エレメント ウィザード

あさぎ

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第2章2部

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 「劫火峡谷デフェールキャニオン・・・?」
 「えぇ、名前の通りの場所ですわ。深く暗い谷に険しい崖、その場所一帯全てが激しい炎に包まれていますの。」
 「そんな場所をどうやって通るんだ?」
 「火の召喚獣であるフレイヤドラゴンとかがいれば飛んで行けるんだけど・・・。僕は召喚獣なんて扱えないし。」
 「クエスト受注書に、行く方法は書いてないのですか?」
 「任せる。と一言だけ・・・。」
 「そんな投げやりな・・・。そもそも依頼者はどなたですか?」

 シリアは端末の文字を追った。

 「え?ソン・シャノハ博士・・・?」

 その言葉にジェシドが力強く頷いた。

 「セリカ君、覚えているかい?この学園に僕が憧れている人がいるって。」
 「あぁ、覚えている。」
 「それがソン・シャノハ博士だ。彼はこの学園の情報システムを一括で管理している天才と言われている人物だ。
 彼の研究はどれも高い評価を受け、エレメント分野の第一人者ともいえる。そんな人がいると知っていたから僕はこの学園に入学したんだ。」
 「そうか。ジェシドが興味を抱いているエレメント遺伝子も研究している人物ってことか。」
 「うん。シャノハ博士がどんな文献を借りるのか興味があるし、ACLに入りたいって気持ちもある。しかもポイントも高い。僕にとっては願ってもないクエストなんだ。でも、僕1人では劫火峡谷デフェールキャニオンなんて越えられない。
 なんでこのクエストの対象者が修練ラッククラスの者なのかは分からないけど、チャンスは無駄にはしたくないんだ!」
 「だからセリカに付き合って欲しいということですね。」
 「危険な場所だし、まだ行く方法も決まっていない。でも――。」
 「いいぞ。」
 「・・・え?」
 「ジェシドに付き合おう。もちろんOKだ。」

 セリカはジェシドの目をしっかり見据えた。

 「え?そんな簡単に決めて・・・本当にいいの?」
 「ジェシドには世話になった。私はジェシドのおかげで追試も合格できたし、勉強の仕方も分かったんだ。その恩が返せるならなんだって協力するさ。」
 「私も同行させてください。微力ながらお手伝いさせていただきますわ。ポイントが頂けるのは有難いですし。」

 シリアもにっこりと笑う。

 「あ、ありがとう・・・!本当に助かる。僕も頑張るよ!!
そうと決まれば、まずシャノハ博士のところにクエスト受託のサインを貰いに行かないといけない。一緒に来てくれるかい?」

 セリカとシリアは同時に頷いた。



 その日の放課後、セリカたち3人は学園の北館1階にある『情報管理部』という場所を探していた。 
 しかし、暗く冷たい廊下を進んだ空間には部屋どころか窓さえもない。

 「おかしいな・・・。場所はここのはずなんだけど・・・。」

 クエスト依頼書によれば、依頼者であるソン・シャノハ博士はここに居ることになっている。
 3人はこの何もない空間を2度往復してきたところだった。

 「部屋もなく、ただの汚れた壁しかないな。」

 セリカはコツコツと汚れた壁を叩いた。

 「確か、この情報管理部は別名『変わり者の集まる場所』って言われていますわよね。」
 「変わり者・・・?」
 「えぇ、詳細は分かりませんが、昔からそう呼ばれているのだと聞いたことがありますわ。」
 「そういえば、シリアとジェシドはその博士に会ったことがあるのか?」

 ジェシドは端末の画面から目を離さずに答えた。

 「博士は忙しい方で、ほとんど研究室から出てこないからお会いした機会はないかなぁ・・・。」
 「私もですわ。とても遠くから拝見したことがある程度です。だからどんな方なのか楽しみですわ。」
 「やっぱり、とっても威厳があって高貴な方なんだと思う!僕、緊張してきたよ・・・。」
 「学園のシステムを一人で管理されているのですから、頭脳明晰で高いカリスマ性を持ってらっしゃるのでしょう!スゴイですわ!」

 浮かれる2人を見ながらセリカは再び壁を叩いてみる。すると、クスクスクスッ・・・という笑い声と共に、2体の妖精フェアリーが姿を現したのだ。

 「まぁ!妖精フェアリーですわ!かわいいっ!」
 「使役獣・・・?にしては様子が・・・。」

 妖精フェアリーはその大きな眼でパチンパチンとセリカたちを見つめると、再び、クスクスクスッ・・・と笑いながら飛んでいき、そのまま消えてしまった。

 「消えちゃいましたわ・・・。」
 「特に変化も見られないね。困ったな。受託のサインを貰わないとクエストには行けない・・・。」

 ジェシドが途方に暮れかけていたその時、前方の壁からくぐもった人の声が聞こえてくる。その会話は少し揉めている様子だ。
 そして、汚れている壁の一部が淡く薄く光りだすと、その光から聞こえてくる声は先ほどより明瞭に聞こえてきた。

 「いたたたたた・・・ちょっと、無理やり部屋から出さないでって・・・!いたたた・・・!」
 「お主の客じゃろうが!私はこれからおやつの時間なんじゃ!邪魔されてたまるか!外で話せぃ!」
 「痛い・・・痛いってレイアちゃんってば・・・。そのおやつ、僕も楽しみにしていたんだから絶対に残しておいてよ・・・!」
 「知らぬ。早い者勝ちじゃ!よって、残しておくかはワシの知ったことじゃない!」
 「あ、ずるい!!そう言って、この前も僕のカステラを全部食べたよね!?」
 「それがどうした!冷蔵庫に入ってあるお菓子はすべてワシのものじゃ!」
 「買ってきたのは僕なんですけどー!」
 「知らん!食べたかったら早く要件を終わらせればよいじゃ、ろぉぉぉう!!」
 「うわぁっと!!」

 叫び声と共に姿を現した男性は、廊下で派手に尻もちをつく。そして、光っていた壁の一部はゆっくりとその光を失い、消えていった。

 「も~ぅ。相変わらずうちの姫は傍若無人だなぁ・・・。」

 頭をボリボリと搔きながらニヤニヤと薄汚い壁を見つめている男性に、ジェシドは声をかけた。

 「あの・・・大丈夫ですか?お手を・・・。」

 男性は力強く手を握り、そのまま立ち上がった。

 「いやぁ~ありがとう。礼を言うよ。」

 男性は笑みをたたえながら立ち上がると、お尻をはたくこともなく無遠慮に3人を見つめる。
 ヨレヨレの白衣にボサボサ頭を無造作に輪ゴムで止め、その足元は片方ずつ違う種類のスリッパを履いている。

 「えっと・・・。僕たち、ソン・シャノハ博士にクエストの受託サインを頂きに来たのですが・・・。博士はどちらに?」

 ジェシドはおそるおそる、自分の端末を見せた。

 「クエスト?・・・あぁ~、これね~、ハイハイ、いいよいいよ~~♪」

 ニッコリと笑う顔にシワがくっきりと現れる。

 「え、っと。あの、シャノハ博士ですか・・・?」

 ジェシドの端末を受け取り、操作しながら男性は答えた。

 「うん~。オレがシャノハ~。よろしくね~♪」

 細目の目が笑うとさらに細くなる。ジェシドは目を丸くし、シリアは眉をひそめている。
 セリカは、彼らの驚きと失望の顔がその細目で見えなければいいのにと、ぼんやりと思った。
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