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こちら付与魔術師でございます 戦争と商売拡大編
こちら付与魔術師でございます Ⅸ 中央平原攻防戦 Ⅳ
しおりを挟む「ふん、巨人族か・・・・・・」
私の視線の先、大きな音が響く城壁の端には巨大な棍棒を叩き付ける巨人族の姿があった。全部で5体。
城壁の上の兵士達、重騎士が前に出て牽制し、離れた場所から弓隊が援護している。もっとも巨人族の分厚い皮膚に全くといっていい程効果は無い。
「ゴシュジン、カタヅケル?」
ミュールの足、白狼たちが殺気を放ち巨人族を睨み付ける。
「ミュール、お前は手を出すな。それよりも魔晶石を全て使ってかまわないから、全ての魔力を使って例の炎をあの騎士達に影響がないように撃て」
ミュールは私の言葉に黙って頷く。
モンスターの群れに囲まれている500程の騎士達。2重の円陣を組み猛攻を防いでいた。
「お、お前達! 何者だ!」
突然の誰何。私は巨人族を見つめたまま答える。
「私の名はカーソン・デロクロワ。 カサンドラ公爵に頼まれていた商品を持ってきた商人だ」
私の言葉に誰何してきた男は訝しげな表情を浮かべる。
「何故、こんなところに・・・・・・」
大声を上げるその男に向かい私は軽く腕を振るう。魔力の塊がその男を軽く吹き飛ばす。周りにいた者達の視線が一気に私に集中する。
「少し黙れ。 邪魔な巨人族を消す」
吹き飛ばされた男の側に立っていた多少豪華な甲冑を着た男が口を開きかけたが、何も言ってこない。そして動こうとした国軍の兵士の動きを止めた。
(理解のある奴は嫌いじゃ無いな)
私は高速言語魔法を唱え始める。生まれつき耳が良いのか数人が耳を押さえ崩れ落ちた。それまで城壁を破壊しようと棍棒を振るっていた巨人族の動きが止まり、一斉に私の方を向く。
もう遅い。
「消えろ」
私の小さな呟き。巨人達は一言も発せず、まるでその場にいなかったかのように消え去っていた。静寂がその場を支配する。城壁の下に取り付いていたモンスター達のわめき声も急に静かになった。
「ミュール、後どれくらいだ?」
ミュールに視線を向ける。3mの巨体を真っ直ぐに保ち、ゆっくりと指を前に向けるミュールの姿がそこにはあった。
「ゴシュジン、イッカイデキゼツスル。アトヨロシク」
城壁の左から右へとゆっくりと腕が動いてゆく。指先から朱い線が延び、腕の動きに合わせて地面を這う。
「な、なんだ?」
先程の豪華な鎧の男が呟いた。
突然目の前が白く光る。地が捲れ、朱いモノが盛り上がる。強烈な熱さがその場を支配する。当然城壁の上に立つ者達は動きを止めていた。
大地が弾ける。朱い壁が立ち上がり炎が噴き出した。城壁の倍は超えている。その炎の壁は荒れ狂いながら城壁とは真逆の方へと走り始めた。立ちこめていた謎の霧も纏めて飲み込んでゆく。空は朱く染まり、辺り一面に熱風が吹き荒れる。
炎の壁が消える。その先に霧の壁は無い。ただ、視界の範囲全てが炎に包まれていた。
どさ
何かが倒れる音。
私はミュールの方へ視線を向ける。そこには宣言通り気絶したミュールが額から汗を流し倒れ込んでいた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
遙か上空。1匹の巨大な竜とその背に乗って両腕で足を抱え込んで座っている女性は地を見下ろしていた。
「ん? まずいな」
突然女性が竜の背中で立ち上がる。竜は何事かとゆっくりと首を回す。
(なんだい? カーソンとスキュラが城壁に上がっただけではないか)
特に変化を感じ取れなかったシャヴォンヌはもう一度地上に目を落とした。今度は眼を使う。その眼には城壁の上に佇み巨人を見つめる男が映る。そしてその男の身体に徐々に集まってくる黒い霞。
シャヴォンヌは慌てて辺りを見回した。自分たちがいる遙か上、暗黒の世界から地上のその男、カーソン・デロクロワへと向かって降りてゆく黒い霞。
(あ、あいつ、またあの力を使う気か!)
シャヴォンヌの眼つきが変わる。
(止めるぞ!)
身体の角度を変え降下体勢に移る。
「シャヴォンヌっ、近づくな!」
背中からかかる女の声。次の瞬間、数体の巨人が消え去り、その後すぐに地を埋め尽くす程の炎が沸き起こった。
(な、なんだ、あれは・・・・・・。 竜族でもあれほどの炎を吐ける者は存在せぬ。 炎の精霊であろうとも! それに巨人族が消えた? まるで存在しなかったかのように・・・・・・)
急制動をかけたシャヴォンヌは身体を震わせ大地を見る。
(貴女は知っているのか? あの炎を・・・・・・、あの巨人族が消え去った事実を)
シャヴォンヌの問いに女性は静かに答えた。
「ええ、知っています。 あの炎は古い時代の技でナパームウェーヴというモノです。かつてこの星全てを焼き尽くした炎です。
そして巨人族の消えたあれは・・・・・・、カーソンが編み出した相手の時間を丸ごと無くしてしまう現象です」
放たれた炎は嘗めるように大地を覆い尽くし、消え果てること無く燃え続けている。遙か上空から見ても広大な土地が延焼を起こしていた。
「普通に消火出来る規模ではありませんね。 少し手を貸しましょうか・・・・・・。 それとカーソンの放ったモノに関しては・・・・・・少し彼と話す必要がありそうですね」
シャヴォンヌの背に乗る女性が軽く手を振る。二人の頭上、暗い闇の中に視認できる程の暗い闇の塊が現れた。次の瞬間それは消え、一瞬地上に黒い物質が生まれる。
(消えたようだな。 問題は・・・・・・、あの位置だな)
炎に覆われていた平原だった大地の1カ所。広大な剥き出しの大地に小さな霧の発生している場所があった。
(あれがアトンって奴か・・・・・・。さっき送った奴はここの空間だよなぁ。 それに耐えきれると言うことは・・・・・・)
「そうですねぇ。 カーソンで勝てるかどうか? それにこのまま放っておくとまた高速言語魔法使いそうね。 ん? おや、気づかれましたか」
シャヴォンヌの背中に乗る女が城壁の少し内側、大きな天幕の張られた場所の近くを見据えた。口元が緩む。
(へぇ、さすが【&’%%40)7/>、・”3+@{;】って所か。 降りるかね)
女性は口元に指を持ってきてこてりと首を傾げた。
「ん~、【&’%%40)7/>、・”3+@{;】にばれたということはすぐにカーソンにも伝わるということですね。・・・・・・、降りましょう。折角ですからゆっくりとね」
女性の言葉を聞いてすぐ、シャヴォンヌは降下体勢を取り、ゆっくりと下降を始めた。すぐにシャヴォンヌの身体はオレンジ色の炎に包まれる。
それでも1人と1匹は平然とした表情で地上に降りてゆくのであった。
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「どけぇぇぇっぇぇぇ」
横から振り下ろされた大剣を左腕の浮遊型ゴーントレットが防ぎ、次の瞬間ホブゴブリンが真っ二つにされる。バスティの使う双剣は次々とモンスターを屠ってゆく。そのすぐ側を鋼の竜フォルミードが飛ぶ。
ゴーントレットがバスティの周りを浮遊しながら攻撃を防ぐ。双剣の絶え間ない連撃とゴーントレットの高速防御。
「ワタシノデバンガナイデハナイカ・・・・・・」
ぼそりと呟き八つ当たりでオークに体当たりをかまし大穴を空けるフォルミード。
その猛攻に味方の王国軍、モンスターの群れの両方の動きが止まる。
「そこの王国兵士! ルイス公爵の所へ案内しろ! 私はバスティアンヌ。 商品を届けに来た者だ!」
惚けて腕が止まっている兵士を蹴り飛ばし、近づいてきたモンスターを斬り飛ばす。雲霞のように沸いてくるモンスターの群れを次々と屠る。
「早くしろ!」
バスティの怒鳴り声に重装備の騎士が近づいてきた。
「お主が商人だと言うのか? 証拠はあるか!」
バスティに背を合わせ重騎士は剣を振るう。
「やかましい! 案内しないと王国兵も斬り捨てて良いと主に言われている。 お前が答えないのならば別の兵士を探すまでだ!」
重騎士に殺気が向かう。本気の殺気に重騎士が慌てて下がった。重騎士は痛恨のミスを犯す。バスティに剣を向けてしまった。
目に見えない斬撃が重騎士を襲う。思わず眼を閉じた重騎士の耳に甲高い金属の音が響く。死を覚悟した重騎士がヘルムの中で眼を開くと目の前に片腕の人物が立っていた。
「バスティアンヌ殿、引いてくれ」
重騎士を庇うように立つ片腕の女。バスティの目の前にカサンドラ公爵が立っていた。
「カサンドラ公爵、ご無事で!」
カサンドラに声をかけるバスティ。
「申し訳ございません、商品の納品が遅れました。 主、カーソン・デロクロワの代わりお詫びいたします」
バスティは膝をつき口上を述べる。
「承知した。 場所を教えてくれ。 精鋭部隊に直接取りに行かせる」
カサンドラの言葉にフォルミードが動いた。
「ソコノキシ、アンナイセヨ」
金属の擦れ合う音に近い声が響く。カサンドラが重騎士に向かい頷くと2人に背を向けて走り出す。
「センコウスルナ、マモッテヤル」
飛行速度を上げたフォルミードが重騎士の側を飛び後方へと下がっていった。
「しかしさすがS級、重い一撃だ」
乾いた音を立てカサンドラの左手から剣が滑り落ちる。バスティの注意がカサンドラに向いた瞬間、数体の騎士が飛びかかってきた。
「ぬるい!」
一撃で襲いかかってきたゾンビ騎士を斬り裂くバスティ。すぐに数名の騎士が前に立つ。
「取りあえずカーソンはどこにいる?」
カサンドラの問いにバスティは城壁の方へ剣を向けた。剣の向く先には城壁に棍棒を叩き付ける巨人族。そしてその手前に立つローブの人物と3メートルを超えるスキュラ。
「カーソンっ、何を・・・・・・!」
カサンドラが叫んだ瞬間、巨人族が忽然と姿を消す。その様子を見ていたカサンドラも騎士達も唖然とした表情だ。
突然、城壁の向こう側に巨大な炎の壁が立つ。次の瞬間、声にならない悲鳴が上がった。城壁の内側に巨大な火柱が上がったのだ。熱風が吹き荒れる。
炎の中でのたうち回るワーム。それもすぐに動きを止め消し炭と化す。穴の周りにいた、また、沸き出していたモンスター達も一瞬で炭に変わった。
「な、なんだ、これは・・・・・・」
さすがのカサンドラも声が震えている。その様子と城壁の上でミュールに近づくカーソンを見たバスティは微笑みを浮かべた。
「カサンドラ公爵。 今なら押し返せるのでは?」
落ち着いた声で声をかけるバスティ。その声に我に返ったカサンドラの指揮は素早かった。
「重騎士、2列横陣を組めっ! 騎士は3列目に待機! モンスター共を追い返すぞ!」
慌てて陣を組む騎士達。その様子を見ながらバスティはゆっくりと全体を見回す。
突然、バスティの背中に悪寒が走る。
「全員伏せろ!」
強制的な聲。
指揮官の言葉しか聞かないように訓練された騎士達が全員その場に伏せた。当然カサンドラも伏せる。
ぱんっ
美しい音色が辺り一面に響く。冷たい空気が一帯を支配した。荒れ狂っていた炎と熱風が一瞬で消える。
バスティはゆっくりと立ち上がると空の一点を【じっ】と見つめる。
金色に輝くその眼には遙か遙か上空からゆっくりと降下してくる巨大な白い竜とその背に立つ一人の女性の姿がしっかりと捉えられていた。
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