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第三章
第三章 2
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十倉から話を聞いた長沢が山中を呼びに行った。高遠は一応、十倉や長沢を疑っているつもりはないもの、美琴の問いがあまりにもあからさまだったせいで、ちらちらと視線を向けられた。それは美琴達を怪しんでいる目でもある。
「お茶、淹れますね。どうぞ、ソファに座っててください」
十倉はそう言ってキッチンに立ち、カセットコンロで湯を沸かす。すんなり使えるようこういう事態に備えていたようだ。
それから十分経って長沢が山中を連れてきた。彼の精神的疲労は顔にありありと出ていて、見ているだけで心苦しい。家に帰ったところで満足するほど休めなかったのだろう。長閑以外に表しようのないこの村で殺人事件など誰が予想できたか。
ただ高遠だけは、このような事件が起こるのではないか、と薄々感じていた。それは彼が霊能者だからではなく経験則だ。
高遠は周りを不幸にする呪いを掛けられた。
それがどれほどの効力があり、どんな被害を及ぼすのか定かではないけれど、旅先でこうしたトラブルに巻き込まれるのはしょっちゅうだ。特にこの数年、美琴と出会ってから頻度が増している。
時たま、迷惑を掛ける美琴に「呪いはお前自身じゃないのか」と高遠が愚痴を零すけれど、それはあながち間違っていない。
山中がソファに座り、長沢がお茶を出したところで話は始まった。死体を見ていない十倉にカメラを渡して、見覚えがないか確認をする。長沢も一緒に確認し、死体が映し出されると小さく悲鳴を上げた。
「申し訳ありませんが、この方は存じ上げません……」
「私もです……」
二人はすぐにカメラを山中に返した。いかにも女性らしい反応だ。
「そもそもこの方がイブキ様なら、全身に火傷の痕が残っているはずです。それにもう一つは性別すらも分からない状態ですから……、案外、この場にいないイブキ様が犯人かもしれませんね」
え、と全員が声を揃える。長沢も十倉を凝視し、顔が固まっている。まさか十倉がこんなことを言い出すなんて、誰も予想していなかったのだろう。
「半身麻痺のイブキ様が人を殴殺なんて考えにくいでしょう」
高遠が咄嗟に反論すると、十倉は「可能性の話です」と答え、目を逸らした。場が凍りついたせいか、夏場なのに寒気がする。
「誰かが遺棄した可能性もあります。村の人が犯人とは言い切れないでしょう」
「この村の入り口は一つしかありません。昨夜の雨で山中さんが家を空ける回数が多かったとは言え、日中、誰にも気づかれずに村に入るのは至難でしょう。深夜なら分かりませんが」
「……じゃあ、深夜では」
「それはありえません。よろず町の話によると、土砂崩れは昨晩、停電があった時間に起こっていますから。それにこの村を繋ぐ県道は昨日の六時から通行止めですよ。入ることはもちろん、村から出れば検問に引っかかっているはずです」
今度は山中に可能性を潰されて、さすがに黙り込んだ。半身麻痺しているイブキ様を犯人に仕立てるなんて、かなり無謀な話だ。
「それに日中、山中さんと二人で簡単な確認をしましたが、死斑は完成されて、死後硬直もピークでした。おそらく殺されたのは昨日の夜でしょう。角膜の混濁はほとんど現れていませんでしたが、雨に濡れていたのであまりあてになりません」
「昨夜、私は頻繁に出ていましたけれど、妻は八時半まで家にいました。村に人が出入りしていれば、妻が気づいたはずです。なので高遠先生と二人でこの村の人間が犯人であると結論を出しました」
「山中さんも高遠先生も、犯人を探すおつもりなんですか?」
十倉は訝しげに対面にいる二人を見る。ろうそくだけの明かりではあまり表情が読めない。
「探偵まがいなことはできるだけしたくありませんが、こういったことは時間勝負ですから。放っておいたところで碌な結果になりません。分かる範囲で調べておくべきでしょう」
高遠は引き受けた以上、それなりにやるつもりらしい。わざわざ美琴が背中を押さなくても、結果的にこうなるような気がしたが本人は必死に否定するだろう。なんやかんや言いつつ、人の不正は見過ごせない生ぬるい坊ちゃんだ。
「十倉さんも薄々感づかれていると思いますが、あの時間、あの場所にいたと思われる明也くんが一番の鍵です。彼はどうして大雨の中、外出したのでしょう」
「……イブキ様に呼び出されたと言っておりました。けれどそれ以上は分かりません」
「そうですか」
「ただあの子も被害に遭ってショックを受けているのです。また落ち着いてから話を聞いていただけますか。今はそっとしておいてください」
彼の話が一番肝心なのは明白だ。だがここで何の力もない高遠が無理強いもできない。非協力的だと印象は悪くなるが、高遠の印象など十倉には関係ない。それに警察でもないのにどうして話さなければならないのか、と言われたらおしまいだ。それは山中の前なので言わないだろうが。
「それでは十倉さん、長沢さんの話を聞かせてください。昨日、夕飯を食べ終わってからで結構です」
先入観と言うのは捜査をする上で非常に厄介なものだ。画策しようとする犯人に対し圧倒的優位なわけだが、一人だけやたら詳しく聞いたり異様に疑ってしまえば、周囲に悪印象を与えて言葉に信憑性がなくなる。いくら正しいことを言っていても、判断するのは他人だ。探偵役が絶対の信頼を得るためには公平さを欠いてはいけない。
結論から言うと二人のアリバイは完璧だった。まず長沢だが彼女は中でも一番人と接していた。夕飯を終えた八時、片づけを開始。その時、ソファでバラエティ番組を十倉と明也が見ているのを確認している。それから五分ほど経って、美琴がリビングに顔を出し、「お風呂入りますね」と声を掛けているのを聞いた。八時十分過ぎにダイニングの片づけが終わったので離れへ行き、出した時と変わっていないイブキ様の食事を下げた。ちらりと覗くとイブキ様は苦しそうに寝転がっていた。それは今朝も耳にしていたのと同じ内容だ。リビングに戻ると二人は相変わらずソファでテレビを見ていて、長沢は皿洗いを始めた。
皿洗いを始めてから数分経つと、明也が「部屋に行く」と十倉に話しているのを耳にした。そしてすぐに美琴がリビングにやってきて元気な声で「お風呂、ありがとうございました」と言った。長沢がちらりと時計を見たら八時二十五分だった。十倉が高遠にも早く入るように伝えてほしいと言ったのを覚えている。それから八時四十五分まで動きはなかった。
あまりにも雨が凄いので、十倉は「ちょっと外の様子見てくるわ」と言ってリビングを出た。ようやく皿洗いを終えたので乾燥機のスイッチを入れて一息吐く。まさかこんなに雨が降るとは思っていなかったので、着替えなど持ってきていなかった。一日ぐらいは我慢するしかないと考えていたら、丁度、八時五十分になってテレビで天気予報が始まった。
この地方は記録的な豪雨になっているとアナウンサーが真剣な顔で伝えていて、この雨も未明には止むという予報に安堵してテレビを消した。水回りを拭いていると高遠が風呂から出てリビングにやってきた。高遠は水を飲みに来たようだったので、水を渡して世間話をしていたらどこかで爆発したような轟音が鳴り響いて明かりが消えた。急な出来事に驚いた長沢はパニックになりそうだったが、冷静な高遠に安心するよう言われて落ち着きを取り戻した。あの時、高遠がいてくれてとても心強かったと言って説明を終わらせた。
「あーあ! これだから顔だけ良い奴は!」
鬱憤を晴らすように叫び、美琴はコップに酒を注いだ。話を聞き終り、二人は二階に上がった。寝酒が欲しかった美琴は図々しく長沢に昨日飲んだ日本酒が残っていないか聞いて、部屋に持ち込んでいる。高遠もコップに半分ほど入れたが、ほとんど減っていない。
「いきなり雷が落ちて停電したら動揺するし、彼女は女性だ。お前だって叫びながら階段を駆け下りてきたじゃないか。むしろそっちの方が危ないけどな」
あの暗い階段をよく転ばずに下りれたものだ。
「どーせ、キャッ! とか言って抱きつかれたんだろ」
高遠はその質問に答えない。無言は肯定。なぜか美琴はこういう類にやたら鋭かったりする。
「とにかく長沢さんのアリバイは鉄壁だ。彼女が一人でいた時間はこの家の中で一番少ない。五分から十分程度だろう」
一先ず、長沢は安全圏と言うことだ。美琴はあの優しい子が犯人でなくて心の底からホッとした。
続いて十倉のアリバイだが、八時四十五分までは人と一緒に居た。長沢が離れへ行っている五分間のみ明也と二人きりだった。親族が証言するアリバイは証拠にならないけれど、たった五分間の出来事なので、あまり深く考えずありのままに話してもらった。
四十五分が過ぎた頃、外の様子を見ようと廊下に出たら美琴とばったり顔を合わせている。だが美琴はこの事実を否定している。美琴は八時半前、急激に眠たくなり、雷が落ちるまで熟睡していた。お互い、意見が食い違ったが、とりあえずそれは後回しにしてその後の説明をしてもらった。
離れに置いてあるカッパと懐中電灯を持って家の周りや裏山の様子を見ていたら、雷が落ちて辺り一帯が真っ暗になったから家に戻ってきたらしい。
「十倉さんもアリバイは完璧だね」
「……そうだな」
「じゃあ、やっぱり犯人は明也くんじゃないのぉ?」
高遠は美琴の問いに何も答えなかった。
美琴が知っている人物で残すは明也と山中だが、山中は除外しても良いだろう。彼は川の水量が氾濫警戒水域を越えてからずっと村人を避難させていた。八時半過ぎに村人の避難を完了させ奥さんを連れて公民館で一時滞在してから、そろそろ裏山が危ないと話して九時前に公民館を出た。階段を登っている最中に落雷と停電を確認し、天宮家に到着した。
残すは明也だ。明也の姿は八時半前に美琴が廊下ですれ違ったのが最後だ。彼にはアリバイもないし、何せ犯行近くの現場で倒れていたと言うのはおかしい。十倉がやたらと高遠に突っかかったのも、明也を守るためではないだろうか。
そう考えたら美琴の頭の中で犯人が自然と明也に決められた。
「お茶、淹れますね。どうぞ、ソファに座っててください」
十倉はそう言ってキッチンに立ち、カセットコンロで湯を沸かす。すんなり使えるようこういう事態に備えていたようだ。
それから十分経って長沢が山中を連れてきた。彼の精神的疲労は顔にありありと出ていて、見ているだけで心苦しい。家に帰ったところで満足するほど休めなかったのだろう。長閑以外に表しようのないこの村で殺人事件など誰が予想できたか。
ただ高遠だけは、このような事件が起こるのではないか、と薄々感じていた。それは彼が霊能者だからではなく経験則だ。
高遠は周りを不幸にする呪いを掛けられた。
それがどれほどの効力があり、どんな被害を及ぼすのか定かではないけれど、旅先でこうしたトラブルに巻き込まれるのはしょっちゅうだ。特にこの数年、美琴と出会ってから頻度が増している。
時たま、迷惑を掛ける美琴に「呪いはお前自身じゃないのか」と高遠が愚痴を零すけれど、それはあながち間違っていない。
山中がソファに座り、長沢がお茶を出したところで話は始まった。死体を見ていない十倉にカメラを渡して、見覚えがないか確認をする。長沢も一緒に確認し、死体が映し出されると小さく悲鳴を上げた。
「申し訳ありませんが、この方は存じ上げません……」
「私もです……」
二人はすぐにカメラを山中に返した。いかにも女性らしい反応だ。
「そもそもこの方がイブキ様なら、全身に火傷の痕が残っているはずです。それにもう一つは性別すらも分からない状態ですから……、案外、この場にいないイブキ様が犯人かもしれませんね」
え、と全員が声を揃える。長沢も十倉を凝視し、顔が固まっている。まさか十倉がこんなことを言い出すなんて、誰も予想していなかったのだろう。
「半身麻痺のイブキ様が人を殴殺なんて考えにくいでしょう」
高遠が咄嗟に反論すると、十倉は「可能性の話です」と答え、目を逸らした。場が凍りついたせいか、夏場なのに寒気がする。
「誰かが遺棄した可能性もあります。村の人が犯人とは言い切れないでしょう」
「この村の入り口は一つしかありません。昨夜の雨で山中さんが家を空ける回数が多かったとは言え、日中、誰にも気づかれずに村に入るのは至難でしょう。深夜なら分かりませんが」
「……じゃあ、深夜では」
「それはありえません。よろず町の話によると、土砂崩れは昨晩、停電があった時間に起こっていますから。それにこの村を繋ぐ県道は昨日の六時から通行止めですよ。入ることはもちろん、村から出れば検問に引っかかっているはずです」
今度は山中に可能性を潰されて、さすがに黙り込んだ。半身麻痺しているイブキ様を犯人に仕立てるなんて、かなり無謀な話だ。
「それに日中、山中さんと二人で簡単な確認をしましたが、死斑は完成されて、死後硬直もピークでした。おそらく殺されたのは昨日の夜でしょう。角膜の混濁はほとんど現れていませんでしたが、雨に濡れていたのであまりあてになりません」
「昨夜、私は頻繁に出ていましたけれど、妻は八時半まで家にいました。村に人が出入りしていれば、妻が気づいたはずです。なので高遠先生と二人でこの村の人間が犯人であると結論を出しました」
「山中さんも高遠先生も、犯人を探すおつもりなんですか?」
十倉は訝しげに対面にいる二人を見る。ろうそくだけの明かりではあまり表情が読めない。
「探偵まがいなことはできるだけしたくありませんが、こういったことは時間勝負ですから。放っておいたところで碌な結果になりません。分かる範囲で調べておくべきでしょう」
高遠は引き受けた以上、それなりにやるつもりらしい。わざわざ美琴が背中を押さなくても、結果的にこうなるような気がしたが本人は必死に否定するだろう。なんやかんや言いつつ、人の不正は見過ごせない生ぬるい坊ちゃんだ。
「十倉さんも薄々感づかれていると思いますが、あの時間、あの場所にいたと思われる明也くんが一番の鍵です。彼はどうして大雨の中、外出したのでしょう」
「……イブキ様に呼び出されたと言っておりました。けれどそれ以上は分かりません」
「そうですか」
「ただあの子も被害に遭ってショックを受けているのです。また落ち着いてから話を聞いていただけますか。今はそっとしておいてください」
彼の話が一番肝心なのは明白だ。だがここで何の力もない高遠が無理強いもできない。非協力的だと印象は悪くなるが、高遠の印象など十倉には関係ない。それに警察でもないのにどうして話さなければならないのか、と言われたらおしまいだ。それは山中の前なので言わないだろうが。
「それでは十倉さん、長沢さんの話を聞かせてください。昨日、夕飯を食べ終わってからで結構です」
先入観と言うのは捜査をする上で非常に厄介なものだ。画策しようとする犯人に対し圧倒的優位なわけだが、一人だけやたら詳しく聞いたり異様に疑ってしまえば、周囲に悪印象を与えて言葉に信憑性がなくなる。いくら正しいことを言っていても、判断するのは他人だ。探偵役が絶対の信頼を得るためには公平さを欠いてはいけない。
結論から言うと二人のアリバイは完璧だった。まず長沢だが彼女は中でも一番人と接していた。夕飯を終えた八時、片づけを開始。その時、ソファでバラエティ番組を十倉と明也が見ているのを確認している。それから五分ほど経って、美琴がリビングに顔を出し、「お風呂入りますね」と声を掛けているのを聞いた。八時十分過ぎにダイニングの片づけが終わったので離れへ行き、出した時と変わっていないイブキ様の食事を下げた。ちらりと覗くとイブキ様は苦しそうに寝転がっていた。それは今朝も耳にしていたのと同じ内容だ。リビングに戻ると二人は相変わらずソファでテレビを見ていて、長沢は皿洗いを始めた。
皿洗いを始めてから数分経つと、明也が「部屋に行く」と十倉に話しているのを耳にした。そしてすぐに美琴がリビングにやってきて元気な声で「お風呂、ありがとうございました」と言った。長沢がちらりと時計を見たら八時二十五分だった。十倉が高遠にも早く入るように伝えてほしいと言ったのを覚えている。それから八時四十五分まで動きはなかった。
あまりにも雨が凄いので、十倉は「ちょっと外の様子見てくるわ」と言ってリビングを出た。ようやく皿洗いを終えたので乾燥機のスイッチを入れて一息吐く。まさかこんなに雨が降るとは思っていなかったので、着替えなど持ってきていなかった。一日ぐらいは我慢するしかないと考えていたら、丁度、八時五十分になってテレビで天気予報が始まった。
この地方は記録的な豪雨になっているとアナウンサーが真剣な顔で伝えていて、この雨も未明には止むという予報に安堵してテレビを消した。水回りを拭いていると高遠が風呂から出てリビングにやってきた。高遠は水を飲みに来たようだったので、水を渡して世間話をしていたらどこかで爆発したような轟音が鳴り響いて明かりが消えた。急な出来事に驚いた長沢はパニックになりそうだったが、冷静な高遠に安心するよう言われて落ち着きを取り戻した。あの時、高遠がいてくれてとても心強かったと言って説明を終わらせた。
「あーあ! これだから顔だけ良い奴は!」
鬱憤を晴らすように叫び、美琴はコップに酒を注いだ。話を聞き終り、二人は二階に上がった。寝酒が欲しかった美琴は図々しく長沢に昨日飲んだ日本酒が残っていないか聞いて、部屋に持ち込んでいる。高遠もコップに半分ほど入れたが、ほとんど減っていない。
「いきなり雷が落ちて停電したら動揺するし、彼女は女性だ。お前だって叫びながら階段を駆け下りてきたじゃないか。むしろそっちの方が危ないけどな」
あの暗い階段をよく転ばずに下りれたものだ。
「どーせ、キャッ! とか言って抱きつかれたんだろ」
高遠はその質問に答えない。無言は肯定。なぜか美琴はこういう類にやたら鋭かったりする。
「とにかく長沢さんのアリバイは鉄壁だ。彼女が一人でいた時間はこの家の中で一番少ない。五分から十分程度だろう」
一先ず、長沢は安全圏と言うことだ。美琴はあの優しい子が犯人でなくて心の底からホッとした。
続いて十倉のアリバイだが、八時四十五分までは人と一緒に居た。長沢が離れへ行っている五分間のみ明也と二人きりだった。親族が証言するアリバイは証拠にならないけれど、たった五分間の出来事なので、あまり深く考えずありのままに話してもらった。
四十五分が過ぎた頃、外の様子を見ようと廊下に出たら美琴とばったり顔を合わせている。だが美琴はこの事実を否定している。美琴は八時半前、急激に眠たくなり、雷が落ちるまで熟睡していた。お互い、意見が食い違ったが、とりあえずそれは後回しにしてその後の説明をしてもらった。
離れに置いてあるカッパと懐中電灯を持って家の周りや裏山の様子を見ていたら、雷が落ちて辺り一帯が真っ暗になったから家に戻ってきたらしい。
「十倉さんもアリバイは完璧だね」
「……そうだな」
「じゃあ、やっぱり犯人は明也くんじゃないのぉ?」
高遠は美琴の問いに何も答えなかった。
美琴が知っている人物で残すは明也と山中だが、山中は除外しても良いだろう。彼は川の水量が氾濫警戒水域を越えてからずっと村人を避難させていた。八時半過ぎに村人の避難を完了させ奥さんを連れて公民館で一時滞在してから、そろそろ裏山が危ないと話して九時前に公民館を出た。階段を登っている最中に落雷と停電を確認し、天宮家に到着した。
残すは明也だ。明也の姿は八時半前に美琴が廊下ですれ違ったのが最後だ。彼にはアリバイもないし、何せ犯行近くの現場で倒れていたと言うのはおかしい。十倉がやたらと高遠に突っかかったのも、明也を守るためではないだろうか。
そう考えたら美琴の頭の中で犯人が自然と明也に決められた。
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