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こちら付与魔術師でございます
こちら付与魔術師でございます ⅩⅩⅦ アラクネ達を移動させましょう
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ふぃ~、何とか納品しました。
本当はこれで公爵が戦に出たときに反乱を起こしてくれるかもしれません。
しかしまぁ、師匠は相変わらず桁違いですね。
ヘカトンケイルなんて古代の滅びた神話の中にしか存在しないのですから。
それとシャヴォンヌという次元竜。
なんであれがペットなんだ?
普通のドラゴンならまだ分かる。
グリフォンやロックでもわかる。
何故、存在すら認識されていない竜がいるのだ?
正直へこんだぞ。
ま、アラクネ達の移動に協力してくれるからいいけど。
シャヴォンヌ、何か気になることを言っていたな?
バスティに気をつけろ?
バスティどころかフォルテもいるのに・・・・・・。
時間があったら話してみよう。
とりあえずはアラクネ達を移動させて、商売にもどる。
それ~が~、しょうにん~の~、いきる~み~ち~ っと。
戦争も始まるようだし、公爵に何か売り込んでみようかな?
そう言えば正規のロングソードとプレートアーマーを受注していたような気が・・・・・・
まぁ、帰ってから話してみてそれからかな?
でわ。
-----アラクネ達-----
私たちはシャヴォンヌの背中の上にいる。ルイスの街の中央広場くらいの広さの背中だ。これならばもしかすると1回で全員を運べるかもしれない。
少し飛ぶと眼下にルイスの街が見えた。街は城を中心に放射状に通路が拡がり、最外縁部には防壁が囲んでいる。中心には更に高い防壁が有り、堀が張り、中心に尖塔を持つ城が建っている。街から少し離れたところにはあと数日後には出立する軍の野営地が見えた。さすがに公爵の軍、数万規模が集まって陣形の確認をしているのがここからでも分かる。正確に言えばこの高さだから分かるのだろう。
シャヴォンヌは直ぐにルイスの街から遠ざかる。そのまま進路を少しずらし、アラクネ達が潜むところへと飛ぶ。とんでもない速さだ。しかし、振り落とされはしない。ここは魔力のドームで覆われており、風は入らないようになっている。翼の付け根の辺りまでドームは拡がっているので、私と師匠を除く全員が腹ばいになって地上を眺めていた。
「師匠、今回は色々と助けていただいてありがとうございます」
私は素直に師匠に礼を述べた。師匠は黙って微笑んでいる。
「いいのですよ、大好きな弟子のためですから。それに色々と発見がありました」
師匠はたまには街に出てみるのもいいといってシャヴォンヌの頭の方へと歩き出す。そこへミルトが走ってきた。どうやら本当にショートソードをもらって良いかを尋ねるようだ。師匠は滞在中にミルトとユーリカに魔法の手ほどきをしていた。それは昔、師匠に教わったときと全く同じやり方だった。私はそれを懐かしく見ながら、新しい商品を考えていた。
「いいのですよ。余り時間がありませんでしたので、結局魔法の方はお力になれませんでしたし、カーソンを生き延びさせていただいたお礼です」
本当はショートソードと魔法の手ほどき両方でお礼にしたかったと師匠は言っていた。
「必要が無ければ売ってお金に換えていただいても結構ですよ。お金になるかどうかは分かりませんが」
そう言えばショートソードは見たことの無い材質で出来ていた。ミルトも冒険者ギルドでマジックアイテムの販売をしていたが初めて見ると言っていた。
「師匠、それって何で出来ているのですか? ミルトも返すつもりだったみたいで、まだ斬ってみてないのですが」
ミルトもショートソードを抜いてもう一度確かめている。彼女は商売の神メルカートルを信仰している。その恩恵でオクルスウェールス(真実の眼)という特殊な魔法を使える。これは物の材質や効果などを見極め、さらに真贋の鑑定も出来る優れた能力だ。正直、司教クラスの腕は持っている。その能力でも分からないとなると神を欺くほど特殊なことをしてあるか、全く未知の素材を使っているかのどちらかだ。
「あぁ、この材質ですか? これはヒヒイロカネとアダマンタイト、それに少しだけミスリルと銀を加えた合成金属ですよ。鞘も同じ物で出来ています。というよりこれを入れたら鞘ごと切断するので仕方なしに創ったのですけれど。不細工で申し訳ないと思っています」
ショートソードを鑑定していたミルトが慌てて手から放した。ショートソードはそのままストリとシャヴォンヌの背中に吸い込まれていく。
轟唖唖唖唖唖唖唖!
竜の咆哮。それは戦士達の心を萎縮させ、行動を制限する。それは竜の強さ、生きてきた年月により強力になる。古代竜のそれは魂をも奪うという。
(まずい!)
私は全員に魔法障壁を掛けた。しかしあっさりと突き破られる。師匠と私とバスティ以外は全員が泡を吹き、白目を剥いて崩れ落ちた。
(痛い!!!!! 何をした! 痛たたたたたた。 何か刺さっただろ、早く抜け-!)
シャヴォンヌの声が頭に響く。どうやら念話を使うことが出来るようだ。私は他の者達の介護をバスティに任せ、引き抜こうと力を込める・・・・・・。
あれ? 抜けない。魔術師とはいえそれほど力が無いわけでは無いのだがこれは抜けない。師匠が溜息をつきながら近づいてきた。柄を握り力を込める。・・・・・・抜けない。今度は二人同時に柄を握り力を込めるが・・・・・・抜けない。
私たちは顔を見合わせた。先程から頭の中にシャヴォンヌの早く抜けという声と呻き声が延々と垂れ流されている。しかし抜けない物は抜けない。私たちが困惑しているとシャヴォンウから念話が入る。
(もういい、とりあえず目的地上空だ。これから旋回しながら降下する。捕まっておけ)
すぐに速度は落ち、ゆっくりと螺旋を描きながらシャヴォンヌは降下を始めた。気を失った3人はまだ回復しない。徐々に降下して行く様子を見ていると森の中から複数のアラクネ達が出てきて恐慌状態になっているのが見える。
(ま、そうなるよなぁ。事前連絡無しだし)
私はバスティを近くへ呼ぶとシルフに私の声を森の中へ届けられるかを尋ねた。問題は無いという返事が返ってきて直ぐに私の横に裸体の女性が現れる。女性はふわふわしながらバスティと話して私の横へやってきた。直ぐに私の身体の中を通り過ぎ、一瞬でかき消えた。
「主様、もう話されても大丈夫です。向こうの言葉もこちらに届きます」
私は直ぐに大声で話し始めた。
「アスゼナ、エステル、居るか-?」
私の大声に返事がない。居ないのかよほど混乱しているのか? どちらかと言えば後者だろうが。私はもう一度呼びかけてみる。暫くすると返事があった。
「カーソン、カーソンサマ。ウ、ウエニドラゴンガ・・・・・・。ワタシタチハニゲキレマセン。チカズカナカッタラカーソンサマはタベラレマセン、ハヤクオニゲクダサイ」
アスゼナは必死で逃げるように説得してくる。私はアスゼナに事の成り行きと今からの行動を説明した。その間もシャヴォンヌはゆっくりと旋回しながら地上へと近づいて行く。シルフが送ってくる気配や振動はアスゼナ達アラクネが徐々に落ち着きを取り戻して行くのを伝えていた。
シャヴォンヌが大地に降り立つ。衝撃が走るかとも思ったがこの巨体でふわりと降り立った。轟音も土煙も上がらない。私はすぐに地面に降り立つと足早に森の中へ入っていった。そこには身を寄せ合った懐かしいアラクネ達の姿があった。
「元気にしていたか? 怪我人などはいないか?」
私の問いにアスゼナ達はこくこくと頷いてはいたが視線はシャヴォンヌから離れていない。気絶組がシャヴォンヌノ身体から降ろされると同時にシャヴォンヌの竜体型は解除された。
私は、アスゼナとエステルにすぐに人数の確認をするように頼んだ。万が一、恐慌状態で逃げ出していたら見捨てていくことになりかねない。私もバスティに頼んで精霊達に周辺5kmを探索してもらう。今回はシルフではなくアルボニとその上位精霊シルワに頼んでもらった。2人?は森の精霊で木々を伝達しながら話をすることが出来る。両方共が確認をして、動いた者がいないことを確認した。
「・・・・・・と言うわけで、今からここにいるシャヴォンヌに移住先に送ってもらうことにする。すぐに野営の準備を解いて欲しい」
その言葉にはやはり質問が相次いだ。食べられないのかとか落ちることはないのかとか様々な質問だったがそれは大丈夫ということを全員に解いて回った。
とりあえず納得してくれたのか、アラクネ達は素早く動き出す。中々良い森だがここに住み着くとまた人間達と揉める可能性がある。やはり移動してもらい安全に暮らしてもらう方が良い。
私は師匠達の方へ歩き出した。あちらはあちらで大変なことになっているようだ。人間の形態になっているシャヴォンヌの背中にはショートソードが生えていた。どうやら背中の肩甲骨あたりに食い込んでいるようだ。目を覚ました気絶組のうち、ルールウが加わり、バスティ、ルールウ、師匠が同時に引っ張っている。それでも抜けないようだ。短い柄に3人の手が重なり合っているので力が入らないのだろう。シャヴォンヌも痛みをこらえながら呻いている。
私はふと思いついたのでアスゼナのところへと戻った。
「アスゼナ、忙しいところ申し訳ないが10mくらいの糸を出してくれないか?」
私の問いにアスゼナは直ぐに答え、長い糸を出し始めた。硬度は無いが十分にしなやかで弾力のある糸が出てきた。私はそれをたぐり寄せると全員が集まっている場所へ戻った。
戻った私はショートソードの柄とその刃のところに十字に糸を巻き付け、三つ編みの要領で糸を分散させて行く。上手く巻き付いた糸の先は3つの握り手を持つような出来になった。そこを3人に再度握ってもらい一気に引き抜くようにお願いした。
「せーーーの!」
3人の声が被り、シャヴォンヌの呻き声と共にショートソードはすっぽりと抜けた。突然抜けたため3人はそのまま地面へ転げる格好になる。すぐにミルトが回復魔法を掛けようと近づいた。シャヴォンヌはそれを手で制すと全身に力を込めた。背中の傷が一瞬で塞がる。
シャヴォンヌの横ではミルトが土下座して謝っていた。しかしシャヴォンウは気にしていないと言い頭を上げさせている。
そちらより私の方を睨む目の方が強烈だった。
「カーソン・・・・・・、私は上半身裸なんだけどなんで普通に見ているのかねぇ」
あぁ、そう言えばシャヴォンヌは女?だった。私が慌てもせずに目をそらすと強烈な跳び蹴りが襲ってきた。その容赦の無い蹴りに私は数メートル吹き飛んだ。後ろで拳骨の音が響く。まぁ、仕方ないかと思いながらそのまま立ち上がりアスゼナ達のところへ歩いて行く。
「すまないな、待たせてしまって。生活は大丈夫だったか?」
私の問いにアスゼナは黙って頷いた。もともと食料を捕らえながら移動してきたことと、結束力が生まれていたことで分裂もなかったという。ただ、竜が降りてきたときにはさすがに全員が恐慌状態に陥ったと言っていた。
「すまん、突然の事だったので知らせることが出来なかった」
今までの事を色々と聞いていると全員の用意が調った。私はアラクネ達を率いて森の外へ出る。そこには私が連れてきた全員が揃っていた。
私はバスティとミルト以外の全員を紹介する。私の師匠とシャヴォンヌを紹介すると顔が引きつっていたのは愛嬌というところだろう。
シャヴォンヌは休ませろとぶつぶついいながらもう一度竜の体型へと変化する。その圧倒的な大きさにアラクネ達はただ口を大きく開けて見入っていた。
私はシャヴォンヌの身体が目立ちすぎるので直ぐに移動すると言うと、アラクネ達は器用に網状の梯子をシャヴォンヌの翼に作って行く。私たちは今度は昇るのに苦労することなく背の上に昇ることが出来た。アラクネ達70人が乗り込んでもまだ余裕がある。
全員が乗り込んだのを確認すると私はシャヴォンヌに出発の指示を念話で送った。直ぐに何の衝撃もなく身体が浮き上がる感覚が襲う。シャヴォンヌはそのままゆっくりと上空に昇っていった。
(カーソン、面白いことをやってやろう)
シャヴォンヌから念話が届く。
すでにかなりの高度に達していたので何をする気か気になったので、特に何かをする必要があるかだけ聞いてみた。シャヴォンヌは少しだけ考え、全員を中央・背中の真ん中へ集めるように言う。私は全員に中央に集まるようにだけ言って、特に子供を中へ入れるように指示を出す。
(全員集まったけど何をする?)
私の念話が伝わった瞬間、シャヴォンヌは高高度でホバリングを始めた。シャヴォンヌの周りの空間が歪み出す。私と師匠以外は全員が怯えていた。一瞬空間が一気にひん曲がった。そしてシャヴォンウはゆっくりと螺旋を描きながら徐々に降下を始めた。
(時空をねじ曲げたのか~)
「カーソン、何が起こった?」
ルールウが近づいてくる。私は後で説明するとだけ言った。正直起こったことは分かるが原理は説明できない。アスゼナ達も不安そうにこちらを視ている。師匠はにこにこ笑っているがこめかみに青筋が立っている。相当怒っているようだ。
私はとりあえず、全員揃っているかどうかを確認することを頼んだ。すぐに確認が取れたので落ちないように言って下を覗くように促す。
シャヴォンヌの下には広大な荒れ地と小規模なオアシスがある。全員が混乱していた。先程まで森がある草原地帯にいたのに今はほぼ砂漠の真ん中だ。
「どうだ、アスゼナ。暮らせそうか?」
私の問いにアスゼナは地面と私の顔を見比べていた。どう答えてよいか分からないらしい。それは他のアラクネ達も同様だったようだ。全員が乾いた大地を見つめている。それはうちのメンバーも同じだった。師匠は目を閉じていたのでこの地のことを探っているのか、シャヴォンヌと話しているのかは分からない。
暫くすると少しだけシャヴォンヌの降りる位置が変わった。どうやら師匠から何某かの指示があったようだ。シャヴォンヌは徐々に大地に近づき、地面に着地する。周辺に砂煙が立ちのぼった。やはり相当乾いているようだ。
「さあ、新天地へようこそ。全員降りてあのオアシスまで行こう」
私の芝居がかった台詞に戸惑いながら、アラクネ達は器用にシャヴォンヌから降りてオアシスへと向かっていった。
-----オアシス-----
移動した全員が小さなオアシスの畔に腰を下ろした。水は澄んでいて飲むことも出来る。最初はアラクネ達も困惑していたが、徐々に落ち着きを取り戻し、色々と確認しているようだった。私はこの土地のこと、今後のことを全員に説明する事にした。
とりあえず先程上空から見えた土地はほとんど私の土地であることを説明し、ミュールの住処であった洞窟の入り口に案内し、そこを掘り返すことが仕事だと伝える。暫くはここの生活に慣れて、それから道具を使って労働してもらうこと、そして発掘する物について説明した。古代遺跡については変な物が見つかったら報告とだけ伝え、魔石をいくつか取り出してアラクネ達に見せ、与えた。
「ようは、この石を掘り出してくれるだけで良い。地下には大きな空間が拡がっているので。そこに行き当たったら動かずに私に知らせて欲しい」
罠や死霊の危険性があるということを伝えるとアラクネ達は神妙な顔で頷いていた。とりあえず、そこまでで伝えることは全てだったのであとは解散し、自由にしてくれと伝えた。それぞれが思い思いの場所へ散って行く。それはアスゼナやエステルも例外ではなかった。多少環境は厳しいが、食料の供給は暫く続けるつもりだし、発掘や脱皮した皮、糸などの売買も始めると森だった。すでに皮や糸は用意されていた。しかしまだ何に加工するかは決まっていない。
今回の仕事で大金が入る予定だが、早めに商売を再開しないとじり貧だ。
「カーソン、おいでなさい」
師匠から呼び出しがかかる。師匠の横には頭を押さえてうずくまるシャヴォンヌがいた。
「まさか次元をねじ曲げて直接ここへ転送するとは思っていませんでした。もしかして貴方も知っていましたか?」
師匠の目は表面上笑っているが明らかに怒っている。私は正直何も知らされず、ただ面白い物を見せてやると言われただけだったので素直にその事を伝えた。師匠は溜息をつき、転送についてはそれ以上は何も言わなかった。
「しかし、不毛の地ですね。アラクネ達も苦労するでしょう。ところでなぜここがこのような土地なのか分かりますか?」
私は単純に干上がった土地程度にしか思っていなかった。そのように伝えるとやはり拳骨が飛んできた。
「いいですか? あぁ、バスティエンヌとユーリカさんとミルトさんも聞いていてください」
そう言って3人を私の近くまで呼び寄せた。ルールウは魔法自体に興味が無いから呼んでいないということだった。
「この地の不毛な訳、それはこの地の地下に眠る膨大な魔石の鉱脈が関係しています」
どうやらここの魔石に魔力が籠もっていたのは、空中に漂う魔力を吸収していたのではなく、大地の力を吸収していると言うことだった。鉱脈がない場所だけがオアシスとなり、小さいながらも川を形成していると言うことだ。つまり・・・・・・。
「カーソンは分かったようですが、この砂漠の地下全てが魔石の鉱脈になっています。なぜそうなっているのかは崩れた洞窟を掘り返して調べてみないと分かりませんが・・・・・・」
鉱脈としてはすばらしいが発展は望めない、難しい土地だと言うことは分かった。アラクネ達にとって少しでも快適な住処にしてあげる必要があるということは再認識できた。それだけで十分だ。
全員が一時休憩になり、ユーリカとミルトはアスゼナやエステルに色々と質問をしている。師匠は少し近くを見てくるといってどこかへ行った。
私は退屈そうにしているシャヴォンヌのところへ行き、隣に座った。
「シャヴォンヌ・・・・・・さん。少し聞いても良いですか?」
私は疑問に思っていたことがあったので聞いてみることにした。シャヴォンヌは敬語はいらないしシャヴォンヌで良いといってくれた。
「先程、バスティに気をつけろと言っていたと思うけどどういうこと?」
私の問いにシャヴォンヌは本当に分かっていないのかという顔をした。私の表情を見てシャヴォンヌは頭を抱えた。
「いいか、カーソン。奴は基本的に私と同じだ。ただしもともと存在する場所が違うし、なんと言えばいいかな? 全ての命を生み出せる存在というところか・・・・・・」
(次元竜と同じ? そういえば何か聞いたような気がする。もう一度ゆっくりと聞いてみよう)
私が首を捻っているとシャヴォンヌは少しだけ笑った。
「理解するのは難しいだろうな。人間では・・・・・・。正直私でもそれくらいしか分からない。彼女は1人の意思であって1人の意思ではないのだよ」
シャヴォンヌはそこで一度は無しを止めた。空を見上げて何かを考えている。そして口を開いた。
「彼女が自らの意思をなくしたとき、世界は滅ぶだろう・・・・・・。それは私たちでも止められないと思う。彼女の本質がそのように出来ているからな。そして長い時を経てまた新しい命が生まれるのさ」
そこまで言ってまた黙った。私はバスティにもう一人妹がいることと一族がいることをシャヴォンウに話した。シャヴォンヌも真剣な顔をして聞いている。
「・・・・・・そうか、彼女だけではないのか。しかし手は出せない。下手な刺激をする事は避けたいのでな。・・・・・・には私から話しておく。何かあったら私か・・・・・・から知らせることになると思うが、絶対に彼女たちには話すなよ」
シャヴォンヌの気配に私はただ黙って頷いた。ちなみにバスティ達の名前を聞いてみたが分からないということだ。ただこう呼ばれていたとだけ教えてくれた。
「次元の歪みに生きる闇よりも深い深淵の先にある混沌の命」
-----帰還-----
私たちは暫く休んでアスゼナ達アラクネにしばしの別れを告げ、シャヴォンヌに出会った場所まで送ってもらった。今度は普通に飛行してもらう。やはり、高いところを飛ぶのはすばらしい。私たちは気色を十分に楽しむことが出来た。
師匠はまた来るといってシャヴォンヌと共に去って行く。私たちは師匠達と別れそのままルイスの街へと戻ることにした。
明日からはまた、鍛冶屋としての日々が始まる。砂鉄もかなり溜まっただろう。ドロワという害虫の件もある。私は、また忙しくなると思いながら商売のことを考えていた。
本当はこれで公爵が戦に出たときに反乱を起こしてくれるかもしれません。
しかしまぁ、師匠は相変わらず桁違いですね。
ヘカトンケイルなんて古代の滅びた神話の中にしか存在しないのですから。
それとシャヴォンヌという次元竜。
なんであれがペットなんだ?
普通のドラゴンならまだ分かる。
グリフォンやロックでもわかる。
何故、存在すら認識されていない竜がいるのだ?
正直へこんだぞ。
ま、アラクネ達の移動に協力してくれるからいいけど。
シャヴォンヌ、何か気になることを言っていたな?
バスティに気をつけろ?
バスティどころかフォルテもいるのに・・・・・・。
時間があったら話してみよう。
とりあえずはアラクネ達を移動させて、商売にもどる。
それ~が~、しょうにん~の~、いきる~み~ち~ っと。
戦争も始まるようだし、公爵に何か売り込んでみようかな?
そう言えば正規のロングソードとプレートアーマーを受注していたような気が・・・・・・
まぁ、帰ってから話してみてそれからかな?
でわ。
-----アラクネ達-----
私たちはシャヴォンヌの背中の上にいる。ルイスの街の中央広場くらいの広さの背中だ。これならばもしかすると1回で全員を運べるかもしれない。
少し飛ぶと眼下にルイスの街が見えた。街は城を中心に放射状に通路が拡がり、最外縁部には防壁が囲んでいる。中心には更に高い防壁が有り、堀が張り、中心に尖塔を持つ城が建っている。街から少し離れたところにはあと数日後には出立する軍の野営地が見えた。さすがに公爵の軍、数万規模が集まって陣形の確認をしているのがここからでも分かる。正確に言えばこの高さだから分かるのだろう。
シャヴォンヌは直ぐにルイスの街から遠ざかる。そのまま進路を少しずらし、アラクネ達が潜むところへと飛ぶ。とんでもない速さだ。しかし、振り落とされはしない。ここは魔力のドームで覆われており、風は入らないようになっている。翼の付け根の辺りまでドームは拡がっているので、私と師匠を除く全員が腹ばいになって地上を眺めていた。
「師匠、今回は色々と助けていただいてありがとうございます」
私は素直に師匠に礼を述べた。師匠は黙って微笑んでいる。
「いいのですよ、大好きな弟子のためですから。それに色々と発見がありました」
師匠はたまには街に出てみるのもいいといってシャヴォンヌの頭の方へと歩き出す。そこへミルトが走ってきた。どうやら本当にショートソードをもらって良いかを尋ねるようだ。師匠は滞在中にミルトとユーリカに魔法の手ほどきをしていた。それは昔、師匠に教わったときと全く同じやり方だった。私はそれを懐かしく見ながら、新しい商品を考えていた。
「いいのですよ。余り時間がありませんでしたので、結局魔法の方はお力になれませんでしたし、カーソンを生き延びさせていただいたお礼です」
本当はショートソードと魔法の手ほどき両方でお礼にしたかったと師匠は言っていた。
「必要が無ければ売ってお金に換えていただいても結構ですよ。お金になるかどうかは分かりませんが」
そう言えばショートソードは見たことの無い材質で出来ていた。ミルトも冒険者ギルドでマジックアイテムの販売をしていたが初めて見ると言っていた。
「師匠、それって何で出来ているのですか? ミルトも返すつもりだったみたいで、まだ斬ってみてないのですが」
ミルトもショートソードを抜いてもう一度確かめている。彼女は商売の神メルカートルを信仰している。その恩恵でオクルスウェールス(真実の眼)という特殊な魔法を使える。これは物の材質や効果などを見極め、さらに真贋の鑑定も出来る優れた能力だ。正直、司教クラスの腕は持っている。その能力でも分からないとなると神を欺くほど特殊なことをしてあるか、全く未知の素材を使っているかのどちらかだ。
「あぁ、この材質ですか? これはヒヒイロカネとアダマンタイト、それに少しだけミスリルと銀を加えた合成金属ですよ。鞘も同じ物で出来ています。というよりこれを入れたら鞘ごと切断するので仕方なしに創ったのですけれど。不細工で申し訳ないと思っています」
ショートソードを鑑定していたミルトが慌てて手から放した。ショートソードはそのままストリとシャヴォンヌの背中に吸い込まれていく。
轟唖唖唖唖唖唖唖!
竜の咆哮。それは戦士達の心を萎縮させ、行動を制限する。それは竜の強さ、生きてきた年月により強力になる。古代竜のそれは魂をも奪うという。
(まずい!)
私は全員に魔法障壁を掛けた。しかしあっさりと突き破られる。師匠と私とバスティ以外は全員が泡を吹き、白目を剥いて崩れ落ちた。
(痛い!!!!! 何をした! 痛たたたたたた。 何か刺さっただろ、早く抜け-!)
シャヴォンヌの声が頭に響く。どうやら念話を使うことが出来るようだ。私は他の者達の介護をバスティに任せ、引き抜こうと力を込める・・・・・・。
あれ? 抜けない。魔術師とはいえそれほど力が無いわけでは無いのだがこれは抜けない。師匠が溜息をつきながら近づいてきた。柄を握り力を込める。・・・・・・抜けない。今度は二人同時に柄を握り力を込めるが・・・・・・抜けない。
私たちは顔を見合わせた。先程から頭の中にシャヴォンヌの早く抜けという声と呻き声が延々と垂れ流されている。しかし抜けない物は抜けない。私たちが困惑しているとシャヴォンウから念話が入る。
(もういい、とりあえず目的地上空だ。これから旋回しながら降下する。捕まっておけ)
すぐに速度は落ち、ゆっくりと螺旋を描きながらシャヴォンヌは降下を始めた。気を失った3人はまだ回復しない。徐々に降下して行く様子を見ていると森の中から複数のアラクネ達が出てきて恐慌状態になっているのが見える。
(ま、そうなるよなぁ。事前連絡無しだし)
私はバスティを近くへ呼ぶとシルフに私の声を森の中へ届けられるかを尋ねた。問題は無いという返事が返ってきて直ぐに私の横に裸体の女性が現れる。女性はふわふわしながらバスティと話して私の横へやってきた。直ぐに私の身体の中を通り過ぎ、一瞬でかき消えた。
「主様、もう話されても大丈夫です。向こうの言葉もこちらに届きます」
私は直ぐに大声で話し始めた。
「アスゼナ、エステル、居るか-?」
私の大声に返事がない。居ないのかよほど混乱しているのか? どちらかと言えば後者だろうが。私はもう一度呼びかけてみる。暫くすると返事があった。
「カーソン、カーソンサマ。ウ、ウエニドラゴンガ・・・・・・。ワタシタチハニゲキレマセン。チカズカナカッタラカーソンサマはタベラレマセン、ハヤクオニゲクダサイ」
アスゼナは必死で逃げるように説得してくる。私はアスゼナに事の成り行きと今からの行動を説明した。その間もシャヴォンヌはゆっくりと旋回しながら地上へと近づいて行く。シルフが送ってくる気配や振動はアスゼナ達アラクネが徐々に落ち着きを取り戻して行くのを伝えていた。
シャヴォンヌが大地に降り立つ。衝撃が走るかとも思ったがこの巨体でふわりと降り立った。轟音も土煙も上がらない。私はすぐに地面に降り立つと足早に森の中へ入っていった。そこには身を寄せ合った懐かしいアラクネ達の姿があった。
「元気にしていたか? 怪我人などはいないか?」
私の問いにアスゼナ達はこくこくと頷いてはいたが視線はシャヴォンヌから離れていない。気絶組がシャヴォンヌノ身体から降ろされると同時にシャヴォンヌの竜体型は解除された。
私は、アスゼナとエステルにすぐに人数の確認をするように頼んだ。万が一、恐慌状態で逃げ出していたら見捨てていくことになりかねない。私もバスティに頼んで精霊達に周辺5kmを探索してもらう。今回はシルフではなくアルボニとその上位精霊シルワに頼んでもらった。2人?は森の精霊で木々を伝達しながら話をすることが出来る。両方共が確認をして、動いた者がいないことを確認した。
「・・・・・・と言うわけで、今からここにいるシャヴォンヌに移住先に送ってもらうことにする。すぐに野営の準備を解いて欲しい」
その言葉にはやはり質問が相次いだ。食べられないのかとか落ちることはないのかとか様々な質問だったがそれは大丈夫ということを全員に解いて回った。
とりあえず納得してくれたのか、アラクネ達は素早く動き出す。中々良い森だがここに住み着くとまた人間達と揉める可能性がある。やはり移動してもらい安全に暮らしてもらう方が良い。
私は師匠達の方へ歩き出した。あちらはあちらで大変なことになっているようだ。人間の形態になっているシャヴォンヌの背中にはショートソードが生えていた。どうやら背中の肩甲骨あたりに食い込んでいるようだ。目を覚ました気絶組のうち、ルールウが加わり、バスティ、ルールウ、師匠が同時に引っ張っている。それでも抜けないようだ。短い柄に3人の手が重なり合っているので力が入らないのだろう。シャヴォンヌも痛みをこらえながら呻いている。
私はふと思いついたのでアスゼナのところへと戻った。
「アスゼナ、忙しいところ申し訳ないが10mくらいの糸を出してくれないか?」
私の問いにアスゼナは直ぐに答え、長い糸を出し始めた。硬度は無いが十分にしなやかで弾力のある糸が出てきた。私はそれをたぐり寄せると全員が集まっている場所へ戻った。
戻った私はショートソードの柄とその刃のところに十字に糸を巻き付け、三つ編みの要領で糸を分散させて行く。上手く巻き付いた糸の先は3つの握り手を持つような出来になった。そこを3人に再度握ってもらい一気に引き抜くようにお願いした。
「せーーーの!」
3人の声が被り、シャヴォンヌの呻き声と共にショートソードはすっぽりと抜けた。突然抜けたため3人はそのまま地面へ転げる格好になる。すぐにミルトが回復魔法を掛けようと近づいた。シャヴォンヌはそれを手で制すと全身に力を込めた。背中の傷が一瞬で塞がる。
シャヴォンヌの横ではミルトが土下座して謝っていた。しかしシャヴォンウは気にしていないと言い頭を上げさせている。
そちらより私の方を睨む目の方が強烈だった。
「カーソン・・・・・・、私は上半身裸なんだけどなんで普通に見ているのかねぇ」
あぁ、そう言えばシャヴォンヌは女?だった。私が慌てもせずに目をそらすと強烈な跳び蹴りが襲ってきた。その容赦の無い蹴りに私は数メートル吹き飛んだ。後ろで拳骨の音が響く。まぁ、仕方ないかと思いながらそのまま立ち上がりアスゼナ達のところへ歩いて行く。
「すまないな、待たせてしまって。生活は大丈夫だったか?」
私の問いにアスゼナは黙って頷いた。もともと食料を捕らえながら移動してきたことと、結束力が生まれていたことで分裂もなかったという。ただ、竜が降りてきたときにはさすがに全員が恐慌状態に陥ったと言っていた。
「すまん、突然の事だったので知らせることが出来なかった」
今までの事を色々と聞いていると全員の用意が調った。私はアラクネ達を率いて森の外へ出る。そこには私が連れてきた全員が揃っていた。
私はバスティとミルト以外の全員を紹介する。私の師匠とシャヴォンヌを紹介すると顔が引きつっていたのは愛嬌というところだろう。
シャヴォンヌは休ませろとぶつぶついいながらもう一度竜の体型へと変化する。その圧倒的な大きさにアラクネ達はただ口を大きく開けて見入っていた。
私はシャヴォンヌの身体が目立ちすぎるので直ぐに移動すると言うと、アラクネ達は器用に網状の梯子をシャヴォンヌの翼に作って行く。私たちは今度は昇るのに苦労することなく背の上に昇ることが出来た。アラクネ達70人が乗り込んでもまだ余裕がある。
全員が乗り込んだのを確認すると私はシャヴォンヌに出発の指示を念話で送った。直ぐに何の衝撃もなく身体が浮き上がる感覚が襲う。シャヴォンヌはそのままゆっくりと上空に昇っていった。
(カーソン、面白いことをやってやろう)
シャヴォンヌから念話が届く。
すでにかなりの高度に達していたので何をする気か気になったので、特に何かをする必要があるかだけ聞いてみた。シャヴォンヌは少しだけ考え、全員を中央・背中の真ん中へ集めるように言う。私は全員に中央に集まるようにだけ言って、特に子供を中へ入れるように指示を出す。
(全員集まったけど何をする?)
私の念話が伝わった瞬間、シャヴォンヌは高高度でホバリングを始めた。シャヴォンヌの周りの空間が歪み出す。私と師匠以外は全員が怯えていた。一瞬空間が一気にひん曲がった。そしてシャヴォンウはゆっくりと螺旋を描きながら徐々に降下を始めた。
(時空をねじ曲げたのか~)
「カーソン、何が起こった?」
ルールウが近づいてくる。私は後で説明するとだけ言った。正直起こったことは分かるが原理は説明できない。アスゼナ達も不安そうにこちらを視ている。師匠はにこにこ笑っているがこめかみに青筋が立っている。相当怒っているようだ。
私はとりあえず、全員揃っているかどうかを確認することを頼んだ。すぐに確認が取れたので落ちないように言って下を覗くように促す。
シャヴォンヌの下には広大な荒れ地と小規模なオアシスがある。全員が混乱していた。先程まで森がある草原地帯にいたのに今はほぼ砂漠の真ん中だ。
「どうだ、アスゼナ。暮らせそうか?」
私の問いにアスゼナは地面と私の顔を見比べていた。どう答えてよいか分からないらしい。それは他のアラクネ達も同様だったようだ。全員が乾いた大地を見つめている。それはうちのメンバーも同じだった。師匠は目を閉じていたのでこの地のことを探っているのか、シャヴォンヌと話しているのかは分からない。
暫くすると少しだけシャヴォンヌの降りる位置が変わった。どうやら師匠から何某かの指示があったようだ。シャヴォンヌは徐々に大地に近づき、地面に着地する。周辺に砂煙が立ちのぼった。やはり相当乾いているようだ。
「さあ、新天地へようこそ。全員降りてあのオアシスまで行こう」
私の芝居がかった台詞に戸惑いながら、アラクネ達は器用にシャヴォンヌから降りてオアシスへと向かっていった。
-----オアシス-----
移動した全員が小さなオアシスの畔に腰を下ろした。水は澄んでいて飲むことも出来る。最初はアラクネ達も困惑していたが、徐々に落ち着きを取り戻し、色々と確認しているようだった。私はこの土地のこと、今後のことを全員に説明する事にした。
とりあえず先程上空から見えた土地はほとんど私の土地であることを説明し、ミュールの住処であった洞窟の入り口に案内し、そこを掘り返すことが仕事だと伝える。暫くはここの生活に慣れて、それから道具を使って労働してもらうこと、そして発掘する物について説明した。古代遺跡については変な物が見つかったら報告とだけ伝え、魔石をいくつか取り出してアラクネ達に見せ、与えた。
「ようは、この石を掘り出してくれるだけで良い。地下には大きな空間が拡がっているので。そこに行き当たったら動かずに私に知らせて欲しい」
罠や死霊の危険性があるということを伝えるとアラクネ達は神妙な顔で頷いていた。とりあえず、そこまでで伝えることは全てだったのであとは解散し、自由にしてくれと伝えた。それぞれが思い思いの場所へ散って行く。それはアスゼナやエステルも例外ではなかった。多少環境は厳しいが、食料の供給は暫く続けるつもりだし、発掘や脱皮した皮、糸などの売買も始めると森だった。すでに皮や糸は用意されていた。しかしまだ何に加工するかは決まっていない。
今回の仕事で大金が入る予定だが、早めに商売を再開しないとじり貧だ。
「カーソン、おいでなさい」
師匠から呼び出しがかかる。師匠の横には頭を押さえてうずくまるシャヴォンヌがいた。
「まさか次元をねじ曲げて直接ここへ転送するとは思っていませんでした。もしかして貴方も知っていましたか?」
師匠の目は表面上笑っているが明らかに怒っている。私は正直何も知らされず、ただ面白い物を見せてやると言われただけだったので素直にその事を伝えた。師匠は溜息をつき、転送についてはそれ以上は何も言わなかった。
「しかし、不毛の地ですね。アラクネ達も苦労するでしょう。ところでなぜここがこのような土地なのか分かりますか?」
私は単純に干上がった土地程度にしか思っていなかった。そのように伝えるとやはり拳骨が飛んできた。
「いいですか? あぁ、バスティエンヌとユーリカさんとミルトさんも聞いていてください」
そう言って3人を私の近くまで呼び寄せた。ルールウは魔法自体に興味が無いから呼んでいないということだった。
「この地の不毛な訳、それはこの地の地下に眠る膨大な魔石の鉱脈が関係しています」
どうやらここの魔石に魔力が籠もっていたのは、空中に漂う魔力を吸収していたのではなく、大地の力を吸収していると言うことだった。鉱脈がない場所だけがオアシスとなり、小さいながらも川を形成していると言うことだ。つまり・・・・・・。
「カーソンは分かったようですが、この砂漠の地下全てが魔石の鉱脈になっています。なぜそうなっているのかは崩れた洞窟を掘り返して調べてみないと分かりませんが・・・・・・」
鉱脈としてはすばらしいが発展は望めない、難しい土地だと言うことは分かった。アラクネ達にとって少しでも快適な住処にしてあげる必要があるということは再認識できた。それだけで十分だ。
全員が一時休憩になり、ユーリカとミルトはアスゼナやエステルに色々と質問をしている。師匠は少し近くを見てくるといってどこかへ行った。
私は退屈そうにしているシャヴォンヌのところへ行き、隣に座った。
「シャヴォンヌ・・・・・・さん。少し聞いても良いですか?」
私は疑問に思っていたことがあったので聞いてみることにした。シャヴォンヌは敬語はいらないしシャヴォンヌで良いといってくれた。
「先程、バスティに気をつけろと言っていたと思うけどどういうこと?」
私の問いにシャヴォンヌは本当に分かっていないのかという顔をした。私の表情を見てシャヴォンヌは頭を抱えた。
「いいか、カーソン。奴は基本的に私と同じだ。ただしもともと存在する場所が違うし、なんと言えばいいかな? 全ての命を生み出せる存在というところか・・・・・・」
(次元竜と同じ? そういえば何か聞いたような気がする。もう一度ゆっくりと聞いてみよう)
私が首を捻っているとシャヴォンヌは少しだけ笑った。
「理解するのは難しいだろうな。人間では・・・・・・。正直私でもそれくらいしか分からない。彼女は1人の意思であって1人の意思ではないのだよ」
シャヴォンヌはそこで一度は無しを止めた。空を見上げて何かを考えている。そして口を開いた。
「彼女が自らの意思をなくしたとき、世界は滅ぶだろう・・・・・・。それは私たちでも止められないと思う。彼女の本質がそのように出来ているからな。そして長い時を経てまた新しい命が生まれるのさ」
そこまで言ってまた黙った。私はバスティにもう一人妹がいることと一族がいることをシャヴォンウに話した。シャヴォンヌも真剣な顔をして聞いている。
「・・・・・・そうか、彼女だけではないのか。しかし手は出せない。下手な刺激をする事は避けたいのでな。・・・・・・には私から話しておく。何かあったら私か・・・・・・から知らせることになると思うが、絶対に彼女たちには話すなよ」
シャヴォンヌの気配に私はただ黙って頷いた。ちなみにバスティ達の名前を聞いてみたが分からないということだ。ただこう呼ばれていたとだけ教えてくれた。
「次元の歪みに生きる闇よりも深い深淵の先にある混沌の命」
-----帰還-----
私たちは暫く休んでアスゼナ達アラクネにしばしの別れを告げ、シャヴォンヌに出会った場所まで送ってもらった。今度は普通に飛行してもらう。やはり、高いところを飛ぶのはすばらしい。私たちは気色を十分に楽しむことが出来た。
師匠はまた来るといってシャヴォンヌと共に去って行く。私たちは師匠達と別れそのままルイスの街へと戻ることにした。
明日からはまた、鍛冶屋としての日々が始まる。砂鉄もかなり溜まっただろう。ドロワという害虫の件もある。私は、また忙しくなると思いながら商売のことを考えていた。
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