僕の不適切な存在証明

Ikiron

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13話

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雨垂れが屋根を叩く音でアヨウは目を覚ました。ミッドランド西部には珍しい大雨だ。アヨウは身を起こそうとしてまたしても自分が縄で拘束されていることに気が付いた。手足に巻かれた縄以外には身に着けているものはなく、全身のあちこちがひどく傷んだ。

朽ちかけた建物の隙間から雨漏りがしており、床や壁をカビさせ、陰湿な雰囲気の廃屋をさらに陰気にしていた。

アヨウは自分がユハらに連れられた廃屋にいることに気が付いた。それは昨晩の出来事が夢ではなかったことを意味していた。あまりにも悍ましいあの出来事が。



 「アヨウにはね、僕たちの家族になってもらいたいんだ」

アヨウはユハの意外過ぎる言葉に困惑して声が出せない。

 「ユハそろそろ始めるぞ」

困惑するアヨウをよそに黒髪のカイメラのアジュダハが告げた。その言葉にユハは黙って相槌を打つと、アヨウにそっと声をかけた。

 「無理強いはしたくないけどこれはしきたりなんだ、だからごめんね。あと、できるだけ早く慣れた方がいいよ」

 「それはどういう……」

妙に含みのあるユハの言葉に思わず聞き返そうとするアヨウだが、その声は周囲のカイメラの男たちに抱きかかえられることで遮られた。そのままたたきつけるように机の上に放り出される。

 「何をす……!」

アヨウは抗議の声を上げるが、直後に猿轡を噛まされ、またも遮られる。

 「ムン゛ン゛ー…!」

これから行われる何かに対して必死に抵抗を試みるアヨウだがそれはカイメラ特有の強力な魔力に由来する腕力で抑え込まれる。そうこうしていると足に結ばれていた縄が解かれ両足を無理やり開かされた。必然的に局部が丸見えになりアヨウは激しい羞恥心を感じた。

 「ハラエル、来なさい」

アジュダハがそう促すと部屋に全裸のカイメラの女性が入ってきた。ユハのようにプラチナブロンドの髪と湾曲した角を持った美しい女性だ。

そのハラエルと呼ばれた裸の女性の姿を見てアヨウはこれからなされることをついに悟った。そうはさせまいとアヨウは更に力と魔力を込めて暴れるが、周りの男たちに押さえつけられ全く抵抗することができない。

アヨウの抵抗を無視してハラエルは股を開いているアヨウのそばに歩み寄った。

 (辞めろ!!そんなこと!!一体何をしているのか解っているのか!!辞めろ!!)

 「ねえ、これ、このままでいいの?」

 「いやこのままじゃ駄目だ、今準備する」

 「ねえ、僕にやらせて!」

 「いいだろう、やり方は解るか?」

 「うん!」

 「ン゛ーッ!!」

 「大丈夫?痛い?直ぐ良くなるからね」

 「ゆっくりだ、焦るなよ。それが一番よくない」

 「大丈夫、解ってる。ゆっくり、ゆっくり……」

 「いいぞ、その調子で続けろ」

 「うん」

 「ン……っく……」

 「いいよ!その調子だよアヨウ」

 「いい頃合いだろう、ハラエル始めなさい」

 「ええ」

 「おい!コイツ尻尾がうるさすぎるぞ!ぶった切っちまうか?」

 「駄目だよ!!」

 「駄目だ、抑えておけ。ハラエル構わず始めなさい」

 「解った」

 「ムン゛ン゛ン゛ー!!」

 「コイツうるさいなぁ」

 「痛……い……」

 「大丈夫か?」

 「……う……ん……」

 「ン゛ン゛ン゛ッ!!」

 「ハア……ハア……」

 「大丈夫かハラエル?お前も漁りは禁物だ」

 「解っ……ってる……」

 「アヨウもうすぐだよ、あとちょっとの辛抱だからね、もし何かあったらあとで言ってくれればいいからね」

 「―――――――ッ!!」

そこから先のことは覚えていない。気が付いたらまた手足を縛られて今いる部屋に転がされていた。

あまりにも悍ましいことが起きてしまった。昨晩の出来事はアヨウにはとても容認しかねることだった。ショックが大きく、精神が麻痺してしまって何もする気になれない。

アヨウはここのカイメラたちがどうやって生まれてきたのか理解した。カイメラは女性しか子を生すことはできない。だからこうやって外部の男を拉致してきて無理やり子供を作らせてきたのだ。道理でユハは教育を受けていないはずだ、彼は最初から異常で違法な環境で生まれたのだ。教育など受けられるわけがない。

おそらくは父親と異なる人種、つまり女性の父親がヒメーリアンならタルタリアンとタルタリアンならヒメーリアンとの間に子供を作るようにしているのだろう。代を重ねてもカイメラとしての形質が失われてしまわないように。そうやって何代にわたってカイメラだけのコミュニティを維持してきたのだろう。

アヨウは自分が最初から騙されていたことを理解した。ユハがカイメラであることを隠していたのはこんなことをしていて後ろ暗いことがあったから。男なのに女の子の格好をしていたのは、あの姿で男を釣るためだったのだろう。そうとは知らずに、いや、自分はかなりの情報を知りえていたのに、自ら彼らの罠に飛び込んでいってしまった。アヨウは自分の愚かさを悔やんだ。

 「入るわよ」

その声とともにノックもせずにカイメラの女性が部屋に入ってきた。ユハに似たプラチナブロンドをした彼女はハラエルと呼ばれた女性だった。彼女とは昨晩……。

ハラエルは手に持った皿をアヨウの手前におく。どうやら食べ物のようだ。何とか這って皿に近づくと皿はロープで結ばれたアヨウがなんとか届くか届かないかの位置におかれていた。

 「お前が私達の家族になるまで、私がお前に近づくことは許されていない」

皿の中には冷えた薄いスープのようなものが入っていた。肉や野菜の切れ端のようなものが少し浮かんでいるだけで具はほとんどない。顔を近づけて匂いを嗅ぐと腐ったものを煮たような生臭い匂いがした。アヨウは思わず顔をしかめる。

その様子を見届けるとハラエルは黙って踵を返しそのまま立ち去ろうとする。アヨウまだ昨日の行為を帳消しにできることに気が付いた。今はまだ昼だ、なら間に合うはず。

 「待ってくれ!!」

 「なに?」

 「今すぐ町に行って緊急避妊薬を飲むんだ。今ならまだ間に合う」

 「キンキュウ……何?」

ハラエルはアヨウの言ったことが理解できないようだった。ユハが教育を受けていなかったように彼女もまた教育を受けていないのだろう。

 「赤ちゃんができるのを防ぐ薬だよ。24時間以内に飲めば効果があるはずだ」

アヨウはハラエルにもわかるように説明した。

 「なんでそんなことしなきゃいけないの?」

それを聞いたハラエルは心底不愉快そうに答えた。アヨウの言っていることの意図が全く理解できないように。

 「なんでって、あんな形で無理やり子供を作らされるのがいいわけないだろ!」

アヨウの文明社会の常識に基づいた見解に対してハラエルは心底あきれた調子で答えた。

 「お前と会話することは許されていない。ラミャエル行くわよ」

よく見ると部屋の入口の陰には7,8歳くらいの女の子のカイメラいてこちらを覗いていた。ラミャエルと呼ばれた女児は何か言いたげな表情でアヨウの方を見つめていたが、ハラエルに手を引かれて去っていった。

部屋の扉が閉じられると、アヨウは再び一人になった。目の前にはまずそうな薄いスープがおかれている。これでも食べれば少しは精が付くだろうが、とても食べる気になれない。一人になるとアヨウの胸中に言い知れぬ不安が押し寄せてくる。

 (これから自分はどうなってしまうのだろうか……?)

アヨウの思考は自然とこれからのことに向かう。自分が子供を作らされるために拉致されたことはわかった、では子供ができたら?普通に考えれば殺されてしまうのだろう。彼らの殆どはカイメラだ、カイメラは父親になれない。ならば父親は殺されていると考えるのが自然だ。少なくとも無事に返してもらえるなんてことはあり得ない。アヨウには粗末ながらも食料が与えられている、つまり確実に子供ができるまでは生かしておくと考えるのが妥当だ。

 (なんてことだ、最短で7日ほどしかないじゃないか……)

もちろん妊娠検査薬の反応が確実に出るのはもっと後だが、楽観視はできない。彼らが複数人子供を欲しがった場合はもう少し期間が延びるのだろうが、そうではないかもしれない。それまでにここを抜け出すか、助け出されるかしなければ命はない。

周囲に猛獣並みの力を持ったカイメラが何人もいるうえに全身を拘束されている。自力での脱出は不可能に近い。ならば警察に見つけてもらうしかないが、そのためにはアヨウが行方不明者として捜索されている必要がある。しかし困ったことにアヨウは今ナラカ行の飛行機に乗っていることになっているのだ。すぐには行方不明者として扱われない、そうなれば捜索はかなり先になってしまう。

 (万事休すか……)

アヨウの思考が絶望に向かって行ったとき、突如部屋の扉が勢いよく開けられた。アヨウは驚いて顔を上げると目の前にはフレムと呼ばれているヒメーリアンの男が立っていた。そういえばこいつはカイメラじゃないのに生かされている。フレムは口角を持ち上げいやらしい顔で笑いながらアヨウに言った。

 「こんな時間にお目覚めとはずいぶんな身分じゃないかアヨウ」

季節外れの雷鳴が轟いた。
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