エレメント ウィザード

あさぎ

文字の大きさ
115 / 135
第3章4部

残酷な事実

しおりを挟む
 「一緒になることにしたんだ。」

 驚いたのは結婚の報告ではない。学生時代から公認カップルとして有名だった2人が、将来を誓う合うことは予想していたし、何よりも彼女を大事にしてきたのは昔からよく知っている。
 それよりも衝撃的だったのは、臆面もなく彼女の腰に手を回し、幸せそうな様子で笑う友人の姿だった。

 当時の実戦バトルクラスには『暁の水蛇』と『夜凪の一閃』のツートップがその名を轟かせ、他の追随を許さぬその実力は他の魔法域レギオンにも知れ渡るほどだった。
 在学中であるにも関わらず上級魔術師ハイウィザードの試験をパスし、高難易度クエストを軽々とクリアする2人は教師たちにも一目置かれる存在だった。

 その内の1人であるジンは、物音ひとつ立てず霊魔を一瞬で殲滅するという『夜凪の一閃』の通り名を背負い活躍していた。
 その慈悲の無い冷酷な戦闘スタイルは身内からも恐れられていたが、端正な顔立ちと衒いのない態度が女子の間で人気となり、共に学生時代を過ごしてきたクロウにとっては疎ましい存在でもあった。

 いい加減で無頓着さが目立つヴァースキと、しっかり者で頑固なジン、お調子者だがどこか憎めないクロウ。
 主に戦闘技術を学ぶ実戦バトルクラスは気の緩まない殺伐とした雰囲気であり、加えて常に命を懸けるクエストに身を置くジンたちにとって、この3人で居る時はどこか肩の力を抜くことができる貴重な時間だったといえる。

 そんなジンに長く付き合う彼女が居ることは知ったクロウは、嫌がるジンにしつこく問いただし、やっとのことで紹介してもらえることになった。
 仏頂面のジンが紹介したのは、リタ・ガナシアスという小柄な少女だった。
 腰ほどにも伸びる柔らかな髪はゆるいウェーブ状で、小動物を思わせるアーモンド形の目がとても印象的だった。
 男性なら思わず守ってあげたくなる容姿に大人しい子なのだろうとクロウは握手を求めた。

 「はじめまして、リタ。俺はクロウだ。よろしく。」

 差し出された手にリタは一瞬の躊躇を見せる。おとなしい上に人見知りか?と口角を上げるクロウに小さな手が触れると、思いがけない力で握り返されたのだ。

 「いっ――!」
 「リタ・ガナシアスです。お噂はよく聞いているわ、クロウ。お会いできて光栄よ。」

 その姿から想像もつかない力にクロウは目を丸くする。リタはニッコリとクロウに笑いかけた。
 その様子に口を挟んだのはヴァースキだ。

 「クロウ、見た目で判断するなよ。リタの実力は俺やジンより上だぞ。」
 「こ、こんな小さい女の子がお前たちより強いってっ?!――ってあだだだだ!!」

 握られた拳が捻り上げられ、クロウは思わず悶絶する。

 「ふふ、この容姿に勘違いされるのは慣れているわ。」
 「いてててっっ!!いい加減、手を離してっ!!」

 リタが力を緩めるとクロウの手はジンジンと痺れ赤くなっていた。

 「この子が、ジンの彼女!?」
 「付き合いは俺たちより長いそうだ。そして完全にジンは尻に敷かれている。」
 「余計なことをいうな、ヴァースキ。」

 眉をひそめながらもジンは否定しない。いつもより口元が緩んでいる様子に彼女との親密度が見てとれた。

 どうやらヴァースキは彼女の存在をクロウより前に知っていたのだろう。きっとヴァースキも最初は驚いたに違いない。それほどにリタとの初対面は衝撃的だった。

 後にリタのことはすぐ知ることになる。
 容姿端麗で頭脳明晰なリタは学園内でも目立つ存在だった。誰に対しても分け隔てない自由な彼女は男子生徒にはもちろん、女子生徒からも人気があった。
 そしてそんな彼女と一途に思いを寄せ合っているジンたちのカップルは、誰もが憧れる存在だったのだ。

 「どーりで、告白の数はヴァースキの方が多いはずだ。あんな完璧な2人を見たら、間に割り込もうなんて輩はなかなか現れんよ。」
 「かぞえてるのかよ、お前。」

 頭の後ろで手を組み、空を見上げるクロウの隣には呆れた声を出すヴァースキが居る。

 「ヴァースキは彼女を作らないのか。お前なら選び放題だろう。」
 「ふん。俺は女も子どもも苦手だ。」
 「そうか、男がいいのか。」
 「あほか。」

 笑うヴァースキにつられてクロウも笑った。
 上級魔術師ハイウィザードとして戦いに身を置くヴァースキとジンにとって心身を休ませる場所は必要だろう。
 ジンにとってリタがそうである。リタの前でジンはとても優しい顔になるのだ。
 友人に癒える場所があることは単純に安心するとクロウは思う。そしてこの隣にいるぶっきらぼうな友人にもそのような存在、もしくは振り回してくれるほどの人物が現れてくれることを少なからず願っているのだ。

 (俺が実戦バトルクラスから医療メディカルクラスに転科する前に・・・なんて、無理な話だろうな。)

 まだ友人たちには伝えていない自分への可能性。
 どれだけ親しい関係でも同じ道を歩き続けることなんて出来ない。枝分かれする選択肢はいつだって孤独で自由なのだ。


 ジンから結婚の報告を受けた数か月後。挙行されたささやかで温かいジンとリタの結婚式は誰をも笑顔にした。
 学生時代は冷静沈着でクールなジンだったが、すっかり角が取れ優しい顔つきになっている。
 万物は流転する、とクロウはしみじみと思ったのものだ。
 選択し続けた先の道を共に歩こうと決めた2人に、クロウは単純に羨望の眼差しを向ける。
 リタの妹であるフルソラと出会ったのもこの時である。小柄な姉に比べ細くしなやかな躯体を持つフルソラを、クロウはキレイだと思った。
 そして幸せそうに微笑み合う2人がとても眩しくて、クロウは思わず目を細めたのだ。


 実戦バトルクラスから医療メディカルクラスに転科したクロウはすぐに頭角を現し、医療メディカルクラスの上級魔術師ハイウィザードとして活躍していた。

 そんなある日、学園内にあるクロウの研究所に血相を変えたジンが突然駆け込んできたのだ。
 何事かと詳しく聞けば、リタが何一つの痕跡も残さず忽然と姿を消したという。
 あまり感情を表に出さないジンが、この時ばかりは焦りや憂いを隠しもしなかった。
 その頃から、人が突然姿を消す現象が各地で頻発しはじめていた。
 サージュベル学園も大々的に解決への情報を求めるように策定され、クロウももちろん協力した。
 自分の使える伝手や技術を駆使し、あらゆる方面から情報を求めた。が、思うような結果はなかなか得られなかった。

 リタを探しに出たジンは8日間帰らなかった。しかし9日目に不承不承と帰ってきたのは上級魔術師ハイウィザードとしての依頼を強制されたからだ。
 一刻も早くリタを探しに行きたいというジンの仕事は迅速かつ粗暴になっていく。 
 連合ユニオンから質の低下を指摘されたジンは呆気なく上級魔術師ハイウィザードの地位を辞したのだ。
 最愛の妻よりも優先される上級魔術師ハイウィザードの肩書はジンにとって邪魔なものでしか無かったのだろう。

 ジンは些細な情報でも我先にと足を運んだ。だが、真偽も分からない情報で闇雲に動くより、信頼度の高い最新の情報を把握できるからと再び教師として学園に属することを選択する。そして時間を作っては、リタを探し続けているのだ。
 しかし時間が経てば経つほど情報は薄く霞がかっていった。

 リタが消えて4年経った今でも有力な情報は得られないままだった。




 クロウは目を細める。でもそれはあの幸せな2人を見た時のように決して眩しかったからではない。周囲に舞う砂ぼこりのせいで見通しが悪くなっていたからだ。
 眉間にシワを寄せ目を凝らす。霞んで見えるその先には小柄な女性が立っていた。
 まさかと思った。しかしその一瞬の躊躇は、ジンが1歩踏み出すのに十分だったのだろう。

 「リタッッ!!!」

 駆け出すジンにフルソラが続く。

 「リタ姉さんっ!!」

 走り出す2人の後ろでクロウは違和感を抱かずにはいられなかった。

 (今までどれだけ探しても見つからなかったのに、どうしてなんだっ!?どうしてに現れたっ!?)

 砂煙が晴れる。そこにはニッコリと笑い両手を広げるリタの姿があった。
 クロウの不安は的中する。

 「待て、ジンッ!!離れろっ!!」

 瞬時にフルソラの前に飛び出したクロウは防護壁を張り爆撃に耐える。
 リタの両手から生み出された水撃は迷いなくジンたちに向けられたのだ。
 咄嗟に攻撃を避けたのだろう。クロウたちの隣にはジンが呆然と立っている。

 「リ・・・タ・・・?」

 クスクスと笑うリタは消息を絶ったあの時と何も変わっていないように見える。
 しかし、向けられる冷たい視線とぶつけられる殺意はジンとフルソラの心を縛るには十分だった。

 クロウは走り出す。そして再び浴びせられる攻撃を一身に受け止めた。

 『なぁ、クロウ。通常霊魔ノーマル融合霊魔ヒュシュオたちから混ぜられたものを分離する方法はないのか?』

 クロウの頭に先ほどジンと会話した内容がよみがえる。

  『1度混ぜられたものを元の形に戻すなんて無理に決まっているだろう。現段階で霊魔を分離する方法なんて考えもつかないさ。楽に殺してやるのが唯一できることだろうよ。』

 (万物は流転・・・しすぎだろっ!!)

 勢いよく頭を振ったクロウは、後方で呆然とするジンとフルソラに声を掛ける。それがどれだけ惨い内容だろうと、きっと2人は既に気付いているだろうから。

 「ジン、フルソラ。融合霊魔ヒュシュオが一体。討滅対象だ。」

 唇を噛む。努めて冷静を装うクロウだが、後ろを振り返る余裕は無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...