神官の特別な奉仕

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番外編

番外編 スルトの迷惑な客人6

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日が暮れかかり、空が真っ赤に染まる時間、サーシャの邸宅の大きな門の前で、レラとコウは呆気に取られていた。


 とりあえず、コウはレラに聞いたことをサーシャに報告すべく、この家まで出向いたのだが……。

 門の前では大きな馬車が数台止まり、門兵と御者と思しき者が大声で入る入らないで揉めていた。

 門の前が完全に塞がっている上、中に入るどころか門番に何があったのか聞くことさえ憚られる状況だ。

「……何が起こっているんだ」

「さあ……」

 門兵と御者の話を聞く限りでは、邸宅の主人不在の中、連絡もなく勝手に訪れた貴族が、中に入れろと騒いでいるようだった。

 門兵は一度お帰り願い、改めて出直すようにと言っているのだが、まったく聞く気がないらしい。

 よーく聞くと婚約者がどうのこうのという言葉が聞こえる。

「……婚約者……? おい、なんだか雲行きがあやしい。レラさん、何か知らないのか」

「今日は僕も、話の途中からちょっと立ち聞きした程度だからね」

 二人は少し離れたところから見守っていたのだが、この騒動に気がついた者らが野次馬のように集まってきて、それに気がついた家来が慌てたように邸宅から出てきた。

 そして門兵に門を開けるように指示し、馬車を中に通していた。



「すみません」

「おや、コウ様。レラ様もお帰りですか」

「サーシャさんかスルトさんにお会いしたいのですが」

「申し訳ありません。旦那様はまだお戻りではなく。そしてあいにくなのですが、先ほどご覧いただきましたように客人が見えまして。本日はスルト様もコウ様とゆっくりお話できる状況ではなくなってしまいました。私ももう戻らなくてはなりません」

 そう言い、レラの方を見ると「レラ様はどうぞ邸宅へ」と手招いた。

「レラさん、もしスルトさんに話せるならさっきの話を!」

 その言葉にレラが小さく頷くと、家来の後をついて中に入っていった。




△△△




 スルトが部屋で大人しくしていると、外から馬車の音がすることに気がついた。

(馬車? サーシャは馬車では帰宅しないし……こんな時間に客人かな)

 それは複数の馬車の音で、ガラガラと重い音を響かせていた。

 客が来ても正妻でもないスルトが相手をすることはまずない。もし何かあれば家来か誰かが呼びにきてくれるだろうと、部屋の中から様子を見ることにした。

 だがにわかに階下が騒がしくなり、何か大きな荷物を邸宅へ搬入しているような音までする。

(なんだろう。今日そんな騒ぎになるような大きな予定は入ってないはずだけど)

 本当に客だったらまずいので、念の為見られてもいいように身なりを整え、階段からそっと階下を確認しにいった。



「私の部屋はどこ!? 絶対にサハル=ディファお兄様のお部屋の隣よ!」

「プリースカ、もちろんさ。家来! プリースカの部屋をさっさと用意しろ!」

「大変申し訳ございません、急だったものでまだお部屋の用意ができておりません。客間をご用意いたしますので、ひとまずそちらへ」

「なんですって!? 私はお兄様の婚約者ですのよ!? 客間だなんて! ひどいわ!」

 階段の下のロビーで大騒ぎする女性。そしてその横には女性の父親らしき者が、家来を相手に問答をしていた。

(サーシャの婚約者だって? あの女の人が?)

 どんな人なんだろうとそっと階段を降りていく。

 レラ以上に見事な金髪で豊満な体つきの美しい女性。肌の色はサーシャと同じ褐色で、華やかな面立ちはなんとなくサーシャに似ている気がした。

 だが寡黙なサーシャとは違い、ひどく騒がしい女性だった。



「ちょっとあなた! そんなところで立ってないで、荷物を運んでちょうだい!」

 プリースカは階段で立ちすくむスルトに気がつき、イラついたように指示をした。

「え、あ、あの俺……」

「スルト様!!」

 家来がスルトに気がつき、思わず叫んだ“スルト”の名に、プリースカが反応した。

「あ、ら? スルト……? お兄様が飼われている男娼ペットのお名前よね。確か。……ふーん。何よ普通ね。お兄様ったらどうせならもっとマシな子を選べば良かったのに」

 ふふふっと意地悪く笑うと、スルトにもう関心がなくなったのか、そっぽを向き、父親らしき人物と話をはじめた。

「スルト様、申し訳ありません。ちょっと話の行き違いがございまして……」

「あの方はサーシャの婚約者なんですか」

「……正確にはまだ留保でございますが、ご本人らはもう、そのおつもりのようでして……。階上の旦那様とスルト様のお部屋からは遠い客間を用意するつもりでございます。スルト様になるべく近づけないよう注意いたしますので、スルト様はどうかお部屋に」

「……わかった」

 どうやら婚約者と名乗る女性は押しかけ婚約者で、サーシャとの間に既成事実をつくりに来たようだった。一度でも関係をもてば、そのまま婚姻と、そういう筋書きなのだろう。



 部屋へ戻りながら階下のプリースカの様子を覗き見るが、あの女性はマズい。

 絶対に仲良くなどなれないタイプだ。彼女が正妻になるのだけは勘弁してもらいたい。

(彼女が正妻になったら、赤ちゃんを抱っこなんてさせて貰えないだろうなあ)

 それどころかサーシャに近づくことすらできなくなるかもしれない。

 大きなため息を吐きながらスルトは部屋へ戻った。




 その夜、プリースカ来襲の騒ぎを聞きつけ、急遽サーシャが神殿の詰め所から戻ってきた。

 本当ならまだ仕事が残っていたが、さすがに邸宅で起こった騒動を放置できなかったのだろう。

 そしてサーシャが帰宅すると、いつもならすぐにスルトが呼ばれるのだが、この日に限っては侍従がサーシャ帰宅を告げた以外、スルトが呼ばれることはなかった。



 今日はもしかするとサーシャは来ないかもしれないと、ひとり寝室で横になっていると、寝室の扉が開き、寝台の横にある長椅子にドサっと腰掛ける音がし、サーシャには似つかわしくない深いため息が聞こえた。

「……サーシャ?」

「…………スルト、起こしたか」

 スルトが起き上がり、真っ暗な部屋に佇むサーシャの方に向くと、サーシャも長椅子からこちらを見ていた。

「寝ないの?」

「…………いや、少し考えることがある」

「プリースカさんのこと?」

「ああ」

「さっきまで一緒にいたの?」

「そうだ」

「それで、彼女とは婚姻するの?」

 俺はどうすればいい? という問いを言いかけたが、言葉を飲み込みスルトは口を閉じた。


「する気はない……が、ここにいる間、共寝をしなくてはならなくなった」

 サーシャは忌々しそうにそう答えると、意を決したように長椅子から立ち上がり、薄暗い中、迷いもせず寝台にいるスルトに近づいた。

 そして愛おしそうにスルトの頬を指で撫で、じっと見つめるスルトの唇に唇を重ねる。

「……俺は大丈夫だよ。サーシャ。覚悟はしているんだから。で? いつから?」

「……明日だ。だが一度きりで納得させる」

 逞しい腕に抱かれながら、スルトは、明日からこの腕のに抱かれるのは俺じゃなくなるのかと、とっくに覚悟は決めてるとはいえ、心中は複雑だった。
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