僕の不適切な存在証明

Ikiron

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6話

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 「君は……カイメラ……?」

正体がばれてしまった。このアヨウは確実に殺さなければならない。ユハは決意を新たにした。変身を解いた今、本来の姿であるカイメラの少年になっている。こうなればアヨウがまた妙な技を使ってきても関係ない。変身に回していた分の魔力を全て攻撃に使える。枷が外れた今相手が何をやってこようと力でねじ伏せることができる。今度こそ確実に殺す。ユハが殺意を新たに近づいた時。部屋の扉が強い力でノックされた。

 「おい!うるさいぞ!静かにしろ!」

部屋の外から扉越しに声が響いた。一連の騒ぎの音を聞いて隣人が抗議にきたのだ。ユハは焦った。このままでは外に助けを呼ばれてしまう。

 「済まない!モノを落としてしまって、悪かった!静かにするよ」

アヨウの意外な反応にユハはきょとんとして攻撃をやめた。ユハにはアヨウの真意が理解できなかった。何故助けを呼ばないのか?これではまるで自分をかばっているようだ。

 「君のノートはここにはない。明日にならないと帰ってこない」

アヨウの突然に核心を突いた言葉に、ユハはますます面食らった。

 「君、自分のノートを探していたんだろう?あの植物図鑑の」

アヨウは自分のノートを手に取り続けた。

「俺の、このノートと取り違えてしまったから。それで俺を探した。でも君はカイメラだから……その……今朝の件もあるし……差別されるかもって思って。だからこんな風にこっそりと、忍び込むみたいにしてノートを届けに来た、そうだろう?君、確か今朝カフェテリアであったよね?」

アヨウは言葉を選ぶように述べた。どうやらずいぶん良いように解釈しているようだ。

 「俺はアヨウ。アヨウ・オオハラ。君は?」

 「あ……えと……ユハ……」
突然の自己紹介にシドロモドロになってしまう。思えば外部の人間と友好的な会話をしたのは初めてかもしれない。なんだか緊張してしまう。

 「ユハ、俺は君たちカイメラの事情は知っているし、そのことで酷いことを言う人もいるってことも知っている。だけどすべての人が君たちに冷たいわけじゃないんだ」

アヨウはどうもユハが迫害を避けるため、こんなことをしたと考えているようだ。自分は殺されかけたのに、なんてお人よしなのだろう。

「きちんと話してくれれば、こんな危ないことしなくても……これって犯罪だよ?まさかよそでもやってないよね?」

 「ううん……」

ユハはアヨウの問いかけを否定した。一応は嘘ではない。ユハは”夜回り”をしていない。”昼回り”ではそういうことはしない。

 「それで、君のノートのことだけど、今分けあって人に預けててここにはないんだ。明日になれば返してもらえるけど。ユハ、明日も大学に来れる?」

 「うん……」

ノートが人質に取られる形になってしまった。これではアヨウを殺すことができない。

 「じゃあその時に君に返すよ。もうこんな時間だ、今日は帰った方がいい。」

 「公衆電話……」

 「え?」

 「……家族に連絡したい、公衆電話はどこ?」

 「?公衆電話なら一階の共用スペースにあるけど。電話なら俺のを貸すよ?」

アヨウが自分の端末を差し出す。しかしユハは受け取らなかった。リレキが残るとかどうとかで、外で電話を借りるのは禁止されていた。

 「公衆電話がいい……」

アヨウは釈然としないようだがユハは自分の要望を固持した。

 「迎えに来てくれるって、じゃあこれで……」

家族へ連絡を終えるとユハはアヨウへ向き直った。人の目を避けるためユハは元のヒメーリアンの少女の姿に戻っている。

 「ところで、腕、大丈夫?さっき思わず捻っちゃったけど、痛んだりしない?」

アヨウが心配そうに尋ねた。彼の中では寧ろ自分の方が加害者という認識らしい。

 「え…いや…大丈夫。痛くない」

こんな風に優しくされるのは慣れなかった。なんだか恥ずかしくすらある。

 「よかった…」

アヨウは心底安心したようだった。

 「それじゃあ、また明日だね」

 「…うん」

ユハは奇妙な居心地の悪さを感じて、挨拶も控えめに立ち去る。するとその背後から。

 「ユハ!ノート有難う!」

その猜疑心も敵愾心もこもらぬ言葉にユハは向き合うことができなかった。



大学から少し離れた場所にある私道でユハが一人立っていると、一台の乗用車が、ユハの近くに停車した。車はかなり老朽化しており、いたるところの塗装が剥げさび付いていて、バンパーも頼りなくひしゃげていた。車の心臓部であるエンジンでさえ悲鳴のような音を立てていた。

 「ユハ」

車の運転席から声がかけられた。声の持ち主は中年のヒメーリアン男性だ。短く刈り上げたブロンドの髪は後退を初めており、緩んだ下腹も相まって男にくたびれた印象を与えるが、常にニヤニヤとした笑みを浮かべており全体として胡散臭い印象だった。男はユハを後部座席へ乗せると山の方へ向かって車を走らせた。

 「今日はずいぶん遅かったじゃないか」

男が親し気に話しかけたが、ユハは無視した。ユハはこいつが嫌いだった。

 「また例の草集めに熱中してたのか?」

 「面白い花でも見つけた?」

 「それとも、ひょっとして可愛い女の子でも見つけて追っかけてたか?」

 「うるさいぞ‼フレム!」

余りにもデリカシーのかけた質問にユハは思わず声を荒げた。

 「ハッ…アハハハ…おっかない、おっかない、悪かったって。そう、怒るなよお」

フレムと呼ばれた男は反省を装いつつもにやけた態度は変わらなかった。

 「そんなことより、アジュダハがかんかんだったぞ、どう言い訳するつもりだ?」

ユハは再び無視を決め込む。

 「やれやれ、俺とは話す気すらないってか、まったく父親に対してなんて態度だ」

(お前は父親じゃない、母の夫なだけだ)

そんな、反論が喉から出かかったが抑え込んだ。反応したって喜ばせるだけだ。

そうこうしているうちに車は山間の森の中に入ってゆく。悪路の為古びれた車体が軋むが無視してそのまま進んでゆく。やがて車は森の中にある古びれた家屋にたどり着いた。

 「さあ、付いたぞ、麗しの我が家だ」
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