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14話
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「こんな時間にお目覚めとはずいぶんな身分じゃないかアヨウ」
季節外れの雷鳴が轟いた。
アヨウが雷鳴に身をすくめると同時に目の前にいるフレムから鋭い蹴りが飛んできた。アヨウは顎を蹴り上げられ仰向けに倒れ込んだ。顎に受けた衝撃のせいで意識が朦朧とする。
「な~にそっくり返ってんだぁ、ナラカ人はこういう時へこへこと頭を下げるんだろ!」
フレムはそういうとアヨウの髪をつかんで無理やり起き上がらせた。そしてそのままアヨウの顔を床に叩きつけると、彼の頭を足蹴にする。
「何故こんなことをする……」
「ん?」
「こんなことをするために俺を連れてきたはずじゃないはずだ。暴力をふるう意味がない」
踏みつけられたまま必死に問いかけるアヨウに対し、フレムはさっきしたように髪をつかんで彼の頭を持ち上げると顔を寄せて答えた。
「意味がなければお前に会いに来ちゃダメってか?」
そのままアヨウの頭を放して床に放ると顔面を蹴り飛ばした。フレムのつま先はアヨウの鼻に直撃し鼻血が大量に出てくる。鼻腔の中に鉄の匂いが充満した。
「そ……それだけじゃない……お前何で生かされてる?カイメラじゃ……ないのに」
「あ?」
「お前……も、こんな風に……拉致されたんだ……ろ?」
「……」
「ふつうは……子供が……できて、用済みになった男……は、殺されている筈だ、だからここ……には、カイメラしかいない、お前を除いて。どうして、お前は生かされて……いる?」
アヨウの鼻血の為うまく呼吸ができない中での必死の問いに対してフレムは始終無言であった。アヨウにはその沈黙の意味は解らなかったがこれは重要な問いかけのはずだ。拉致されてカイメラの父親にさせられた男は基本的には殺されている、なのにこいつは生かされている。その理由を知れば自分が助かる糸口になるかもしれない。
「……意外とおしゃべりなんだな‼」
暫く沈黙していたフレムが声を震わせながら答えた。答えるや否やフレムはアヨウの腹を思いきり蹴った。さっきまでの様子とは打って変わってフレムは怒りに顔をゆがめながら叫ぶように続ける。
「ああ‼そうだよ‼30年前に変な女に引っかかって以来ずっとこいつらと一緒だ‼」
そして激情に任せるままにアヨウの腹を何度も蹴った。アヨウは蹴りの衝撃に思わず胃液を吐き出すがそれ以上に30年という歳月に衝撃を受けた。30年‼この男は子が大人になりその子の子が生まれるような歳月をカイメラに拉致されたまま過ごしてきたのだ。アヨウは自分の行く末を悟り絶望した。何とかして逃げ出さなければ、死ぬかコイツみたいになるかだ。
「それさえなければ一流の技師として一廉の男でいられたんだ‼最新鋭の機器の修理にも携わった‼それが今はここの連中の為に時代遅れの磁気メディアをいじくっている‼」
アヨウの問いかけがよほど腹に据えかねたのか、フレムは激高しながらアヨウを執拗に蹴り続けた。
「……磁気……メディア?」
「ここの連中の唯一の娯楽さ、何年か前にテレビ放送がデジタルに移行して以来ずっと同じテープを擦り切れるまで見ている!!再生デッキが不調になるたびに直すのがここでの俺の役割だ!!残飯をかき集めて作った臭い飯をかっ食らいながらな!!」
どうやらフレムは技術目当てに生かされているらしい。アヨウは車の運転も彼が勤めていたことを思い出す。そういった、ここで生まれたカイメラには出来ない仕事をさせるためにこいつは生かされているのだ。
(俺が標的になったのは医療の技術が目当てか)
アヨウはアジュダハが自分の専攻を気にしていたことを思い出した。
「クソが!!クソが!!見下しやがって!!」
語気を荒げるたびにフレムはアヨウを蹴り続けた。
「何がお医者様だ!!ふざけやがって!!散々もてあそんだあげ……」
言いかけたところでフレムの端末が鳴り、暴行をやめ電話に出た。
「何だ?アジュダハか……迎え?構わんがいいのか?ガソリンの節約もしなければならないだろう?……わかった、隣町の薬局だな?今向かう」
手短に会話を終え、フレムは通話を切った。
「フン……アジュダハめ、ずいぶんな入れ込みようだな。そんなに弟が可愛いのか」
フレムはそう独りごちるとアヨウを放って外に出て行ってしまった。アヨウは今のやり取りでフレムが端末を持っていたことに気が付いた。そういえばユハは家に電話していたが、きっとフレムの端末にかけたのだろう。おそらく安価なプリペイドだろう、他の人間は持っていないに違いない。しかしフレムは何故それを使って外部に助けを求めない?あんなに拉致されたことを残念がっていたのに。しかもフレムは自動車の運転も任されていた、捕まっているどころか外に自由に行き来している。
(逃げようと思えばいつだって逃げられるのに……)
そんなフレムの様子にアヨウは疑問を感じるよりも恐怖を感じた。フレムも今の自分のような目に遭って身も心も屈服させられてしまったのではないか?今の境遇を逃れるために彼らに恭順し、そうこうしている間に子供ができ、家族ができ、しがらみが絡みついていって……そして30年たった。その事実に思い当たった時、アヨウの身に全身の疼痛を忘れさせるほどの怖気が走った。
(嫌だ……帰りたい。母さん、父さん……ミオ……)
外からは車の発車する音が聞こえた、窓からは夕日が差し込む。身動きの取れないアヨウをよそに無情にも時は過ぎていく。空の色が夕暮れの赤から宵闇の黒に変わる頃、再びアヨウの部屋の扉が開かれた。
「アヨウ?大丈夫?」
扉を開いたのはユハだった。
「うわぁ……これは派手にやられたね。全くフレムめ、加減を知らないんだから」
ユハはまるで世間話でもしているかのような調子で話しかける。
「ねえ、ずっと閉じこもってて退屈してるでしょ?特別に許しをもらえたからちょっと外に散歩に行こうよ」
懐中電灯を片手にユハは山道を歩く。今日は大きな満月が明るく、木葉の疎らなところでは明かりが不要なほどだった。ユハはそんな山道を鼻歌交じりにゆっくりと歩いてゆく。
もう片方の手には縄が握られていてその先には相変わらず全裸のアヨウがつながれていた。足も縛られている上に裸足の為、おぼつかない足取りでヨタヨタとユハの後を追う。
ふいにユハが立ち止まるとアヨウに向き直って話しかけた。
「ねえ、この前の実験のことなんだけど」
「え……?」
「ほら!ヨウミャクの違いが土の魔力に関係してるかもってタイショー実験の。いつか話したでしょ?」
「ああ……」
「それが思ったようにいかなくてさぁ!やっぱり最初は予想通りにはならないね。何でかって色々考えてるけど難しいなぁ!でもさ!こういうのが研究なんだろうなぁーって今すっごく楽しいんだ!」
まるで友と趣味の話をするかのような口ぶりのユハだがアヨウは答えない。
「どうしたの?アヨウ?」
アヨウはこの問いも無視する。
「ねえ……何か言ってよ。何か嫌なことでもあるの?それとも何かしてほしいことがあるの?」
「…………俺を帰らせてくれ……」
「それはダメだよ。アヨウはこれから僕たちとずっと一緒に暮らすんだから」
アヨウは答える代わりに怒気のこもった視線を向けた。
「アヨウ?怒ってるの?」
「当たり前だ!!嫌なことだと?それなら、今のコレの……この全てだ!!」
「そ、それは我慢してもらわないと……」
「我慢なんてできる訳ないだろう……君は自分が何をしたのか解っているのか?人を拉致監禁した上に望まぬ子どもを無理やり作らせたんだぞ?こんなこと許されない‼」
アヨウがそう言い切ると、ユハはアヨウを殴り飛ばした。アヨウの体は衝撃で吹き飛ばされ傍にあった木に叩きつけられた。アヨウの奥歯は折れ、口の中が血の味でいっぱいになる。カイメラの力はフレムのものとは比べ物にならない。
「じゃあ……どうしろっていうのさ……僕たちに居なくなれってこと?」
さっきとは打って変わって切実な響きを持ったユハの問いだが、昏倒したアヨウは答えられない。
「許されないってなんだよ!!僕たちはずっとこうやって生きてきたんだぞ!!僕も僕の母さんも僕の母さんの母さんもずっとこうやって生まれてきた!!それが許されないって……最初から生まれてくるなって意味かよ!!死ねってことかよ!!」
起き上がれないアヨウをさらに追い詰めるようにユハはまくしたてた。
「あ……か……」
なおも倒れ込んだままのアヨウをユハは体をつかんで強引に立ち上がらせると、耳元でささやくように言った。
「でもねアヨウ、君ももうすぐそんな奴らの一員になるんだよ」
「う……うう……」
「フレムもそうだったんだ、君もすぐに僕たちの家族になる」
散歩の後にまた部屋に閉じ込められたアヨウは、ユハとの会話を思い出していた。
(ユハは自分たちがコノ悍ましい所業から生まれてきたと言っていた、それを否定されるのは死と同義とも)
ユハ達が何代にもわたって行ってきたコノ行いは法的にも倫理的にも到底容認できることではない。見つかったら法的処置を受け、コミュニティは良くて緩慢な滅亡、悪くて即刻駆除されるだろう。彼らに安住の地はない。
(ここまで前提条件が違ってしまったら分かり合うことなんて不可能だ)
アヨウはユハとの間にある決定的な隔絶に絶望した。
するとアヨウの部屋の扉が三度開かれた、また虐待が始まると身構えるアヨウだが、扉の前に立っていたのは意外な人物だった。
「君は……?」
そこにいたのは金髪で緑色の目をした7,8歳くらいのカイメラの女児だった。
(確かこの子はラミャエル)
部屋を訪ねたラミャエルは服の中からアヨウの端末を取り出すと、それをアヨウに向けて尋ねた。
「ねえ、コレ何?」
季節外れの雷鳴が轟いた。
アヨウが雷鳴に身をすくめると同時に目の前にいるフレムから鋭い蹴りが飛んできた。アヨウは顎を蹴り上げられ仰向けに倒れ込んだ。顎に受けた衝撃のせいで意識が朦朧とする。
「な~にそっくり返ってんだぁ、ナラカ人はこういう時へこへこと頭を下げるんだろ!」
フレムはそういうとアヨウの髪をつかんで無理やり起き上がらせた。そしてそのままアヨウの顔を床に叩きつけると、彼の頭を足蹴にする。
「何故こんなことをする……」
「ん?」
「こんなことをするために俺を連れてきたはずじゃないはずだ。暴力をふるう意味がない」
踏みつけられたまま必死に問いかけるアヨウに対し、フレムはさっきしたように髪をつかんで彼の頭を持ち上げると顔を寄せて答えた。
「意味がなければお前に会いに来ちゃダメってか?」
そのままアヨウの頭を放して床に放ると顔面を蹴り飛ばした。フレムのつま先はアヨウの鼻に直撃し鼻血が大量に出てくる。鼻腔の中に鉄の匂いが充満した。
「そ……それだけじゃない……お前何で生かされてる?カイメラじゃ……ないのに」
「あ?」
「お前……も、こんな風に……拉致されたんだ……ろ?」
「……」
「ふつうは……子供が……できて、用済みになった男……は、殺されている筈だ、だからここ……には、カイメラしかいない、お前を除いて。どうして、お前は生かされて……いる?」
アヨウの鼻血の為うまく呼吸ができない中での必死の問いに対してフレムは始終無言であった。アヨウにはその沈黙の意味は解らなかったがこれは重要な問いかけのはずだ。拉致されてカイメラの父親にさせられた男は基本的には殺されている、なのにこいつは生かされている。その理由を知れば自分が助かる糸口になるかもしれない。
「……意外とおしゃべりなんだな‼」
暫く沈黙していたフレムが声を震わせながら答えた。答えるや否やフレムはアヨウの腹を思いきり蹴った。さっきまでの様子とは打って変わってフレムは怒りに顔をゆがめながら叫ぶように続ける。
「ああ‼そうだよ‼30年前に変な女に引っかかって以来ずっとこいつらと一緒だ‼」
そして激情に任せるままにアヨウの腹を何度も蹴った。アヨウは蹴りの衝撃に思わず胃液を吐き出すがそれ以上に30年という歳月に衝撃を受けた。30年‼この男は子が大人になりその子の子が生まれるような歳月をカイメラに拉致されたまま過ごしてきたのだ。アヨウは自分の行く末を悟り絶望した。何とかして逃げ出さなければ、死ぬかコイツみたいになるかだ。
「それさえなければ一流の技師として一廉の男でいられたんだ‼最新鋭の機器の修理にも携わった‼それが今はここの連中の為に時代遅れの磁気メディアをいじくっている‼」
アヨウの問いかけがよほど腹に据えかねたのか、フレムは激高しながらアヨウを執拗に蹴り続けた。
「……磁気……メディア?」
「ここの連中の唯一の娯楽さ、何年か前にテレビ放送がデジタルに移行して以来ずっと同じテープを擦り切れるまで見ている!!再生デッキが不調になるたびに直すのがここでの俺の役割だ!!残飯をかき集めて作った臭い飯をかっ食らいながらな!!」
どうやらフレムは技術目当てに生かされているらしい。アヨウは車の運転も彼が勤めていたことを思い出す。そういった、ここで生まれたカイメラには出来ない仕事をさせるためにこいつは生かされているのだ。
(俺が標的になったのは医療の技術が目当てか)
アヨウはアジュダハが自分の専攻を気にしていたことを思い出した。
「クソが!!クソが!!見下しやがって!!」
語気を荒げるたびにフレムはアヨウを蹴り続けた。
「何がお医者様だ!!ふざけやがって!!散々もてあそんだあげ……」
言いかけたところでフレムの端末が鳴り、暴行をやめ電話に出た。
「何だ?アジュダハか……迎え?構わんがいいのか?ガソリンの節約もしなければならないだろう?……わかった、隣町の薬局だな?今向かう」
手短に会話を終え、フレムは通話を切った。
「フン……アジュダハめ、ずいぶんな入れ込みようだな。そんなに弟が可愛いのか」
フレムはそう独りごちるとアヨウを放って外に出て行ってしまった。アヨウは今のやり取りでフレムが端末を持っていたことに気が付いた。そういえばユハは家に電話していたが、きっとフレムの端末にかけたのだろう。おそらく安価なプリペイドだろう、他の人間は持っていないに違いない。しかしフレムは何故それを使って外部に助けを求めない?あんなに拉致されたことを残念がっていたのに。しかもフレムは自動車の運転も任されていた、捕まっているどころか外に自由に行き来している。
(逃げようと思えばいつだって逃げられるのに……)
そんなフレムの様子にアヨウは疑問を感じるよりも恐怖を感じた。フレムも今の自分のような目に遭って身も心も屈服させられてしまったのではないか?今の境遇を逃れるために彼らに恭順し、そうこうしている間に子供ができ、家族ができ、しがらみが絡みついていって……そして30年たった。その事実に思い当たった時、アヨウの身に全身の疼痛を忘れさせるほどの怖気が走った。
(嫌だ……帰りたい。母さん、父さん……ミオ……)
外からは車の発車する音が聞こえた、窓からは夕日が差し込む。身動きの取れないアヨウをよそに無情にも時は過ぎていく。空の色が夕暮れの赤から宵闇の黒に変わる頃、再びアヨウの部屋の扉が開かれた。
「アヨウ?大丈夫?」
扉を開いたのはユハだった。
「うわぁ……これは派手にやられたね。全くフレムめ、加減を知らないんだから」
ユハはまるで世間話でもしているかのような調子で話しかける。
「ねえ、ずっと閉じこもってて退屈してるでしょ?特別に許しをもらえたからちょっと外に散歩に行こうよ」
懐中電灯を片手にユハは山道を歩く。今日は大きな満月が明るく、木葉の疎らなところでは明かりが不要なほどだった。ユハはそんな山道を鼻歌交じりにゆっくりと歩いてゆく。
もう片方の手には縄が握られていてその先には相変わらず全裸のアヨウがつながれていた。足も縛られている上に裸足の為、おぼつかない足取りでヨタヨタとユハの後を追う。
ふいにユハが立ち止まるとアヨウに向き直って話しかけた。
「ねえ、この前の実験のことなんだけど」
「え……?」
「ほら!ヨウミャクの違いが土の魔力に関係してるかもってタイショー実験の。いつか話したでしょ?」
「ああ……」
「それが思ったようにいかなくてさぁ!やっぱり最初は予想通りにはならないね。何でかって色々考えてるけど難しいなぁ!でもさ!こういうのが研究なんだろうなぁーって今すっごく楽しいんだ!」
まるで友と趣味の話をするかのような口ぶりのユハだがアヨウは答えない。
「どうしたの?アヨウ?」
アヨウはこの問いも無視する。
「ねえ……何か言ってよ。何か嫌なことでもあるの?それとも何かしてほしいことがあるの?」
「…………俺を帰らせてくれ……」
「それはダメだよ。アヨウはこれから僕たちとずっと一緒に暮らすんだから」
アヨウは答える代わりに怒気のこもった視線を向けた。
「アヨウ?怒ってるの?」
「当たり前だ!!嫌なことだと?それなら、今のコレの……この全てだ!!」
「そ、それは我慢してもらわないと……」
「我慢なんてできる訳ないだろう……君は自分が何をしたのか解っているのか?人を拉致監禁した上に望まぬ子どもを無理やり作らせたんだぞ?こんなこと許されない‼」
アヨウがそう言い切ると、ユハはアヨウを殴り飛ばした。アヨウの体は衝撃で吹き飛ばされ傍にあった木に叩きつけられた。アヨウの奥歯は折れ、口の中が血の味でいっぱいになる。カイメラの力はフレムのものとは比べ物にならない。
「じゃあ……どうしろっていうのさ……僕たちに居なくなれってこと?」
さっきとは打って変わって切実な響きを持ったユハの問いだが、昏倒したアヨウは答えられない。
「許されないってなんだよ!!僕たちはずっとこうやって生きてきたんだぞ!!僕も僕の母さんも僕の母さんの母さんもずっとこうやって生まれてきた!!それが許されないって……最初から生まれてくるなって意味かよ!!死ねってことかよ!!」
起き上がれないアヨウをさらに追い詰めるようにユハはまくしたてた。
「あ……か……」
なおも倒れ込んだままのアヨウをユハは体をつかんで強引に立ち上がらせると、耳元でささやくように言った。
「でもねアヨウ、君ももうすぐそんな奴らの一員になるんだよ」
「う……うう……」
「フレムもそうだったんだ、君もすぐに僕たちの家族になる」
散歩の後にまた部屋に閉じ込められたアヨウは、ユハとの会話を思い出していた。
(ユハは自分たちがコノ悍ましい所業から生まれてきたと言っていた、それを否定されるのは死と同義とも)
ユハ達が何代にもわたって行ってきたコノ行いは法的にも倫理的にも到底容認できることではない。見つかったら法的処置を受け、コミュニティは良くて緩慢な滅亡、悪くて即刻駆除されるだろう。彼らに安住の地はない。
(ここまで前提条件が違ってしまったら分かり合うことなんて不可能だ)
アヨウはユハとの間にある決定的な隔絶に絶望した。
するとアヨウの部屋の扉が三度開かれた、また虐待が始まると身構えるアヨウだが、扉の前に立っていたのは意外な人物だった。
「君は……?」
そこにいたのは金髪で緑色の目をした7,8歳くらいのカイメラの女児だった。
(確かこの子はラミャエル)
部屋を訪ねたラミャエルは服の中からアヨウの端末を取り出すと、それをアヨウに向けて尋ねた。
「ねえ、コレ何?」
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