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第5章 阿鼻叫喚~ 辺獄空間の死闘

八話 血痕の雨

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ーー二人は再び交差する。交錯するお互いの刀。


両者の肩に斬られた刻印とも云える血飛沫が、一拍子遅れて噴き上がった。


「互角……ですか」


ユキは肩の傷を気にする事無く、振り向き様に呟く。


「互角? いや違うな。お前の守るべき強さとやら、俺には理解出来んが認めるしかあるまい。だが、そろそろ拮抗は崩れる」


シグレは村雨を突き向けて、ニヤリと微笑を浮かべる。


「隠しても無駄だ。そろそろスタミナが切れるんじゃないか?」


そう。これはアザミも指摘した、ユキのフィジカル面での弱点の一つ。


そもそも強さが互角の場合、最終的には体力差が勝敗に影響するのは、力学的摂理。大人の身体と子供の身体とでは、蓄えられるエネルギーの絶対量が違うのだから。


「関係無いですね。その前に終わらせれば済む事」


確かにそれは図星ではあるが、その前に勝てば全てが帳消しとなる。


“――次で決める! 狙うは奴が刀を振り上げる瞬間”


「ククク、面白い!」


シグレが村雨を振り翳す為、上腕の筋肉が僅かに動いたのをユキは見逃さなかった。


“――今だ!!”


全速前進。距離を一瞬で零にする“縮地法”ーー


シグレが村雨を振り上げようとした頃には、ユキは既にシグレの間合いに侵入していた。


「貰った!」


明らかにユキの行動が一瞬速かった。刀を振り上げようとしているシグレと、刀を振り抜こうとしているユキとでは、どちらの刀が先に届くかは自明の理。


これが避けられる筈は無かった。


“――おかしい……”


斬撃が決まる刹那の瞬間の思考。ユキはある違和感を覚える。


シグレの表情がまるで、この時を待っていたと言わんばかりの微笑を浮かべていたのだから。


“――まさか……誘われた?”


気付いた頃には時、既に遅し。ユキの刀はシグレに届かず。


「いっーーいやあぁぁぁぁ!!」


「ユキぃぃぃぃ!!」


その一部始終を見ていたアミとミオが悲鳴を上げた。上空から雨とも表現出来る水滴が、ユキに降り注いでいたのだから。


その雨はユキの身体の至る所を木っ端微塵に粉砕し、千切れ破裂していく五体からは真っ赤な血で吹き荒れていく。


二人が悲鳴を上げるのも無理は無い。彼の粉砕されていくその過程を目の当たりにし、もはや原型すらも残っていないのだから。


「ブラッディ レイン(血痕の雨)」


それはシグレの特異能ーー“獄水”に依る超水圧の雨。その雨はあらゆる物を粉砕する。


シグレが“血痕のシグレ”と謂われる所以。その象徴とも云える力の一つ。


「勝負を焦り過ぎたな。だが、これで終いだ……」


原型を留めていないユキを見下ろし、シグレはそっと呟く。


その戦慄的な迄の決着に、まるで時が凍りつくかの様に、誰もが震撼していたのだった。
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