堕ちた令嬢と冥界の契約

第6話 闇に潜む力

クロエ・ハートフィリアは、冒険者ギルドを後にしてイステリアの街を歩いていた。夕闇が迫り、港町の喧騒も少しずつ静まり返り始めていたが、クロエの胸の中は安らぎとは程遠い。ギルドで遭遇した下品な冒険者たちの存在が、彼女の心に暗い影を落としていた。

「ここで冒険者として生きていくんだって決めたのに……思った以上に厳しいわね」

クロエはそう心の中でつぶやきながら、街外れにある自分の隠れ家、森の家へ向かって歩を進めた。街中は危険が多く、できるだけ人目を避けたかった彼女は、自然と静かな裏通りに足を踏み入れていた。人通りの少ない路地を選んだことで、気持ちを少し落ち着かせようとしていたのかもしれない。

しかし、その静けさは逆に、彼女の不安を増幅させる要因にもなっていた。

ふと、背後からかすかな足音が聞こえてきた。クロエは心臓が跳ねるのを感じ、無意識に足を早めたが、その足音も同じように速くなっていた。誰かが自分を追ってきている。恐怖が胸に広がり、彼女は冷や汗を感じながらも、振り返らずに冷静に考えようと努めた。

「……つけられている？」

クロエは足を止めると、静かに後ろを振り返った。そこには、先ほどギルドで絡んできた下品な冒険者の男が立っていた。汚れた鎧に剣を携え、にやにやと不快な笑みを浮かべている。その目には、彼女を獲物と見なしているような、冷酷で欲望に満ちた光があった。

「やっぱり……」

クロエは一瞬身を震わせたが、すぐに冷静さを取り戻そうとした。ここで動揺を見せれば、男に付け込まれる。だが、彼女は冷静さを装う一方で、男が何をしようとしているのかを考えざるを得なかった。

男はクロエをじっと見つめながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。周囲には他に誰もいない。逃げることはできるが、今のままでは彼を撒くのは難しいだろう。彼女は路地裏という狭い場所に追い詰められてしまったことに気づき、焦りを感じた。

「おい、待てよ、お嬢ちゃん。そんなに急いでどこへ行くんだ？　ギルドでの態度、ちょっと気に食わなかったなぁ。俺たちに恥かかせやがって」

男は笑みを浮かべながら、嫌らしい言葉を吐き出した。クロエはその言葉に反応せず、無表情で見返した。

「私に何の用？　ついてくる理由は何？」

彼女は冷静に問いかけたが、内心では強い警戒心が高まっていた。男の態度は、ただの嫌がらせでは済まされないものだった。彼の目つきには、明らかに悪意があり、彼女を脅かそうとしていることが明白だった。

「別に大したことじゃねぇよ。ただ、お前みたいな貴族風情が、冒険者なんかやれると思ってるのが気に食わねぇだけだ」

男はクロエの言葉を無視し、ますます近づいてきた。クロエは一歩後退し、心の中で闇の力を呼び起こす準備をしていた。スケルトンの召喚をすぐに使うべきか迷ったが、男の目の前で明らかに魔法を使うのは、さらに状況を悪化させる可能性があった。

「これ以上近づかないで。あなたの相手をするつもりはないわ」

クロエは毅然とした声で言ったが、男はその言葉を無視し、嘲笑を浮かべながらさらに近づいた。そして、突然、男はクロエの腕を乱暴に掴んだ。

「触るな！」

クロエは反射的に叫び、手を振り払おうとしたが、男は力任せに彼女を引き寄せた。

「お前みたいな生意気な女には、俺たちの世界がどんなもんか教えてやらないとな！」

その言葉と共に、男は強引にクロエの腹を殴りつけた。予期していなかった衝撃に、クロエは息が詰まり、その場に崩れ落ちた。

「……っ！」

腹部に走った激痛が彼女の体を動けなくし、地面に倒れ込んだまま、苦しそうに呼吸を整えようとしたが、まともに息を吸うことすら難しかった。

「ぐっ……」

クロエは必死に意識を保ちながら、男を見上げた。男は不気味な笑みを浮かべ、彼女に馬乗りになると、乱暴に彼女の体を押さえ込んだ。クロエの細い体は、彼の力に押しつぶされそうになっていた。

「ほらよ、大人しくしとけよ」

男はニヤリと笑いながら、クロエの服に手をかけ、無理やり引き裂こうとした。その手は汚れ、荒々しく、彼女の肌に不快な感触を残した。彼女の服が引き裂かれ、露出した肌に冷たい夜風が当たる。

「やめて……！」

クロエは声を絞り出しながら必死に抵抗しようとしたが、男の力に押さえつけられ、身動きが取れなかった。彼女の心に恐怖と絶望が広がり、どうすればこの状況から逃れられるのかを必死に考えた。

「ふん、どれだけ抵抗しても無駄だ。今夜は楽しくなるぜ……」

男の手はさらに彼女の体に這い寄り、クロエは絶望的な気持ちで目を閉じた。しかし、彼女の内に眠る「闇の力」が、徐々に覚醒し始めていた。

「……絶対に、許さない……！」

クロエの目が開かれ、そこに宿る決意と怒りが彼女の中に眠る闇の力を呼び起こした。