Feit

ソラ

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転機。そして集まった道

燃えかす(9話)

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あのおばあちゃんがなくなってから、仕事が無気力になった。
人に深く関わることが怖いと思った。
それだけ、失った時に悲しみも増えるということだから。

そんな僕を見て周りは、やっぱり笑っているのだろう。

「4年も働いててなにしてんの」
「どうして気付いたときに言わなかったの」
「やっぱり神野は」
「そんなんだから…」

そんな事を考えるとさらに仕事に対して無気力になってしまう。
いっそ、辞めてしまおうか…。


休憩時間に入り、とぼとぼと歩いていると
敬之が前から歩いてくるのが見えた。

「よっ、龍哉。元気してるぅー?」

相変わらずの調子で絡んでくる敬之。
その調子が今は、少しだけ鬱陶しく感じた。


そのことが伝わったのか敬之は急に真面目な顔になって肩を組んでくる。

「まぁ、とりあえず、少し付き合えよ」

そう言って敬之はあるところに僕を連れて行く。

そこは、会社の喫煙室だった。
普段はなるべく通らないようにと避けていたので誰がいつもいるとかそういうことは分からなかった。

喫煙室の隅に見覚えのある女性がいた。

「おっつかれさまでーす!川田さん!」

そう、敬之が声をかけたのは明莉さんだった。

「おせぇーよ徳島ぁー、いらっしゃーい神野ぉー」

「まだ言われてからちょっとしか経ってないですよ!パシリにしちゃ上出来でしょ!」

そうハイテンションなやり取りをする敬之と明莉さん。

この状況についていけず、ポカンと見ているだけの僕。

「えーっと、何で僕は連れてこられたんですかね?」

僕が疑問を口にすると明莉さんは
少しだけムッとした様子で声をかけてくる。

「理由がなきゃだめか?なら答えてやるよ
神野、最近亡くなったあのばーちゃんのこと考えて落ち込んでんでしょ?」

正解だ。
僕は、またあの時のことを、後悔の記憶を呼び起こし顔を俯けてしまう。

そんな僕を見て軽蔑の様な眼差しを送る明莉さん。
タバコの煙をふーっと吐き出し、改めて口を開く。

「あのさ、後悔するのも辞めようと思うのもあんたの勝手だけど、今いる人の事も考えて仕事してくれない?最近暗い顔ばっかして仕事してるじゃん。そんな人に介護されたいと思う?」

…明莉さんの言う通りだ。
ここ最近の僕は表情も暗く、笑顔なんてほとんどなかった。
そんな僕を見て上司たちは憐れむような、直接は言ってこなかったが煙たがっていただろう。

だから、今みたいに面と向かって、
怒られることは罪を問われている裁判の様な、
錯覚を覚え萎縮していた。

この後も、このままなら辞めてしまえと吐き捨てられると思っていた。
しかし、明莉さんの次の言葉は僕の予想を裏切った。

「辞めるなよ。このまま逃げていいの?」

その言葉にハッとして僕は顔を上げた。
僕の顔を見つめて明莉さんはこう続ける。

「あんたが今回のことで心を痛めてるのは分かってる。でもさ、亡くなる前は神野が一生懸命に向き合ってたことも皆知ってる。だから皆何もいわないんだよ?」

その言葉を聞いて、胸が痛む。
思い出すのはおばあさんとの記憶。

寝たきりになる前は僕とも色んな話をした。
恋愛相談をしてみて笑ったり、破天荒な人生を生きてきたおばあさんの昔話に笑いあったこともあった。

「でもね、あんたがこの程度で挫けるようなら悪いんだけど、介護は向いてないよ」

その言葉は、色んなことを経験してきた明莉さんだからなのか重みがあった。
そして、今の僕には勿体無いくらいの激励の言葉なんだと分かってくすぐったい気持ちになる。

僕は、しっかりと敬之と明莉さんを見つめて話す。

「ありがとうございます。おかげで、色々と吹っ切れました。このまま逃げたら好き勝手言われたままなので僕は辞めません」

そんな僕の決意に安心したのか呆れたのか二人はため息をついてやれやれといった態度を見せた。

「それでこそ、龍也だな」
「そんなクソ熱い言葉ドラマとかでしか聞いたことないわ。いいから戻れわ」

誰が呼んだんだよ。と心の中でツッコんで喫煙室を出る。多分、僕は笑えていたんだろう。


そんな僕を見て明莉さんは微笑みながらポツリと呟く。



「ま、辞めるとは思わなかったけどな」




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