降嫁した断罪王子は屈強獣辺境伯に溺愛される

Bee

文字の大きさ
25 / 61

25 辺境伯の言い分

しおりを挟む
「……ったく、人を煽るだけ煽って帰っていったな」

 そうブツブツ言いながら顎髭を掻く辺境伯が、こちらのほうに歩いてくる。
 
 2人きりになりたくないローレントは、「僕も部屋へ戻ります」と椅子から立ち上がり、寝室に向かおうとした。

「待て。少し話がしたい」
「——え? いや、でも……」

 2人きりになれば、先ほどの話を蒸し返し、また口論になるかもしれない。
 今日は疲れてしまった。部屋へ戻って、ひとりで考えたい。
 
「いいから座ってくれ」
「…………」

 有無を言わさない辺境伯の態度に、ローレントは渋々椅子に座り直した。
 その辺境伯も、ローレントが椅子に座るのを見届けてから、先ほどまで座っていた斜向かいの長椅子にゆっくりと腰を下ろし、その大きな背を丸めるようにやや前かがみの姿勢で両膝に肘を付き手を組んだ。

「……少し、誤解をとかねばならないだろうと思ってな」
「……誤解?」
「ああ。お前が俺のことをあんなふうに思っていたとは、俺も知らなかったからな。一度ちゃんと話をすべきだと、そう思った」

 それは興奮状態のローレントが、ベッドの上で怒りのままにぶちまけてしまった本音のことだ。

「……ああ、でもそれについては、さっきラミネットたちからいろいろと聞いたから、もういいよ。誤解は解けた。それでもういい」

 そう立ち上がろうとしたら、辺境伯が「待て」と太い手がローレントの手をつかみ、椅子へと引き戻した。
 
「使用人の話もそうだが、それだけじゃない。俺がお前に、自分を罪人だと思わせてしまっていることについてだ」
「……実際に僕は罪人なのだから、君にそう扱われて当然のことだ。ただ僕を追い詰めるようなやり方をやめてもらえばそれで……」

 ローレントがそう答えると、辺境伯は「だから、そうじゃない」と苛立つように顔に手をやった。
 そんな辺境伯を、ローレントが困惑したように見た。

「? 使用人の件は、さっきの話で理解したが?」
「俺はお前を一度だって罪人扱いなどしたことがないと、そう言いたいんだ」
「……僕がそう感じたのは、それのせいだけじゃない。ここに来た当初から、僕はここでなんだと感じていた」
「そういう立場?」
「だから、〝妻〟というのは建前だってこと。君は王に貸しを作るため、罪人の僕を引き受けただけ。本来の君の役目は、この地から僕を出さないよう監禁し、見張ることだろ?」
「……なんだそれは。お前にそういう話を吹き込んだ奴がいるのか? まさかラミネットじゃないだろうな」
「まさか。ラミネットは侍従としての分をわきまえている。だから、僕がそう感じているという話で、他の誰の影響も受けていない。それに、ここに来てから君以外の話し相手が、僕にいたと思うかい?」
「——俺がお前にそう思わせたってことか」

 ローレントの皮肉に、辺境伯は、はー……と大きなため息を吐き、頭を掻いた。

「……そんなつもりはなかったんだ」
「最初から君は、僕に友好的ではなかったと思うけど。城に入った時だって、有無を言わさず僕の侍従をすべて追い返してしまうし」
「あ、あれについては、別にお前を孤立させようと思ったわけではなくだな。事情があったんだ」
「事情? 良からぬ企みしないよう、僕から侍従を引き離したんだろ」
「違う。まあ……言ってしまえば、単に金の問題だ。お前と一緒に奴らも受け入れてしまうと、多額の給金が発生する。食料事情もよくないここで、不要な人材を受け入れるわけにいかなかった」
「……僕の支度金があったはずだが」
「そんなもの、お前を住まわせるため、この城を改修したその費用で大半が消えた。もちろん支度金は多額だったから余剰分があるが、高給取りの彼らに給金を継続的に支払えるほどの余裕はない。身支度はひとりでやれば事足りるものだし、結局いずれは不要になる者たちだった」
「支度金の大半を使った? そんなにこの城は荒れ果てていたのか」
「まあ、遺跡だからな。ここは。頑強に作ってあったから、城としての役割は十分だったが、住むとなったら別だ。おおがかりな改修が必要だった。お前が来ることになり、急遽3階を改修した。これでもかなりきれいになったんだ」

 ローレントはあらためて、この部屋の中を見渡した。
 
 なんの飾りもない、むき出しの石壁の部屋。
 辺境伯の体のサイズにあうものを適当に選んだといわんばかりの、愛想のかけらもない無骨で不揃いの家具。
 それに比べ、ローレントの部屋や寝室は、まだしつらい良く気が利いているほうだ。
 
 寝室もローレントが来るまで手つかずだったとしたら、辺境伯はその大きな体をどこで休め寝ていたんだろうか。
 
「じゃあ、僕を酔い潰したのは? 最初、冷たいと思った君に歓待されて、僕はちょっと嬉しかったんだ。外では部下がいるからそっけなかったのかなって。嬉しくて、ついたくさん飲んでしまった。でもその結果、君にはひどい目に遭わされた」
「…………その、酔わせたのは……、お前から本音を聞き出すためだった」
「本音?」

 辺境伯はバツが悪そうに、ローレントから顔をそむけた。

「正直、お前という男がどういう男か分からなかった。貴族の男は、基本的に裏のある者ばかりだ。とくにお前は王族で、心の内を読ませないだろう。なにを企み、どう思ってここにきたのか、俺には分からない。その美しい笑顔の裏にあるものを知る必要があった」
「だから、僕を油断させるため、あんなに飲ませたのか」
「気が緩めば、いろいろと情報を漏らし、交渉をもちかけてくるだろうと考えた。案の定、お前は偽聖女への執着をさらけ出し、その捜索を俺に依頼した」
「ちょ、ちょっと待て。ハルカを探してくれるって言ったの、まさか嘘だったんじゃ……!」

 取引だと思ったから、ローレントは体を許した。それなのに、すべてが嘘だったというのなら、なんのために我慢をしてきたのか。

「違う、嘘じゃない。それについては、本当に捜索をしている。だが、そうやってハルカハルカと連呼されれば、俺だって苛立ってくる」
「僕があんな目にあったのは、僕自身のせいだって言いたいのか!?」
「初夜の日に男同士は嫌だと言われ、挙げ句、元恋人の捜索を依頼される身にもなってみろ。少しは意地の悪いことを言ってみたくなる」
「そ、それは、君が聞くから……! き、君だって、褒賞に姫を所望していたじゃないか! だから、てっきり男性同士の結婚は意に沿わないものだとばかり……」
「たしかに俺の性的対象は女だ。だから、王から褒賞として王子を寄越すと聞いて、正直耳を疑った。しかも、俺が褒賞をもらうきっかけとなった騒ぎを起こした本人だ。ていのいい厄介払いだと、そう思ったのもたしかだ」
「……やっぱり君もそう思っていたんじゃないか」
「まあ、そこは否定しない。あの日の朝までは、お前に興味すらなかった。〝宝石王子〟なんざ、男がもらう愛称じゃないだろと鼻で笑っていたのは事実だ。だが、実際にお前を目の前にして、気が変わった」
「僕を見て?」
「ああ。まさに宝石だった。馬車から下りてきた瞬間、俺はお前から目が離せなかった。目があった瞬間、心がざわついて、思わず前に進み出ていた。……本当はもっと焦らして、お前たちの出方を見る予定だった」

 焦らして焦らして怒らせて、騒いで問題でも起こせば追い返す予定にでもしていたんだろう。
 最初に自分が感じた疎外感は勘違いでもなんでもなく、辺境伯は最初からローレントを歓迎などしていなかったのだ。

「……どうせ見てくれがいいだけの王子だからな、僕は。この顔が、女の代わりになると思ったのか」

 だから酔わせて体の関係をもとうと思ったのか。
 フンと鼻で笑うと、辺境伯が慌てたように弁明する。

「ああ、だから違うと言っている! 要するに、ほら! あ——……あれだ、あれ。あれなんだ」

 だがそれも妙に歯切れの悪く、ローレントはさらに眉をひそめ、ため息を吐いた。
 
「……もうこの話を終了していいかな。なにを聞いても誤解が解けるどころか、不愉快になるばかりだ。僕は疲れているし、もう部屋へ戻りたい」

 呆れ果てたローレントが立ち上がろうとした。
 すると、辺境伯がいきなり大きな声を上げた。

「ひ、一目惚れだ! お前に一目惚れした」
「——は?」
「い、いや、違う。そうじゃないかもしれん」
「どっちなんだよ」

 妙にうろたえる辺境伯に、訳も分からずローレントが憮然としていると、辺境伯がいきなり立ち上がった。

「ああクソッ! なにか飲む物を取ってくる! ちょっとそこで待っていろ。絶対にそこを動くなよ。いいな!」
 
 ポカンとするローレントを残し、怒ったようにドカドカと足を踏み鳴らしながら、辺境伯が部屋から出て行った。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

星井 悠里
BL
Ωの凛太。夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつくα父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ……でもなぁやっぱりなぁ…と悩んでいた凛太の前に、めちゃくちゃイケメンなαが現れた。 凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身のも弱い。 なんだろこのイケメン、と思っていたら、話している間に、変な話になってきた。 契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします! トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。 表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに?」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。いろいろ距離がちかくなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、と。――ヒートを乗り越えてから関係が変わる。瑛士さん、なんかやたら、距離が近くてあますぎて。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!なのに…? と、αに可愛がられて翻弄されまくる話です。ぜひ✨ 表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま 素敵なイラストをありがとう…🩷✨

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

処理中です...