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終章
終章 1
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今から十九年前、木佐萬村に年端も行かぬ少年が数人の付き人を連れてやってきた。
少年は自分自身を霊能者と名乗り、修行のため一年かけて全国を旅していると伊乃里様に説明した。少年の言葉はにわかに信じ難かったが、彼は天宮家の現状を話さずとも十分に理解していた。そして彼が名乗るとその場に平伏した。
伊乃里様は少年を歓迎し、家に泊まってもらうよう勧めた。長旅で疲れていたのもあり、少年はありがたくその申し出を受け、その代わりに彼女の悩みを解決してやることにした。せめてもの礼だった。
これまで天宮家は村から同い年の異性を迎え入れ婚姻を繰り返してきた。決して人数が多いとは言えないこの木佐萬村は村人ほとんどに血の繋がりがある。それが能力を消す原因になっていると少年は言った。血が濃すぎて才能が受け継がれなくなっていた。血を濃くしても能力が強くなるわけではない。これを解決するには至って簡単で余所から娘を娶ればいい。すれば霊能者の子供が生まれるだろうと伝えた。最初こそは村以外の余計な血を取りこむなんておぞましいと否定したが、少年に「濃くなりすぎた血は血管を詰まらすだけだ」と冷静に反論されてようやく納得した。
息子に婚約者はいたが、家の存続が最優先事項だ。村の娘は自分の言いなりになると自負もあったのかもしれない。早々に婚約を解消し、その少年から紹介された霊能者の娘を嫁に迎えた。結婚は突然の申し入れだったが、嫁は嫌な顔一つもせず、夫を立て、気立てがよく、優しい娘だった。
高遠が証拠として提出した合羽から少量の血痕が見つかり、それを検査したところ被害者のものと判明した。死体も二年前から行方不明だった良太だと分かり、伊織と十倉には何日間にも渡って尋問が行われた。美琴と高遠も同じように尋問を受けたが、山中の助言もあり二人は早々に解放された。アリバイがあり、捜査に協力したことが心象を良くしたようだ。前回は犯人だと疑われて、何日間も勾留させられたので美琴は安堵した。
「そう言えば髪の毛切ったの?」
さっぱりとした後姿に美琴は声をかける。不機嫌そうに振り返った高遠は「あの頭じゃ出歩けないだろ」と答えた。二十八歳の高遠がおかっぱ頭でいるのは恥ずかしいに違いない。長髪も似たようなものだと思うが。幼い少女のようで可愛らしかったのに、と言おうとしたが、山中が近づいてきたので黙った。
「高遠先生、早瀬さん。今回は本当にありがとうございました」
「いえ……、十倉さんの様子はどうですか?」
「あの腐乱した死体が……、明也くんだと分かったら自供を始めてくれました」
山中は十倉から聞いた話を二人に語った。
十倉は先代イブキ様、天宮伊澄の婚約者だった。彼と同年代に生まれた女性は十倉ただ一人で、生まれたときからイブキ様の婚約者として扱われていた。勝手に決められた結婚だったが、村人から崇められる天宮家に嫁げるのは名誉であり、そして伊澄に恋をしていた。目鼻立ちが整っている伊澄はよろず町の女子からも好意を持たれ、イブキ様という役割を与えられているからか、誰にでも親しく優しくしていた。十倉はその伊澄の婚約者という立場を誇らしく思っていた。
高校を卒業し、二人は大学に進学する。卒業してすぐに結婚、という話で、十倉は卒業が待ち遠しかったという。結婚と同時に伊澄は家督を継いで晴れてイブキ様となる。長い四年間が終わり、結婚の準備を進めているときにある霊能者が村にやってきた。聞くところによるとかなり有名な霊能者だと噂された。普段なら天宮家に来客があれば婚約者として紹介されるのに、なぜかその霊能者に十倉は会わせてもらえなかった。その時から薄々嫌な予感がしていた。
霊能者が村を去り、それから数日後、婚約解消を告げられた。青天の霹靂だった。
伊乃里様からは取り繕いもなく、ありのままに解消理由を説明された。そもそも天宮家は霊能者の家系、その家から霊能者が生まれないのは由々しき問題である。このままでは衰退の一途を辿る。何とかしてこの事態を打破しなければならない。これは致し方ないことなのだ。両親はその言葉を丸々受け入れ、一言も反論しなかった。イブキ様がそう仰せられるなら仕方ないと納得したのだ。
だが一瞬にして婚約者という立場を失った十倉の心中は穏やかではない。これまでどれほど天宮家に、伊澄に、イブキ様に尽くしてきたことか。伊澄がいろんな女性に手を出していたのもいずれは自分の下へ帰ってくると信じ目を瞑っていたし、結婚までは純潔を守り続けるものだと教えられそうしてきた。何のためにこの二十四年間、我慢を続けてきたのか分からなくなった。
怒り狂い、そして彼女が思いついた先は、妻という立場を取り戻すことだった。
天宮家の行動は早かった。他所から娘を紹介されるとすぐに伊澄と結婚させた。十倉がよからぬことを考えていると悟られたのかもしれない。その女よりも先に跡継ぎを孕めば、自分は正しい場所に帰れると思ったのだろう。伊澄を誘い出し、逢瀬を重ね、子供を宿した。
伊澄との密会は、主に天宮家の地下で行われた。伊澄の部屋が離れだったのと、顔が広いので外で会うと村人に目撃される可能性がある。灯台下暗し。限られた人間しか知らない地下は疑われにくい。夜になれば村人のほとんどは寝静まり、裏山には人が近づかないので人の目に着くことはなかった。
結婚しながらも伊澄が十倉と関係を持った理由は、本人曰く、「私を愛していた」からだが、どうも信用できない。彼は学生時代にいろんな女性と関係を持っていた。もし十倉を愛していたなら、他所の娘との結婚に反対していただろう。最悪は駆け落ちだってあり得る。伊澄に対する山中の印象は冷静沈着。誰とも親しくしていたけれど、彼が感情を揺らしているのは見たことがないと言う。伊織との話を総合するに、伊澄は十倉に求められたから彼女の要望を受け入れただけではないだろうか。村では偉大だった母の言いなりに動く操り人形。彼自身の意思など、どこにも無かったのかもしれない。いろんな女性と関係を持っていたのだって、その女性から求められたから、そう考えれば彼の一連の行動が推測できる。そして彼がそんな状態だったからこそ悲劇が起きる。
伊澄との子を妊娠したと十倉は伊乃里様に告げた。伊乃里様はその事実を知っていたのか、さほど驚かず、天宮家の血を継いでいる以上、十倉の子供は天宮家で育てると言った。言いつけを守らなかった十倉は家族ごと他県に引越しをさせられ、翌年、密かに子供を出産すると伊乃里様がやってきて子供だけを引き取った。天宮家に嫁いだ娘もまた、十倉と同時期に妊娠していた。つまり伊澄は十倉を相手しながら、ちゃんと夫としての務めも果たしていたのだ。それを知った十倉の怒りは頂点に達した。自分が子を生もうとも、正式な妻が子を産めばその子が跡取りとなる。十倉の子供は出生届も出されなかったので、戸籍上はこの世に存在しないことになっている。あまりにも不憫で自分の努力が全て無駄だったと思い知り、自殺まで考えていたらしい。子供の様子は秘密とされていたが、両親を泣き落とし、暮らしぶりを聞かされて彼女の中に殺意が芽生えた。
自分が産んだ子は明也と名づけられ、将来、イブキ様となる伊織の身代わりとして育てられている。本来であれば、わが子こそ、明也こそが跡取りだったのに、どこの馬の骨とも分からない娘から生まれた子の身代わりだなんて、到底信じられなかった。
十倉の両親は一刻も早く、伊澄や息子の存在を忘れるようにと十倉に見合いをさせた。明也を産んで間もなく、十倉は両親の勧めた男性と結婚し、表面上は穏やかに過ごしていた。結婚してからは天宮家の話など一切しなかったという。
けれど天宮家に対する憎悪は年々積み重なる一方だった。
村から追い出されて十年後、十倉の町に霊能者がやってきた。霊能者、という言葉にいい思い出のない十倉は、出来ることなら会いたくないと思っていた。何の因縁か夫の両親から給仕を頼まれてしまい、その霊能者と顔を合わせることになった。よぼよぼの老人を想像していたが、その霊能者は若く利発な青年だった。修行のため、一年かけて全国を旅している、と説明していた。
青年は二十歳になったばかりで慣れない酒を勧められるがまま口にしていた。温和で礼儀正しい青年は十倉を見るなり眉を顰めた。それからそっと彼女に耳打ちする。
「あなた、随分と酷い目に遭っていますね」
十倉の境遇は両親と天宮家ぐらいしか知らない。両親は数年前に二人とも亡くなっている。夫にもその両親にも彼女は半生を語ったりしなかった。子供がいることすら伝えていない。なのにどうしてたまたまこの町にやってきた青年が自分のことを知っているのか、不思議に思った。そう言えば木佐萬村にやってきた霊能者と名乗った青年も語らずして天宮家の内情を知っていた。この青年も本物の霊能者なのだと、十倉は分かった。
宴も終わり、部屋に呼ばれた十倉はこれまでの恨みを全て話した。最後まで口は一切挟まず、彼は十倉の話を聞き、「大変辛い思いをされてきたのですね」と同情した。十倉に同情をしてくれたのは彼が初めてだった。両親ですら、伊乃里様に歯向かうなど以ての外、お前のせいで故郷に帰れなくなったと十倉に当たっていた。
同情してくれたことがあまりにも嬉しくて、十倉は涙を流した。本来であれば、それだけで十分だった。もう明也のことは忘れたほうがいい。そう思い出したとき、霊能者が口を開く。
「お子さんはあなたと暮らしたかったでしょう。お可哀想に」
その霊能者が何を思ってそう言ったのかは不明だ。ただ感じたままに言ったのだろう。十倉はそう認識している。
「……どうすれば」
「あなたが望むなら、取り戻せば良いんですよ」
霊能者は笑顔でそう言った。
少年は自分自身を霊能者と名乗り、修行のため一年かけて全国を旅していると伊乃里様に説明した。少年の言葉はにわかに信じ難かったが、彼は天宮家の現状を話さずとも十分に理解していた。そして彼が名乗るとその場に平伏した。
伊乃里様は少年を歓迎し、家に泊まってもらうよう勧めた。長旅で疲れていたのもあり、少年はありがたくその申し出を受け、その代わりに彼女の悩みを解決してやることにした。せめてもの礼だった。
これまで天宮家は村から同い年の異性を迎え入れ婚姻を繰り返してきた。決して人数が多いとは言えないこの木佐萬村は村人ほとんどに血の繋がりがある。それが能力を消す原因になっていると少年は言った。血が濃すぎて才能が受け継がれなくなっていた。血を濃くしても能力が強くなるわけではない。これを解決するには至って簡単で余所から娘を娶ればいい。すれば霊能者の子供が生まれるだろうと伝えた。最初こそは村以外の余計な血を取りこむなんておぞましいと否定したが、少年に「濃くなりすぎた血は血管を詰まらすだけだ」と冷静に反論されてようやく納得した。
息子に婚約者はいたが、家の存続が最優先事項だ。村の娘は自分の言いなりになると自負もあったのかもしれない。早々に婚約を解消し、その少年から紹介された霊能者の娘を嫁に迎えた。結婚は突然の申し入れだったが、嫁は嫌な顔一つもせず、夫を立て、気立てがよく、優しい娘だった。
高遠が証拠として提出した合羽から少量の血痕が見つかり、それを検査したところ被害者のものと判明した。死体も二年前から行方不明だった良太だと分かり、伊織と十倉には何日間にも渡って尋問が行われた。美琴と高遠も同じように尋問を受けたが、山中の助言もあり二人は早々に解放された。アリバイがあり、捜査に協力したことが心象を良くしたようだ。前回は犯人だと疑われて、何日間も勾留させられたので美琴は安堵した。
「そう言えば髪の毛切ったの?」
さっぱりとした後姿に美琴は声をかける。不機嫌そうに振り返った高遠は「あの頭じゃ出歩けないだろ」と答えた。二十八歳の高遠がおかっぱ頭でいるのは恥ずかしいに違いない。長髪も似たようなものだと思うが。幼い少女のようで可愛らしかったのに、と言おうとしたが、山中が近づいてきたので黙った。
「高遠先生、早瀬さん。今回は本当にありがとうございました」
「いえ……、十倉さんの様子はどうですか?」
「あの腐乱した死体が……、明也くんだと分かったら自供を始めてくれました」
山中は十倉から聞いた話を二人に語った。
十倉は先代イブキ様、天宮伊澄の婚約者だった。彼と同年代に生まれた女性は十倉ただ一人で、生まれたときからイブキ様の婚約者として扱われていた。勝手に決められた結婚だったが、村人から崇められる天宮家に嫁げるのは名誉であり、そして伊澄に恋をしていた。目鼻立ちが整っている伊澄はよろず町の女子からも好意を持たれ、イブキ様という役割を与えられているからか、誰にでも親しく優しくしていた。十倉はその伊澄の婚約者という立場を誇らしく思っていた。
高校を卒業し、二人は大学に進学する。卒業してすぐに結婚、という話で、十倉は卒業が待ち遠しかったという。結婚と同時に伊澄は家督を継いで晴れてイブキ様となる。長い四年間が終わり、結婚の準備を進めているときにある霊能者が村にやってきた。聞くところによるとかなり有名な霊能者だと噂された。普段なら天宮家に来客があれば婚約者として紹介されるのに、なぜかその霊能者に十倉は会わせてもらえなかった。その時から薄々嫌な予感がしていた。
霊能者が村を去り、それから数日後、婚約解消を告げられた。青天の霹靂だった。
伊乃里様からは取り繕いもなく、ありのままに解消理由を説明された。そもそも天宮家は霊能者の家系、その家から霊能者が生まれないのは由々しき問題である。このままでは衰退の一途を辿る。何とかしてこの事態を打破しなければならない。これは致し方ないことなのだ。両親はその言葉を丸々受け入れ、一言も反論しなかった。イブキ様がそう仰せられるなら仕方ないと納得したのだ。
だが一瞬にして婚約者という立場を失った十倉の心中は穏やかではない。これまでどれほど天宮家に、伊澄に、イブキ様に尽くしてきたことか。伊澄がいろんな女性に手を出していたのもいずれは自分の下へ帰ってくると信じ目を瞑っていたし、結婚までは純潔を守り続けるものだと教えられそうしてきた。何のためにこの二十四年間、我慢を続けてきたのか分からなくなった。
怒り狂い、そして彼女が思いついた先は、妻という立場を取り戻すことだった。
天宮家の行動は早かった。他所から娘を紹介されるとすぐに伊澄と結婚させた。十倉がよからぬことを考えていると悟られたのかもしれない。その女よりも先に跡継ぎを孕めば、自分は正しい場所に帰れると思ったのだろう。伊澄を誘い出し、逢瀬を重ね、子供を宿した。
伊澄との密会は、主に天宮家の地下で行われた。伊澄の部屋が離れだったのと、顔が広いので外で会うと村人に目撃される可能性がある。灯台下暗し。限られた人間しか知らない地下は疑われにくい。夜になれば村人のほとんどは寝静まり、裏山には人が近づかないので人の目に着くことはなかった。
結婚しながらも伊澄が十倉と関係を持った理由は、本人曰く、「私を愛していた」からだが、どうも信用できない。彼は学生時代にいろんな女性と関係を持っていた。もし十倉を愛していたなら、他所の娘との結婚に反対していただろう。最悪は駆け落ちだってあり得る。伊澄に対する山中の印象は冷静沈着。誰とも親しくしていたけれど、彼が感情を揺らしているのは見たことがないと言う。伊織との話を総合するに、伊澄は十倉に求められたから彼女の要望を受け入れただけではないだろうか。村では偉大だった母の言いなりに動く操り人形。彼自身の意思など、どこにも無かったのかもしれない。いろんな女性と関係を持っていたのだって、その女性から求められたから、そう考えれば彼の一連の行動が推測できる。そして彼がそんな状態だったからこそ悲劇が起きる。
伊澄との子を妊娠したと十倉は伊乃里様に告げた。伊乃里様はその事実を知っていたのか、さほど驚かず、天宮家の血を継いでいる以上、十倉の子供は天宮家で育てると言った。言いつけを守らなかった十倉は家族ごと他県に引越しをさせられ、翌年、密かに子供を出産すると伊乃里様がやってきて子供だけを引き取った。天宮家に嫁いだ娘もまた、十倉と同時期に妊娠していた。つまり伊澄は十倉を相手しながら、ちゃんと夫としての務めも果たしていたのだ。それを知った十倉の怒りは頂点に達した。自分が子を生もうとも、正式な妻が子を産めばその子が跡取りとなる。十倉の子供は出生届も出されなかったので、戸籍上はこの世に存在しないことになっている。あまりにも不憫で自分の努力が全て無駄だったと思い知り、自殺まで考えていたらしい。子供の様子は秘密とされていたが、両親を泣き落とし、暮らしぶりを聞かされて彼女の中に殺意が芽生えた。
自分が産んだ子は明也と名づけられ、将来、イブキ様となる伊織の身代わりとして育てられている。本来であれば、わが子こそ、明也こそが跡取りだったのに、どこの馬の骨とも分からない娘から生まれた子の身代わりだなんて、到底信じられなかった。
十倉の両親は一刻も早く、伊澄や息子の存在を忘れるようにと十倉に見合いをさせた。明也を産んで間もなく、十倉は両親の勧めた男性と結婚し、表面上は穏やかに過ごしていた。結婚してからは天宮家の話など一切しなかったという。
けれど天宮家に対する憎悪は年々積み重なる一方だった。
村から追い出されて十年後、十倉の町に霊能者がやってきた。霊能者、という言葉にいい思い出のない十倉は、出来ることなら会いたくないと思っていた。何の因縁か夫の両親から給仕を頼まれてしまい、その霊能者と顔を合わせることになった。よぼよぼの老人を想像していたが、その霊能者は若く利発な青年だった。修行のため、一年かけて全国を旅している、と説明していた。
青年は二十歳になったばかりで慣れない酒を勧められるがまま口にしていた。温和で礼儀正しい青年は十倉を見るなり眉を顰めた。それからそっと彼女に耳打ちする。
「あなた、随分と酷い目に遭っていますね」
十倉の境遇は両親と天宮家ぐらいしか知らない。両親は数年前に二人とも亡くなっている。夫にもその両親にも彼女は半生を語ったりしなかった。子供がいることすら伝えていない。なのにどうしてたまたまこの町にやってきた青年が自分のことを知っているのか、不思議に思った。そう言えば木佐萬村にやってきた霊能者と名乗った青年も語らずして天宮家の内情を知っていた。この青年も本物の霊能者なのだと、十倉は分かった。
宴も終わり、部屋に呼ばれた十倉はこれまでの恨みを全て話した。最後まで口は一切挟まず、彼は十倉の話を聞き、「大変辛い思いをされてきたのですね」と同情した。十倉に同情をしてくれたのは彼が初めてだった。両親ですら、伊乃里様に歯向かうなど以ての外、お前のせいで故郷に帰れなくなったと十倉に当たっていた。
同情してくれたことがあまりにも嬉しくて、十倉は涙を流した。本来であれば、それだけで十分だった。もう明也のことは忘れたほうがいい。そう思い出したとき、霊能者が口を開く。
「お子さんはあなたと暮らしたかったでしょう。お可哀想に」
その霊能者が何を思ってそう言ったのかは不明だ。ただ感じたままに言ったのだろう。十倉はそう認識している。
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