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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅰ 仕事の下準備と大失敗
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ふい~。
師匠が帰りました。
やれやれです。
アラクネ達の移送を手伝ってもらったので助かりました。
次元竜シャヴォンヌ。
次元竜って存在したのですねぇ。
しかも1体ではなさそうですし。
空間を詠唱無しでねじ曲げる?
普通は出来ませんね。
10000km以上の移動が異常に速かったのも分かります。
しかも変な情報までくれました。
バスティが昔話してくれた事と関係がありますです。
まか機会があれば聞いてみましょう
(バスティとシャヴォンヌに・・・・・・)
さぁ、大量の商品に付与魔術を掛ける方法も会得したことだし、ひとつ稼ぎますか。
仕事・・・・・・、来ないかなぁ。
とりあえず帰ってから残金がどれくらいあるのか確認しなくては・・・・・・。
ついでにドロワの件がどうなったかも確認しないといけないですね。
やることは結構多いです。
頑張りましょう
でわ!
-----王国とカサンドラ公爵と仕事-----
師匠と別れて、夕方にはルイスの街にたどり着いた。私たちは急いで家へと帰る。家には多分いじけているミュールが待っているはずだ。
途中、ミルトと別れる。ミルトは私の昔住んでいた別宅へと帰った。
私とバスティ、ユーリカが家に帰ると家の中から良い匂いが漂ってきた。どうやらミュールが夕食を用意してくれているようだ。私たちは少しだけ安心し、顔を見合わせてから家に入った。
「ただいま、ミュール。今日は置いていってごめんな」
私はそう言いながらリビングへと向かった。包丁の音が聞こえてくる。しかしリビングにはミュールが寝そべっていた。のそりと起き上がり私の方へ顔を向ける。
「ゴシュジンサマ、オカエリナファィ~」
ミュールの口から寝ぼけた声が漏れる。どうやら今まで眠っていたようだ。じゃあいったい誰が料理をしているのだろう。バスティとユーリカも訝しげな表情を浮かべている。バスティに至ってはブロードソードを引き抜いたほどだ。
「カーソンお帰り。勝手に上がらせてもらっているよ」
馴れ馴れしい聞き覚えのある声がキッチンから聞こえてきた。
嘘だろう・・・・・・。
私はそろりそろりと後ろへ下がる。バスティはそのままキッチンへと向かい、ユーリカは何が起こっているのか理解できないでいる。
台所から見知った顔が出てきた。
「はぁ・・・・・・、なんでうちにいるのですか? 公爵様」
エプロン姿で出てきたのはカサンドラ・ルイス公爵だ。普段の姿とのギャップがあまりにも凄い。その姿に剣を抜いたバスティはその場で固まり、ユーリカは引きつっている。私は、逃げようと移動していた足を止めた。しかしよくミュールを説得出来たものだ。
「いや、出征前に仕事の依頼をしようと思ってな・・・・・・。しかし来てみればミュールちゃん以外誰もいないではないか? ドロワの件とその報酬の話もあるというのに」
そういえば思い出した。まだ報酬もらっていない。しかもドロワがその後どうなったのかもまだ知らない。今回の件だけではドロワの失脚は厳しいだろう。失脚していなかったらこちらへ逆恨みしてくることも考えられる。しかも偽装武器は納品したままだ。そこら辺のことも聞いていない。
「で、まずは報酬の件から・・・・・・」
私が報酬の話をしようとしたら公爵が軽く手で制した。
「とりあえず、食事でもどうだ。結構自信作なのだぞ」
公爵の手料理・・・・・・ねぇ。私がどのような顔をしたのかは分からないが公爵は不服そうな顔をしている。バスティに至ってはあからさまに嫌そうな顔をしていた。
「私だってきちんと作れる。武術や戦略、政務以外にも色々と勉強している!」
おー、公爵がムキになっている。そこまで言うなら食べてやろうではないか。
私はバスティとユーリカ、そしてまだ寝そべっているミュールに起きるように言うとソファーに腰を下ろした。そしてジッと公爵の料理が出来るのを待った。
2時間後、私たちは世の中の不思議を味わった。何とも形容しがたい姿の料理に味。不味いわけではないのだが・・・・・・、不味いわけではないのだが・・・・・・言葉が見つからない。
「どう? 中々のものでしょ?」
公爵はどうだとばかりに全員の顔を見渡した。ミュールを除く全員が何とも形容しがたい表情をしている。ミュールは黙って食べ終わり、そして一言言い放った。
「コウシャクハダメデスネェ。モットリョウリヲベンキョウシマショウ。コンドミュールガオシエテアゲマス」
あぁ、言っちゃったよ。まずいなあ。折角仕事の話を持って来てくれたのに。
よく見ると公爵の全身がぷるぷると震えている。
怒るかな?怒るよな?
今まで全否定されたことなど無いはずだからなぁ。
危険を察知したのかバスティはトイレに立てこもり、ユーリカは倉庫の整理をすると言って地下へと潜っていった。取り残されたのは私だけだ。私も逃げたかったが公爵を前に逃げるわけにも行かない。ミュールは・・・・・・、公爵の頭を撫で回していた。
「・・・・・・わかった、やはり城の連中はおべっかを使っていたのだな」
公爵、哀愁が漂っているぞ・・・・・・。大丈夫か?
私が公爵の心配をしていると突然、顔を上げこちらを見つめてきた。
「あぁ、本来の目的を忘れるところだった。出征まであと2日しかないのだが至急作成して欲しいものがある。それと報酬の話だ」
公爵の話では大至急鋼製のメイスを300本用意して欲しいと言うことだ。しかも重量を通常の2倍、5kgという指定がある。現実2日では難しい。何しろ砂鉄がないうえに玉鋼を作成するとなると3日以上かかる。
しかも量的には7500kgの玉鋼が必要だ。
それに付与魔術、炎と雷撃の魔法の付与を半分ずつやれと言うことだった。ちなみに料金は金貨15000枚。急ぎも急ぎの分、先日のロングソードとプレートアーマーより美味しいことはおいしい。
もうひとつは先日の発注した商品の料金の件。これに関しては先日金貨10000枚と言うことで話はついている。そして半金の金貨5000枚がすでにここへ運び込まれていた。
ん?
よくよく考えたら残りの鉄でロングソードとプレートアーマーを作成するのではなかったかな?
しかもドロワを填めた後で・・・・・・。
「5000枚は前回の手付け金だよ。半分は仕事済んでいるだろう?」
公爵は問題ないと言っていた。それだったらもらっておこう。どのみち下請けでやってくれた業者にも金を渡さなければならない。
そしてまた話を続ける。
「問題はその日数では間に合わないと言うことです」
私は鋼の生成の件について詳しく話をした。砂鉄はあるということ。問題は砂鉄から玉鋼までの生成に最低3日かかるということ。現在は玉鋼の在庫がないことを伝える。それを伝えると公爵は少し考え込んだ。
「王都まで大体2週間はかかる。それまでに届けることは出来ないか?」
私はそれならば大丈夫ということを告げる。正直砂鉄は明日中に揃う。玉鋼の作成に最低3日。それからメイスを300作成するのに3日。付与魔術に2日。それから足の速い馬車で追いかけて王都到着の2日前くらいには届けられるはずだ。
私はこのとき、とんでもない計算違いをしていたことに気づけなかった。
「しかし、今回はどれだけの兵を連れて行くのですか? 駐屯所の兵数、2~3万はいましたよね」
私の問いに公爵は肩をすくめた。
「正確な数は・・・・・・まあいいか。24000。今回は民兵の導入をしないのでほぼ全軍が出撃する。このルイスの街に1大隊。地方維持に2大隊は残す。これにルイス近郊の領主達の兵がおよそ24000かな?」
以外とあっさりと軍構成を教えてくれた。これって国家機密レベルの話だと思うのだけれどなぁ・・・・・・。公爵の目が喋るなよと言っている。
東部地域の半数を率いていくのか。結構危険だなぁ。しかも諸侯軍が少ない。最大数の半数程度しか出てきていない。
もっとも正規の軍隊を多数所持しているのはカサンドラ公爵とベントゥーラ伯爵だけなのだが・・・・・・。
「ふっ、カーソンでも危険な事は分かるか? 正直近隣国が侵攻してくればどうなるか分からない。一応こちらの指揮権は私の部下がやることになるのだが・・・・・・あんまり優秀とは言えないのでな」
ちなみに政務補佐官のドロワには指揮権はないと言うことだ。
「しかし、相手が見えていないのでな・・・・・・。正直どう転ぶか分からない」
そう、いまだに何が起きているのか分かっていない。そこで王国は国力の半数、2軍集団を王都周辺へ集めると言うことだった。ちなみに被害は拡大しており、連絡などのつかない街、町、村は増えて言っている。行方不明になった軍団もまだ音信不通らしい。
「では、公爵自身が先陣に立たれるのですか?」
公爵は黙って頷く。中央軍集団は動かないので集まる2つの軍集団の指揮官は4公爵のだれかになる。公爵の話によると北の公爵が元帥として総指揮を取るだろうということだ。
ちなみに王国は次のような支配体制になっている。
国王 大元帥
北の公爵 筆頭元帥・外務大臣
西の公爵 元帥・内務大臣
南の公爵 元帥・財務大臣
東の公爵 総軍師 カサンドラ・ルイス
そう、東の公爵であるカサンドラ公爵だけ大臣職がない。
理由としては簡単で、戦略や軍略、他国の情報収集などを専門にさせるための煩わしいものを外してあるとのこと。ちなみにこれはカサンドラ公爵から聞いたことなので間違いはない・・・・・・はず。
「私は騎士でもあるが総軍の戦略を考えないといけないからね。前線に出ることは滅多にないかな? 5年ぶりくらいの前線だよ」
正直総軍師が前線に出るのは異例なことだが、何が起きているかを見極めるためだということだ。何が起きているかを知ることで軍の展開方法が変わってくるらしい。情報収集が出来ないので直接見るしか無いと言って出ることにしたそうだ。当然リスクも大きい。
「で、話を戻すととりあえずギリギリ間に合うと言うことで良いのだね? 私の切り札になるかもしれないから・・・・・・」
公爵の言葉を聞きながら少しだけ考え込む。正直、先程の付与魔術程度でどうにかなるものなのか疑問だ。それともある程度目星がついているのか・・・・・・。
「ドロワがどのように動くのか正直分からないが、この段階で仕掛けてくることは無いと思う。仕掛けられたときは・・・・・・どうかなぁ。正直何処までが何処に通じているか分からないから何とも言えない。それとここにも来る可能性があるから一応気をつけておいた方が良い。何なら護衛に2分隊ほど裂こうか?」
私は公爵の提案をやんわりと断った。正直中隊クラスが来ても油断さえしなければ問題なく勝てる。前回は完全に油断していただけだ。それが私の欠点なのだが・・・・・・。
「なんとかしますよ。それよりも公爵もお気を付けください。まだ実態は分かっていないのでしょう?」
公爵は「まあな」と言って立ち上がった。そろそろ帰るらしい。横にいるミュールに今度料理を教えてくれと言っている。ミュールは公爵の頭をなでなでして玄関まで見送っていく。私も行こうとしたが公爵に止められた。
「カーソンは早く作業に取りかかって欲しい。とりあえず、前回分の5000で足りるだろう?」
リビングから出かかっていた公爵は片手をあげてそのまま歩いて行った。私はトイレに籠もったバスティと地下へ行ったユーリカを呼び戻す。そして明日からの役割分担の指示を話し合った。
-----計算ミス-----
翌日、バスティは朝一で自分の馬に乗り砂鉄採集場へと馬を走らせる。採集場を仕切っている古代竜ゴーレムのフォルミードには手紙を書いてバスティに渡した。これでどれくらいの量の砂鉄が集まっているかが分かるはずだ。
その間にミュールとミルトに今後の指示を出す。ミュールは砂鉄が届き次第すぐに玉鋼製作の指揮を執ってもらう。ユーリカとミルトには食料と生活用品の買い出しを頼む。今夜からミルトにもここへ泊まり込んでもらうことになるからだ。
ドロワが動くとしても3~4日後だろう。カサンドラ公爵が簡単に引き返せないくらいは離すはずだ。私はミュール以外が出かけた後地下室へ行き、全ての魔石を持ち出した。魔石は私の魔力50日分を詰め込んである。これだけあれば師匠から会得した並列付与も問題なく出来るだろう。
そう考えながら魔石を並べていると突然庭先にとんでもない音がした。私は直ぐに防御結界を張る。当然物理と魔術の両方だ。工房からミュールも出てくる。私は外に出てそれを見た。
美しく銀色に輝く2m程の竜が・・・・・・地面にめり込んでいた。
「オォ、ヌシカ。ココノダイチハモロスギル・・・・・・」
目の前にめり込んでいたのは砂鉄採集場の指揮を執っていたフォルミードだ。古代竜の牙で作成した鋼のゴーレムで、何故か話すことが出来る。バスティからの手紙を受け取り直ぐに飛んできたらしい。フォルミードは気合いを入れて立ち上がる。しかしすぐに足首まで地面にめり込む。
「ハヤクノレ、ワレニノレバスグニサイシュウジョマデツク」
フォルミードは姿勢を低くし、翼を地面に付けている。私は蜜穴熊のバッグを掴むとミュールに物置部屋に大量の袋を用意し、待機するように言って飛び乗った。フォルミードはすぐに溜をつくり大空へ飛び立つ。鋼で出来た身体はさすがに硬いが、速度は凄まじかった。約20kmを一瞬で移動する。あまりの速度に結界を張っていてもその間に2度ほど落ちかけたが・・・・・・。
採集場にはバスティが待っていた。そこには全てのゴーレム達が集まっている。私は到着するとすぐに蜜穴熊のバッグから袋をどんどんと取り出す。ゴーレム達がその袋を次々と取り、中へ砂鉄を詰めて行く。10袋になるとすぐにバッグの中へ放り込む。一刻も立たず50kg入る袋200枚の砂鉄が送られていった。これで1000kgの玉鋼がとれる計算だ。これだけで要望通りのメイスが20本出来る。これが300本必要だからあと14回、140000kgの砂鉄を送る必要がある。
量的にはありそうだが送る場所、それにとても1回で処理できる量ではない。私はここに来て自分の計算違いを知った。不味すぎる。原料の精製の時間を1回で計算していた。家にあるたたら炉は1回で10000kgの砂鉄処理が限界だ。
私はありとあらゆる方法を考え1つの結論を出した。
「バスティ、大至急街へ戻ってミルトと共に買い付けを頼む。物は街中の木炭だ。それをいつもの馬車屋で出せるだけの馬車で送って欲しい。それとたたら炉の設計図を物置部屋へ送ってくれ。砂鉄を出し終えた袋の1つに印を付けて置いてくれたら良い。設計図が最優先だ」
私の言葉にフォルミードが背中を差し出すがバスティは馬に跨がり一気に駆けだした。フォルミードは不思議そうな顔をして私の方を振り向いた。
「ワレガセヲカソウトイウノニ、アノオンナハナゼノラヌ・・・・・・」
いかにも不服そうな顔。私は思わず吹き出しそうになった。竜型ゴーレムの不服そうな顔など中々見れるものではない。私は笑いをこらえながらバスティの走り去った後を見つめフォルミードに答えを教えた。
「バスティは、魔法が使えないんだよ。だからフォルミードの速度で飛ばれたら死んでしまう。精霊魔法も使えるが、ここでは風の精霊力が弱いし、空に上がって結界を張るには危険すぎるからね」
フォルミードは怪訝そうな顔をしながら「ふん」とだけ唸ってゴーレム達に作業を再開させた。私が袋を引っ張り出し、ボーンゴーレム達が砂鉄を詰め、ストーンゴーレム達が袋に放り込んで行く。300枚分程送ったところで袋の供給が切れた。どうやらあちら側が供給過多で動けなくなったようだ。
物置小屋に入れるのはミュールとユーリカ、ミルト。ミュールが1回に4~6袋運んだとしてユーリカが1、ミルトが良くて2。数回分の木炭はあるので最低3日後からメイスの作成にかかることが出来る。3体のゴーレムのうち2体が玉鋼の作成、1体(ヘカトンゴーレム)がメイスの作成をするように割り振るつもりだ。
一刻後、私はもう一度蜜穴熊のバッグの中に手を入れてみた。数十枚の袋が出てくる。その中に赤い布を巻き付けた袋が出てきた。設計図が入っている。私は5体のボーンゴーレムに砂鉄の詰め込みを任せ、全てのゴーレムを集め、20cm四方程度の石を集めるように指示を出す。フォルミードを除く全てのゴーレムが散るのを見送っているとフォルミードが話しかけてきた。
「モシカシテ、ココニタタラロヲサクセイスルツモリカ?」
フォルミードはこちらを視ずに話す。金属の擦れ合うような声が何とも言えない気分にさせる。不快なのか快感なのか分からない。
「そうだ。が、たたら炉なんてよく知っていたな?」
私の問いにフォルミードが笑い声を上げながら答える。
「フン、ソノテイドノコトハ、ロウリュウデモシッテイルダロウ」
こいつ、鼻で笑いやがった。
私がこの知識を手に入れるのにどれだけの金を払ったか知っているのか?
まったく・・・・・・。
でもそれだけ高質の物を作れるようになったから仕事も回ってくるようになったんだけどな。
「で、作成方法は知っているのか?」
「ミセテミロ」
私はたたら炉の設計図が描かれた場所をフォルミードに見せた。暫くするとくすくすと笑い声が聞こえ、最後にはフォルミードが腹を抱えて笑い出した。辺りの地面が転がるたびに陥没してゆく。
「なんだ? フォルミード可笑しいことでも書いてあったか?」
私の問いにフォルミードは頭を抱えながら起き上がった。
「ワタシガタタラロヲセッケイシヨウ。コノセッケイデトレルタマハガネノ、バイヲサクセイデキルモノヲツクッテヤル」
フォルミードはそう言ってすぐに本流と支流の間を吹き飛ばし、家に作成したたたら炉と同程度の空き地を作った。そしてすぐにボーンゴーレムに運んできた石を本流の河原へ運ぶように指示を出す。運ばれた石はフォルミードが掬った水を掛けられた瞬間、バターのようにすっぱりと切れていた。それは古代遺跡によくある石の切れ目とそっくりだった。
私はフォルミードにその仕組みを聞いてみた。フォルミードが言うには水を握り圧縮して投げただけだそうだ。要は水の剣といったところか・・・・・・。ミュールの手の斬れ味といい、フォルミードの水剣といい世の中には解き明かされていない事が多い。私の横でフォルミードは次々に運ばれた石の形を整えてくる。それは徐々に数を増してゆき、一面均等に整った石の塊が積み上げられた。
フォルミードはストーンゴーレムを呼び何事かを指示して積み上がった石を先程地均しした場所へ運ばせて行く。それは徐々に炉の形を整えていった。
私はその間に蜜穴熊のバッグから追加の袋を数十枚取り出した。その中にバスティからの手紙が入っている。
「木炭100000kg買い付けました。夕刻にミルトと私と業者で第一陣荷馬車100台分50000kgの木炭を運びます。主様は1度こちらへお戻りください。明日は公爵の出征日です」
それだけ書いてあったので私はフォルミードにルイスの家まで送るようにいう。フォルミードは渋々といった顔で来たときと同じ格好をした。私がフォルミードに乗ると直ぐに浮き上がり一瞬でミルトの街の我が家へと降り立った。やはり巨大な音を立て地面にめり込んでいる。
この竜は賢いのか阿呆なのかわからん。
とりあえず、私はありがとうと言ってフォルミードが帰るのを見送り、そのまま地下の道具部屋へと降りていった。そこには最後の空き部屋を完全に占領した袋の山が積まれていた。
そこにミュールが降りてきた。
「ゴシュジンオカエリ~。モウタタラロハ、カドウシテルヨ」
既に一回目は稼働したようだ。この調子で順調にいけば良いが・・・・・・。
私が考え事をしていると、後ろに立つ気配があった。驚いて振り返るとそこには深刻そうな顔のユーリカが立っていた。
「どうしたユーリカ? 何か不味いことでもあったか?」
私の問いにユーリカが少しためらったように顔を伏せていた。私は何があったかを聞き出すためにリビングへと上がる。そして金貨の入った袋の前に来たときユーリカが口を開いた。
「あの、バスティさまですが木炭を買うのに金貨2000枚、それに馬車台が金貨250枚、計2250枚を一刻で使ってしまいました・・・・・・」
ユーリカがどうしようどうしようと言った顔でこちらを見ていた。動きが速いと思ったらそういう手を使ったわけか・・・・・・。早い分には良いのだがこれは結構大きい。
早めに先日の青銅製プレートアーマーを作成した鍛冶屋連中にお金を配った方が良いかもしれない。私はユーリカを伴って街の各所に点在する協力してくれた鍛冶屋を回っていった。
家に帰ると在庫の確認をする。こちらに保管してある木炭が24000kg。送られてきた砂鉄が30000kg。木炭の量が一回分、12000kg程足りない。私とユーリカは日の落ち始めたルイスの街に繰り出していく。別に食事に行くわけではない。単に木炭を買いに行くだけだ。数件回ったところで困ったことになった。木炭が一切無いのだ。私は思わず店員に八つ当たりをした。
「どうしてルイスの街の木炭が全て消える? 知っていることがあったら教えてください」
私はニコニコしながら店員に詰め寄った。心なしか店員の顔が引きつっている。あとでユーリカに聞いたらこの上ない怪しい笑みを浮かべていたらしい。
話を総合するとどうやらバスティがルイスの街の木炭を全て買い占めてしまったようだ。それで金貨2千枚か・・・・・・。何となく納得してしまった。
というよりも、バスティが100000kg確保したところで木炭が売り切れていることに気づくのが普通だと思う。それほど焦っていたようだ。
私たちは街の外にある木炭を作っている場所を聞くと、明日以降に木炭を求めて山の木こり達を尋ねることにして家へと帰った。
全ての玉鋼を作成するのに木炭が約60000kg程足りない・・・・・・。
師匠が帰りました。
やれやれです。
アラクネ達の移送を手伝ってもらったので助かりました。
次元竜シャヴォンヌ。
次元竜って存在したのですねぇ。
しかも1体ではなさそうですし。
空間を詠唱無しでねじ曲げる?
普通は出来ませんね。
10000km以上の移動が異常に速かったのも分かります。
しかも変な情報までくれました。
バスティが昔話してくれた事と関係がありますです。
まか機会があれば聞いてみましょう
(バスティとシャヴォンヌに・・・・・・)
さぁ、大量の商品に付与魔術を掛ける方法も会得したことだし、ひとつ稼ぎますか。
仕事・・・・・・、来ないかなぁ。
とりあえず帰ってから残金がどれくらいあるのか確認しなくては・・・・・・。
ついでにドロワの件がどうなったかも確認しないといけないですね。
やることは結構多いです。
頑張りましょう
でわ!
-----王国とカサンドラ公爵と仕事-----
師匠と別れて、夕方にはルイスの街にたどり着いた。私たちは急いで家へと帰る。家には多分いじけているミュールが待っているはずだ。
途中、ミルトと別れる。ミルトは私の昔住んでいた別宅へと帰った。
私とバスティ、ユーリカが家に帰ると家の中から良い匂いが漂ってきた。どうやらミュールが夕食を用意してくれているようだ。私たちは少しだけ安心し、顔を見合わせてから家に入った。
「ただいま、ミュール。今日は置いていってごめんな」
私はそう言いながらリビングへと向かった。包丁の音が聞こえてくる。しかしリビングにはミュールが寝そべっていた。のそりと起き上がり私の方へ顔を向ける。
「ゴシュジンサマ、オカエリナファィ~」
ミュールの口から寝ぼけた声が漏れる。どうやら今まで眠っていたようだ。じゃあいったい誰が料理をしているのだろう。バスティとユーリカも訝しげな表情を浮かべている。バスティに至ってはブロードソードを引き抜いたほどだ。
「カーソンお帰り。勝手に上がらせてもらっているよ」
馴れ馴れしい聞き覚えのある声がキッチンから聞こえてきた。
嘘だろう・・・・・・。
私はそろりそろりと後ろへ下がる。バスティはそのままキッチンへと向かい、ユーリカは何が起こっているのか理解できないでいる。
台所から見知った顔が出てきた。
「はぁ・・・・・・、なんでうちにいるのですか? 公爵様」
エプロン姿で出てきたのはカサンドラ・ルイス公爵だ。普段の姿とのギャップがあまりにも凄い。その姿に剣を抜いたバスティはその場で固まり、ユーリカは引きつっている。私は、逃げようと移動していた足を止めた。しかしよくミュールを説得出来たものだ。
「いや、出征前に仕事の依頼をしようと思ってな・・・・・・。しかし来てみればミュールちゃん以外誰もいないではないか? ドロワの件とその報酬の話もあるというのに」
そういえば思い出した。まだ報酬もらっていない。しかもドロワがその後どうなったのかもまだ知らない。今回の件だけではドロワの失脚は厳しいだろう。失脚していなかったらこちらへ逆恨みしてくることも考えられる。しかも偽装武器は納品したままだ。そこら辺のことも聞いていない。
「で、まずは報酬の件から・・・・・・」
私が報酬の話をしようとしたら公爵が軽く手で制した。
「とりあえず、食事でもどうだ。結構自信作なのだぞ」
公爵の手料理・・・・・・ねぇ。私がどのような顔をしたのかは分からないが公爵は不服そうな顔をしている。バスティに至ってはあからさまに嫌そうな顔をしていた。
「私だってきちんと作れる。武術や戦略、政務以外にも色々と勉強している!」
おー、公爵がムキになっている。そこまで言うなら食べてやろうではないか。
私はバスティとユーリカ、そしてまだ寝そべっているミュールに起きるように言うとソファーに腰を下ろした。そしてジッと公爵の料理が出来るのを待った。
2時間後、私たちは世の中の不思議を味わった。何とも形容しがたい姿の料理に味。不味いわけではないのだが・・・・・・、不味いわけではないのだが・・・・・・言葉が見つからない。
「どう? 中々のものでしょ?」
公爵はどうだとばかりに全員の顔を見渡した。ミュールを除く全員が何とも形容しがたい表情をしている。ミュールは黙って食べ終わり、そして一言言い放った。
「コウシャクハダメデスネェ。モットリョウリヲベンキョウシマショウ。コンドミュールガオシエテアゲマス」
あぁ、言っちゃったよ。まずいなあ。折角仕事の話を持って来てくれたのに。
よく見ると公爵の全身がぷるぷると震えている。
怒るかな?怒るよな?
今まで全否定されたことなど無いはずだからなぁ。
危険を察知したのかバスティはトイレに立てこもり、ユーリカは倉庫の整理をすると言って地下へと潜っていった。取り残されたのは私だけだ。私も逃げたかったが公爵を前に逃げるわけにも行かない。ミュールは・・・・・・、公爵の頭を撫で回していた。
「・・・・・・わかった、やはり城の連中はおべっかを使っていたのだな」
公爵、哀愁が漂っているぞ・・・・・・。大丈夫か?
私が公爵の心配をしていると突然、顔を上げこちらを見つめてきた。
「あぁ、本来の目的を忘れるところだった。出征まであと2日しかないのだが至急作成して欲しいものがある。それと報酬の話だ」
公爵の話では大至急鋼製のメイスを300本用意して欲しいと言うことだ。しかも重量を通常の2倍、5kgという指定がある。現実2日では難しい。何しろ砂鉄がないうえに玉鋼を作成するとなると3日以上かかる。
しかも量的には7500kgの玉鋼が必要だ。
それに付与魔術、炎と雷撃の魔法の付与を半分ずつやれと言うことだった。ちなみに料金は金貨15000枚。急ぎも急ぎの分、先日のロングソードとプレートアーマーより美味しいことはおいしい。
もうひとつは先日の発注した商品の料金の件。これに関しては先日金貨10000枚と言うことで話はついている。そして半金の金貨5000枚がすでにここへ運び込まれていた。
ん?
よくよく考えたら残りの鉄でロングソードとプレートアーマーを作成するのではなかったかな?
しかもドロワを填めた後で・・・・・・。
「5000枚は前回の手付け金だよ。半分は仕事済んでいるだろう?」
公爵は問題ないと言っていた。それだったらもらっておこう。どのみち下請けでやってくれた業者にも金を渡さなければならない。
そしてまた話を続ける。
「問題はその日数では間に合わないと言うことです」
私は鋼の生成の件について詳しく話をした。砂鉄はあるということ。問題は砂鉄から玉鋼までの生成に最低3日かかるということ。現在は玉鋼の在庫がないことを伝える。それを伝えると公爵は少し考え込んだ。
「王都まで大体2週間はかかる。それまでに届けることは出来ないか?」
私はそれならば大丈夫ということを告げる。正直砂鉄は明日中に揃う。玉鋼の作成に最低3日。それからメイスを300作成するのに3日。付与魔術に2日。それから足の速い馬車で追いかけて王都到着の2日前くらいには届けられるはずだ。
私はこのとき、とんでもない計算違いをしていたことに気づけなかった。
「しかし、今回はどれだけの兵を連れて行くのですか? 駐屯所の兵数、2~3万はいましたよね」
私の問いに公爵は肩をすくめた。
「正確な数は・・・・・・まあいいか。24000。今回は民兵の導入をしないのでほぼ全軍が出撃する。このルイスの街に1大隊。地方維持に2大隊は残す。これにルイス近郊の領主達の兵がおよそ24000かな?」
以外とあっさりと軍構成を教えてくれた。これって国家機密レベルの話だと思うのだけれどなぁ・・・・・・。公爵の目が喋るなよと言っている。
東部地域の半数を率いていくのか。結構危険だなぁ。しかも諸侯軍が少ない。最大数の半数程度しか出てきていない。
もっとも正規の軍隊を多数所持しているのはカサンドラ公爵とベントゥーラ伯爵だけなのだが・・・・・・。
「ふっ、カーソンでも危険な事は分かるか? 正直近隣国が侵攻してくればどうなるか分からない。一応こちらの指揮権は私の部下がやることになるのだが・・・・・・あんまり優秀とは言えないのでな」
ちなみに政務補佐官のドロワには指揮権はないと言うことだ。
「しかし、相手が見えていないのでな・・・・・・。正直どう転ぶか分からない」
そう、いまだに何が起きているのか分かっていない。そこで王国は国力の半数、2軍集団を王都周辺へ集めると言うことだった。ちなみに被害は拡大しており、連絡などのつかない街、町、村は増えて言っている。行方不明になった軍団もまだ音信不通らしい。
「では、公爵自身が先陣に立たれるのですか?」
公爵は黙って頷く。中央軍集団は動かないので集まる2つの軍集団の指揮官は4公爵のだれかになる。公爵の話によると北の公爵が元帥として総指揮を取るだろうということだ。
ちなみに王国は次のような支配体制になっている。
国王 大元帥
北の公爵 筆頭元帥・外務大臣
西の公爵 元帥・内務大臣
南の公爵 元帥・財務大臣
東の公爵 総軍師 カサンドラ・ルイス
そう、東の公爵であるカサンドラ公爵だけ大臣職がない。
理由としては簡単で、戦略や軍略、他国の情報収集などを専門にさせるための煩わしいものを外してあるとのこと。ちなみにこれはカサンドラ公爵から聞いたことなので間違いはない・・・・・・はず。
「私は騎士でもあるが総軍の戦略を考えないといけないからね。前線に出ることは滅多にないかな? 5年ぶりくらいの前線だよ」
正直総軍師が前線に出るのは異例なことだが、何が起きているかを見極めるためだということだ。何が起きているかを知ることで軍の展開方法が変わってくるらしい。情報収集が出来ないので直接見るしか無いと言って出ることにしたそうだ。当然リスクも大きい。
「で、話を戻すととりあえずギリギリ間に合うと言うことで良いのだね? 私の切り札になるかもしれないから・・・・・・」
公爵の言葉を聞きながら少しだけ考え込む。正直、先程の付与魔術程度でどうにかなるものなのか疑問だ。それともある程度目星がついているのか・・・・・・。
「ドロワがどのように動くのか正直分からないが、この段階で仕掛けてくることは無いと思う。仕掛けられたときは・・・・・・どうかなぁ。正直何処までが何処に通じているか分からないから何とも言えない。それとここにも来る可能性があるから一応気をつけておいた方が良い。何なら護衛に2分隊ほど裂こうか?」
私は公爵の提案をやんわりと断った。正直中隊クラスが来ても油断さえしなければ問題なく勝てる。前回は完全に油断していただけだ。それが私の欠点なのだが・・・・・・。
「なんとかしますよ。それよりも公爵もお気を付けください。まだ実態は分かっていないのでしょう?」
公爵は「まあな」と言って立ち上がった。そろそろ帰るらしい。横にいるミュールに今度料理を教えてくれと言っている。ミュールは公爵の頭をなでなでして玄関まで見送っていく。私も行こうとしたが公爵に止められた。
「カーソンは早く作業に取りかかって欲しい。とりあえず、前回分の5000で足りるだろう?」
リビングから出かかっていた公爵は片手をあげてそのまま歩いて行った。私はトイレに籠もったバスティと地下へ行ったユーリカを呼び戻す。そして明日からの役割分担の指示を話し合った。
-----計算ミス-----
翌日、バスティは朝一で自分の馬に乗り砂鉄採集場へと馬を走らせる。採集場を仕切っている古代竜ゴーレムのフォルミードには手紙を書いてバスティに渡した。これでどれくらいの量の砂鉄が集まっているかが分かるはずだ。
その間にミュールとミルトに今後の指示を出す。ミュールは砂鉄が届き次第すぐに玉鋼製作の指揮を執ってもらう。ユーリカとミルトには食料と生活用品の買い出しを頼む。今夜からミルトにもここへ泊まり込んでもらうことになるからだ。
ドロワが動くとしても3~4日後だろう。カサンドラ公爵が簡単に引き返せないくらいは離すはずだ。私はミュール以外が出かけた後地下室へ行き、全ての魔石を持ち出した。魔石は私の魔力50日分を詰め込んである。これだけあれば師匠から会得した並列付与も問題なく出来るだろう。
そう考えながら魔石を並べていると突然庭先にとんでもない音がした。私は直ぐに防御結界を張る。当然物理と魔術の両方だ。工房からミュールも出てくる。私は外に出てそれを見た。
美しく銀色に輝く2m程の竜が・・・・・・地面にめり込んでいた。
「オォ、ヌシカ。ココノダイチハモロスギル・・・・・・」
目の前にめり込んでいたのは砂鉄採集場の指揮を執っていたフォルミードだ。古代竜の牙で作成した鋼のゴーレムで、何故か話すことが出来る。バスティからの手紙を受け取り直ぐに飛んできたらしい。フォルミードは気合いを入れて立ち上がる。しかしすぐに足首まで地面にめり込む。
「ハヤクノレ、ワレニノレバスグニサイシュウジョマデツク」
フォルミードは姿勢を低くし、翼を地面に付けている。私は蜜穴熊のバッグを掴むとミュールに物置部屋に大量の袋を用意し、待機するように言って飛び乗った。フォルミードはすぐに溜をつくり大空へ飛び立つ。鋼で出来た身体はさすがに硬いが、速度は凄まじかった。約20kmを一瞬で移動する。あまりの速度に結界を張っていてもその間に2度ほど落ちかけたが・・・・・・。
採集場にはバスティが待っていた。そこには全てのゴーレム達が集まっている。私は到着するとすぐに蜜穴熊のバッグから袋をどんどんと取り出す。ゴーレム達がその袋を次々と取り、中へ砂鉄を詰めて行く。10袋になるとすぐにバッグの中へ放り込む。一刻も立たず50kg入る袋200枚の砂鉄が送られていった。これで1000kgの玉鋼がとれる計算だ。これだけで要望通りのメイスが20本出来る。これが300本必要だからあと14回、140000kgの砂鉄を送る必要がある。
量的にはありそうだが送る場所、それにとても1回で処理できる量ではない。私はここに来て自分の計算違いを知った。不味すぎる。原料の精製の時間を1回で計算していた。家にあるたたら炉は1回で10000kgの砂鉄処理が限界だ。
私はありとあらゆる方法を考え1つの結論を出した。
「バスティ、大至急街へ戻ってミルトと共に買い付けを頼む。物は街中の木炭だ。それをいつもの馬車屋で出せるだけの馬車で送って欲しい。それとたたら炉の設計図を物置部屋へ送ってくれ。砂鉄を出し終えた袋の1つに印を付けて置いてくれたら良い。設計図が最優先だ」
私の言葉にフォルミードが背中を差し出すがバスティは馬に跨がり一気に駆けだした。フォルミードは不思議そうな顔をして私の方を振り向いた。
「ワレガセヲカソウトイウノニ、アノオンナハナゼノラヌ・・・・・・」
いかにも不服そうな顔。私は思わず吹き出しそうになった。竜型ゴーレムの不服そうな顔など中々見れるものではない。私は笑いをこらえながらバスティの走り去った後を見つめフォルミードに答えを教えた。
「バスティは、魔法が使えないんだよ。だからフォルミードの速度で飛ばれたら死んでしまう。精霊魔法も使えるが、ここでは風の精霊力が弱いし、空に上がって結界を張るには危険すぎるからね」
フォルミードは怪訝そうな顔をしながら「ふん」とだけ唸ってゴーレム達に作業を再開させた。私が袋を引っ張り出し、ボーンゴーレム達が砂鉄を詰め、ストーンゴーレム達が袋に放り込んで行く。300枚分程送ったところで袋の供給が切れた。どうやらあちら側が供給過多で動けなくなったようだ。
物置小屋に入れるのはミュールとユーリカ、ミルト。ミュールが1回に4~6袋運んだとしてユーリカが1、ミルトが良くて2。数回分の木炭はあるので最低3日後からメイスの作成にかかることが出来る。3体のゴーレムのうち2体が玉鋼の作成、1体(ヘカトンゴーレム)がメイスの作成をするように割り振るつもりだ。
一刻後、私はもう一度蜜穴熊のバッグの中に手を入れてみた。数十枚の袋が出てくる。その中に赤い布を巻き付けた袋が出てきた。設計図が入っている。私は5体のボーンゴーレムに砂鉄の詰め込みを任せ、全てのゴーレムを集め、20cm四方程度の石を集めるように指示を出す。フォルミードを除く全てのゴーレムが散るのを見送っているとフォルミードが話しかけてきた。
「モシカシテ、ココニタタラロヲサクセイスルツモリカ?」
フォルミードはこちらを視ずに話す。金属の擦れ合うような声が何とも言えない気分にさせる。不快なのか快感なのか分からない。
「そうだ。が、たたら炉なんてよく知っていたな?」
私の問いにフォルミードが笑い声を上げながら答える。
「フン、ソノテイドノコトハ、ロウリュウデモシッテイルダロウ」
こいつ、鼻で笑いやがった。
私がこの知識を手に入れるのにどれだけの金を払ったか知っているのか?
まったく・・・・・・。
でもそれだけ高質の物を作れるようになったから仕事も回ってくるようになったんだけどな。
「で、作成方法は知っているのか?」
「ミセテミロ」
私はたたら炉の設計図が描かれた場所をフォルミードに見せた。暫くするとくすくすと笑い声が聞こえ、最後にはフォルミードが腹を抱えて笑い出した。辺りの地面が転がるたびに陥没してゆく。
「なんだ? フォルミード可笑しいことでも書いてあったか?」
私の問いにフォルミードは頭を抱えながら起き上がった。
「ワタシガタタラロヲセッケイシヨウ。コノセッケイデトレルタマハガネノ、バイヲサクセイデキルモノヲツクッテヤル」
フォルミードはそう言ってすぐに本流と支流の間を吹き飛ばし、家に作成したたたら炉と同程度の空き地を作った。そしてすぐにボーンゴーレムに運んできた石を本流の河原へ運ぶように指示を出す。運ばれた石はフォルミードが掬った水を掛けられた瞬間、バターのようにすっぱりと切れていた。それは古代遺跡によくある石の切れ目とそっくりだった。
私はフォルミードにその仕組みを聞いてみた。フォルミードが言うには水を握り圧縮して投げただけだそうだ。要は水の剣といったところか・・・・・・。ミュールの手の斬れ味といい、フォルミードの水剣といい世の中には解き明かされていない事が多い。私の横でフォルミードは次々に運ばれた石の形を整えてくる。それは徐々に数を増してゆき、一面均等に整った石の塊が積み上げられた。
フォルミードはストーンゴーレムを呼び何事かを指示して積み上がった石を先程地均しした場所へ運ばせて行く。それは徐々に炉の形を整えていった。
私はその間に蜜穴熊のバッグから追加の袋を数十枚取り出した。その中にバスティからの手紙が入っている。
「木炭100000kg買い付けました。夕刻にミルトと私と業者で第一陣荷馬車100台分50000kgの木炭を運びます。主様は1度こちらへお戻りください。明日は公爵の出征日です」
それだけ書いてあったので私はフォルミードにルイスの家まで送るようにいう。フォルミードは渋々といった顔で来たときと同じ格好をした。私がフォルミードに乗ると直ぐに浮き上がり一瞬でミルトの街の我が家へと降り立った。やはり巨大な音を立て地面にめり込んでいる。
この竜は賢いのか阿呆なのかわからん。
とりあえず、私はありがとうと言ってフォルミードが帰るのを見送り、そのまま地下の道具部屋へと降りていった。そこには最後の空き部屋を完全に占領した袋の山が積まれていた。
そこにミュールが降りてきた。
「ゴシュジンオカエリ~。モウタタラロハ、カドウシテルヨ」
既に一回目は稼働したようだ。この調子で順調にいけば良いが・・・・・・。
私が考え事をしていると、後ろに立つ気配があった。驚いて振り返るとそこには深刻そうな顔のユーリカが立っていた。
「どうしたユーリカ? 何か不味いことでもあったか?」
私の問いにユーリカが少しためらったように顔を伏せていた。私は何があったかを聞き出すためにリビングへと上がる。そして金貨の入った袋の前に来たときユーリカが口を開いた。
「あの、バスティさまですが木炭を買うのに金貨2000枚、それに馬車台が金貨250枚、計2250枚を一刻で使ってしまいました・・・・・・」
ユーリカがどうしようどうしようと言った顔でこちらを見ていた。動きが速いと思ったらそういう手を使ったわけか・・・・・・。早い分には良いのだがこれは結構大きい。
早めに先日の青銅製プレートアーマーを作成した鍛冶屋連中にお金を配った方が良いかもしれない。私はユーリカを伴って街の各所に点在する協力してくれた鍛冶屋を回っていった。
家に帰ると在庫の確認をする。こちらに保管してある木炭が24000kg。送られてきた砂鉄が30000kg。木炭の量が一回分、12000kg程足りない。私とユーリカは日の落ち始めたルイスの街に繰り出していく。別に食事に行くわけではない。単に木炭を買いに行くだけだ。数件回ったところで困ったことになった。木炭が一切無いのだ。私は思わず店員に八つ当たりをした。
「どうしてルイスの街の木炭が全て消える? 知っていることがあったら教えてください」
私はニコニコしながら店員に詰め寄った。心なしか店員の顔が引きつっている。あとでユーリカに聞いたらこの上ない怪しい笑みを浮かべていたらしい。
話を総合するとどうやらバスティがルイスの街の木炭を全て買い占めてしまったようだ。それで金貨2千枚か・・・・・・。何となく納得してしまった。
というよりも、バスティが100000kg確保したところで木炭が売り切れていることに気づくのが普通だと思う。それほど焦っていたようだ。
私たちは街の外にある木炭を作っている場所を聞くと、明日以降に木炭を求めて山の木こり達を尋ねることにして家へと帰った。
全ての玉鋼を作成するのに木炭が約60000kg程足りない・・・・・・。
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