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11話
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「はい、もしもし?アヨウ?」
「おはようミオ、こっちは朝だけどそっちはどう?」
「こっちは夜中、ふあぁ~、どうしたの?こんな急に」
「ごめんごめん、どうしても電話で伝えたいことがあって。実は今度の休暇帰れそうなんだ」
「ほんと!いつ!?」
「一週間とちょっと後。詳しい日時は追ってメールするよ」
「わかった!その日迎えに行くわ!」
「おいおい、着くのは平日のだよ?」
「そんなの有給取るに決まってるじゃない!」
「無理しなくても……いや、有難う助かるよ。そっちは夜遅いみたいだからもう切るね。お休み」
「うん、お休み。会うの楽しみにしてる」
ミオとの会話を終えたアヨウの頬には笑みが浮かんでいた。自分の帰りを心待ちにしてくれる人がいる。アヨウはその幸福をかみしめていた。
胸に残る甘い感覚をよそに、アヨウは荷をまとめて寮の部屋を後にする。今日は普通に講義があるし、ユハにも言わなければならないことがある。
いつものように講義の合間の昼休憩の時間にユハと待ち合わせたアヨウだが、ユハの様子が何かおかしい。なんだかそわそわしている様子で、例のノートのまとめる作業もおぼつかないようだ。何かあったのだろうか?
アヨウを目の前にしても暫く黙っていたユハだったが、やがて意を決したように話しかけた。
「ねえ、アヨウ」
「何だい?」
「アヨウは、人と違うことってどう思う?皆と同じじゃないといけないと思う」
その問いかけはアヨウからすれば、まさに懸案事項に関わる重大な問いであった。アヨウは慎重に言葉を選んで答える。
「人と違うのは悪いことじゃないよ、ユハ。そのことで困ったり、いやな思いをしたりすることもあるかもしれないけど、君が君であることは悪いことじゃないんだ」
月並みな言葉だが、アヨウは今ユハが求めているであろう返答をした。とはいえ、嘘は言っていない。まごうことなくアヨウの本心だ。その言葉にユハは破顔して見せた。良かった。と、アヨウは思った。先ほどから様子がおかしかったがユハだが、何とか元気づけることができたようだ。
今がちょうどいいタイミングかもしれない、アヨウはそう思った。さっきの質問は、自分を信用してきてくれている証左ではないか?ならばここで例の約束を取り付けてしまおう。アヨウは意を決してユハに声をかけた。
「なあ、ユハ。もしよかったらだけど、今度の休み、君の家に遊びに行ってもいいかな?」
その提案にユハは驚いたように目を見開いた。その、予想外の反応に不安を感じたアヨウは言い訳でもするように言葉を続ける。
「ほら、俺たち結構仲が良くなったと思うけど、お互いの個人的なことってまだ全然知らないだろ?だから、この機会にユハのこともっと知りたいなって。ユハの家族にも会ってみたいし」
「ほんとに……ほんとにいいの?」
まるで信じられない、とでも言いたげなユハの反応はアヨウにさらなる不安感を与えた。しかしながら、明確な拒絶の意は無いとみなし話を進める。
「う、うん。ユハが良ければ」
「うん、うん、もちろんだよ!」
ユハは断るなんてありえない、とでも言わんばかりに力強く首肯した。それを幸いと見たアヨウは具体的な日時の提案をする。
「それは良かった、予定は休みが始まる一週間後でいいかな?」
「わかった!一週間後だね!」
直ぐ後に、一時帰国を控えているが、長居をするわけでは無い。少々予定がタイトになってしまうが問題はないだろう。
約束の日、アヨウはボロボロの乗用車の前にいた。錆びだらけの車体に、失われたリアバンパー、エンジンは悲鳴のような音を上げていた。これがユハの家族の車?とアヨウは絶句したが、ユハは黙って車を見つめている。訝しんでいる様子はないことから、この車で間違いないようだ。
すると車内から背の高い黒髪のタルタリアン女性が現れた。ユハとはあべこべに衣服も黒いのでまるで葬式から抜け出してきたようだ。
「初めまして、わたくしユハの母のズミーといいます。こっちは夫のフレム」
アヨウはユハの母のズミーと名乗った女性に促されるままに社内を覗くと、運転席には中年のヒメーリアン男性が居た。男は人を馬鹿にしたようなニヤニヤした笑みを浮かべており、率直に言ってあまりいい印象はなかった。
「どうも」
男は短く返事をした。どうやらこの二人がユハの両親らしい。
「初めまして。アヨウ・オオハラといいます。ユハから聞いてるかもしれませんが、ナラカからの留学生です」
アヨウは手短に自己紹介をした。ユハの境遇とさっきの第一印象が相まって二人のことをどうしても警戒してしまい少し突き放したような言い方になってしまう。
「ええ、存じております、なんでも大学で医学を学ばれているとか」
ズミーはそんなアヨウの様子には気が付いていないのか丁寧に受け答えした。
「まあ、そうですね……研究ですが」
ズミーの認識は大きく間違っていないのでとりあえず首肯する。臨床医を目指しているわけでは無いが、と付け加えたが。
「立ち話もなんだ、続きは道すがら話しましょう。ささ、乗ってください」
社内のフレムに促され三人は車に乗り込む。そして4人をのせた車は山の方へ向かって走り出した。
車内では暫く沈黙が続いた、不思議なことに誰も話そうとしない。ユハなんて初めから一言も口を開こうとしない。やはりこの家族何か問題があるのだろうか?アヨウはそう訝しんだ。
「不躾で、申し訳ないのですが、ズミーさん?ユハの教育のことについてお聞かせ願いますか?」
沈黙を破り、アヨウは意を決して彼らに一番聞きたいことを聞いた。
「教育のこととは?」
ズミーが興味なさげに質問を返した。
「ユハが学校に通っていないのは知っています。この国では彼の年頃の子供は義務教育を受けなければならないはず。何故彼を学校へ行かせないのですか?」
アヨウは言葉を重ねるがズミーの不躾な態度に険悪な論調で答えてしまう。自分の話題が上がってもユハは沈黙したままだ。
「ユハには自宅学習をさせています」
「自宅学習ではどのようなことを?」
「生きるのに必要なことを教えています」
”生きるのに必要なこと”とは?とアヨウが聞き返そうとしたとき、車がいつの間にか山道を走っていることに気が付いた。おかしい、ユハはいつも徒歩で大学にくる、山を抜けた先にある街に自宅があるのなら往復に一日くらいかかるような場所に暮らしていることになる。道を間違えたか?そうでなければ……
「あ、あの!さっきから山道を走っているようですが、ご自宅は遠いのでしょうか?」
アヨウは不安になり尋ねる。
「ご心配なさらず!もうすぐ着きますよ!」
アヨウの不安を全く無視するように妙に陽気な調子でフレムが答えた。もうすぐ?彼らは森の中で暮らしているとでも言うのか?
「もうすぐって……」
「ほら、もう着きましたよ」
「ここは……!」
着いた場所は廃墟としか言えない場所だった。もとは豪華な作りの別荘だったことが伺えるが、今は見る影もない。周囲の木々に日光を遮られ昼間だというのに薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。
こんなところにユハは暮らしているというのか?そう唖然としていると。廃墟の中からぞろぞろと人が出てきた。それは老若男女が混在した集団で、人数は優に二家族程だろうか? 皆一様にアヨウをニヤニヤとしたいやらしい目つきで見つめていた。まるで獲物を捕まえた獣のように。
しかしアヨウにはそんな彼らの様子は気にならなかった。それ以上に驚くべきことがあったからだ。彼らはみな角と尖った耳と尻尾を生やしたカイメラであったのだ。極稀にしか生まれないはずのカイメラがこんなに大勢いることに驚愕せざるを得なかった。横を見やるとズミーの体が変形し黒髪のカイメラ男性に変化する。彼女もカイメラだったのか。
いったい何が起こっている?予想外の事態にアヨウは混乱し、ユハに説明を求める。
「ユハこれは……」
「大丈夫。心配しないで」
アヨウの質問を遮るようにユハは答えた。ここに至ってユハは初めて口を開いた。気が付くとユハは本来の姿のカイメラに戻っていた。
(何か只ならぬことが起きている!!)
アヨウは逃げ出そうとしたが体を動かせなかった。まるでとてつもなく重く、粘度の高い液体に全身が浸かっているように全く身動きが取れない。見えない何かがアヨウの全身を覆っていてそれが彼の全身を拘束していた。
(これはいったい……まさか!)
その何かの正体はユハの体から放たれた魔力だった。間合いが離れている分威力も減衰している筈なのに、アヨウが全力で抵抗しても拘束を抜け出せないほど強い力がこもっている。寮の部屋で対峙した時よりもはるかに強い。
アヨウはもがくが、魔力の拘束の圧力が増し、アヨウはその締め付けにより意識を失った。倒れ込むアヨウをユハは優しく抱き留めると。優しい声音でささやく。
「君は僕が守るからね、アヨウ」
「おはようミオ、こっちは朝だけどそっちはどう?」
「こっちは夜中、ふあぁ~、どうしたの?こんな急に」
「ごめんごめん、どうしても電話で伝えたいことがあって。実は今度の休暇帰れそうなんだ」
「ほんと!いつ!?」
「一週間とちょっと後。詳しい日時は追ってメールするよ」
「わかった!その日迎えに行くわ!」
「おいおい、着くのは平日のだよ?」
「そんなの有給取るに決まってるじゃない!」
「無理しなくても……いや、有難う助かるよ。そっちは夜遅いみたいだからもう切るね。お休み」
「うん、お休み。会うの楽しみにしてる」
ミオとの会話を終えたアヨウの頬には笑みが浮かんでいた。自分の帰りを心待ちにしてくれる人がいる。アヨウはその幸福をかみしめていた。
胸に残る甘い感覚をよそに、アヨウは荷をまとめて寮の部屋を後にする。今日は普通に講義があるし、ユハにも言わなければならないことがある。
いつものように講義の合間の昼休憩の時間にユハと待ち合わせたアヨウだが、ユハの様子が何かおかしい。なんだかそわそわしている様子で、例のノートのまとめる作業もおぼつかないようだ。何かあったのだろうか?
アヨウを目の前にしても暫く黙っていたユハだったが、やがて意を決したように話しかけた。
「ねえ、アヨウ」
「何だい?」
「アヨウは、人と違うことってどう思う?皆と同じじゃないといけないと思う」
その問いかけはアヨウからすれば、まさに懸案事項に関わる重大な問いであった。アヨウは慎重に言葉を選んで答える。
「人と違うのは悪いことじゃないよ、ユハ。そのことで困ったり、いやな思いをしたりすることもあるかもしれないけど、君が君であることは悪いことじゃないんだ」
月並みな言葉だが、アヨウは今ユハが求めているであろう返答をした。とはいえ、嘘は言っていない。まごうことなくアヨウの本心だ。その言葉にユハは破顔して見せた。良かった。と、アヨウは思った。先ほどから様子がおかしかったがユハだが、何とか元気づけることができたようだ。
今がちょうどいいタイミングかもしれない、アヨウはそう思った。さっきの質問は、自分を信用してきてくれている証左ではないか?ならばここで例の約束を取り付けてしまおう。アヨウは意を決してユハに声をかけた。
「なあ、ユハ。もしよかったらだけど、今度の休み、君の家に遊びに行ってもいいかな?」
その提案にユハは驚いたように目を見開いた。その、予想外の反応に不安を感じたアヨウは言い訳でもするように言葉を続ける。
「ほら、俺たち結構仲が良くなったと思うけど、お互いの個人的なことってまだ全然知らないだろ?だから、この機会にユハのこともっと知りたいなって。ユハの家族にも会ってみたいし」
「ほんとに……ほんとにいいの?」
まるで信じられない、とでも言いたげなユハの反応はアヨウにさらなる不安感を与えた。しかしながら、明確な拒絶の意は無いとみなし話を進める。
「う、うん。ユハが良ければ」
「うん、うん、もちろんだよ!」
ユハは断るなんてありえない、とでも言わんばかりに力強く首肯した。それを幸いと見たアヨウは具体的な日時の提案をする。
「それは良かった、予定は休みが始まる一週間後でいいかな?」
「わかった!一週間後だね!」
直ぐ後に、一時帰国を控えているが、長居をするわけでは無い。少々予定がタイトになってしまうが問題はないだろう。
約束の日、アヨウはボロボロの乗用車の前にいた。錆びだらけの車体に、失われたリアバンパー、エンジンは悲鳴のような音を上げていた。これがユハの家族の車?とアヨウは絶句したが、ユハは黙って車を見つめている。訝しんでいる様子はないことから、この車で間違いないようだ。
すると車内から背の高い黒髪のタルタリアン女性が現れた。ユハとはあべこべに衣服も黒いのでまるで葬式から抜け出してきたようだ。
「初めまして、わたくしユハの母のズミーといいます。こっちは夫のフレム」
アヨウはユハの母のズミーと名乗った女性に促されるままに社内を覗くと、運転席には中年のヒメーリアン男性が居た。男は人を馬鹿にしたようなニヤニヤした笑みを浮かべており、率直に言ってあまりいい印象はなかった。
「どうも」
男は短く返事をした。どうやらこの二人がユハの両親らしい。
「初めまして。アヨウ・オオハラといいます。ユハから聞いてるかもしれませんが、ナラカからの留学生です」
アヨウは手短に自己紹介をした。ユハの境遇とさっきの第一印象が相まって二人のことをどうしても警戒してしまい少し突き放したような言い方になってしまう。
「ええ、存じております、なんでも大学で医学を学ばれているとか」
ズミーはそんなアヨウの様子には気が付いていないのか丁寧に受け答えした。
「まあ、そうですね……研究ですが」
ズミーの認識は大きく間違っていないのでとりあえず首肯する。臨床医を目指しているわけでは無いが、と付け加えたが。
「立ち話もなんだ、続きは道すがら話しましょう。ささ、乗ってください」
社内のフレムに促され三人は車に乗り込む。そして4人をのせた車は山の方へ向かって走り出した。
車内では暫く沈黙が続いた、不思議なことに誰も話そうとしない。ユハなんて初めから一言も口を開こうとしない。やはりこの家族何か問題があるのだろうか?アヨウはそう訝しんだ。
「不躾で、申し訳ないのですが、ズミーさん?ユハの教育のことについてお聞かせ願いますか?」
沈黙を破り、アヨウは意を決して彼らに一番聞きたいことを聞いた。
「教育のこととは?」
ズミーが興味なさげに質問を返した。
「ユハが学校に通っていないのは知っています。この国では彼の年頃の子供は義務教育を受けなければならないはず。何故彼を学校へ行かせないのですか?」
アヨウは言葉を重ねるがズミーの不躾な態度に険悪な論調で答えてしまう。自分の話題が上がってもユハは沈黙したままだ。
「ユハには自宅学習をさせています」
「自宅学習ではどのようなことを?」
「生きるのに必要なことを教えています」
”生きるのに必要なこと”とは?とアヨウが聞き返そうとしたとき、車がいつの間にか山道を走っていることに気が付いた。おかしい、ユハはいつも徒歩で大学にくる、山を抜けた先にある街に自宅があるのなら往復に一日くらいかかるような場所に暮らしていることになる。道を間違えたか?そうでなければ……
「あ、あの!さっきから山道を走っているようですが、ご自宅は遠いのでしょうか?」
アヨウは不安になり尋ねる。
「ご心配なさらず!もうすぐ着きますよ!」
アヨウの不安を全く無視するように妙に陽気な調子でフレムが答えた。もうすぐ?彼らは森の中で暮らしているとでも言うのか?
「もうすぐって……」
「ほら、もう着きましたよ」
「ここは……!」
着いた場所は廃墟としか言えない場所だった。もとは豪華な作りの別荘だったことが伺えるが、今は見る影もない。周囲の木々に日光を遮られ昼間だというのに薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している。
こんなところにユハは暮らしているというのか?そう唖然としていると。廃墟の中からぞろぞろと人が出てきた。それは老若男女が混在した集団で、人数は優に二家族程だろうか? 皆一様にアヨウをニヤニヤとしたいやらしい目つきで見つめていた。まるで獲物を捕まえた獣のように。
しかしアヨウにはそんな彼らの様子は気にならなかった。それ以上に驚くべきことがあったからだ。彼らはみな角と尖った耳と尻尾を生やしたカイメラであったのだ。極稀にしか生まれないはずのカイメラがこんなに大勢いることに驚愕せざるを得なかった。横を見やるとズミーの体が変形し黒髪のカイメラ男性に変化する。彼女もカイメラだったのか。
いったい何が起こっている?予想外の事態にアヨウは混乱し、ユハに説明を求める。
「ユハこれは……」
「大丈夫。心配しないで」
アヨウの質問を遮るようにユハは答えた。ここに至ってユハは初めて口を開いた。気が付くとユハは本来の姿のカイメラに戻っていた。
(何か只ならぬことが起きている!!)
アヨウは逃げ出そうとしたが体を動かせなかった。まるでとてつもなく重く、粘度の高い液体に全身が浸かっているように全く身動きが取れない。見えない何かがアヨウの全身を覆っていてそれが彼の全身を拘束していた。
(これはいったい……まさか!)
その何かの正体はユハの体から放たれた魔力だった。間合いが離れている分威力も減衰している筈なのに、アヨウが全力で抵抗しても拘束を抜け出せないほど強い力がこもっている。寮の部屋で対峙した時よりもはるかに強い。
アヨウはもがくが、魔力の拘束の圧力が増し、アヨウはその締め付けにより意識を失った。倒れ込むアヨウをユハは優しく抱き留めると。優しい声音でささやく。
「君は僕が守るからね、アヨウ」
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