堕ちた令嬢と冥界の契約

第7話 覚醒する闇の力

クロエ・ハートフィリアは地面に押し倒され、荒々しく裂かれた服から冷たい夜風が肌に触れる感覚を感じていた。男の汚れた手が彼女の身体に伸び、抵抗しようとするも、腹を殴られた痛みで動けない。それでも、彼女の胸には怒りと屈辱が燃え上がっていた。

「やめろ……！」

クロエは精一杯の声を振り絞ったが、男はその言葉を嘲笑するかのように笑った。

「やめろだって？　お前みたいな貴族崩れが、俺に命令するつもりか？　無駄だよ、お嬢ちゃん」

男は低い声でそう囁きながら、クロエの肌に触れ、さらに服を引き裂こうとした。彼の手の動きはますます強引になり、クロエは身体を固くして恐怖に立ちすくむしかなかった。

だが、その瞬間、彼女の中で何かが変わった。

「……許さない……」

クロエの心に渦巻いていた怒りと恐怖が、彼女の中にある闇の力を呼び覚まし始めた。力が湧き上がる感覚。今まで押し殺していた何かが、彼女の意識の中で次第に膨れ上がっていく。

「……許さない……絶対に……！」

彼女の声は震えていたが、確かに力を帯びていた。男はその異変に気づき、顔をしかめた。

「なんだ、急に……？」

男がそう言いかけたその瞬間、クロエの手が男の腕に触れた。彼女の指先から黒い闇が静かに広がり、冷たい波のように男の体に流れ込んでいった。

「なんだ……こ、これは……？」

男は急激に体に異変を感じ、驚きの声を上げた。クロエの闇の力――「生命力吸収」が発動したのだ。彼女の体に触れた男の生命力は、徐々に吸い取られていき、クロエの中に流れ込んでくる。男は動こうとするが、その体は次第に力を失い、重くなっていく。

「くそっ……何が……どうなって……！」

男は必死にクロエの手を振り払おうとしたが、すでに彼の体は弱り始めていた。彼の顔からは血の気が引き、瞳には恐怖が浮かんでいた。

「やめろ……やめろぉ……！」

男は声を張り上げたが、その叫びは次第にか細くなっていく。クロエは冷たい目で男を見つめながら、さらに生命力を吸い取り続けた。彼女の体には徐々に力が戻り、腹部の痛みも薄れていく。

「これが……あなたの罰よ」

クロエは男の腕を強く握りしめ、冷たく囁いた。彼女の瞳には怒りが宿り、決して許さないという決意が浮かんでいた。男はもう完全に抵抗する力を失い、ただ衰弱していく体に戸惑っていた。

「お前……なにを……」

男は完全に力を失い、地面に倒れ込んだ。もはやクロエに逆らうこともできず、彼の目は虚ろになっていた。

「二度と私に近づかないで……」

クロエは最後に冷たく言い放ち、男を突き飛ばした。彼は地面に倒れ込むと、力尽きたように動かなくなった。完全に生命力を奪われたわけではないが、彼はしばらく立ち上がることもできないだろう。

クロエはふらつきながらも立ち上がり、急いで破れた服を整えた。彼女の体は震えていたが、生命力吸収の力によって、体力は戻りつつあった。深い呼吸を繰り返し、彼女は落ち着きを取り戻そうとした。

「……なんとか、切り抜けた……」

クロエは周囲を見渡し、路地裏に誰もいないことを確認すると、足早にその場を後にした。男が動けなくなっている今、今のうちに安全な場所に戻らなければならない。追手がいつ現れるか分からない状況で、ここに長居するのは危険だった。

夜の闇が深まる森の中、クロエはようやく自分の隠れ家である森の家にたどり着いた。家の中に入り、静寂が広がる中で、彼女はようやく大きな息をついた。

「……本当に危なかった」

クロエは震える手で自分の体を抱きしめた。先ほどの出来事が、頭の中で何度も繰り返される。もしあの時、闇の力を呼び覚ますことができなかったら――彼女の運命はどうなっていたか、考えるだけで背筋が凍った。

「もっと……強くならなければ……」

彼女は自分に言い聞かせた。生命力吸収の力が役に立ったとはいえ、それだけでは完全に自分を守り切ることはできない。スケルトンの召喚をする余裕も無く、すぐに倒されてしまったことも痛感していた。

「この世界では、力がなければ生き残れない」

クロエは深く息を吸い込み、決意を新たにした。これからは、自分の力を鍛え直し、さらに強くなる必要がある。そして、もう二度と誰にも屈しないために、闇の力を完全にコントロールできるようにならなければならない。

「私は、私自身のために戦う」

クロエは小さく呟き、疲れた体を休めるために、静かな夜の中、眠りに落ちていった。