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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅱ 木炭を確保しましょう
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いやぁ、参りました。
まさかあんな初歩的なことを失念しているなんて。
ん~、木炭が結構足りないんですよね。
木炭を作っている木こり達のところに在庫があれば良いのですが。
とりあえずはある分だけで作成しますがね。
しかし、あのフォルミードはどうするつもりなのですかね?
大幅に鋼の生産量を上げると言っていましたが。
いったい何処までの知識を持っているのでしょう。
シャヴォンヌとはまた違う系統の知識を持っているのですかね。
今回の仕事を早めに終わらせて1度じっくりと話してみたいものです。
明日はカサンドラ公爵の出陣なので見物にでも行ってみましょう。
どのみち鋼がなければ話になりませんし、木炭も直ぐに必要なわけではありませんから。
でわ!
-----公爵出陣-----
昨日はドタバタして大変だった。
まず圧倒的に原料である玉鋼の製作が遅れている。
昨夜砂鉄採掘場までたたら炉の作成進捗状態を見に行ったらなかなかの物が出来上がっていた。真夜中に近かったが直ぐに火が入れられ、鋼の精製が始まった。フォルミードは精製が開始された第1たたら炉に2体のストーンゴーレムを張り付かせ、残りのゴーレム達で第2たたら炉を作成している。品質はさすがに見てみないと分からないので、完成を祈るだけだ。
問題だった木炭は昨日50000kg届けられた。最低でも5回分はある。私は[買い占めは良くない]と軽くバスティを叱った。市民の反感が向けば幾ら良い物を作成したところで商売を続けていくのは不可能なので、ルイスを出発していない木炭20000kgを売ってくれた商店に返却した。料金精算がややこしかったので料金はそのままで在庫が入り次第、こちらに優先的に送ってもらうことにして昨日の作業を終えた。
今日はカサンドラ公爵が午後一で出征のためのパレードをすると言うことだったので、城から軍の駐屯地まで見物客が多数詰めかけている。私たちは玉鋼が出来るまで特にすることがないので見物に来ていた。今回は民兵の導入がないので正規兵だけの行進だ。整然と並んだ屈強そうな兵士がカサンドラ公爵の合図で駐屯地まで歩き始めた。
実際パレードで動くのは1旅団のみだと聞いていた。残りはルイスの街の外にある駐屯所で待っている。私たちは街の出口辺りに陣取って公爵の到着を待っていた。ミュールとゴーレム達以外はこちらに来ていて見物している。プレートアーマーに身を包んだ騎馬隊。同じくアーマーを付け、2mほどの槍を持った重槍騎兵。弩や長槍、歩兵に組み立てられた攻城兵器が続く。これは駐屯所に入った瞬間に移動しやすいように解体されるそうだ。
「あ! ご主人様、カサンドラ公爵じゃないですか?」
ユーリカの声で一際豪華なコンポジットアーマーを身に纏い、兜だけを外した状態で馬に乗っていた。馬にも超重装甲が施されいる。
「凜々しいお顔ですね」
カサンドラ公爵は民衆の声に片手を上げて応えていた。後ろでは[ケッ]という言葉が聞こえ、ルールウがまぁまぁと言いながらバスティを押さえ込んでいる。私たちの前をカサンドラ公爵が通過したときその異変は起きた。目が合ったのだが表情1つ変えず、ただ手を上げただけだった。
「カーソンさん、公爵の様子が少しおかしいですね・・・・・・」
高位の司祭ほどの能力を持つミルトが首をかしげながら私に耳打ちをする。私とユーリカは何が違うのかと不思議そうな顔をした。しかしミルト以外は行軍の見送りは初めてだったので特に違和感を感じなかった。
「戦前で緊張なさっているのでは?」
これは私の言葉だ。少し大きめの言葉でわざと言ったので公爵にも近くの民衆にも聞こえているはずだ。案の定近くにいた住民達から冷たい視線が飛んできた。
(ん~、どうしたのかな? カサンドラ公爵。 昨日とは別人のようだ)
顔は能面のように表情がなく、動きもどことなくぎこちない。少し気になったので魔力で探りを入れてみるが淀みなく包み込んでいた。それは不自然なほど整っている。
「確かにおかしい? あまりにも不自然すぎる」
私が再度解析をしようと見たときには遙か前方、門のところまで進んでいた。すでに公爵の背中は小さくなっていた。結局旅団は2時間かけてルイスの街を出て行った。ここからは駐屯する兵が1個大隊に減るので4方にある全ての大門が閉じられ小門からの出入りとなる。さすがに大型馬車は通れないが2頭立てまでの馬車は通ることが出来る。
私とミルトは人が引き出したのを確認してから近くに止めてあった馬車へと移動した。そのまま木こり達に木炭を売ってもらう交渉をするつもりだ。バスティには先日の買い付け分の残30000kgを採集場まで運んでもらい、そのまま留まってもらう。ユーリカはそのまま家に帰り、ミュールと共に家の守りに入ってもらう。
これで本日の全員の役割分担が完全に決まった。
「じゃあ、今日も張り切って商売の準備をしようではないか!」
私の言葉に全員から生返事が帰ってきて、私たちはそれぞれ目的地へと散って行った。ちなみにルールウにはミュールと共に家の警護についてもらう。
しかし、まだ見世での商売が開始できないのは辛いところだ。
-----木こり-----
私とミルトは街から出て南西に数キロ進んだ小高い山へと走った。先日シャヴォンヌが休んでいたところよりも更に奥にある小高い森の中へと踏み込んだ。山の中腹から何本かの煙が上がっている。
「炭は焼いているようですね・・・・・・」
馬車の横に座っていたミルトが山の方を見つめながら呟いた。ここら辺は私の持つ土地とルイスの街の中間地点から西に少し行ったところで、少し高い山がある。そこには僅かだが木々が生い茂り、ルイス領の3分の1の木炭を生産している。基本的に山林は北部に集中しているが質の良い物は南部が多い。カーソンはなるべく質の良い物を使い玉鋼を作成しようとしていた。
山の麓に着くとミルトと共に山道を歩いて昇る。しかし、すぐにへばった。日頃の運動不足が身体に応える。
「あ~、運動なんて嫌いだ・・・・・・」
私は鬱蒼と茂る木々の中で文句をたれる。ミルトが笑いながら私の方を見ていた。
「カーソンさんは体力が無いですね。剣術の稽古でもしますか?」
冗談じゃあない。剣術や体術などやったら殺される。特にルールウなどは嬉々として教えてくれるだろう。自分が楽しみながら・・・・・・。
バスティは純粋に技量が違いすぎる。ミルトなら・・・・・・。
「あぁ、じゃあミルトにでも教えてもらうかな?」
私は冗談めかして言った。ま、想像通りの答えが返ってきたのだが。
「良いですよ、お金取りますけど」
う~ん、やはりミルトはお金だなぁ。しかし結構お金にこだわるけれど、どうしてそんなに拘るのだろう。聞いてみたいことは聞いてみたいが、わざわざ聞く必要も無いと私は思っている。話したかったら自分から話してくれるだろう。
私たちは少しだけ休憩をして木炭を焼く山小屋へと向かった。
暫く進むと山小屋が見えてくる。山小屋と行っても綺麗なものではない。掘っ立て小屋もいいところだ。その横には炭窯が有り、煙を出している。その前には顔を真っ黒にした男が立っていた。
「あの、ここで木炭を作っているのですか?」
私は思わずわかりきったことを尋ねてしまった。真っ黒な顔の中にある白い目が私たちを見つめる。
「・・・・・・木炭作っている以外に何をしているように見える? 陶器は作ってねえ」
気むずかしそうな木こりは少しだけこちらを視てすぐに炭窯へと目を移した。この辺りでは木こりが炭焼き職人を兼ねて仕事をしている。
「私はルイスの街から来ました。木炭を売って欲しいのですが在庫はありますか?」
私の問いに木こりは不思議そうな顔をした。
「木炭ならルイスの街に売ってあるだろう? それにルイスの街の商人達と契約しているから直接には売れねぇな」
私はどのように説明するかを迷い、そしてそのまま説明することにした。
「ルイスの街には木炭の在庫がありません。私が全て買い占めました。もっとも全て独占というわけにはいけませんので少しだけはお返し致しましたが・・・・・・」
私の言葉に木こりは目を丸くした。
「おめぇルイスの街の木炭を買い占めた? どれだけの量か分かっているのか?」
私はその問いに買った量の具体的な数字を口に出した。さすがにルイスの街に木炭を卸しているだけあり、数値の意味するところは分かったようだ。
「はぁ、本当に買い占めたのだな。で、何に使う? 普通はそんな量使わないだろう」
私は鋼が作れることは伏せておきたかったのでちょっとした実験のために買い占めたとだけ言った。木こりは訝しげな表情をしている。
「秘密はいけねぇなぁ。こちらもルイスの商人達との契約がある。何に使うかをはっきりとしてもらわねぇとそれ以上の話は出来ねぇ」
ま、もっともな話だ。鋼の作り方はたたら炉の作成方法や使い方を教えなければ問題は無い。上手く話して木炭を安定的に仕入れられるのならば話しても良いかもしれない。秘密の漏洩は心苦しいが商売のためだと言い聞かせ木こりに教えることにした。
「私は鋼を作っています。そして鋼を作るには木炭が必要なのです」
木こりは鋼?という顔をした。基本的に木を切る道具は鉄で出来ている。そして世間的にも鋼の商品などは出回っていない。そもそも鋼は遙か東方の国で使われている金属で刀の材料にしかなっていない。それを一般に広めようとしているのが私なのだ。まだルイスの街より外へは広めきれていない。
私は少量残っていた鋼で手斧を作成して持って来ていた。これは水から守るだけの魔術付与しかしていないものだ。それを使ってみてくれと言って木こりに渡す。木こりは初めて見る鋼の製品をまじまじと見つめ、近くにあった薪を斬ってみる。わなわなと震えているところを見ると使わせた効果はあったようだ。
「これ、すげえな。重さも良いが斬れ味が凄い・・・・・・」
木こりが先程と同じ事、これを作るのに木炭が本当にいるのかと聞いてくる。私はもう一度その通りだと応えた。木こりは腕組みをして考えている。初めて聞く木炭の使い方に信じられないといった顔だ。暫くして木こりはぽそりと呟いた。
「どれだけの量がいる・・・・・・」
私は少しは何とかなるかなと考えて100000kgと答えた。木こりの顔色が青く変わる。今の依頼だけならばここまでの量は要らないが今後のことも考えると少し余分に溜めておきたい。そこで考えたのがこの数値だ。正直かさばるので置いておきたくはないのだが、それは別に倉庫を借りれば良いだけの話だ。もっともそのお金があるかどうかをまだ確認していないのだが・・・・・・。
「・・・・・・さすがにその量は・・・・・・厳しいな」
木こりのが言うには物量的にも時間がかかるし、それよりもルイスの街や近隣の街にも品薄の状態が起こると言うことだ。一気に買い占めると市場に商品が供給できなくなる。私も計算違いさえしていなければカサンドラ公爵に木炭の手配をお願いできた。しかし今朝方、公爵は出陣してしまった。
「出荷量とかの調整は商工会と話し合ってみたいと思う。ここらの木こり達が木炭を全力で作ったらどれくらいの期間で出来る?」
木こりは暫く考え込んだ。量を計算しているようだ。最低60000kgは欲しいのだが・・・・・・。
「ここの炭窯は普通の炭焼き窯だ。だいたい7日で150kg程度だ。伏せ焼きなら2日で200kgというところだな。この山全体で10人がいるが釜が8人で伏せ焼き出来るのが2人だな。はっきり言うと求めている数字には届かない」
私は愕然とした。正直全然足りない。まさか木炭つくりにここまで手間がかかっているとは思ってもいなかった。
「あの、今から大量に伏せ焼き?の釜を増やしても出来ませんか?」
私の言葉に木こりは[やれやれ]というふうに頭を振る。
「それは難しいと思いますがね。なにしろ作ることは出来ても綺麗に炭になるかどうかわからねぇ。質の悪い木炭でも良いのですかい?」
私はそれは少し不味いといい、何か良い方法はないかと尋ねる。木こりは2~3日考えさせて欲しいと言って、とりあえず今日は帰って欲しいと言い手斧を返した。私はそれは考えてくれる費用として受け取って欲しいと言い、手斧を木こりに渡して街へと戻った。
(まずいなぁ、木炭がなければ鋼が出来ない・・・・・・。商工会と相談するか・・・・・・)
私はルイスの街へ戻るとそのまま商工会へと向かった。
-----商工会-----
私は久しぶりに商工会へ顔を出した。ギルド巡りをした最後の日に古物の申請をしたとき以来だ。
「おや、カーソンさん。ご無沙汰しています。今日はどのようなご用件で?」
受付は顔を覚えてくれていたようだ。古物の申請をする人間などそう多くはない。
「ちょっと商売のことで相談があってきたのだけれども、木炭のことが分かる人はいます?」
私の問いにちょっと待っていて欲しいと奥へと引っ込んだ。暫くすると一人の男が出てきた。
「この人はフェルナンデス。森林関係の事を全般にやっていただいています。木炭の件でしたらこの人の相談してください。」
フェルナンデスは名乗って頭を下げた。30歳位のまだ若い男性だ。彼は一冊の分厚い資料を持って来ていた。
「それでカーソンさん。木炭の件といわれましたが、もしかして昨日木炭が市内から消えた件に関係しているのでしょうか?」
私は情報が早いと思った。昨日の件がすでに商工会に伝わり、書類になっている。通常の役所では1週間はかかる作業だ。とりあえず昨日の木炭の件と鋼の話、そして5日以内に必要な量を伝える。さすがに量を聞いたとき彼は唖然としていた。少しだけ声がかすれている。
「は、ははは。鋼とはそんなに木炭が必要なのですか? そもそもそのような量の鋼、何にお使いになるのでしょうか?」
カサンドラ公爵の発注で何に必要かは言えない。この男がドロワと関わりが無いとは言えないからだ。多くの鋼が近いうちに必要だということを告げる。
「で、木炭のことに詳しいということでしたが南の山の木こり達には話をしてみました。木炭とはかなり手間のかかる物なのですねぇ」
私の問いにフェルナンデスが答える。
「そうですね、あれは場所を広くして一気にやるということが出来ないですからね。それこそ高火力の魔法を使うとかでしないと・・・・・・。でもどの魔術師もプライドが有りやりませんから難しいでしょうね」
私はその言葉に解決策を見いだした。私は魔術師だが商人。火の魔法は得意ではないが家には強力な火炎魔法が使える者がいる。しかし、その後のフェルナンデスの言葉に解決策は泡と消えた。
「それと年間で作成できる木炭の量は制限されています。手当たり次第に作ったら山の木が無くなってしまいますからね。あなたの土地の一部も元々は森だったのですよ。この街を作るときに伐採しすぎてああなってしまっただけで・・・・・・」
フェルナンデスは分厚い資料の中にあった南部の地図を出しながら指を差した。確かに私の土地、砂鉄採取場の辺りから西は元々森だったようだ。数百年前にルイスの街が出来たときから森林面積が減り、洪水などで徐々に木のない土地が拡がったように記してある。
私は黙ってしまった。60000kgの木炭を作るための木材をどこからか手に入れる必要があるという事だからだ。こちらで作成される木炭を最優先で廻してもらっても、5日で20000kgに届くかどうか。
「木材はルイス領だけで調達しているのですか? 他の土地から木材を買い付けることはやってはいないのですか?」
私の問いにフェルナンデスは少し待って欲しいと言い、裏へと戻っていった。暫くすると手元の資料と同じ厚さの資料を抱えて戻ってきた。フェルナンデスは資料を捲り、該当のページを探し出したようだ。
「あぁ、木材は買い付けていませんね。基本的にこの地は豊かですから。あれ? でもここ数年、となりのベントゥーラ伯爵領からかなりの量を仕入れていますね。木材の関係の全ての価格が下落した原因はこれですか・・・・・・」
フェルナンデスは自分の知らない資料を引っ張り出して初めて木材輸入量を知ったようだ。まったくこれだからお役所に近い団体は困る。自分の分野以外はまったく知らないのだから。連携すればもっと良い結果が生まれるだろうに・・・・・・。私はそっと溜息をついた。
「で、どれくらいの木材が仕入れられていて、消費との差分はどれくらいなのでしょうか?」
私に言われフェルナンデスは資料を捲ってゆく。途中で一人では無理と判断したのかもう一人年配の人間を連れてきた。二人で色々と調べてくれる。しばらく待ってようやく結論が出た。
「・・・・・・まさかこれほどの無駄が出ているとは。正直に言いますとこちらで年間伐採している量の半分がベントゥーラ伯爵領から流れ込んでいて、市場に木材が相当ダブついています。完全に使用量を超えていますね」
それを聞いて私は少しだけ心が軽くなった。ダブついた木材を買い上げこれを木炭にする。これで解決できる。問題はその入って来た木材の質だ。
「入って来た木材の品質が分かるのでしたらこちらで引き取りますが・・・・・・。価格は・・・・・・少しまけてくださいね」
私の言葉にフェルナンデスは明日1日調査する日を欲しいと言う。ここまで来たら1日~2日は問題ない。
「分かりました。明後日の朝一でもう一度参ります。しかし公爵様ですかね、このような変な事をされたのは・・・・・・」
実際はドロワの手引きだろうと思っている。フェルナンディス達はそこまで政治に関わってはいないだろうが商工会としては領内の価格の面に神経を尖らせるはずだ。
「そうですね。それはカーソンさんには関係ないですが調べてみた方が良いですね」
フェルナンデスと協力してくれたもう一人の職員に挨拶をすると私と見るとは商工会を後にした。明日以降の段取りを再度確認しなければいけない。
私とミルトは1度家に戻り、ミュールとユーリカ、ルールウをリビングへ集めた。ルールウは[何で私が]とブツブツ言っていたが顔は楽しそうだ。
4人で話し合った結果、ユーリカに砂鉄採集場へ移動してもらい、ミュールとルールウ、そしてミルトがこの家に詰める。私とバスティが木炭つくりに入ることになった。
-----夜襲-----
私は深夜に目が覚めた。家の周りに張り巡らせている結界を破ろうとする気配が発生したからだ。3重に張った結界に手間取っているようだ。
私は服を着ると1階へと降りてゆく。戦闘力のないユーリカが1階にいるからだ。ミュールもいるが多分・・・・・・寝てた。2階の客間からもルールウとミルトが降りてきた。ミルトは弓ではなく師匠からもらったショートソードを腰に差し、普段使いのショートソードを抜き身で持っている。ルールウは素手だ。
私が魔法で数を調べようとするとルールウがそれを止めた。
「32人だよ。軍ではないと思う。どちらかというと盗賊の気配に近いが腕が立つ」
私はユーリカを起こすかルールウに尋ねたが黙って首が振られた。どうやら起きられたら足手まといだそうだ。それだけ強力な相手が来ているということだ。
「ただの泥棒・・・・・・じゃあないよなぁ」
結界の1つが破られた。魔術師もいるようだ。
「だねぇ、ミルトさんはユーリカさんの部屋へ。暗殺者の可能性があるので守ってやってください。カーソンはここで入って来た者を撃退ね。私は裏を潰してから屋敷周りを潰してゆくよ」
ルールウはそれだけ言って裏口へと回ろうとした。私はそれを止める。結界が全て破壊されたからだ。
「結界が無くなった。 ルールウ、ゴーレム達も使うか? それとミュールは?」
ルールウは少しだけ考え込む。
「ゴーレム達はそのまま作業で良いと思うけど。どうせ炉は止められないでしょ。ミュールは・・・・・・こんな小さな戦闘向きではないのよねぇ。一応起こして事情だけ説明したら?」
ルールウはすぐに裏口へと向かった。こういうときに接近戦が出来る者が必要だと思う。私は仕方が無いので召喚術を唱え始めた。
外、正確には裏口の方で物音がし始めた。ルールウが戦闘を開始したようだ。私は召喚術をわざと大きな声で唱える。その言葉にミュールが起きた。
「ゴシュジン~、アサ~・・・・・・」
ミュールの目が鋭くなる。侵入者の気配を察知したようだ。庭先に数名の人影が現れる。ミュールの白狼達が物理障壁と魔法障壁の魔法を唱え始めた。侵入がばれたと分かったのか正面玄関が開く。
と同時に火球が数個放り込まれた。僅かに早く白狼達の障壁魔法が完成する。とんでもない光と爆音が辺りを支配し、部屋の中が炎に包まれる。白狼達はすぐに氷の魔法を唱え始めた。窓側の侵入者はミュールとにらみ合っている。どうやらどのように攻めて良いのか混乱しているようだ。
正面からは火球と雷撃の魔法が次々と襲いかかってくる。しかし魔法障壁で全ては止まっていた。私は少し長い詠唱を唱えていたので何も出来ない。暫くすると正面からの魔法攻撃が止んだ。膨大な魔力が玄関先から生まれてくる。
(う~ん、かなり大がかりな魔法を使う気だな? この魔法障壁で防げるかなぁ・・・・・・)
しかし召喚魔法を途中で中断すると面倒なことになりかねない。途中で辞めて戻ってくれれば良いがそのまま具現化したら自分の意思で動き出してしまう。それが良い方向へ動けば良いが悪い方向へ動かないとも限らない。
ちなみに現在呼び出そうとしているのは遙か遙か昔に東方の地を荒らし回ったという存在だ。美しい女性だが正体はよく分からない。カーソンの地力だけでは5分程度の召喚が限界だからだ。高音言語魔法は使えない。バスティやフォルテにどのような影響があるかも分からないし、シャヴォンヌから聞いた事も気になっている。
外の魔力が限界値に達したと思われたとき、同時にカーソンの召喚術も完成した。リビングに魔方陣が描き出され光り出す。美しい黒髪の着物を纏った女性が姿を現した。
「S級火炎魔法!」
私は反射的に叫んでいた。凄まじい熱量が私の前に立つ存在に衝突した。白狼の張った魔法障壁は簡単に突破されている。私は死を覚悟した。S級魔法だと正直この区画自体が吹き飛ぶ。しかし襲い来るはずの熱量は来ない。熱と共に発生した光も消えている。
私が顔を上げると、召喚した存在が玄関の方を見つめ立っていた。女性の腰の辺りから9つの尻尾が生えている。その女性は私の方を見ると無表情で声を出した。
「オ主ハイツゾヤノ・・・・・・。我ヲ召喚シタ目的ヲ述べよ。時間ハ無イゾ」
私は思念で仲間達の映像とゴーレム達の映像を送る。
「この者達以外の侵入者を全て滅せよ! 先程の魔法使いは出来れば殺さずに連れてきてくれ」
私の要望に尻尾の生えた女性は[承知]とだけ言って目の前から消えた・・・・・・。
まさかあんな初歩的なことを失念しているなんて。
ん~、木炭が結構足りないんですよね。
木炭を作っている木こり達のところに在庫があれば良いのですが。
とりあえずはある分だけで作成しますがね。
しかし、あのフォルミードはどうするつもりなのですかね?
大幅に鋼の生産量を上げると言っていましたが。
いったい何処までの知識を持っているのでしょう。
シャヴォンヌとはまた違う系統の知識を持っているのですかね。
今回の仕事を早めに終わらせて1度じっくりと話してみたいものです。
明日はカサンドラ公爵の出陣なので見物にでも行ってみましょう。
どのみち鋼がなければ話になりませんし、木炭も直ぐに必要なわけではありませんから。
でわ!
-----公爵出陣-----
昨日はドタバタして大変だった。
まず圧倒的に原料である玉鋼の製作が遅れている。
昨夜砂鉄採掘場までたたら炉の作成進捗状態を見に行ったらなかなかの物が出来上がっていた。真夜中に近かったが直ぐに火が入れられ、鋼の精製が始まった。フォルミードは精製が開始された第1たたら炉に2体のストーンゴーレムを張り付かせ、残りのゴーレム達で第2たたら炉を作成している。品質はさすがに見てみないと分からないので、完成を祈るだけだ。
問題だった木炭は昨日50000kg届けられた。最低でも5回分はある。私は[買い占めは良くない]と軽くバスティを叱った。市民の反感が向けば幾ら良い物を作成したところで商売を続けていくのは不可能なので、ルイスを出発していない木炭20000kgを売ってくれた商店に返却した。料金精算がややこしかったので料金はそのままで在庫が入り次第、こちらに優先的に送ってもらうことにして昨日の作業を終えた。
今日はカサンドラ公爵が午後一で出征のためのパレードをすると言うことだったので、城から軍の駐屯地まで見物客が多数詰めかけている。私たちは玉鋼が出来るまで特にすることがないので見物に来ていた。今回は民兵の導入がないので正規兵だけの行進だ。整然と並んだ屈強そうな兵士がカサンドラ公爵の合図で駐屯地まで歩き始めた。
実際パレードで動くのは1旅団のみだと聞いていた。残りはルイスの街の外にある駐屯所で待っている。私たちは街の出口辺りに陣取って公爵の到着を待っていた。ミュールとゴーレム達以外はこちらに来ていて見物している。プレートアーマーに身を包んだ騎馬隊。同じくアーマーを付け、2mほどの槍を持った重槍騎兵。弩や長槍、歩兵に組み立てられた攻城兵器が続く。これは駐屯所に入った瞬間に移動しやすいように解体されるそうだ。
「あ! ご主人様、カサンドラ公爵じゃないですか?」
ユーリカの声で一際豪華なコンポジットアーマーを身に纏い、兜だけを外した状態で馬に乗っていた。馬にも超重装甲が施されいる。
「凜々しいお顔ですね」
カサンドラ公爵は民衆の声に片手を上げて応えていた。後ろでは[ケッ]という言葉が聞こえ、ルールウがまぁまぁと言いながらバスティを押さえ込んでいる。私たちの前をカサンドラ公爵が通過したときその異変は起きた。目が合ったのだが表情1つ変えず、ただ手を上げただけだった。
「カーソンさん、公爵の様子が少しおかしいですね・・・・・・」
高位の司祭ほどの能力を持つミルトが首をかしげながら私に耳打ちをする。私とユーリカは何が違うのかと不思議そうな顔をした。しかしミルト以外は行軍の見送りは初めてだったので特に違和感を感じなかった。
「戦前で緊張なさっているのでは?」
これは私の言葉だ。少し大きめの言葉でわざと言ったので公爵にも近くの民衆にも聞こえているはずだ。案の定近くにいた住民達から冷たい視線が飛んできた。
(ん~、どうしたのかな? カサンドラ公爵。 昨日とは別人のようだ)
顔は能面のように表情がなく、動きもどことなくぎこちない。少し気になったので魔力で探りを入れてみるが淀みなく包み込んでいた。それは不自然なほど整っている。
「確かにおかしい? あまりにも不自然すぎる」
私が再度解析をしようと見たときには遙か前方、門のところまで進んでいた。すでに公爵の背中は小さくなっていた。結局旅団は2時間かけてルイスの街を出て行った。ここからは駐屯する兵が1個大隊に減るので4方にある全ての大門が閉じられ小門からの出入りとなる。さすがに大型馬車は通れないが2頭立てまでの馬車は通ることが出来る。
私とミルトは人が引き出したのを確認してから近くに止めてあった馬車へと移動した。そのまま木こり達に木炭を売ってもらう交渉をするつもりだ。バスティには先日の買い付け分の残30000kgを採集場まで運んでもらい、そのまま留まってもらう。ユーリカはそのまま家に帰り、ミュールと共に家の守りに入ってもらう。
これで本日の全員の役割分担が完全に決まった。
「じゃあ、今日も張り切って商売の準備をしようではないか!」
私の言葉に全員から生返事が帰ってきて、私たちはそれぞれ目的地へと散って行った。ちなみにルールウにはミュールと共に家の警護についてもらう。
しかし、まだ見世での商売が開始できないのは辛いところだ。
-----木こり-----
私とミルトは街から出て南西に数キロ進んだ小高い山へと走った。先日シャヴォンヌが休んでいたところよりも更に奥にある小高い森の中へと踏み込んだ。山の中腹から何本かの煙が上がっている。
「炭は焼いているようですね・・・・・・」
馬車の横に座っていたミルトが山の方を見つめながら呟いた。ここら辺は私の持つ土地とルイスの街の中間地点から西に少し行ったところで、少し高い山がある。そこには僅かだが木々が生い茂り、ルイス領の3分の1の木炭を生産している。基本的に山林は北部に集中しているが質の良い物は南部が多い。カーソンはなるべく質の良い物を使い玉鋼を作成しようとしていた。
山の麓に着くとミルトと共に山道を歩いて昇る。しかし、すぐにへばった。日頃の運動不足が身体に応える。
「あ~、運動なんて嫌いだ・・・・・・」
私は鬱蒼と茂る木々の中で文句をたれる。ミルトが笑いながら私の方を見ていた。
「カーソンさんは体力が無いですね。剣術の稽古でもしますか?」
冗談じゃあない。剣術や体術などやったら殺される。特にルールウなどは嬉々として教えてくれるだろう。自分が楽しみながら・・・・・・。
バスティは純粋に技量が違いすぎる。ミルトなら・・・・・・。
「あぁ、じゃあミルトにでも教えてもらうかな?」
私は冗談めかして言った。ま、想像通りの答えが返ってきたのだが。
「良いですよ、お金取りますけど」
う~ん、やはりミルトはお金だなぁ。しかし結構お金にこだわるけれど、どうしてそんなに拘るのだろう。聞いてみたいことは聞いてみたいが、わざわざ聞く必要も無いと私は思っている。話したかったら自分から話してくれるだろう。
私たちは少しだけ休憩をして木炭を焼く山小屋へと向かった。
暫く進むと山小屋が見えてくる。山小屋と行っても綺麗なものではない。掘っ立て小屋もいいところだ。その横には炭窯が有り、煙を出している。その前には顔を真っ黒にした男が立っていた。
「あの、ここで木炭を作っているのですか?」
私は思わずわかりきったことを尋ねてしまった。真っ黒な顔の中にある白い目が私たちを見つめる。
「・・・・・・木炭作っている以外に何をしているように見える? 陶器は作ってねえ」
気むずかしそうな木こりは少しだけこちらを視てすぐに炭窯へと目を移した。この辺りでは木こりが炭焼き職人を兼ねて仕事をしている。
「私はルイスの街から来ました。木炭を売って欲しいのですが在庫はありますか?」
私の問いに木こりは不思議そうな顔をした。
「木炭ならルイスの街に売ってあるだろう? それにルイスの街の商人達と契約しているから直接には売れねぇな」
私はどのように説明するかを迷い、そしてそのまま説明することにした。
「ルイスの街には木炭の在庫がありません。私が全て買い占めました。もっとも全て独占というわけにはいけませんので少しだけはお返し致しましたが・・・・・・」
私の言葉に木こりは目を丸くした。
「おめぇルイスの街の木炭を買い占めた? どれだけの量か分かっているのか?」
私はその問いに買った量の具体的な数字を口に出した。さすがにルイスの街に木炭を卸しているだけあり、数値の意味するところは分かったようだ。
「はぁ、本当に買い占めたのだな。で、何に使う? 普通はそんな量使わないだろう」
私は鋼が作れることは伏せておきたかったのでちょっとした実験のために買い占めたとだけ言った。木こりは訝しげな表情をしている。
「秘密はいけねぇなぁ。こちらもルイスの商人達との契約がある。何に使うかをはっきりとしてもらわねぇとそれ以上の話は出来ねぇ」
ま、もっともな話だ。鋼の作り方はたたら炉の作成方法や使い方を教えなければ問題は無い。上手く話して木炭を安定的に仕入れられるのならば話しても良いかもしれない。秘密の漏洩は心苦しいが商売のためだと言い聞かせ木こりに教えることにした。
「私は鋼を作っています。そして鋼を作るには木炭が必要なのです」
木こりは鋼?という顔をした。基本的に木を切る道具は鉄で出来ている。そして世間的にも鋼の商品などは出回っていない。そもそも鋼は遙か東方の国で使われている金属で刀の材料にしかなっていない。それを一般に広めようとしているのが私なのだ。まだルイスの街より外へは広めきれていない。
私は少量残っていた鋼で手斧を作成して持って来ていた。これは水から守るだけの魔術付与しかしていないものだ。それを使ってみてくれと言って木こりに渡す。木こりは初めて見る鋼の製品をまじまじと見つめ、近くにあった薪を斬ってみる。わなわなと震えているところを見ると使わせた効果はあったようだ。
「これ、すげえな。重さも良いが斬れ味が凄い・・・・・・」
木こりが先程と同じ事、これを作るのに木炭が本当にいるのかと聞いてくる。私はもう一度その通りだと応えた。木こりは腕組みをして考えている。初めて聞く木炭の使い方に信じられないといった顔だ。暫くして木こりはぽそりと呟いた。
「どれだけの量がいる・・・・・・」
私は少しは何とかなるかなと考えて100000kgと答えた。木こりの顔色が青く変わる。今の依頼だけならばここまでの量は要らないが今後のことも考えると少し余分に溜めておきたい。そこで考えたのがこの数値だ。正直かさばるので置いておきたくはないのだが、それは別に倉庫を借りれば良いだけの話だ。もっともそのお金があるかどうかをまだ確認していないのだが・・・・・・。
「・・・・・・さすがにその量は・・・・・・厳しいな」
木こりのが言うには物量的にも時間がかかるし、それよりもルイスの街や近隣の街にも品薄の状態が起こると言うことだ。一気に買い占めると市場に商品が供給できなくなる。私も計算違いさえしていなければカサンドラ公爵に木炭の手配をお願いできた。しかし今朝方、公爵は出陣してしまった。
「出荷量とかの調整は商工会と話し合ってみたいと思う。ここらの木こり達が木炭を全力で作ったらどれくらいの期間で出来る?」
木こりは暫く考え込んだ。量を計算しているようだ。最低60000kgは欲しいのだが・・・・・・。
「ここの炭窯は普通の炭焼き窯だ。だいたい7日で150kg程度だ。伏せ焼きなら2日で200kgというところだな。この山全体で10人がいるが釜が8人で伏せ焼き出来るのが2人だな。はっきり言うと求めている数字には届かない」
私は愕然とした。正直全然足りない。まさか木炭つくりにここまで手間がかかっているとは思ってもいなかった。
「あの、今から大量に伏せ焼き?の釜を増やしても出来ませんか?」
私の言葉に木こりは[やれやれ]というふうに頭を振る。
「それは難しいと思いますがね。なにしろ作ることは出来ても綺麗に炭になるかどうかわからねぇ。質の悪い木炭でも良いのですかい?」
私はそれは少し不味いといい、何か良い方法はないかと尋ねる。木こりは2~3日考えさせて欲しいと言って、とりあえず今日は帰って欲しいと言い手斧を返した。私はそれは考えてくれる費用として受け取って欲しいと言い、手斧を木こりに渡して街へと戻った。
(まずいなぁ、木炭がなければ鋼が出来ない・・・・・・。商工会と相談するか・・・・・・)
私はルイスの街へ戻るとそのまま商工会へと向かった。
-----商工会-----
私は久しぶりに商工会へ顔を出した。ギルド巡りをした最後の日に古物の申請をしたとき以来だ。
「おや、カーソンさん。ご無沙汰しています。今日はどのようなご用件で?」
受付は顔を覚えてくれていたようだ。古物の申請をする人間などそう多くはない。
「ちょっと商売のことで相談があってきたのだけれども、木炭のことが分かる人はいます?」
私の問いにちょっと待っていて欲しいと奥へと引っ込んだ。暫くすると一人の男が出てきた。
「この人はフェルナンデス。森林関係の事を全般にやっていただいています。木炭の件でしたらこの人の相談してください。」
フェルナンデスは名乗って頭を下げた。30歳位のまだ若い男性だ。彼は一冊の分厚い資料を持って来ていた。
「それでカーソンさん。木炭の件といわれましたが、もしかして昨日木炭が市内から消えた件に関係しているのでしょうか?」
私は情報が早いと思った。昨日の件がすでに商工会に伝わり、書類になっている。通常の役所では1週間はかかる作業だ。とりあえず昨日の木炭の件と鋼の話、そして5日以内に必要な量を伝える。さすがに量を聞いたとき彼は唖然としていた。少しだけ声がかすれている。
「は、ははは。鋼とはそんなに木炭が必要なのですか? そもそもそのような量の鋼、何にお使いになるのでしょうか?」
カサンドラ公爵の発注で何に必要かは言えない。この男がドロワと関わりが無いとは言えないからだ。多くの鋼が近いうちに必要だということを告げる。
「で、木炭のことに詳しいということでしたが南の山の木こり達には話をしてみました。木炭とはかなり手間のかかる物なのですねぇ」
私の問いにフェルナンデスが答える。
「そうですね、あれは場所を広くして一気にやるということが出来ないですからね。それこそ高火力の魔法を使うとかでしないと・・・・・・。でもどの魔術師もプライドが有りやりませんから難しいでしょうね」
私はその言葉に解決策を見いだした。私は魔術師だが商人。火の魔法は得意ではないが家には強力な火炎魔法が使える者がいる。しかし、その後のフェルナンデスの言葉に解決策は泡と消えた。
「それと年間で作成できる木炭の量は制限されています。手当たり次第に作ったら山の木が無くなってしまいますからね。あなたの土地の一部も元々は森だったのですよ。この街を作るときに伐採しすぎてああなってしまっただけで・・・・・・」
フェルナンデスは分厚い資料の中にあった南部の地図を出しながら指を差した。確かに私の土地、砂鉄採取場の辺りから西は元々森だったようだ。数百年前にルイスの街が出来たときから森林面積が減り、洪水などで徐々に木のない土地が拡がったように記してある。
私は黙ってしまった。60000kgの木炭を作るための木材をどこからか手に入れる必要があるという事だからだ。こちらで作成される木炭を最優先で廻してもらっても、5日で20000kgに届くかどうか。
「木材はルイス領だけで調達しているのですか? 他の土地から木材を買い付けることはやってはいないのですか?」
私の問いにフェルナンデスは少し待って欲しいと言い、裏へと戻っていった。暫くすると手元の資料と同じ厚さの資料を抱えて戻ってきた。フェルナンデスは資料を捲り、該当のページを探し出したようだ。
「あぁ、木材は買い付けていませんね。基本的にこの地は豊かですから。あれ? でもここ数年、となりのベントゥーラ伯爵領からかなりの量を仕入れていますね。木材の関係の全ての価格が下落した原因はこれですか・・・・・・」
フェルナンデスは自分の知らない資料を引っ張り出して初めて木材輸入量を知ったようだ。まったくこれだからお役所に近い団体は困る。自分の分野以外はまったく知らないのだから。連携すればもっと良い結果が生まれるだろうに・・・・・・。私はそっと溜息をついた。
「で、どれくらいの木材が仕入れられていて、消費との差分はどれくらいなのでしょうか?」
私に言われフェルナンデスは資料を捲ってゆく。途中で一人では無理と判断したのかもう一人年配の人間を連れてきた。二人で色々と調べてくれる。しばらく待ってようやく結論が出た。
「・・・・・・まさかこれほどの無駄が出ているとは。正直に言いますとこちらで年間伐採している量の半分がベントゥーラ伯爵領から流れ込んでいて、市場に木材が相当ダブついています。完全に使用量を超えていますね」
それを聞いて私は少しだけ心が軽くなった。ダブついた木材を買い上げこれを木炭にする。これで解決できる。問題はその入って来た木材の質だ。
「入って来た木材の品質が分かるのでしたらこちらで引き取りますが・・・・・・。価格は・・・・・・少しまけてくださいね」
私の言葉にフェルナンデスは明日1日調査する日を欲しいと言う。ここまで来たら1日~2日は問題ない。
「分かりました。明後日の朝一でもう一度参ります。しかし公爵様ですかね、このような変な事をされたのは・・・・・・」
実際はドロワの手引きだろうと思っている。フェルナンディス達はそこまで政治に関わってはいないだろうが商工会としては領内の価格の面に神経を尖らせるはずだ。
「そうですね。それはカーソンさんには関係ないですが調べてみた方が良いですね」
フェルナンデスと協力してくれたもう一人の職員に挨拶をすると私と見るとは商工会を後にした。明日以降の段取りを再度確認しなければいけない。
私とミルトは1度家に戻り、ミュールとユーリカ、ルールウをリビングへ集めた。ルールウは[何で私が]とブツブツ言っていたが顔は楽しそうだ。
4人で話し合った結果、ユーリカに砂鉄採集場へ移動してもらい、ミュールとルールウ、そしてミルトがこの家に詰める。私とバスティが木炭つくりに入ることになった。
-----夜襲-----
私は深夜に目が覚めた。家の周りに張り巡らせている結界を破ろうとする気配が発生したからだ。3重に張った結界に手間取っているようだ。
私は服を着ると1階へと降りてゆく。戦闘力のないユーリカが1階にいるからだ。ミュールもいるが多分・・・・・・寝てた。2階の客間からもルールウとミルトが降りてきた。ミルトは弓ではなく師匠からもらったショートソードを腰に差し、普段使いのショートソードを抜き身で持っている。ルールウは素手だ。
私が魔法で数を調べようとするとルールウがそれを止めた。
「32人だよ。軍ではないと思う。どちらかというと盗賊の気配に近いが腕が立つ」
私はユーリカを起こすかルールウに尋ねたが黙って首が振られた。どうやら起きられたら足手まといだそうだ。それだけ強力な相手が来ているということだ。
「ただの泥棒・・・・・・じゃあないよなぁ」
結界の1つが破られた。魔術師もいるようだ。
「だねぇ、ミルトさんはユーリカさんの部屋へ。暗殺者の可能性があるので守ってやってください。カーソンはここで入って来た者を撃退ね。私は裏を潰してから屋敷周りを潰してゆくよ」
ルールウはそれだけ言って裏口へと回ろうとした。私はそれを止める。結界が全て破壊されたからだ。
「結界が無くなった。 ルールウ、ゴーレム達も使うか? それとミュールは?」
ルールウは少しだけ考え込む。
「ゴーレム達はそのまま作業で良いと思うけど。どうせ炉は止められないでしょ。ミュールは・・・・・・こんな小さな戦闘向きではないのよねぇ。一応起こして事情だけ説明したら?」
ルールウはすぐに裏口へと向かった。こういうときに接近戦が出来る者が必要だと思う。私は仕方が無いので召喚術を唱え始めた。
外、正確には裏口の方で物音がし始めた。ルールウが戦闘を開始したようだ。私は召喚術をわざと大きな声で唱える。その言葉にミュールが起きた。
「ゴシュジン~、アサ~・・・・・・」
ミュールの目が鋭くなる。侵入者の気配を察知したようだ。庭先に数名の人影が現れる。ミュールの白狼達が物理障壁と魔法障壁の魔法を唱え始めた。侵入がばれたと分かったのか正面玄関が開く。
と同時に火球が数個放り込まれた。僅かに早く白狼達の障壁魔法が完成する。とんでもない光と爆音が辺りを支配し、部屋の中が炎に包まれる。白狼達はすぐに氷の魔法を唱え始めた。窓側の侵入者はミュールとにらみ合っている。どうやらどのように攻めて良いのか混乱しているようだ。
正面からは火球と雷撃の魔法が次々と襲いかかってくる。しかし魔法障壁で全ては止まっていた。私は少し長い詠唱を唱えていたので何も出来ない。暫くすると正面からの魔法攻撃が止んだ。膨大な魔力が玄関先から生まれてくる。
(う~ん、かなり大がかりな魔法を使う気だな? この魔法障壁で防げるかなぁ・・・・・・)
しかし召喚魔法を途中で中断すると面倒なことになりかねない。途中で辞めて戻ってくれれば良いがそのまま具現化したら自分の意思で動き出してしまう。それが良い方向へ動けば良いが悪い方向へ動かないとも限らない。
ちなみに現在呼び出そうとしているのは遙か遙か昔に東方の地を荒らし回ったという存在だ。美しい女性だが正体はよく分からない。カーソンの地力だけでは5分程度の召喚が限界だからだ。高音言語魔法は使えない。バスティやフォルテにどのような影響があるかも分からないし、シャヴォンヌから聞いた事も気になっている。
外の魔力が限界値に達したと思われたとき、同時にカーソンの召喚術も完成した。リビングに魔方陣が描き出され光り出す。美しい黒髪の着物を纏った女性が姿を現した。
「S級火炎魔法!」
私は反射的に叫んでいた。凄まじい熱量が私の前に立つ存在に衝突した。白狼の張った魔法障壁は簡単に突破されている。私は死を覚悟した。S級魔法だと正直この区画自体が吹き飛ぶ。しかし襲い来るはずの熱量は来ない。熱と共に発生した光も消えている。
私が顔を上げると、召喚した存在が玄関の方を見つめ立っていた。女性の腰の辺りから9つの尻尾が生えている。その女性は私の方を見ると無表情で声を出した。
「オ主ハイツゾヤノ・・・・・・。我ヲ召喚シタ目的ヲ述べよ。時間ハ無イゾ」
私は思念で仲間達の映像とゴーレム達の映像を送る。
「この者達以外の侵入者を全て滅せよ! 先程の魔法使いは出来れば殺さずに連れてきてくれ」
私の要望に尻尾の生えた女性は[承知]とだけ言って目の前から消えた・・・・・・。
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