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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅸ 中央平原攻防戦 Ⅲ
しおりを挟む「公爵!」
後方からの差し迫った声にカサンドラは思わず首を後ろへ回す。その目に映ったものは絶望的なものであった。霧の中からゆっくりと姿を現す巨人の群れ。慌てて反対側の城壁に目を移し絶望に顔を歪ませた。
「馬鹿・・・・・・な・・・・・・」
手の止まった公爵の周りに近衛が集まり壁を作る。
「閣下! 目的に集中を・・・・・・!」
亡者の群れに剣を振り下ろしながら近衛の一人が声をかけてくる。カサンドラは一瞬だけ躊躇ったが、すぐに陣形が乱れていることに気づき前を向く。
「すまん。配置へ戻れ・・・・・・」
ゆっくりと近衛兵達が速度を落とし隊列へと戻ってゆく。
(何ということだ・・・・・・。まさかモンスターの大攻勢とは・・・・・・。 それにしても城内のカタパルトやバリスタの攻撃が無いのは何故だ?)
カサンドラは先程とは打って変わったように現在起きている事態を冷静に分析を始めた。当然その間にも剣は振るい続けている。時折滑った物体が甲冑の隙間に入りそこを濡らす。
それでも不快さを見せずにずっと剣を振り続け、考え続ける。
(作戦が・・・・・・読まれていた?!)
「・・・しょう。たいしょう。大将!」
耳元へ聞こえてくる大音声のカサンドラは軽く首を動かし声の主を見る。カサンドラの側面に張り付いていたジェンセンだ。
「大将、そろそろ抜けます。どうなされます・・・・・・かっ」
突然ヘルムの空気穴から大量の血が噴き出した。よく見ると首元に一本の矢が刺さっている。
「ジェンセンっ!」
思わず大声をあげ、気がジェンセンへと向かったカサンドラに対しジェンセンは前を指さした。
「・・・・・・ご武運・・・・・・を」
ジェンセンを乗せた馬はそのままゆっくりと城壁側へ逸れてゆき、そのままカクラス副長がカサンドラのカバーへ入った。
「閣下! 今は隊長の事はお忘れを。閣下は急いで城塞へ戻り総軍の指揮をお取りください!」
重層騎兵の副官が近衛隊へ合図を送ると近衛隊はカサンドラを囲むように密集隊形を取る。
「なっ、何をする!」
カサンドラの言葉を無視するように近衛が周囲を固め徐々に城壁の方へと進路を変えてゆく。代わりにカサンドラのいた位置には重層騎兵の副官が入り込んだ。
「聞け! ルイス公爵領軍! ルイス公爵には城塞へと戻って貰う! これは私、重層騎兵副官であるカクラスの独断である! 我々はこのまま城壁に沿って逆進し城壁に取り付いたモンスターの後方を撃つ!」
疲弊した騎兵達は腕を振るいながらカクラスの言葉を聞いていた。
「三十を超えぬ者はこのまま作戦を継続せよ! それ以外の者で我に力を貸してくれる者は我に続け! ルイス公爵の元、王国軍が体勢を整えるまで力を貸してくれる者達は我に続け! 命令では無い! 残る者達よルイス公爵を、領民を、王国民を頼む! ルイス公爵、王国に栄光あれ! 全速反転!」
『『『『『うらぁぁぁぁぁぁぁぁー!』』』』』
突然、重層騎兵150程が騎馬隊の列に割って入り一気に内と外が入れ替わった。残りはそのまま矢面に立っている。
割って入った重層騎兵がカーブを描きながら列から離れ元来た道を引き返し始める。当然最小の径を取っても亡者の群れの中に突っ込むのは当然であった。
「重層騎兵本来の戦い方を見せてやれぃ!」
3列に並び一定間隔を空けた重層騎兵は亡者の群れに飛び込んでゆく。空に舞う亡者達。重層騎兵が腕を振るうたび、亡者の肉は弾け、拉げ、飛び散る。
高々150。それでも十二分な破壊力を持っていた。
当然すれ違うときに味方の重装騎兵と視線が合う。
「ちっ、救えねぇなぁ」
重装第一騎兵中隊の指揮官であるフォルナー男爵は手を休めること無く剣を振るう。
「おい、息子をここへ呼んでくれ」
フォルナー男爵の横を併走していた側近がスッと下がり、ほんの数瞬で別の騎兵がフォルナー男爵の横へ並んだ。
「言いたいことは分かるな?」
「・・・・・・はい」
「領民達を、母を、妹達を大切にな。若き者達を率いルイス公爵を支えよ」
フォルナー男爵は静かに言う。
「承りました、ご武運を」
父と子の短い会話であった。
「第2騎兵中隊! 30以上の者達! フォルナー男爵である! 付いてこれる者達、儂に続け! あのカクラスのええかっこしぃだけに手柄を寄越す義理は無い! 付いて来れる者だけで良い! 咎めることは無い! むしろ生き残ったら軍紀違反でルイス公爵に何をされるか分からん!」
後ろから横から笑いが漏れる。
「男爵位は仮で息子へと譲った! 残りの者は我が息子の指揮下へ入れ!」
一人の騎兵が剣を天高く掲げる。その様子を見たフォルナー男爵はヘルムの中で笑う。
「これより死地へと向かう。3列陣を組め! カクラスのええかっこしぃの右側後方に付く! ルイス公爵、さらば! 突撃ぃぃぃぃ!」
400程度の騎兵が重層騎兵の走った方へ逸れてゆく。そして第3中隊でも同じ事が起こる。
ルイス公爵率いる大隊のうちおよそ1中隊1000名ほどが亡者の群れの方へと引き返す。残った者達はルイス公爵がいた先頭集団へと陣形を整え追走し始めた。
「大将、うちらは行かなくて良いのですか?」
先頭を走る第1中隊の副官が隊長であるレッケン子爵へと話しかけた。
「人にはそれぞれ役目というものがある。 理解できるな?」
レッケン子爵の一言。副官は黙って頷くとすぐに隊列を戻す。二つに分かれたルイス領の大隊はそれぞれの役割を果たすために行動するのであった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「後方のドワーフ隊を前に出せ! 重騎士を軍本部前に集めよ!」
「軽歩兵を民間人の護衛に回し都市から離脱させよ!」
軍本部は混乱の渦の陥っていた。それでも二人の元帥が役割を持ち問題に対処する。モンスターの群れの城壁突破は青天の霹靂であった。
ルイス公爵の持つ瞬時に全体を把握する能力は二人には無い。それでも元帥として役割を決め対応に当たっている。
「後方の精鋭部隊は前に出しますか?」
軍本部守備を任されたリストン伯爵だ。
今回の切り札になる予定であった奇襲用の騎兵部隊。各貴族家から、各王国軍から選りすぐりを集めた精鋭部隊を動かす。
一瞬、筆頭元帥の作戦が再構築されかけた。しかしすぐに頭を振る。
「待機させておけ。ただし、すぐに動けるように伝えておけ」
それを聞いたリストン伯爵は不服そうな表情を浮かべながらも【承知しました】と短い返事をして天幕を出た。
「どうされますか? ギーメル筆頭元帥」
西の公爵であるマルキ・ロワ元帥が水を飲み話しかけた。
「どうも何も、なぁ・・・・・・、ルイス公爵が戻らぬ事には対処療法しかあるまいよ。 それよりも防衛の天才の城壁が抜かれるとはな」
疲れた表情を浮かべるギーメル。
「人間相手ならば・・・・・・ね、これでよかったのですよ。それ以上の相手だったということです。責めは受けます」
ロワは地図を眺めながら駒を動かす。
「問題はここが抜かれる可能性が出てきていることです。王都に使いを出した方が良いかと・・・・・・」
現在、中央平原に出てきている戦力が192000。王都守備隊が48000。これに南方軍96000と西方軍予備隊66000が控えている。
まだ半数の兵力が王国にはある。
「それは無茶だと分かっていて言っているのだろう? これ以上軍は裂けない。お前がそのような愚略に出るはずが無いからな」
守備のマルキ・ロワ。守勢に回ればルイス公爵の苛烈な攻めを退けると言われている。実際には戦ってはいないがルイス公爵が相手にしたくないと公言する人物である。
ちなみにギーメルの評価は【御しやすいミノタウロス】という評価だ。
「まあ、隣国の手前もありますからそれはしませんがね。特にこの戦を仕掛けてきたエルートなど、他にも結託しているような国がいくつかあるようですのでね」
ロワがここまで言っているのでかなりの精度を持つ情報だとギーメルは思っていた。
「ほっ、報告いたします!」
天幕の外から声がかかる。二人の元帥は会話を辞め、入るように促した。
「ルイス公爵様が・・・・・・、お戻りになりました・・・・・・」
2人の顔に一瞬安堵の表情が浮かぶが、伝令の様子に怪訝な顔をする。
「何か・・・・・・、何かあったのか!」
ギーメルの声に伝令は小さく肩をふるわせた。
「まぁ、そう怒鳴るな。萎縮するだろう?」
伝令が口を開こうとしたそのとき、天幕の外から兵に支えられたルイス公爵が入ってきた。無事な様子を見て安堵の表情を浮かべた二人だったが、その表情が一瞬で険しくなる。
「ルイス・・・・・・公爵。その右腕は・・・・・・?」
上腕部を布でぐるぐる巻きにしたルイスの右腕。そこから先は何も無かった。
「ん? ああ、まぁ、無くなった?」
首をかしげながらあっけらかんと言うルイス公爵に2人に元帥は複雑な表情を浮かべるのであった。
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「あー、混乱しているねぇ」
私の何気ない一言にバスティとユーリカが呆れた表情を作る。
私たちは城塞の後方から近づいていたが中は大混乱であった。部隊が上手く連携して動けていない。カサンドラ公爵が打って出たということから兵を配置する軍師がいないのだろう。
3元帥が出てきているとは聞いていたのでそれほど被害は出ていないと思っていたのだが、考えを改めた。風を切る音が近づいてくる。
「アルジヨ、アノオンナガモドッタ」
フォルミードが私の近くで浮きながら話しかけてきた。
「無事に戻れたのだな」
私の言葉にフォルミードは言葉を返す。
「ブジ・・・・・・? マァ、イキテハイルナ。ゲンキソウデハアルシナ」
何か引っかかる物の言い様だ。私はフォルミードを睨み付けた。
「ソウオコルナ。ミギウデガナクナッタダケダ」
その言葉にバスティ、ユーリカの顔が引きつる。ほけ~っとしていたミュールは表情が抜け落ちていた。私も多分とんでもない表情をしたのだろう。フォルミードが私との距離を置く。
「ユーリカ、ここに残って積み荷を守れ。それとサンダーゴーレムとヘカトンゴーレム、アイアンゴーレムも全て起こせ。全員にモルゲンステルンを装備させろ。その後、竜牙兵を出せるだけ召喚しろ。そこまでで待機だ。もし王国兵が来たら商品を届けに来たと伝えろ」
私の声にユーリカは黙って頷くと早速馬車の中に入る。
「バスティ、軍本部、カサンドラ公爵の元へ。フォルミード、一緒に行け。途中で阻むモンスターは全て駆逐して良い。 通さないと言う王国軍の兵士も駆逐してかまわん」
バスティとフォルミードは何も言わずにすぐに動き出した。
「ミュール、持ってきた魔晶石を全て持て。それから私の肩に手を置け。短距離転移を使う」
ミュールはすぐに馬車の中から1メートル四方はある箱を取り出すとそれを風呂敷に包み肩に担ぐ。
「巫山戯やがって、・・・・・・消し炭にしてやる」
私は肩に暖かいミュールの手が乗ると同時に城壁の上へと短距離転移を使用するのであった。
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