失恋した神兵はノンケに恋をする

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セイドリックのモテ期4

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 コウさんを無視してしまった日から、しばらく定食屋を避けていた俺だが、アンリのこともあり、やっぱりコウさんに会いたいとまた、定食屋通いを再開させていた。
 
 だが、肝心のコウさんとはなかなか会えない。
 
 店のオヤジさんにも聞いてみたが、やはり最近コウさんを見ていないということだった。
 
 
 
「ああ、コウさんならずっと休みなく現場で働いているぞ」
 
「……なんでそれをレイル、お前が知っているんだ」
 
「たびたび会っているからな」
 
「!?」
 
 思わず掴み掛かろうとしてしまったが、レイルはそれをひょいとかわした。
 ぐぬぬ、さすがレイル。
 
「俺はまだ現場で備品調査を続けているからな。そのついでにコウさんのところにも寄っているだけだ」
 
 俺はあれから現場へ行くことはなかったが、そういえばレイルは正式に備品調査の担当になってしまったんだったな。最近は予算管理担当の文官らとあちこち出かけて、事務室で会うことは少ない。
 
「それでなんでそんなにコウさんは働いているんだ」
 
「やはり資材調達が遅れたことで、工事の遅れも顕著になってきてな。それに賊に襲われたことで、働き手も減ってしまって、今いる者らで間に合わせているところだ」
 
「それでは現場の者も参ってしまうだろうが」
 
「働き手は随時募集している。人手が集まるまでの辛抱だと、頑張ってもらっているようだ」
 
「そうなのか」
 
 なるほど。
 
 今、コウさんは休みもとれないくらい忙しいのか。それはそれで心配だが、仕方がない。
 だからといって会いにいく勇気もない俺が、口実なくレイルのように会いにいけるはずもなく。
 
 コウさんが休みになるまで、俺は待つしかないようだ。
 
 
 
 △△△
 
 
 
「……なんでお前がいるんだ、アンリ」
 
 今日は、久々の警ら担当日。
 
 広い街を東西南北と四区画に区切り、その日の各区画の担当者が、午前と午後に別れ、馬を使い市中を見回る。
 
 犯罪を取り締まったり、町民のいざこざを仲裁したりなど、いろいろ面倒なことも多いが、馬に乗れるし、賑やかな街の様子を見られるのはなかなか楽しい。
 ここのところ事務所に詰めていた俺にとって、よい気分転換だ。
 
 馬に乗るのも久々だし、愛馬のご機嫌もとらねばなと足どり軽く厩舎に行くと、そこにはなぜかアンリの姿が。
 
「セイドリック殿、今日の市中見回りは俺が同伴です! よろしくお願いします!」
 
 警らは二人一組が基本なのだが、階級などを考慮して配置される。
 だから本来、指導以外で、大きく階級差のある者同士が組むことはないはずなのだが。いつから俺はアンリ後輩の指導係になったんだ。
 
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ! さあ行きましょう」
 
 実は、アンリはあれからも、ひそかに俺の部屋に通い続けている。とはいえ、伽がどうこうということはなく、武術や戦術について聞きたいと、夜、部屋に訪ねてくるのだ。
 ちゃっかりお茶菓子などを持って。
 
「昨日そんなこと言ってなかっただろう」
 
「ははっ驚いたでしょう? ……本当は今日、当番の人が急病で急遽代わったんです。セイドリック殿を驚かせたくて。 それで俺たちは今日どの辺りが担当ですか」
 
「それならそうと早く言え。今日は北地区だな。大通りを進み、余裕があれば裏通りにも入る」
 
「分かりました。俺、あの辺詳しくないので、いろいろ教えて下さい」
 
「ああ。では行こう。北地区に入ったら、歩を緩めるぞ」
 
「はい!」
 
 意外にもアンリは職務はに対しては真面目で、こうして二人で並んで歩いても、無駄話はしてこない。
 もっとこう、俺にいいとろを見せようとするか、しつこく話かけてくるかと思ったのだが。
 
 無駄話はしないが、途中気になったことについてはしっかり質問をしてくるから、俺もついつい先輩風を吹かしてしまう。
 
「アンリ、警らはたまにしか回ってこないが、治安維持に必要なことだ。いざこざを収めることも大事だが、街の微妙な変化に注意しろ」
 
「分かりました」
 
 途中、揉め事があれば割って入り、見たことのないものがあれば、馬から降りて確認する。
 大きな異変の前には、小さな変化が必ずある。些細なことでも注意しなければならない。
 
 神経質な俺のやり方は、人によっては嫌がられる。が、アンリは真面目に俺の話を聞き、それを実践してくれた。
 
 
 そうやって二人で見回りを続け、気がつくと、あの定食屋の近くに来ていた。
 
 この辺は、狭い路地から裏通りに入ると、表通りとはまた様子が変わる。
 
 まだ時間があるからと、念の為裏通りのほうも見回っておくかと馬を降り、手綱を引きつつ路地へと入った。
 
 そしてああ、コウさんのアパートが近いな、そう思ったときだった。
 
 
「……コウさん?」
 
 コウさんらしき後ろ姿を見た。
 
 いつもの作業着ではなく、こざっぱりとした身ぎれいな格好。そしてその隣には、彼より頭ひとつ分小さい、髪の長い女性の姿。
 
 
 ……なんで俺は名前を呼んでしまったのだろう。
 
 
 彼は振り向きざま俺の姿を認めるなり一瞬だけ、気まずいような顔をした。
 
「あ、セイドリックさん、か? ……久しぶりだな」
 
「あ、ああ。現場が忙しいそうだな。レイルから聞いている。俺も最近、あまり定食屋には顔を出せていないんだ」
 
 定食屋に行ってないだなんて嘘だ。
 なぜかそう口から出てしまった。
 
「そうなのか。今は巡回中か? はじめてその格好のセイドリックさんを近くで見たな。……あ、この人は俺を診てくれていた病院の看護師で……」
 
 感心したように俺の隊服姿を見て、それから彼女を紹介しはじめた。コウさんは照れているのか、しきりにきれいに刈り上げた項を、指先で掻くように撫でている。
 
 俺はというと、馬を気にするフリをしながら、曖昧に相槌をうち、無理やり笑顔を作っていた。
 
 実際、彼が何と言っているのかなど、まったく頭に入ってこなかった。
 
 コウさんの懐にすっぽり収まってしまうくらい、小さく華奢な女性。
 誰が見ても釣り合いがとれている。
 
 ……とても似合いの二人だった。
 
 俺は相槌をうちながら、ぼんやりと二人を眺めていた。
 
 
「セイドリックさん、今夜は……「セイドリック殿!」」
 
 コウさんが俺に何か言いかけたとき、背後からアンリが駆けてきて、俺の腕を掴んだ。
 
「セイドリック殿! もうあちらの見回りは済みましたよ。いつまでここにいるんですか!?」
 
「ん、あ、ああ、すまん。一人で見回りをさせてしまったな。もう行く」
 
「セイドリック殿のお知り合いですか? 見回りはまだ残ってるんだから、雑談してる場合じゃないですよ。申し訳ありません、まだ俺たち警ら中なんです。時間がありませんので失礼します」
 
 アンリが俺の腕をしっかりと掴み、コウさんにペコリと頭を下げると、ぐいぐいと強引に引っ張った。
 
「すまない、コウさん。まだ仕事が残っているからここで失礼する」
 
「あ、ああ。こちらこそ長々とすまなかった」
 
「セイドリック殿、早くしないと夜の鍛錬に間に合わないですよ! 今日も俺の相手をしてくれるんでしょう!?」
 
 声をかけたのは俺のほうなのに、謝るコウさんに言い返す隙もアンリは与えてくれなかった。
 
 俺は尻を叩かれるようにして馬に乗せられると、表通りに向かって馬を方向転換させた。
 
 アンリの後ろをゆっくり馬を進めながら、俺はコウさんの後ろ姿を盗み見る。
 
 少し距離はあるものの親しげに並んで歩く二人。
 
 ——二人はそのままコウさんのアパートのほうに消えていった。
 
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