堕ちた令嬢と冥界の契約

第45話 解放の兆し

クロエ・ハートフィリアは、異国の貴族に奴隷として買われ、首輪の呪いに縛られた生活を送っていた。猿に芸を仕込まれ、貴族たちの前で屈辱的な芸を強要され、さらには腹を出して仰向けにさせられるという、これまでにない屈辱を味わい続けていた。彼女の心は限界に近づいていたが、首輪の呪いによって自由は完全に奪われ、彼女は絶望の淵に追い込まれていた。

しかし、その日、予期せぬ救いの手が差し伸べられることになる。

宴が終わり、貴族たちがそれぞれ部屋に戻る頃、クロエは床に倒れたまま、まだ動けずにいた。仰向けになり、屈辱のポーズを取らされた彼女は、心身ともに疲れ果て、ただ地面を見つめながら涙を流すしかなかった。

そのとき、ふと誰かの足音が聞こえた。クロエはうっすらと顔を上げ、その人物が誰なのかを確認しようとした。目の前に立っていたのは、貴族の子供のひとり、まだ幼い少女だった。

その少女は、クロエを嘲笑っていた他の子供たちとは違い、いつも遠くから彼女を見ているだけで、直接いじめたりすることはなかった。少女は優しい目でクロエを見つめ、声をかけた。

「……あなた、辛そう……」

クロエは驚いて顔を上げ、少女を見つめ返した。彼女はただこの子も自分をからかうために近づいてきたのだろうと考えたが、少女の目には本当の優しさが宿っていた。

「……助けてあげる。ここから連れ出してあげるわ」

クロエは耳を疑った。長い間、絶望的な状況に置かれてきた彼女にとって、その言葉はまるで夢のようだった。

少女は周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、クロエにそっと手を差し伸べた。クロエはまだ信じられない思いでその手を見つめたが、ついに彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がることができた。

「こっちに来て……首輪を外してあげる」

少女はクロエを優しく連れ出し、屋敷の裏手にある静かな場所へと導いた。そこは普段誰も訪れない場所で、ふたりだけの安全な空間だった。

「どうして……私を助けてくれるの……？」

クロエは恐る恐る尋ねた。彼女は誰かに助けられることなど、もはや考えられなかったため、この状況が信じられなかった。

「私はあなたがかわいそうだと思ったの。みんながあなたを笑っていたけど、本当はそんなこと、間違ってるって思ってた。あなたはもっと自由であるべきだわ」

少女は真っ直ぐな目でクロエを見つめ、首輪の解除に取りかかった。彼女は以前、父親が隷属の首輪を外すための鍵を隠しているのを偶然見つけていたのだ。少女はその鍵を持ち出していた。

「これで……」

少女が慎重に鍵を差し込み、首輪に施された呪いの力が解け始めた。クロエの首を締めつけていた感覚が次第に和らぎ、ついに首輪が外れた瞬間、彼女は信じられないほどの解放感を感じた。

首輪が外れた瞬間、クロエは自分が再び自由を取り戻したことを実感した。体にかかっていた呪いが消え、猿たちの命令に逆らうことなく、自分の意思で動けることができるようになったのだ。

「……ありがとう……」

クロエは涙を流しながら、少女に感謝の言葉を述べた。長い間、屈辱と苦しみの中にいた彼女にとって、この瞬間は希望そのものだった。

「でも、早く逃げないと。誰かが気づいたら、また捕まっちゃうかもしれない……」

少女はクロエにそう言い、出口の方を指し示した。クロエは決意を新たにし、再び自由を取り戻すためにその出口へと歩み始めた。

「あなたも逃げて……」

クロエが逃げる直前、少女は再び彼女に声をかけた。少女は無邪気な笑みを浮かべながら、クロエに強く言い聞かせた。

「あなたが自由になれるように、私も応援してる。だから、絶対にここから逃げて、幸せになって！」

クロエはその言葉に励まされ、深く頷いた。彼女はその小さな手助けが、これからの自分の未来を変えるものだと確信した。

クロエは少女の言葉に支えられながら、静かに貴族の屋敷を後にした。彼女は再び自由を手に入れたが、まだその未来には多くの試練が待ち受けているだろう。それでも、彼女は決して諦めることなく、自分自身の道を切り開いていくことを誓ったのだった。