次第に視力が戻り、目を開くと、【人型の水】が目に映った。
 サボの家の前には、見たこともない生物(?)が立っていたのだ。

 透明な水が人型に集まっており、波打っている・・・非常に気味が悪い。

 距離は、20メートル・・・一瞬の思考停止の間に、人型の水は、中心に向かって波が集まりだした・・・。
 
 …ゾクッ!!

 背筋が凍るような悪寒が走った。
 瞬時に、俺は右手を目の前に突き出す。

「断空!」

 すると、俺と人型の水の間に、黒い壁が出現した。
 まるで空間ごと断ち切られたかの様に、光すらも通さないその漆黒の壁は、厚さ1センチも無い程薄っぺらい。

 次の瞬間、人型の水の中心から、高圧力の水が俺に向かって噴出される。

 しかし、水は、黒い壁により、反らされて、サボの家と、ジャングル、そして、右後方の山を両断した。

「使徒級かよ・・・不味いな」

 この化物は危険だ。
 確実にこの世界の神の息がかかった敵である。
 まともに受けていたら、殺られていた。
 後ろのサボは、手に片手剣を携えて、驚愕の表情で、こっちを見ている。

 どっから武器を取出したか知らないが、余計なことをしないように祈る。
 
 俺は、目の前の人型の水に向き直り、即座に臨戦態勢に入った。
 漆黒のオーラが俺の全身から溢れ出し、纏わり付く。

 直後、人型の水へと踏み込むと同時に右拳を突き出した。
 右腕には、黒く濃厚なオーラが集まり、空間を歪める程のエネルギーを放っていた。
 
 ドゴン!!

 拳が人型の水を捉えた瞬間、大地を揺るがす程の衝撃と共に、人型の水が爆散した。
 拳の衝撃は、人型の水を突き抜け、雨雲を縦に裂く。
 雨雲の隙間から射し込む日差しが俺を照らした。

 しかし、俺は背筋を刺すような嫌な殺気を感じていた。

「思ったより、来るのが早かったな」

 俺は、雨雲の隙間を見つめていた。
 
 直後、雨雲から無数の渦が巻き起こり、巨大な竜巻となって地上へと伸びて来る。
 勿論、その先にいるのは、俺だ。
 
 その光景を呆然と見るサボは、気付いてしまった。
 俺が裂いた雨雲の隙間から覗き込む巨大な存在の目に・・・。
 その瞬間、サボは意識を手放した。

 「我が世界に進入せし者よ!我が怒りの前に海の藻屑となるがいい!」

 巨大な存在の雷鳴にも似た怒声は、大気を震わせ、海を揺るがした。

「この世界に害するつもりは無いし、お前とやり合う気も無い・・・この辺でトンズラさせて貰うぜ」 
 

 俺は、漆黒のオーラを足元に集中する。
 次の瞬間、逃げる様に高速で逆方向へと飛んだ。
 
 俺は、島から、300キロ程離れると、目の前の空間の壁に亀裂を生じさせる。

 亀裂からは、全てを飲み込むような不気味な闇が溢れている。
 
 そして、名残惜しくも、この世界から、去った・・・。

~サボ編~ 

 俺が目を覚ますと、そこにレンは居なかった。
 レンがいなくなった後、瞬く間に、嵐は過ぎ去り、海もいつもの穏やかな海に戻った。

 まるで、レンを追って、去っていくかのように・・・。
 

 ・・・そして、今日も俺は村を2週し、海辺に向かう。
 
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