マルチな才能を発揮していますが、顔出しはNGで!

青年とおっさんの間

文字の大きさ
29 / 36
第4章

『扉を開いて』

しおりを挟む
 六花大附属高等学校の体育館では、今まさに六花大附属と、華園学園の女子バスケットボール部による練習試合の火蓋が切って落とさせようとしていた。
 もはや、『練習試合』という気軽さはなく、両チーム殺伐とした雰囲気を醸し出している。

 華園学園のベンチ前には、白いユニフォームを纏った乙女たちが、背番号7番の選手を囲み、公式試合さながらの緊張感に晒されていた。

「いい!?この試合だけは絶対に負けられない!だから、皆んな私に力を貸して!」
「ねえ、莉奈?一応ね、私が部長だから試合前の掛け声は私がするんだけど?」

 背番号7の『西野莉奈』よりも頭半分背の高い、背番号4のショートカットの女子は、普段のお淑やかな莉奈の変貌に若干の困惑を覚えながらも、部長として莉奈をたしなめる。

「ごめんなさい!けど、どうしても時雨にだけは負けたくないんです!お願い、皆んな力を貸して……!」
「「「はいっ!!」」」

 チームメイトたちは、莉奈の呼び掛けに息の合った返事をするが、やはり部長だけは納得できない様子だった。

「莉奈!?あなた一応助っ人なんだからね?どんだけ仕切るつもりなのよ!?」
「ごめんなさい部長、よし!じゃあ皆んな頑張ろう!!」
「「「オーーーッ!!」」」
「莉奈!?あとこれ練習試合だからね!?わかってる?ちょっとッ!?」

 対して、六花大附属のベンチには、水色のユニフォームを着た選手たちが、部長を中心に円陣を組んでいた。

「練習試合だからって手を抜くつもりはないわ!それに、ここで勝てなければ大会で勝ち抜くこともできないから!皆んな頑張りましょう!」
「「「はいっ!!」」」
「絶対に勝つわよ!!」
「「「オーーッ!!」」」

 ここだけ見れば、良くまとまった良いチームに見えるだろう。しかし、部長以外の内心は緩みそうな頬を必死で抑えている状態であった。

(部長、いつになく気合い入ってるなー)
(一応、それっぽい事言ってるけど……)
(本当は入月くんを取られたくないんだもんね~)
(乙女だ……)
(皆んな、部長の『女の意地』守ってあげようぜ!)
(部長の恋路を邪魔するやつは、私たちが許さん!)

 かくして、両チームのスタートメンバー5人が、コート中央のセンターラインで並んで向き合った。
 六花大附属の4番、橘時雨。
 華園学園の7番、西野莉奈。
 2人は互いを真正面に据えて、火花を散らしていた。

「時雨、アンタには恋も試合も絶対勝つから!」
「西野さんには悪いけれど、どちらもあなたに譲る気はないわ」

 一方、災いの元となった勇志はというと……
 
『さあーて! いよいよ六花大附属高校と華園学園の試合が始まりまーすッ!! 会場もこの世紀の1戦を今か今かと待ちわびている様子です! 今回この試合の実況をいたしますのは私、『山崎愛也』と、解説には六花大付属高校男子バスケ部の助っ人、『入月勇志』さんにお越しいただきました。入月さんよろしくお願いします』
『あ、はい、よろしくお願いします。 じゃねぇーよ! なんだ!?この机とマイクは!?』

 コートサイドに用意された簡易式の長テーブルとパイプイスが2つ、またご丁寧に『実況』『解説』と書かれた紙が机の前に張り出されている。そこに、愛也と勇志が並んで腰掛けていた。

『えー、学校の備品です』
「そういうこと聞いてんじゃないの! こんな勝手なことしたらダメだろ?早く片付けるぞ!」

 そう言いながら、勇志は撤収作業に取り掛かろうと腰を上げた。

「大丈夫だよ勇志くん、ちゃんと許可取ってるから」
「何で許可が降りたの?普通に可笑しいよね?」
『さあ! 気を取り直して試合に戻りましょう!』

 置いてけぼりの勇志を待つことなく、試合は既にジャンプボールスタートの状態に入っていた。

『お互いのチームが所定の位置に付き、ボールが今!高く上げられました!試合開始です!』

 まずボールを制したのは六花大附属で、素早いパス回しから背番号4番、時雨にボールが渡る。

『おーっと!早速ここで六花大が誇る女神ビーナス橘時雨にボールが繋がった!』

 時雨は直ぐにドリブルに移り、まるで水の流れに沿うように守備ディフェンスを躱して、そのボールをゴールの中へと導いた。

『入ったーッ!最初の得点は六花大附属!『六花大の女神』橘時雨選手が、優雅にコートを舞うーッ!』

 実況の愛也が盛り上がる中、華園学園では時雨の先制打を受けて、時雨の危険度を大幅に引き上げるように合図をしていた。

「時雨、予想以上にできるわね…… いいわ、相手にとって不足なし!」

 莉奈は味方からボールを受け取ると、さっきのお返しとばかりにドリブルからシュートと、素早い動作モーションで繋いで、あっという間に得点を返した。

『目にも止まらぬ電光石火!華園学園の西野莉奈選手の稲妻のような切込みーぃ!』
「流石に大見得を切っただけはあるようね、西野さん」
「それはこっちの台詞よ、時雨」

  両チーム共、テクニックに大きな差はなく、それと同じく点数も拮抗していた。

『さあ!ここでバスケのルールがよく分からないという皆様のために、簡単にルールを説明してもらいましょう!では、入月さん』
『え!?俺!?』
『両チームとも得点が2点ずつ加算されていますが、バスケットボールの点数は2点ずつ加算されるということで宜しいのでしょうか?』
『えーとですね、シュートで加算される得点は1点から3点までありまして、それぞれシュートを決める場所、タイミングで異なります』
『成程、では1点の時どのようなタイミングなんでしょう?』
『1点は、シュート動作モーション中にファールを受けて、フリースローが与えられた時のシュート、1本につき1点となります』
『成程、では、2点と3点はどのようなタイミングなんでしょう?』
『2点と3点はゲーム中のシュートを打つ場所で分けられます。ゴールの真下の線エンドラインから、コートの半分ハーフライン手前の大きな半円形スリーポイントラインの中でシュートを決めると2点。スリーポイントラインから外でシュートを決めると3点となります』
『成程、やはり口頭の説明だけでは分かりづらいですね!詳しく知りたい方はWEBで検索してください!』
『おい!じゃあ何故やらせたッ!?愛也ーッ!』

 勇志がルールを説明している間も、コートでは白熱したゲームが繰り広げられている。
 お互いのエースを筆頭に、両チームとも得点を量産していた。
 エース同士ということもあり、守備ディフェンスはお互いに時雨と莉奈で競い合っていて、一進一退の凄まじい攻防を繰り広げている。

「時雨、私のスピードについて来れるなんて、素直に感心したわ……!」
「お褒めに預かり光栄ね。助っ人だとは聞いていたけれど、まさかこんなに強いだなんて思っていなかったわ……」
「それはこっちの台詞よ!?」

 時雨がボールを奪えば、莉奈がボールを取り返したり、莉奈が3ポイントシュートを決めれば、時雨がお返しにとばかりに、3ポイントシュートを決める。
 息つく間もないスピーディーな攻防が、見る者の目を釘付けにする。それだけではなく、上品で麗しい女神と、活発で可憐な戦姫の2人が、持てる全てを出して競い合う姿が、一際輝いて見えるのも理由なのだろう。
 服や髪が乱れるのも気にせず、ただ目の前の相手と、その先のゴールを見据えて、全力で戦う。その滴る汗も、今の2人にとっては自身を輝かせるための最高のスパイスだ。

『さあ! 前半戦も残り僅か! 得点は華園学園が若干リード!このまま華園学園のリードで前半戦が終了してしまうのか!? それとも六花大が追い抜くのかーッ!?』

 時雨も莉奈も、ここまで交代メンバーチェンジすることなくプレーしており、間違いなく疲労しているはずだが、2人の顔には薄っすらと笑顔が見られ、どこか試合を楽しんでいるようにも感じられた。

『あ~ッと、ここでブザーです!前半戦終了~』

 得点盤には『六花大付属48点』、『華園学園51点』と表示され、その差は僅か3ポイントしかない。 

 六花大のベンチでは、満身創痍の選手たちがベンチに座り、それを他のメンバーや、後輩たちが労っている。華もタオルや飲み物を配り、選手たちに向かってタオルを扇ぎ、少しでも暑さが和らぐようにと、風を送っていた。

(こ、これが橘部長たちの本気……!?)

 華は、今まで何度も試合で時雨たち、レギュラー陣のプレーを見たことがあったが、今日のような闘志に溢れたプレーは見たことがなかった。
 華が今まで見てきた時雨のプレーは、いつも気品があり、何処か余裕さえ感じるようなものだったが、今はそんなものをかなぐり捨てても、目の前の強敵を何としても倒したい、勝利するんだという強い意志を感じる。
 その強い想いに、メンバー全員が引っ張られている… いや、合わさって同調しているような気がした。

「全員聞いて! 相手は予想通り一対一の守備マンツーマンディフェンスで当たってきてるから、攻撃形態オフェンスはこのままで行くわ! 」「「「はいっ!!」」」
「問題は相手の攻撃力ね、相手チーム全員の突破力が今まで戦ったどのチームより高い。とくに7番は私も完全には止めきれないわ」

 誰かの息を呑む音が聞こえる。六花大の絶対的なエースを持ってしても止めきれないということは、つまり、ここにいる部員誰一人も莉奈を抑えきれないということと同義だった。

「1人で止められないのなら、皆んなで止めればいい。後半は守備ディフェンス一対一マンツーマンからエリア間守備ゾーンディフェンスに変更、各自ポジションに変更はなし!後半逆転するわよ!」
「「「はいっ!!」」」

(すごい気迫……!)

 華は、自分が試合に出ているわけでもないのに、緊張で胸が締め付けられるような感覚に襲われていた。

「――花沢さん」
「はいッ!?」

 不意に時雨に呼び止められ、緊張も相まって声が少し裏返ってしまった。

「花沢さんは前半の試合を見てて、どうだったかしら?」
「え…、私はその、橘部長のプレーをずっと見てて、綺麗でカッコいいなって… でも……」
「でも?」
「その、いつもより『勝ちたい』『負けられない』って気持ちと、純粋に『楽しい』っていう気持ちが
伝わってきて、緊張と興奮が止まらないんです!」
「そう、入月くんが花沢さんに伝えたかったことが少し分かった気がするわ……」
「それって……」
「花沢さん、後半は私だけじゃなくて、チーム全体をよく観なさい」
「チーム全体を、ですか……?」
「そうよ、それがきっと、花沢さんが『バスケを楽しむ』という答えに繋がるはずだから……」
「バスケを… 楽しむ……」

 チーム全体を見ることが『バスケを楽しむ』ということと、どう繋がるのか見当もつかず、華は頭を抱えてしまう。

「――こんな話をしてしまうなんて、私も入月くんに影響されているのかしらね……」
「橘部長、今何か言いましたか?」
「いいえ、何でもないわ……」

 その後直ぐにハーフタイム終了のブザーが鳴り響き、両チームの選手たちがコートの中に舞い戻った。

『さあ!後半戦がまもなく開始されます!』
『はぁ……』
 
 この愛也の実況ごっこに、後半も付き合わされるのかと、勇志は大きな溜息をついた。

『ちょっと、勇志くん?マイク入ってるから』
『え?あ、ゴホンッ!失礼しました!』

 体育館には、他部活の生徒たちも目立ち始めていて、部活動の合間を縫って観戦に来てくれたのか、ジャージや柔道着などの服装の生徒たちもいた。
 そして、勇志が座る実況&解説席の目の前には、放送委員と名札をぶら下げた生徒が、肩に背負った大型のカメラを回して、試合を撮っていた。
 その横にはアシスタントらしき生徒に、マイクを片手にアナウンサーらしき生徒も控えている。

「ねえ愛也、彼らは何だね?」
「放送委員の人たちだよ、ほらこのマイク借りるのに事情を話したら、自分たちもぜひ撮影したいって言ってさ」
「へぇー」
「許可取るのに時間掛かったんじゃない?後で勇志くんの解説も撮りたいってさ」
「はあ!?嫌だよ!今、素顔だよ?」
「『素顔』って言っちゃってるし、嫌なら自分で断ってね?」

 仮面マスクを被った【Godly Place】の『ユウ』であれば、カメラを回されても動揺しないほどには慣れてきていたが、素顔である『入月勇志』となると話が違ってくる。素顔のままカメラで撮られるなんてどんな罰ゲームだ、くらいにしか考えられなかった。
 勇志と愛也が戯れ合っている間に、試合は後半戦に突入していた。

 両チームの選手たちの息づかい、身体と身体が激しくぶつかり合う音と共に、会場の熱気も上がり始める。

『あ~っと!何とかシュートを防いだが、惜しくもファウルになってしまった~!』

 特に後半戦は、点数が拮抗しているため、お互いに離されまいと反則ファウルが目立った。
 バスケットボールでは、相手の動き制限する為に、手で相手を掴んだり、引っ張ったりというプレーが反則ファウルになり、相手側のボールになったり、フリースローが与えられたりとペナルティーが課せられる。そして、1人の選手が5回ファウルを繰り返すと退場になり、その試合はもう出場することができなくなってしまう。
 しかし、体力を消耗して身体が疲れてくると、どうしても手で相手の動きを牽制しようとしてしまうため、ファウルが目立ってくるのだ。
 自陣のベンチの後ろ側から、全体を見ていた華も、そのことに気付いていた。

(後半に入ってお互いにファウルが増えてる……?)

 華は時雨に言われた通り、チーム全体とコートの全てを見るように意識を配らせていた。

(疲労が溜まって余裕がないから…?でも、それだけじゃない気がする……)

 ファウルをして相手にボール権が渡ってしまうが、どちらのチームもシュート動作モーション中にはファウルをしていないし、受けていない。ファウルをしてしまうのは決まって、こちらのミスや、パスをカットされてしまい相手が有利に立った瞬間が多い。

(もしかして、わざとファウルになるようにしているってこと……?)

 ファウルすると、否応無しに審判の介入があり、残り時間のタイマーも一時止まる。つまり、六花大も華園も、お互いに相手チームを流れに乗せないようにするために、敢えて試合を一時的に中断してコントロールしようとしていたのだ。
 そして、もう一つ大きな理由として……

(そうか!橘部長の体力を温存させているのね!)

 選手のファウル回数を見ると、時雨以外のメンバーたちがファウルを多くしているのが一目でわかる。
 華園学園のエースである莉奈を抑える為、そして
、六花大の得点源ポイントゲッターである時雨の体力を、最後まで持たせないといけない。しかし、莉奈のスピードについていくには、相当の体力を消耗する。そのため、他のメンバーたちが、時雨が長距離を走ったりと、負担のかかるタイミングでファウルをし、試合を中断させていたのだ。

(先輩たちは、それを試合中に自らの判断で行っているんだ… 自分のためでなく、橘部長を、何よりチームの勝利のために……)

 華にもようやく理解することができた。時雨がいつも他者を惹きつけるような凄いプレーが出来る理由、それを誰からの邪魔も受けずに出来るのかを……

 「バスケはチームの皆んなで1人なんだ……!」

 バスケの上手い下手は関係ない、個人の長所をチーム全体で活かし、個人の短所をチーム全体でフォローする。
 今回で言えば、時雨を全試合フルタイムで出させる為に、メンバーが交互にファウルを取って試合を一時中断させている。その光景を見たベンチのメンバーたちも、それぞれがいつ交代しても良いよう準備アップをしていることも、全員で勝利を掴む為に最善を尽くしている結果だった。

(私は橘部長に憧れて、橘部長みたいに強くて綺麗な人になりたくてバスケを頑張ってきた)

 誰にも負けない強さ、テクニック、それに対する絶対的な自信をつけるために、華は努力を惜しまなかった。

(けど、私は橘部長の華やかさに目が眩んで、周りのことが全く見えてなかった……)

 時雨が『誰にも負けない』という強さは、他のチームメイトのバックアップがあって初めて、形になるということを……

(そして、橘部長の自信は、六花大附属高等学校女子バスケ部、全員の相互の信頼関係の上に成り立っているんだ!)

 「バスケは1人じゃ出来ないスポーツなんだ!」

 華は、試合中にも関わらず大きな声を上げた。周りの視線を集めても全く気にならない。むしろ、勇志が『バスケの楽しさ』について問いかけた意味、時雨が『チーム全体を見なさい』と言ってくれた理由、その全ての点が繋がって、ひとつの答えが導き出された、そのことが嬉しくて堪らなかった。

 突然、華の目の前から突風が吹いた気がした。目の前を覆っていた暗い気持ちが、風と共に通り過ぎていく。目を開くと、そこはバスケットボールのコート、そして部員たちがひと所に集まっている。その先頭に立っている1人の男の人、顔は映っていない。けれど、華にはそれが不思議と、『入月勇志』であると分かった。
 勇志が伸ばす手に、華は一度は躊躇うも、勇気を出して自分の手を伸ばした。

 2人の手が重なった時、顔が見えない勇志が微笑みかけたように感じた。

『これでやっと一緒にバスケが出来るね……!』
「――はいっ!」
『さあ、一緒に戦おう!そして、一緒に楽しもう!』

 顔の見えない勇志がそう言い終わった瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
 その時、華の視界に映ったのは、時雨がブザーより一瞬速く、シュートを放った瞬間だった。
 得点板には六花大が78点、華園学園が80点と表示されている。
 体育館は静まり返り、まるでスロモーションを見ているかのように、ゆっくりとボールがゴールへと吸い込まれていく。
 審判が、右手の人差し指と親指を立て手を、大きく振り下ろした瞬間、再び時が戻った。

「「「ウォオオオオオッ!!!」」」
『入ったーッ!!』

 体育館中がその最後のシュートブザービートに沸き、実況していた愛也も、卓上マイクを両手で掴むようにして叫んでいた。

『これで最終スコアは六花大80点、華園学園80点で、引き分けドローです!』
「「「ワーーーッ!!!」」」

 練習試合ということも忘れて、公式の試合かのように盛り上がる生徒たち。それほどまでに、この試合が、見るものを惹きつけるような白熱した試合だったということに他ならなかった。

『寸前のところで六花大が食らい付いたーッ!両チームとも最後まで一歩も引かない、手に汗握る試合展開でした!解説の入月さん、どうでしたか?』
『いやー!皆さんお疲れ様でした。本当に良い試合でしたねー、いやー、良いもの見せてもらったなー!』
『入月さん、何か解説らしいこと言ってもらって良いですか?』
『え!?えーと、そうですね、両チームとも最後まで攻める姿勢を崩さず、5人の息の合った連携で、お互いのエースを前面に押し出しながら最後まで走り抜いたのが素晴らしかったですね!』
『おお、ちゃんとそれらしいことが言えるんですね~』
『ちょ、おま!?』
『さあ、そろそろ両チームの選手が中央に集い、整列します。そして、挨拶と共に握手が交わされました!試合開始直前は睨み合っていた両エースも、互いに今、友好の握手が交わされました!』

「この勝負、私の負けね。悔しいけど… けど、すごく楽しかったわ」
「いいえ、試合が引き分けなら、私たちの勝負も引き分けだわ…… それに、西野さんのスピードと切り込みカットインの方が、何枚も上手だったわ」

 握手をしながらお互いの健闘を讃え合う2人には、試合前の険悪なムードは全く感じられなかった。
 喉元過ぎればというものなのか、それとも試合の中で、プレーを通してお互いに何かを理解し合ったのかもしれない。めぐりあい宇宙コートである。

「この場合、さっきの約束はどうすればいい?」

 莉奈が結んだ手を解きながら、時雨に訪ねている約束とは、試合の前に2人で言い争いながら決めた「試合に負けた方が二度と勇志に近付かない」というもの、所謂『近寄らずの誓い』である。

「そうね、引き分けなのだから、お互いに今まで通りでいいんじゃないかしら?」
「今まで通り、ね~…… 時雨は今のままでいいの?」
「それって…… どういう意味かしら?」
「そのままの意味だけど、だって時雨と勇志は『友達』なんでしょ?」
「ええ、まあそうなるのかしらね……」
「私はそれ以上の関係になりたいし、なるつもりだから!」
「な……!?私だって、入月くんがどうしてもって言うなら考えなくもないわよ!」
「ふーん…… あくまで受け身ってスタンスなら、こっちの勝負は私の不戦勝ってことになるのかしら?」
「はー!?どうしてそうなるのよ!?そもそも、入月くんの気持ちだってあるのだから、私たちで勝手に決められることではないでしょう!?」
「んー… それもそうね……」

 周りの目など全く気にせず、意中の人物について話し合う2人を見て、両チームの代表が話し合い、『恋を見守り隊』という義勇軍が結成されたのは、また別の話である。

 それだけ大々的になってくると、やはり当人の耳に届いてしまうのではないかと心配になるところだが、勇志の方はというと、試合後のコメントを撮らせてほしいと押し掛けてきた放送部の面々に捕まり、全くこれっぽっちも自分の話がされているなど知らなかったし、今後も知ることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...