堕ちた令嬢と冥界の契約

第21話 屈辱と新たな運命

クロエ・ハートフィリアは、再び夜の街を歩いていた。彼女の隣には、あの嫌な冒険者がいる。彼の命令に従わざるを得ない状況に追い込まれてから、クロエの自由はどんどん奪われていった。オークの奴隷生活から解放されたはずが、今度は別の男の支配下に置かれ、彼のために盗みを働くことでさらに弱みを握られてしまった。

「……これで、本当に終わりなの？」

クロエは心の中でそう自問したが、答えは見つからなかった。彼女は誇り高い貴族令嬢だった頃の自分と、今や冒険者に支配されるただの存在になってしまった自分を重ね合わせ、屈辱感で胸が苦しくなるのを感じた。

「さて、これからどうするか……」

冒険者はクロエの肩に軽く手を置き、にやりと笑った。彼は彼女を完全に支配しているという自信に満ちていた。クロエはその手を振り払いたかったが、逆らうわけにはいかなかった。彼に逆らえば、彼女が行った盗みのこと、オークの奴隷としての過去をすべて暴かれてしまう恐れがあった。

「……何を望んでいるの？」

クロエは小さな声で尋ねた。彼女はもう何もかも失ってしまったような気がしていたが、彼が今後何を要求してくるのかがわからず、不安が募っていた。

冒険者は少し考えるようにしてから、クロエに向き直り、その顔に不気味な笑みを浮かべた。

「簡単さ。お前は俺の彼女になるんだよ。これからは俺のそばにいて、俺の言うことをすべて聞け。そうすれば、お前の秘密は誰にもばらさないでやる」

その言葉に、クロエは息を呑んだ。彼の「彼女」という言葉が何を意味しているのか、すぐに理解できた。これまではただ命令に従っていただけだったが、これからはもっと深い、もっと支配的な関係を求められることになる。クロエは震えながらその提案を拒むことができない自分に気づいた。

「……わかったわ」

クロエはそう答えるしかなかった。自分の意思ではなく、すでに弱みを握られている状況が彼女を縛りつけていた。彼女はかつての自分がどれだけ高い地位にいたかを思い返すたびに、今の自分の姿が信じられないほど落ちぶれていることに気づいた。

それからというもの、クロエは冒険者の彼女として過ごす日々が始まった。彼のそばにいることで、表向きには安全に見える生活が保障されていたが、その裏には常に屈辱がつきまとっていた。彼の要求に応じ、従うことしかできない自分が、ますます小さく感じられる。

街の冒険者たちは、クロエが彼の「彼女」になったことを知り、何となくその関係を理解していたが、真実を知る者は誰もいなかった。彼女がなぜ彼のそばにいるのか、彼女の過去に何があったのか、誰も知らない。ただ、彼女が無理に笑顔を作り、彼に従っている様子を見て、誰も深く詮索しなかった。

クロエの中では、毎日が戦いだった。彼の望みを叶えることによって自分の秘密が守られる一方で、彼女の心は次第に摩耗していった。彼に支配されるという現実が、彼女の内なる力を奪い、かつての自分を遠ざけていく。

ある夜、クロエは彼の隣で静かに座り、外を眺めていた。冒険者は酒を飲みながら、彼女に軽く話しかける。

「お前、昔は貴族のお嬢様だったんだろう？今の姿とじゃ大違いだな。けど、こうやって俺のそばにいるのも悪くないだろ？」

その言葉に、クロエは何も言い返せなかった。彼のそばにいることで、かつての誇り高い自分が崩れ去り、今や彼に完全に支配されていることを改めて感じていた。

「……ええ、そうね」

クロエはただそれだけを答えた。彼女の心の中では、かつての自由と尊厳が失われ、ただ彼の意のままに動かされる存在になってしまっていた。しかし、彼に従わなければ、自分の秘密がすべて暴かれるという恐怖が、彼女を縛り続けていた。

クロエ・ハートフィリアは、今や冒険者の彼女という立場に甘んじながらも、心の奥底でまだ小さな希望の火を灯していた。彼に完全に屈服してしまったように見えながらも、彼女の中で自由への渇望は決して消えることはなかった。

しかし、その自由を取り戻す日がいつ訪れるのか、クロエにはまだわからなかった。