堕ちた令嬢と冥界の契約

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第46話 不可視の逃走

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貴族の娘に助けられ、隷属の首輪が外れたクロエ・ハートフィリアは、ついに自分自身の自由を取り戻した。しかし、彼女はまだ異国の地にいて、猿に従わされ、貴族たちの娯楽にされた屈辱の日々を完全に断ち切るためには、この場所から逃げ出さなければならなかった。

クロエの心の中には、かつての誇り高き侯爵令嬢としての自分を取り戻す強い決意が渦巻いていたが、それと同時に、今この瞬間に捕まれば、再び自由を失う恐怖もあった。

屋敷の裏手で首輪を外してもらった後、クロエは貴族の娘に別れを告げ、静かに屋敷の影を使って抜け出した。だが、彼女の白い肌はこの異国の地では目立ちすぎる。屋敷の中では光を浴びていたため気づかなかったが、夜の街に出ると、その白さはどこにいても目立ってしまう危険があった。

「目立たないようにしないと……すぐに見つかってしまう……」

クロエは心の中で自分に言い聞かせた。幸い、彼女にはまだ魔力が残っていた。隷属の首輪が外れたことで、彼女の魔力は再び自由に使えるようになっていた。

「不可視化の魔法……」

クロエは静かに呟きながら、闇属性の力を解放した。彼女の体は瞬く間に薄い闇に包まれ、その姿は夜の影に溶け込むように消えていった。完全に不可視化した彼女は、周囲から姿が見えなくなり、白い肌の目立つ危険性から解放された。

「これなら……誰にも見つからない」

クロエは一息つき、港を目指して夜の街を歩き始めた。港までの道はそれほど遠くないが、貴族の屋敷に近いこの街の中心部には警備が多く、彼女の動きには慎重さが求められた。

街は静かで、夜の風が冷たく吹き抜けていた。クロエはゆっくりと歩を進めながら、目立つことなく港へ向かった。不可視化しているとはいえ、足音や小さな物音で誰かに気づかれる可能性があるため、彼女は一歩一歩慎重に進んでいった。

港が近づくにつれ、クロエの心は次第に高鳴っていった。ここを逃げ出せば、再び自由を手にできる。異国の地から離れ、どこか新しい場所で、自分自身の人生を取り戻すことができるという希望が、彼女の胸に膨らんでいた。

しかし、彼女の逃亡はまだ終わりではなかった。道中、巡回している兵士たちが近づいてくる気配を感じた。彼らは夜間警備をしており、怪しい人物がいないか見張っていた。不可視化しているとはいえ、兵士たちの近くを通り過ぎるのは危険だった。

クロエは近くの影に身を潜め、兵士たちが通り過ぎるのをじっと待った。彼らの足音が次第に遠ざかっていくのを確認すると、再び静かに歩みを再開した。

港までの道のりは思っていたよりも長く感じられた。夜の静寂の中で、自分の足音や小さな物音がやけに大きく響いているように思え、クロエはそのたびに緊張で胸が高鳴った。だが、不可視化の魔法はしっかりと持続しており、彼女はそのまま無事に港へとたどり着いた。

港に到着したクロエは、目の前に広がる広大な海を見つめた。貿易船がいくつか停泊しており、彼女にとってこの海が新たな人生の始まりを告げるものに見えた。船に忍び込めば、どこか遠い地へと逃れることができるかもしれない。

「ここから……新しい人生が始まる……」

クロエは心の中でそう誓いながら、次の行動に移る準備をした。彼女の体は今や不可視の闇に包まれており、誰にも見つかることなく、静かに次のステップへと進む決意を固めていた。

自由を取り戻したクロエは、再び未来を自分の手で切り開くために、夜の港で一歩を踏み出したのだった。
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