僕の不適切な存在証明

Ikiron

文字の大きさ
13 / 21

12話

しおりを挟む
 「両手を上げさせろ、服を脱がせない」

 「下も脱がすのか?」

 「そうだ、脱がしたら縛っておけよ。もうすぐ目を覚ますかもしれん」

 「わかってる」

 「そんなことより端末は見つかったのか?見つからないと厄介だぞ」

 「いや、財布ならあったが」

 「金だけ抜き取ってそれ以外は燃やしてしまえ」

 「そんなことより端末はどこだ?必ず持っているはずだ、ポケットの中とか?」

 「ないよ。忘れたんじゃないのか、コイツ?」

人の話す声で意識を取り戻したアヨウは自分が暗い部屋に居ることに気付いた。全くの暗闇ではなく、明かりは存在しているが部屋全体を照らすほどではない。疎らな光源がスポットライトのように部屋の一部を照らしていてそこだけが妙に明るい。懐中電灯か何かの明かりだろうか?息を吸い込むとかび臭い匂いと埃を吸い込んでしまい思わずせき込んでしまう。アヨウは自分が埃だらけのフローリングに横たえられていることに気が付いた。

 「……ここは……」

アヨウは起き上がろうとしたところで自分の手足が縛られていることに気が付いた。それでも何とか身をくねらせて体を起こす。まだぼんやりした頭で何とかして現状を把握しようとする。いったい何がどうなっている?

 「お目覚めかな?花婿殿‼」

起き抜けにかけられた言葉にハッとして振り返ると頬に強烈な一撃を食らい床に倒れ込んだ。頬に鋭い痛みが走るとともに顔や体に埃や塵が触れる不快な感触がした。そこで初めてアヨウは自分が一糸まとわない姿であることに気が付いた。

倒れ込んだままのアヨウに対して声をかけた人物は執拗に蹴りを食らわせた。事情を理解していないアヨウはただ耐えることしかできない。

 「フレム!その変にしておけ!」

突如かけられた声に制止されアヨウへの暴行が止まる。何もかもわからない混乱状態のなかこの声の持ち主だけはわかった。

 「ユハ……」

普段アヨウと会うときとは違いユハは本来の姿であるカイメラの少年の格好をしていた。衣服もいつもの白いワンピースではなく使い古されたよれよれのパーカーを着ている。最初は暗がりでよくわからなかったが周りにはユハ以外にも人がいることが分かった。

アヨウは家畜になったかのように彼らの前に全裸で横たわっていた。その様はアヨウに激しい羞恥心を味合わせた。

目が慣れてくるとそのほとんどがカイメラの男であることに気が付いた、ただ一名フレムと呼ばれたヒメーリアンの男を除けば。

ここに至ってアヨウはこれまでの顛末を思い出す。確かユハの教育状況を何とかしようとして彼の家に遊びに行ったはず。ならばここはあの時連れてこられた廃屋なのか?

 「大丈夫?痛くなかった?」

ユハは心配そうに声をかけ、アヨウの身を起こす。ユハの自分を気遣う様子にアヨウは気を許してしまいそうになるが、ユハが自分にやったことを思い出し警戒心を強めた。

 「そんなことよりここは何処なんだ?」

 「ここは僕たちが暮す家だよ?昨日連れてきたでしょ?」

 「昨日……?」

アヨウはユハの家に連れられてから一晩立っているという事実に愕然とした。それはナラカに帰国するために予約した飛行機の出発からもう日にちがないことを意味していたからだ。アヨウの胸に一週間前の恋人との会話が浮かぶ。現在の苦境があの時の幸福な感覚を強烈に想起させ、アヨウの心に望郷の念を強く起こさせた。

 「どうしてこんなことを?」

アヨウは尋ねずにはいられなかった。なぜ自分がこんな目に遭わなければならない?自分はユハの助けになろうとしただけなのに。ユハはその問いかけに至って平坦な調子で答える。

 「アヨウ、君にどうしてもやってもらいたいことがあるんだ」

 「やってもらいたいことがあるって、何だそれは!クっ……この縄を解いてくれ‼」

 「駄目だよ。そうしたら君は出て行ってしまうだろ?」

 「当たり前だ!俺は帰らないと……なあ頼むユハ俺を帰してくれ」

 「どうしてそんなに出ていきたいの?」

 「俺には国で待っている恋人がいるんだ、だから……」

アヨウが懇願をユハが聞いた次の瞬間アヨウはユハに強烈な平手打ちを食らわされた。それは先ほどまでフレムから受けていた暴行よりもはるかに強力な力がこもっていた。アヨウの体は数メートル吹き飛ばされ、その時の衝撃で意識を失いかけた。

 「あ……か……」

口内は血の味が滲み、耳鳴りが響いた。

 「そう……恋人がいたんだ」

ユハはそうつぶやくとアヨウに歩み寄り倒れたままの彼を抱き起した。そのままアヨウを抱擁すると、耳元で囁くように告げた。

 「アヨウにはね、僕たちの家族になってもらいたいんだ」

 「え……?」

ユハは困惑しているアヨウを拘束するようにより強く抱きしめると耳打ちするように告げた。

 「今日から君が帰る場所はここだよ。だから恋人のことは忘れて」

ユハはそういうとアヨウから身を放し、平手を受けて腫れた頬を愛おし気に撫でた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...