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世界を喰らう者

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 喪失感・・・そう、身体の一部が無くなる様な感覚に似ている。
 これは、自身のフォースが消失する感覚だ。

「クフフ、どうやら天使達を倒したようですね。流石だよ、レン」
 美しい銀髪の髪をなびかせて、金色の瞳を持つその男は、美しい顔を歪めて笑う。
 
 銀髪の男は、汚れ一つ無いグレーのスーツを着こなし、東京のはるか上空で静止していた。
 その金色の瞳は、さらに上空を見上げる。

 突如、巨大な塊が、太陽の光を遮った。
 銀髪の男を大きな影が包み込む。

 巨大な塊は、どんどん近づいている。

 ・・・その正体は、直径10キロの巨大な隕石だった。

 巨大な隕石は、大気圏を容易く突き抜け、摩擦熱で、炎を纏ながら、真直ぐに銀髪の男へと堕ちてきた。

「クフフ、【世界支配ワールドドミナント】ですか、神は自身が創造した世界の中では、あらゆる法則を支配でき、あらゆる存在を具現化することができるのは知っていますが、いつ見ても派手ですね。とても面白い能力ですが・・・そろそろ、終わりにしましょう」
 
 銀髪の男は、その身体に黄金色に輝くオーラを纏った。
 そのオーラは、美しく洗練されているが、とても力強く濃密なフォースを保有していた。
 
 そして、その右腕を天に掲げ、隕石へと向ける。
 
 その直後、隕石は、凄まじい速度で、銀髪の男へと直撃し、飲み込んだ。

 ゴゴゴと地鳴りの様な音を立てながら大地へとぶつかる瞬間・・・巨大な隕石は、なんの唐突も無く、消え去った。
 いや、隕石だけではない、銀髪の男の周囲20キロが、まるで巨大なドーム状に抉られた様に、跡形も無く消え去っていた。
 先程まで存在した高層ビルや公園、学校等、ありとあらゆる物が消え失せたのだ。
 
 銀髪の男の、黄金色のオーラは、広範囲に拡大しており、ちょうど抉られた空間を満たす様にオーラが広がっている。
 その表情には、余裕の笑みが浮かんでおり、当然のように、彼の身体には傷一つ付いてはいなかった。

 金色のオーラへ向かって、一羽の鳩が飛んできた。
 しかし、鳩がオーラに触れた瞬間、鳩が消え失せた。
 何一つ残すことなく、まるで、その存在自体が無かったかのように、消滅した。

 【存在滅失】、彼の能力の一つであった。
 彼が放つ金色のオーラは、触れるモノを全て消滅し吸収する。
 その力に例外は無く、空間、いや世界そのものですら、消滅させる力を持つ。
 
「クフフ、こんな事をしても無駄ですよ。僕の【存在滅失】の力の前では、どんな物理攻撃も効きません」
 黄金色のオーラは、ゆっくりと収縮し、銀髪の男を薄っすらと包み込む程の大きさに戻った。

「あらぁ、物量で攻めたらどうにかなるかと思ったんだけど、無駄だったようねぇ。悔しいわ!」

 身長2メートルもある巨体の女性がゆっくりと飛行しながら、銀髪の男へと近づいた。
 その手足は、丸太のように太く、一ミリの無駄も無い筋肉がギッシリと詰まっていた。
 先程失ったはずの右腕は、元通りになっており、怪我らしきものは一切ない。
 その、鬼の様に鋭い瞳は、真直ぐに銀髪の男を見据えていた。

「クフフ、怖いなぁ・・・そんなに睨まないで下さいよ・・・ところで、いいんですか?そんなに僕に近づいても」
 
 銀髪の男が、吉田早織へと手をかざし、黄金色のフォースの球体を3つ放った。
 高速で、黄金に輝く弾が、吉田早織へと飛来する。
 対応するように、吉田早織は、太い右腕を前に突き出す。
 すると、彼女の眼前に巨大な鉄の壁が具現化した。
 3つの球体は、分厚い鉄の壁にぶつかり、鉄の壁を球状に抉る。
 しかし、壁は分厚く、貫通することは無かった。

 その結果を確認し、吉田早織がニヤリと笑った。

「ウフフ、あなたの正体は未だに分からないけど・・・いくつか分かった事があるわ。あなたの能力は、その黄金のオーラに触れた存在を滅失させる力。そして、その力に例外は無い。例え私でも、触れたら消滅させられるわ・・・でも、込められたエネルギー以上の量を消すことは出来ない。今、それが証明されたわ」
 
「クフフフフ・・・鋭いですね。流石は神様と言ったところでしょうか?でも、どうします?僕の能力を知ったところで、あなたに、何が出来ますか?」

「貴方が消しきれない程の攻撃を与えてあげるわ!」

「できますかねぇ・・・こう言うのもなんですが、僕は、神を殺すのは得意なんですよ?クフフ」
 
「神を殺すのが得意?・・・まるで、神を殺したことがあるような言い回しね」

「クフフ、貴方で、8億6354体目ですよ・・・まったく、世界は、星の数ほど在るとはいえ、気が遠くなりそうですよ」

「・・・どうやら、嘘じゃ無いようねぇ・・・あなたの様な存在がいることは、聞いてはいたけど、ここまでの化け物とは・・・なんとしても、ここで私が止めるわ!」

 吉田早織が、両手を広げると、彼女の周囲に、山のように巨大な鉄の槍が数千本具現化された。
 その圧巻とも言える光景を、銀髪の男は、金色の瞳で眺める。
 一本当たりがスカイツリーより大きい巨大な槍が数千本も浮いており、その全ての矛先が、自分を向いているにも拘らず、その顔に焦りの色は無かった。

 彼女が両手を前に突き出すと、まるで、東京の空を全て覆い尽くさんばかりの巨大な槍の嵐が、銀髪の男へと降り注ぐ。

 その全ての槍は、銀髪の男の黄金のオーラに触れた場所から消失していく。
 槍は次々に具現化されており、止むことのない雨のように、銀髪の男へと降り注がれた。
 それでも、一向に銀髪の男に、その槍が直接触れることは無かった。
 痺れを切らしたように、吉田早織は、さらに力を使い、巨大な炎の弾を10個具現化する。
 1つ当たり直径1キロ程の巨大な炎の弾は、赤黒く紅蓮の炎を押し固めた様な、その炎の塊は、10万度の高温を保有していた。
 まるで、太陽が目の前にあるかのような、いや、実際、太陽の表面温度よりも高温の弾が東京の空に浮かんでいる。
 通常であれば、地上は、一瞬にして焼き尽くされてしまうであろう。
 しかし、その炎の塊は、ある一定以上の範囲以外には、一切熱を放出しておらず、地上には、被害が出てはいなかった。
 吉田早織は、【世界支配ワールドドミナント】の能力により、完全に炎の熱を操ることで、球体の外にエネルギーを出さないようにしていた。

 吉田早織は、その巨大な炎の塊を、一斉に銀髪の男へと放つ。
 容赦なく、巨大な炎の弾が銀髪の男を飲み込む、次々と炎の弾がぶつかり合い、巨大な炎の渦となって、直径3キロの巨大な炎の竜巻となった。
 10万度の炎の竜巻は、天にまで届いており、ありとあらゆる生物に、生存を許さない。
 
 吉田早織の表情には、先ほどまでの余裕は一切無く、疲労が色濃く出ていた。

「ハァ、ハァ・・・これで、どうかしら・・・ハァ、ハァ、少し力を使い過ぎたかしらね・・・でも、ここまでやったら」
 
 吉田早織が荒い息を吐きながら、言いかけた時、突如、目の前の巨大な炎の渦が掻き消された。
 炎を吞み込むように、黄金色のオーラが吹き出し、その中からは、銀髪を靡かせ、金色の瞳で、真っ直ぐに吉田早織を見つめる男の姿があった。

「クフフ、勝ったと思いましたか?・・・ずいぶんと、無理をしているようですね。力が大分落ちていますよ?」

「ば、ばかな・・・なぜ・・?」
 銀髪の男のフォースは、先程より力が増していた。
 凄まじい攻撃の雨で、力は減っているはずなのに・・・。

「ま、まさか!そ、その能力は、力を吸収しているの!?」
 吉田早織の表情は、驚愕し、苦虫を噛み殺したように歪めた。

「クフフ、ご名答です」
 
「あ、あなたは、一体、何者なの?」

「【何者か】ですか・・・クフフ、それは、難しい質問ですね。【虚無イネイン】や【世界を喰らう者】等、様々な名前で呼ばれていますが・・・あなた達【神】が【創造主】と呼ばれるなら、私は【破壊者】、神と対を成す存在とでも言っておきましょう。まあ、簡単に言えば、創る者がいるなら壊す者もいるということですよ」

「【破壊者】・・・あなたの目的は何!?なぜ世界を破壊するの!?」

「クフフ、残念ですが、お話は終わりです。次がつかえていますので、そろそろ、消えてもらいますよ」
 
 銀髪の男は、一瞬にして吉田早織の眼前に迫る。
 
「は、早・・!」
 銀髪の男は、黄金色のオーラを纏う右手で、吉田早織の顔面を掴んだ。

 その瞬間、吉田早織の頭が消え去った。
 そして、そのまま、右手で吉田早織の胴体を縦に引き裂く。
 頭を無くし、身体を両断された、吉田早織は、即座に元の姿に戻った。
 まるで、ビデオを巻き戻すかのような動きで、筋肉や皮膚が再生されて行く。

「クッ!本当に化け物ね、でも、次の一撃で終わらすわ!!・・・神槍ヴァーナ!」
 
 吉田早織が叫ぶと、吉田早織の目の前に凄まじい量の炎が集束する。
 段々と炎が形を持ち始め、一本の槍となった。
 炎の塊で創られた様な巨大な槍を吉田早織が握ると、吉田早織の全身も炎に包まれる。
 とても、濃密なフォースで創られた炎を纏い、炎の槍【神槍ヴァーナ】の矛先を銀髪の男へと向けた。
 そして、流星の様に、槍と一体となり銀髪の男へと突き進んだ。
 
 その一撃に全ての力を込めて。

 銀髪の男は、右手を突き出し、黄金に輝くフォースを放出する。
 黄金のフォースの波が吉田早織を包み込んだ。
 凄まじいエネルギーの衝突により、激しい炎と光が爆発した。
 炎の槍【神槍ヴァーナ】は、凄まじい速度で、消滅しながらも、銀髪の男へと突き進む。
 
 そして、完全に、神槍ヴァーナと共に、吉田早織は消滅した。
 銀髪の男の頬には、薄らと傷が出来ており、一滴の血が流れ落ちた。
 
「クフフ、まさか、僕に怪我を負わせるとは・・・【痛み】なんて、本当に、久しぶりですねぇ。少し、昂ってきました」
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