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第3章4部
伝染
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惨状はひどいものだった。
襲来した未知の存在により、学園内は混乱の渦といえるだろう。
砂埃舞う先の建造物は見る影もないほどに崩壊していて、其処彼処《そこかしこ》にはケガ人が横たわっていた。
泣き喚く者、現状に放心する者、救援に声を張り上げる者たちの中を、セリカは一直線に駆け抜けていく。
「なんて強い気だ。これはオルジじゃなくても気配を察知できるレベルだな。」
禍々しい気配は近づくほどに濃くなっていく。
まるで誘《いざな》われているかのようにその中心であろう場所に辿り着いたセリカは、フワリと揺れる甘い匂いに気が付いた。
ガキィィン!と金属がぶつかる音が響く。それは刹那に形成した氷剣と、今まさにセリカの首を掻き切ろうとした鋭い爪とぶつかり合う音だった。
「さすがの反応。首をぶった切ってやろうと思ったのに。」
背後に向かって肘を打ち出したが、それは華麗に避けられセリカは距離を取る。
透けた黒のベールで身を包んでいる目の前の女に面識はない。艶っぽく施されたメイクは滲みよれていて、目の下にはハッキリとクマが浮いていた。
距離を取っているにも関わらず、まるで喉元に切っ先を突き付けられているほどに鋭い殺意がヒシヒシと伝わってくる。
「はじめまして、セリカ・アーツベルク。」
(はじめまして?)
セリカは違和感を覚えた。確かに面識はない。しかし目の前の女をセリカは知っているような気がしたからだ。
「誰だ。」
「私はシトリー・キィミラーよ。私たちは初対面だけど、あなたのことをよーく知っているわ。」
ペロリと舌なめずりするシトリーは妖しく笑う。しかし、その目の奥には激しい憎悪の感情をにじませていた。
「私に何の用だ?」
「大事なものを奪われたお礼ってとこかしら。」
「大事なもの?私とお前は初対面だぞ。」
「ええ。それでもあなたは奪った。私から、何もかも。」
シトリーの憎悪が膨れていく。警戒を強めたセリカの目の前でシトリーは忽然と姿を消した。
「!」
急いで周囲を見渡したが気配すら感じない。
傾きかけた陽がゆっくりと差した時、セリカの腕から突然血が噴き出した。
「っ・・・!!」
手に持った氷剣で反撃するもそれは空を切った。
身構えるセリカの目の前に、既にシトリーの姿は無かった。
「この気配はやっぱり・・・。」
セリカが確信を得た時、再び甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
「そう、あなたが殺したイカゲの魔法よ。私はイカゲを使役していた咎人なの。」
目にもとまらぬ速さでシトリーは背後からセリカを羽交い絞めにする。そして鋭く尖った爪でセリカの頬を優しく撫でた。
「っ・・・!!」
「イカゲはね、柱石五妖魔《スキャプティレイト》といって、優秀で強力な霊魔を指すジェネラルの1人だったの。その柱石五妖魔《スキャプティレイト》を使役する咎人は、それ以上の称賛を与えられ崇高されるわ。」
優しい口調にも関わらずセリカを締め上げる力は徐々に強まっていく。
「私は虚空界《ボイド》で確立した地位を得ていた。私に陶酔していたイカゲは私の手足同然。それを、お前が消したのよ。」
(くっ・・・こいつ、びくともしない・・・!!)
その華奢な細い腕からは想像もできない力で、シトリーは確実にセリカの首を絞めていく。
「イカゲを失った私は虚空界《ボイド》で居場所を失った。でもね、それでもよかったの。私が本当に欲しい居場所はあの人の隣だったから。」
「は、な・・・せ・・・!」
「放っておいても男が付いてくる人生の中で、縋ったのは彼が初めてだった。それほどにいい男だった。」
男を思い出しウットリとするシトリーは、しかし力を緩めることはない。
「彼さえいればよかったの。なのに、なのに・・・」
「なに、を・・・言っている・・・!?」
「居なくなった・・・あんなに愛し合ったのに・・・何度も何度も私の中で果てたのに・・・」
シトリーは勢いよく体勢を変えセリカを真正面に捉える。今にも密着しそうなほどに顔を近づければ、激しくセリカを揺すぶった。
「ねぇ・・・お前は口づけを交わしたの?」
「え・・・?」
「いつゼロと知り合った?ゼロとどんな話をした?ゼロと何度寝た!?」
「な、にを・・・、言って、いることが・・・」
「何度ゼロとキスをしたっ・・・!!!?」
片手でセリカを持ち上げたシトリーはもう片方の手で石をつぶす。粉々になった石は微細な光をいくつも放ち手の中で震えはじめた。
「貫いてやるわ。体も顔も。」
血走った眼にもがく自分が映る。シトリーの拳が身体を貫こうとする瞬間、セリカはありったけの声を張り上げた。
「来いっ!焔鴉《カウ》ッ!!」
シトリーの背後に鋭利な炎が発現されると、それは凄まじいスピードで飛び出した。
「フンッ・・・!!」
セリカを離したシトリーは再び姿を消す。束の間に得られた酸素をセリカは貪るように吸い込んだ。
「知っているわよ。あなた、水精霊《ウンディーネ》と火精霊《サラマンダー》を扱えるのよね。すべてイカゲから教えてもらったわ。」
「く・・・どこだ・・・!」
「すべて分かるわ。あなたの動きもクセもすべてお見通しよ。」
肩から血が噴き出す。背後から切り付けられた攻撃にセリカは狼狽えながらも反撃に転じる。しかし、それは完全に見切られていた。
僅かな空気の揺れに咄嗟に身構える。しかし、セリカは思いきり蹴りつけられ隅の瓦礫に叩きつけられた。
「ご、ほっ・・・!!な、んで・・・」
「不思議でしょう。どうして動きがすべて読まれているか。」
「く・・・っ・・・!」
「それはね、イカゲが私に還ってきたからよ。」
「か、えった・・・?」
「ええ。咎人に使役されていた霊魔が殺されるとね、それはすべて記憶として咎人に還ってくるの。イカゲの時間がすべて私に蓄積される。だからあなたと戦ったイカゲの記憶はすべてここにあるってこと。」
ゆっくりと姿を現したシトリーは、そう言って頭から首へと身体をなぞった。
「さらにこんなこともできるのよ。」
シトリーは手のひらに握っていた粉々の石をフゥ―っと吹いて見せる。それはたちまち周囲に広がり怪しく渦巻き始めた。
「痛いわよね。怖いわよね。どうしてケガをしているの?どうして人が倒れているの?どうしてこんな目に遭っているの?
それはね、このセリカ・アーツベルクのせいなの。彼女があなたたちの平穏を壊したのよ。」
渦巻いた煙の先から複数の人影がゆっくりと近づいてくる。それはセリカがここに来る途中に居た生徒や一般市民だった。誰もが虚ろな目をしてセリカを見ている。
「なっ・・・!??」
「あぁ、彼らたちの恐怖や悲哀の感情がヒシヒシと伝わってくる。さぁ、その感情をぶつけましょう。私が手を貸してあげる。さぁ、コイツを殺しましょう。」
シトリーが指を弾く。それを合図に人々は一斉にセリカに襲い掛かった。
「お前っ・・・、何をしたっ・・・!?」
次々と襲い来る攻撃に手も足も出せないセリカはひたすら避け続けることしかできない。しかし、その間にも苦悶に満ちた人々はどんどんと増加していった。
「負の感情を利用しただけよ。魔術師《ウィザード》でも無い奴らを操るなんて造作でもないわ。」
「この人たちは関係ないはずだ!元に戻せっ!」
「そいつらを救いたいなら、あなたが犠牲になればいいのよ。」
「犠牲を生むことで救われる感情なんて本当の救済なんて言えない!」
「あら、そんなことないわよ。現にそいつらの原動力は苦しみから解放されたいという一方的な感情からきているのだから。」
「何だと・・・!?」
「人ってね、「嬉しい」や「楽しい」の感情よりも「怖い」、「悲しい」、「妬ましい」、「苦しい」という不快な感情に反応しやすいの。だから楽しい夢より怖い夢の方が覚えているでしょ?恐ろしい体験を2度起こさないように自衛するでしょう?恐ろしい現実が自分に向かないよう、目を逸らすでしょう?
負の感情を得た人間はそれをどうにか逃がそうとあらゆる行動をとる。今回もそれ。そいつらは自分が助かれば他の犠牲なんて関係ないと思っている。だから咎人に付け込まれ、こうやって簡単に操られてしまうの。」
セリカへの攻撃は止まない。さらにぶつかり合う憎悪が徐々に広がりはじめた時、ひしめき合う人々は互いを攻撃対象へと変えはじめていった。
そこに大人も子どもも老人も関係ない。手にした武器で、時には己の拳で、我を忘れた人々は互いを傷つけ暴走していく。
「や、やめ・・・ろっ・・・!!目を覚ませっ!」
「フフフ・・・醜い、醜いわ!さぁ、殺せ、殺し合えっ!!」
「やめろ、やめさせてくれっ!」
「アハハハハハッ!!さぁ、我が半身を殺した報いを受けなさい、セリカ・アーツベルクッ!!」
ニッコリと嗤うシトリーはさらに石を砕き、それを頭上へ投げ飛ばした。
襲来した未知の存在により、学園内は混乱の渦といえるだろう。
砂埃舞う先の建造物は見る影もないほどに崩壊していて、其処彼処《そこかしこ》にはケガ人が横たわっていた。
泣き喚く者、現状に放心する者、救援に声を張り上げる者たちの中を、セリカは一直線に駆け抜けていく。
「なんて強い気だ。これはオルジじゃなくても気配を察知できるレベルだな。」
禍々しい気配は近づくほどに濃くなっていく。
まるで誘《いざな》われているかのようにその中心であろう場所に辿り着いたセリカは、フワリと揺れる甘い匂いに気が付いた。
ガキィィン!と金属がぶつかる音が響く。それは刹那に形成した氷剣と、今まさにセリカの首を掻き切ろうとした鋭い爪とぶつかり合う音だった。
「さすがの反応。首をぶった切ってやろうと思ったのに。」
背後に向かって肘を打ち出したが、それは華麗に避けられセリカは距離を取る。
透けた黒のベールで身を包んでいる目の前の女に面識はない。艶っぽく施されたメイクは滲みよれていて、目の下にはハッキリとクマが浮いていた。
距離を取っているにも関わらず、まるで喉元に切っ先を突き付けられているほどに鋭い殺意がヒシヒシと伝わってくる。
「はじめまして、セリカ・アーツベルク。」
(はじめまして?)
セリカは違和感を覚えた。確かに面識はない。しかし目の前の女をセリカは知っているような気がしたからだ。
「誰だ。」
「私はシトリー・キィミラーよ。私たちは初対面だけど、あなたのことをよーく知っているわ。」
ペロリと舌なめずりするシトリーは妖しく笑う。しかし、その目の奥には激しい憎悪の感情をにじませていた。
「私に何の用だ?」
「大事なものを奪われたお礼ってとこかしら。」
「大事なもの?私とお前は初対面だぞ。」
「ええ。それでもあなたは奪った。私から、何もかも。」
シトリーの憎悪が膨れていく。警戒を強めたセリカの目の前でシトリーは忽然と姿を消した。
「!」
急いで周囲を見渡したが気配すら感じない。
傾きかけた陽がゆっくりと差した時、セリカの腕から突然血が噴き出した。
「っ・・・!!」
手に持った氷剣で反撃するもそれは空を切った。
身構えるセリカの目の前に、既にシトリーの姿は無かった。
「この気配はやっぱり・・・。」
セリカが確信を得た時、再び甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
「そう、あなたが殺したイカゲの魔法よ。私はイカゲを使役していた咎人なの。」
目にもとまらぬ速さでシトリーは背後からセリカを羽交い絞めにする。そして鋭く尖った爪でセリカの頬を優しく撫でた。
「っ・・・!!」
「イカゲはね、柱石五妖魔《スキャプティレイト》といって、優秀で強力な霊魔を指すジェネラルの1人だったの。その柱石五妖魔《スキャプティレイト》を使役する咎人は、それ以上の称賛を与えられ崇高されるわ。」
優しい口調にも関わらずセリカを締め上げる力は徐々に強まっていく。
「私は虚空界《ボイド》で確立した地位を得ていた。私に陶酔していたイカゲは私の手足同然。それを、お前が消したのよ。」
(くっ・・・こいつ、びくともしない・・・!!)
その華奢な細い腕からは想像もできない力で、シトリーは確実にセリカの首を絞めていく。
「イカゲを失った私は虚空界《ボイド》で居場所を失った。でもね、それでもよかったの。私が本当に欲しい居場所はあの人の隣だったから。」
「は、な・・・せ・・・!」
「放っておいても男が付いてくる人生の中で、縋ったのは彼が初めてだった。それほどにいい男だった。」
男を思い出しウットリとするシトリーは、しかし力を緩めることはない。
「彼さえいればよかったの。なのに、なのに・・・」
「なに、を・・・言っている・・・!?」
「居なくなった・・・あんなに愛し合ったのに・・・何度も何度も私の中で果てたのに・・・」
シトリーは勢いよく体勢を変えセリカを真正面に捉える。今にも密着しそうなほどに顔を近づければ、激しくセリカを揺すぶった。
「ねぇ・・・お前は口づけを交わしたの?」
「え・・・?」
「いつゼロと知り合った?ゼロとどんな話をした?ゼロと何度寝た!?」
「な、にを・・・、言って、いることが・・・」
「何度ゼロとキスをしたっ・・・!!!?」
片手でセリカを持ち上げたシトリーはもう片方の手で石をつぶす。粉々になった石は微細な光をいくつも放ち手の中で震えはじめた。
「貫いてやるわ。体も顔も。」
血走った眼にもがく自分が映る。シトリーの拳が身体を貫こうとする瞬間、セリカはありったけの声を張り上げた。
「来いっ!焔鴉《カウ》ッ!!」
シトリーの背後に鋭利な炎が発現されると、それは凄まじいスピードで飛び出した。
「フンッ・・・!!」
セリカを離したシトリーは再び姿を消す。束の間に得られた酸素をセリカは貪るように吸い込んだ。
「知っているわよ。あなた、水精霊《ウンディーネ》と火精霊《サラマンダー》を扱えるのよね。すべてイカゲから教えてもらったわ。」
「く・・・どこだ・・・!」
「すべて分かるわ。あなたの動きもクセもすべてお見通しよ。」
肩から血が噴き出す。背後から切り付けられた攻撃にセリカは狼狽えながらも反撃に転じる。しかし、それは完全に見切られていた。
僅かな空気の揺れに咄嗟に身構える。しかし、セリカは思いきり蹴りつけられ隅の瓦礫に叩きつけられた。
「ご、ほっ・・・!!な、んで・・・」
「不思議でしょう。どうして動きがすべて読まれているか。」
「く・・・っ・・・!」
「それはね、イカゲが私に還ってきたからよ。」
「か、えった・・・?」
「ええ。咎人に使役されていた霊魔が殺されるとね、それはすべて記憶として咎人に還ってくるの。イカゲの時間がすべて私に蓄積される。だからあなたと戦ったイカゲの記憶はすべてここにあるってこと。」
ゆっくりと姿を現したシトリーは、そう言って頭から首へと身体をなぞった。
「さらにこんなこともできるのよ。」
シトリーは手のひらに握っていた粉々の石をフゥ―っと吹いて見せる。それはたちまち周囲に広がり怪しく渦巻き始めた。
「痛いわよね。怖いわよね。どうしてケガをしているの?どうして人が倒れているの?どうしてこんな目に遭っているの?
それはね、このセリカ・アーツベルクのせいなの。彼女があなたたちの平穏を壊したのよ。」
渦巻いた煙の先から複数の人影がゆっくりと近づいてくる。それはセリカがここに来る途中に居た生徒や一般市民だった。誰もが虚ろな目をしてセリカを見ている。
「なっ・・・!??」
「あぁ、彼らたちの恐怖や悲哀の感情がヒシヒシと伝わってくる。さぁ、その感情をぶつけましょう。私が手を貸してあげる。さぁ、コイツを殺しましょう。」
シトリーが指を弾く。それを合図に人々は一斉にセリカに襲い掛かった。
「お前っ・・・、何をしたっ・・・!?」
次々と襲い来る攻撃に手も足も出せないセリカはひたすら避け続けることしかできない。しかし、その間にも苦悶に満ちた人々はどんどんと増加していった。
「負の感情を利用しただけよ。魔術師《ウィザード》でも無い奴らを操るなんて造作でもないわ。」
「この人たちは関係ないはずだ!元に戻せっ!」
「そいつらを救いたいなら、あなたが犠牲になればいいのよ。」
「犠牲を生むことで救われる感情なんて本当の救済なんて言えない!」
「あら、そんなことないわよ。現にそいつらの原動力は苦しみから解放されたいという一方的な感情からきているのだから。」
「何だと・・・!?」
「人ってね、「嬉しい」や「楽しい」の感情よりも「怖い」、「悲しい」、「妬ましい」、「苦しい」という不快な感情に反応しやすいの。だから楽しい夢より怖い夢の方が覚えているでしょ?恐ろしい体験を2度起こさないように自衛するでしょう?恐ろしい現実が自分に向かないよう、目を逸らすでしょう?
負の感情を得た人間はそれをどうにか逃がそうとあらゆる行動をとる。今回もそれ。そいつらは自分が助かれば他の犠牲なんて関係ないと思っている。だから咎人に付け込まれ、こうやって簡単に操られてしまうの。」
セリカへの攻撃は止まない。さらにぶつかり合う憎悪が徐々に広がりはじめた時、ひしめき合う人々は互いを攻撃対象へと変えはじめていった。
そこに大人も子どもも老人も関係ない。手にした武器で、時には己の拳で、我を忘れた人々は互いを傷つけ暴走していく。
「や、やめ・・・ろっ・・・!!目を覚ませっ!」
「フフフ・・・醜い、醜いわ!さぁ、殺せ、殺し合えっ!!」
「やめろ、やめさせてくれっ!」
「アハハハハハッ!!さぁ、我が半身を殺した報いを受けなさい、セリカ・アーツベルクッ!!」
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