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転機。そして集まった道
命(8話)
しおりを挟むある日の夜勤のことだ。
夜中の0時。僕はいつも通り巡視をしていた。
ある入居者さんの部屋へ行くと80代の寝たきりのおばあちゃんが珍しく目を開けて起きていた。
「どうしたんですか?眠れないですか?」
僕はとりあえず、マニュアル通りな声掛けを行った。
そんな僕をみてニコッと笑うおばあちゃん。
「いや、お父さんがそこまで来ていたから迎えに行こうと思ってね」
そうおばあちゃんは小さい声で話していた。
お父さんと呼んでいるのは亡くなった旦那さんのことだろう。
目を輝かせていて、いつもよりも呼吸も荒くしていた。
3日前から無気力にしていて話もろくに返さない人だが
こうやって時々意識がハッキリして話をする時があった。
だから、ちょっとだけ違和感があったことに気付いたんだが気のせいだろう。
そう思って僕は…
「そうなんだねぇ、まだ夜中だし、ゆっくり休んでね。明日になったらまた会えるからさ」
どうでもいいように流してそのまま部屋を出た。
しかし、その選択が間違いだと気付いたのは数時間後だった。
夜中2時、あのおばあちゃんの部屋に改めて入る。
おばあちゃんは布団を顔までかけて寝ていた。
寝ているな、と大した確認もせず部屋を出ていく。
朝の4時。少し明るくなって顔がちゃんと見えるようになった。
いつもよりも青白く、唇の色も紫になっており変わり果てた姿になっているおばあちゃん。
僕は、その姿を見て驚いたというよりも、、
分かりやすく言えば、頭が真っ白になった。
すぐさま、他の夜勤者を呼んでバイタルチェックを行うが、
見て分かる通り、既に遅かった。
そこからは、景色が遠くに見えたような錯覚に陥った。
どうやって家に帰ったかも分からず、
気が付いた時には夜だった。
僕は、あのおばあちゃんの事を思い出す。
寝たきりになる前は食堂で一緒にワイワイと話もしたり食事も楽しそうに食べる、かわいいおばあちゃんだった。
寝たきりになっても、笑顔を絶やさず、
巡視で来た自分や職員にも笑って話をしてくれた。
そんなことを思い出しているうちに、涙がこぼれる。
「僕は…あの人の最期にふさわしい対応が出来ていたのかな?」
この仕事をしてから4年だけど、人の死を間近で見たのは初めてだった。
僕は不甲斐ない自分を恨んだ。
もしあの時こうしていればとかっていう、たらればばっかりが浮かんでくる。
でも、そんな事を考えたって遅いんだ。
もう、時間は戻らない。
人の死について、実感した1日だった。
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