堕ちた令嬢と冥界の契約

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第20話 盗みの命令

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クロエ・ハートフィリアは、無力な自分を痛感しながら、かつて嫌っていた冒険者の命令に従わざるを得ない状況に追い込まれていた。オークの奴隷として過ごしていた事実を知られた以上、彼女には彼に逆らう術はなかった。冒険者は、クロエの弱みを握り、これから彼女にさらなる屈辱的な命令を課そうとしていた。

森の中でオークに勝利した後、冒険者はクロエを助けるという名目で洞窟から連れ出し、彼女を街へ戻すことにした。しかし、彼の目には冷酷な企みがちらついていた。

「お前、あの不可視化の魔法が使えるんだろ?」

冒険者はクロエに問いかけた。クロエは、彼が何を考えているのかすぐに察したが、無視することも、反抗することもできなかった。オークに捕まってからの屈辱的な体験は、彼女の誇りをすっかり打ち砕いていた。

「……使えるけど……」

クロエは静かに答えた。冒険者の次の言葉が恐ろしかったが、それでも彼に逆らうわけにはいかなかった。彼が何を命じようとしているのか、すでに察していたからだ。

「いいな。それなら、お前にはちょっとした仕事をしてもらおう。簡単なことさ。俺のために、街の大商人から少し品物を持ってきてもらうだけだ」

彼は軽い口調でそう言ったが、その言葉がクロエにどれだけの重みをもたらしたかは明白だった。彼はクロエに盗みを働かせようとしていた。そして、彼女が不可視化の魔法を使って盗みを行うことで、さらに彼の命令に従わざるを得ない状況に追い込まれることになる。

「……盗みを……?」

クロエは震える声で問い返した。これまでどれだけの屈辱を受けてきたとしても、盗みを働くことは彼女の中でまだ踏みとどまっていた一線だった。しかし、冒険者は冷酷な笑みを浮かべて、彼女の目を見据えた。

「そうだ。お前はもう、俺の言うことを聞くしかないだろう?オークに捕まっていた事実をばらされたくなければ、さっさとやれ」

その言葉に、クロエは言い返すことができなかった。彼の言う通り、自分の弱みは彼の手の中に握られている。今ここで逆らえば、彼女の過去が広まり、すべてが台無しになってしまう。

「……分かった……」

クロエは唇を噛み締めながら、小さく答えた。彼女に選択肢は残されていなかった。

イステリアの街に戻ったクロエは、冒険者の命令通り、大商人の家へと向かうことになった。彼女は、夜の静寂の中で誰にも見つからないように行動しなければならない。

「不可視化の魔法を使えば、誰にも見つからないはず……」

クロエはそう自分に言い聞かせながら、商人の家に近づいた。再び全裸になり、不可視化の魔法を発動した。姿が消えると同時に、冷たい夜風が彼女の肌を刺し、恐怖と屈辱が再び胸にこみ上げてきた。

「こんなこと……したくない……」

だが、今のクロエには、彼の命令に従うしか道は残されていなかった。もし失敗すれば、さらに酷いことが待っていることは明白だった。彼女は震える手を抑えながら、商人の屋敷の門を抜け、静かに家の中へと忍び込んだ。

不可視化したクロエは、家の中を慎重に歩き回った。商人が寝静まっている間に、彼が隠している宝物を探し出さなければならない。彼女はこれまで盗みなど一度もしたことがなかったが、今は命じられた通りに行動するしかなかった。

数分後、クロエは商人の隠し部屋を見つけ、そこにあった小さな宝箱を手に取った。それは冒険者が要求したもので、彼のために持ち帰らなければならないものだった。

「これで……終わり……」

彼女は自分に言い聞かせながら、静かに商人の家から抜け出し、冒険者の待つ場所へと向かった。

夜明け前、クロエは冒険者の前に姿を現し、手に入れた宝箱を差し出した。冒険者は満足げにそれを受け取り、にやりと笑った。

「よくやった。これでお前は俺に完全に従うしかなくなったな」

彼の言葉が、クロエの心に突き刺さった。彼女はオークから逃れるために屈辱的な日々を耐え抜いたが、今度はこの冒険者に従わざるを得ない立場に追い込まれてしまった。盗みという新たな罪を犯したことで、彼女の弱みはさらに深く握られたのだ。

「……これでいいんでしょう?もう終わりにして……」

クロエは小さくそう呟いたが、冒険者は冷たく笑いながら言った。

「まだ終わりじゃないさ、お嬢ちゃん。お前にはまだまだやってもらうことがあるからな」

その言葉に、クロエは絶望的な感情に包まれながらも、逆らうことはできなかった。
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