迷宮のすゝめ〜現実世界に生成されるリアルダンジョンで働きます〜

アヴィ丸

文字の大きさ
10 / 13

10話 ミノタウロス

しおりを挟む
 息を潜めて身を引くくし静かに歩く。ミノタウロスが動いていないということは、まだダンジョンに俺たち調査員が有害だと判断されていないからだ。
 ゲームでもボスは部屋に入るまで動かないのと同じく、ボスクラスの大型は侵入者を認識するまで動かない。鉱石を軽く削る程度なら問題は無い。元々不安定な存在の建造物だからか、薄く削る程度ならダンジョンは無視する。

 動く時はこちらがなにかダンジョンに致命的なことをしてしまった時だけだ。

「半分くらい来ても動かないな⋯」

 源さんもミノタウロスが動く気配を感じないのか小さな囁き声でつぶやく。源さんが手で招き、一度隊列を狭く集めミノタウロスの観察をしながら現状の把握を行う。

「動かないならラッキーだ。このままB1を目指す。ボスを目視し、地下迷宮も探索すれば討伐隊に渡す情報として充分だ。来た道を戻って帰れる」

 不動のミノタウロスを起こさなければ調査を終えれる。ここまで来て動かない時点でミノタウロスは攻撃を受ける、もしくは敵意ある行動を起こさない限り動かない可能性が高かった。
 源さんの判断も当然の結果で誰も首を横には降らなかった。

「よし、いくぞ」

 またホームドアに隠れてゆっくりと進む。足元、装備が音を立てないように気を使う。小さな音で動かないのがわかっていても揺れ動くものを抱えてしまうのは当たり前の行動だろう。
 敵が動かなくても死地にいる現実は否応なく俺たちの心に恐怖を産みつけてくる。
 前の奴らも顔は見えないが背中から怖いが溢れだしている。

 またゆっくりと数分歩くと地下への階段に着いた。それまで微動だにしないミノタウロスが余計に恐怖をかりたてる。

 源さんが手を挙げ「下に行く」と振り下ろす。前のやつらも頷きそれに続く。
 先頭のマプ男がB1の床に足が着いた瞬間。

「ザザ⋯ザザザ⋯」
(!?)

 ダンジョン内で機能するはずのない校内放送が突如として鳴り出した。
 何を話すかは分からないが、ノイズが四方八方から鳴り響く。
 調査隊全員の足が階段で止まる。

(やばいやばいやばい!)

 B1に足を踏み入れる。それがトリガーのような気がした。
 俺が最悪を想定し、答えが出る前にアナウンスが鳴り響いた。その声はいつも聞く予め録音されていた機械音声なのにやけに抑揚のある生の声のようだった。

「16時37分にアステリオス・ラビュリントスに生け贄が届きました。7名は生け贄として地獄でアステリオスが殺し、残りの3名は見つけ次第嬲り殺します」
(フィールドギミック!)

 出現数が限りなく少なく調査隊が足を踏み入れるまで何がトリガーかすらも分からないパンドラの箱。
 今回のようなミノタウロスが動く条件が指定されている場合は次からはただのダンジョンになる。討伐隊は火力を持ち込んでただ
ミノタウロスを討伐するだけだ。
 俺たちの犠牲の上で。

「源さん! ミノタウロスが動く!」
「分かってる! お前ら早くB1に!」

 源さんは足を止めて全員を1度B1へ下ろす。その不思議な先導はアナウンスを思い返せば直ぐに理由がわかった。
 全員が降りた後、ミノタウロスが来る前に源さんから簡単な今回のダンジョンの考察を聞かされる。

「フィールドギミックとはな⋯。ひとまず見つけ次第嬲り殺される3人は俺と八木、勇だろう」
(やっぱりな。残りの3人はB1に踏み込んだ生け贄の余剰分だ。だから源さんはアナウンスを聞いた直後に足を止めて前に全員を行かせた)
「生け贄は順次と言っていた。時間なのかただの順番なのかは分からないがB1に着いた順⋯っていうのが俺の読みだ」
「にしても地獄たぁ洒落がきいてんな⋯考えた奴とお友達になりたいわ」

 八木が冗談をつぶやく。誰もそれに笑う様子はない。
 マプ男は顔を白くするが、奴もゴールドの調査員。恐怖はしても自暴自棄にはならない。

「じゃあ僕は生け贄のスタートの前にB1をざっくりマッピングしてきます。7番目におりたのは⋯田中さんついてきてください」
「分かった」

 田中と呼ばれた男が頷いてマプ男についていく。これで顔を見ないようにしていた男の苗字を知ってしまった。田中が死んだという聞くのがストレスになるの間違いなしだ。
 俺はシャットアウトしてた情報が耳に入ってしまったことにため息をついた。
 他の奴らも話し合い動いたが、俺は聞こうとしていないから耳に入らない。今から死ぬ可能性のある奴らの顔と声を覚えるなんて真っ平御免だ。

 迷宮で殺戮鬼ごっこが始まるというのに俺は自分のことばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

2週目の人生ですが、生きていた世界にファンタジーがあるとは思ってなかった

竹桜
ファンタジー
 1人で生きていた男はある事故に巻き込まれて、死んでしまった。  何故か、男は生きていた世界に転生したのだ。  2週目の人生を始めたが、あまり何も変わらなかった。  ある出会いと共に男はファンタジーに巻き込まれていく。     1周目と2週目で生きていた世界で。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

処理中です...