失恋した神兵はノンケに恋をする

Bee

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セイドリックの災難1

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 あれからコウさんと会えない日が続いていたが、コウさんが俺の屋敷に荷を移してくれたことで、俺のなかでちょっとだけ気持ちに余裕が生まれていた。
 
 言い方は悪いが、なんたってコウさんの荷を人質にとっているようなもんだからな。コウさんは荷のために必ず俺の屋敷を訪れることになるし、コウさんが屋敷に顔を出せば管理人から俺に連絡がくるという仕掛けだ。
 
 それにコウさんが来れない間、俺はなんと屋敷を修繕し、コウさんの寝室にする予定の部屋も絨毯やら壁紙からすべて取り替え、コウさんがいつ泊まってもいいように屋敷を整えたのだ!
 
 ——いつか、いつかこの屋敷に2人で住むことができれば
 
 そんな未来を夢想しつつ、俺はコウさんと会えなくても、それなりに幸せな気分で過ごしていた。
 
 
 
 
「なに? また工事の現場について来てくれだと?」
 
「ああ、ちょっと大きな資材の搬入が決まってな。人手がいるんだ。誰かに指示係を頼みたいのだが、セイドリックやらないか」
 
 事務室に久々に顔を出したレイルが、いきなり俺にそう切り出した。
 
 どうやら、資材の運搬に付き添い、現場で指示をする者が必要らしい。レイルはレイルで現場で運ばれてきた資材の確認をしなければならず、人数が足りぬということで俺に声がかかった。
 
 あの工事の現場に行けるとなれば、コウさんに会える可能性も高い。断る理由がない。その間業務は滞るが、少しくらいはいいだろう!
 
 俺は二つ返事で了承した。
 
 
 
 
 
「あ! おい、その資材は順番があるんだ。俺が指示をするから、運ぶのはちょっと待て!」
 
 当日レイルと共に資材を乗せた荷車を馬で誘導し、俺はコウさんの働く工事の現場に入った。
 
 荷車が到着するなり、現地で待っていた者らがワッと資材を運び出し始めたのを見て、俺は慌てて馬から降りた。
 
「すまんが、馬を頼む。あ、おい待てと言っているだろう!」
 
 俺は乗ってきた馬を現地の馬方に任せると、人が群がる荷車のほうに向かう。
 
 今日は工事よりも資材運搬が優先というスケジュールなのか、結構な人数の者らがここに集まってきていた。
 
「コウさん!」
 
 その人群れに、なんとコウさんもいるではないか。
 
 俺は嬉しさのあまり大声でコウさんを呼んでしまった。久々に会えたからとでかい男がはしゃいで、ちょっと恥ずかしかったかもしれない。
 だがそれでもコウさんは手をあげて応えてくれた。
 
「まだ忙しいみたいだな」
 
 コウさんの順番がくると、俺は運ぶ資材を指示しながらさりげなく話しかける。少しでも長く彼を見ていられるよう時間を引き伸ばそうとするが、そんな俺の心を知ってか知らでか、コウさんは慣れた手つきでさっさと自分の運ぶべき資材を手にとった。
 
「ああ、でもだいぶ人も増えてきた。そろそろ休みも取りやすくなるかもしれないな」
 
「そうか! そ、それで、あ、あのコウさん……」
 
「ん? どうした? それでこれはあっちでいいのか?」
 
「ああ。これはあっちだ。……あとでちょっといいか」
 
 運ぶべき場所がわかると、コウさんはよいしょと肩に担ぎ上げた。そして指示した場所のほうに足を向けつつ、横目で笑った。
 
「ああ」
 
 周囲の屈強な男らよりやや細身のコウさんだが、それでも重い資材をものともせず歩いていく。
 
(コウさんの後ろ姿を見るのは好きだな)
 
 よろけることなくピンと伸びたきれいな背中を横目で追いながら、俺は次に待つ者への指示に集中した。
 
 
 
 
 現地での人手が多かったからか、その後の搬入もスムーズに終わり、レイルも肩の荷をおろした。
 じゃあ少し休憩したら戻ろうかと、そう算段をつけていたところで、遠くのほうからコウさんの歩く姿が目に入った。
 
 現場の者らもちょうど休憩に入ったのか、ほうぼうで談笑している声が聞こえ、休憩用の茶を飲みながら歩き回っているところを見ると、コウさんも休憩に入ったのだと思う。数人の仲間とこちらに歩いてきていたところを見つけたのだ。
 
「コウさん!」
 
 俺が声をかけるとコウさんも、おっという顔でこちらに向いた。
 そして、手をあげてこちらに歩いて来始めたところで、ふと、馬の高いいななきが聞こえた。
 
「なんだ?」
 
 馬の声と男らの喚く声。
 声のするほうにハッと目を向けると、馬が馬方を蹴散らし、握る手綱を振り解いたところだった。
 
「おい、セイドリック、まずいぞあれ……! あ、おい!!」
 
 まずい!! 暴れ馬か!! 馬を止めなければ怪我人が出るぞ!!
 
 俺は反射的に馬のほうに走り出した。
 
 しかもあれは俺の乗ってきた馬だ。普段おとなしい馬であるのに、これは一体どうしたことか。
 
「どけ!! 危ないぞ!! 端に散れ!!」
 
 群衆を怒鳴り避難させ、馬を抑えようと馬方らが必死で掴んでいた手綱を奪う。
 馬を制御すべく手綱を引き、「よしよしいい子だ、落ち着け」と馬体を叩いて何とか馬をなだめ落ち着かせる。
 
 俺が手懐けた軍馬だけあり、手綱を引いているのが俺だと気付くと、すぐに暴れるのをやめはしたが、それでもしばらく鼻息も荒く鼻を鳴らし、地面をかいてなかなか興奮が冷めやらぬようだった。
 根気良くなだめ、ようやく元の落ち着いた状態に戻ったときには、安堵してほーっと息を吐いたほどだ。
 
「……人が倒れているぞ。おい、大丈夫か」
 
 その声に振り向くと、レイルが地面に倒れていた男を覗き込んでいた。
 
「どうした! まさか馬に蹴られたか!?」
 
 誰かを襲ったところは見ていないが、まさかと思い、俺は倒れた男の側に近づき、膝をつく。
 
「……んー、いや、脳震盪か? 蹴られた風ではないな。馬が近づいてきたときびっくりして倒れたか」
 
 倒れているのは、小柄で髪の長い若い男だった。妙に色の薄い珍しい髪色に目がいく。
 
「こいつ、馬を避けきれなくてコケちまったんだよ。馬に蹴られた訳じゃねえ。こいつ、小さくてそそっかしいからよ、よく転ぶんだわ」
 
 俺とレイルの会話に、横から見ていた男が口を挟む。男の言葉に周囲の者らから、がはははっと嘲笑が広がる。
 
「……ここに常駐している医者は?」
 
「普段はいるのだが、今日に限って他の工事現場の応援に行っていていないんだ。運が悪いな」
 
「そうか……。分かった。俺が医者まで連れて行こう」
 
 それを聞いてレイルが「はあ!?」とデカい声を漏らした。
 
「お前がわざわざ!? しばらくしたら医者もここに戻ってくるだろう」
 
「いや、俺の馬がしでかしたことだ。俺が行こう。頭も打ちどころが悪いと死ぬこともある。脳震盪にしては気絶している時間が長すぎる。ちゃんとした設備のある病院へ連れて行った方がいいだろう」
 
「ちょ、ちょ、待て待て」
 
「レイル、すまないがお前の馬を貸してくれ。俺の馬は、しばらく落ち着かせてから乗って帰ってきてくれると助かる。おい! お前らそこの布とロープを貸せ!」
 
 倒れている小柄なその男の腕をまず固定すると、次に動かないように頭から全身を布でぐるぐる巻きに固定した。
 俺が馬を用意している間に、布でぐるぐる巻きの男を数人に慎重に運んでもらい、馬に乗った俺の体に縛りつけた。
 知らない人が見たら、死体を運んでいるようにみえるだろうな。
 
「レイル、後は頼んだ。報告書もよろしく頼む」
 
「お前なお人好しも程々にしろよ」
  
 レイルに足を小突かれながら、俺は馬の手綱を引き、サッと周囲を見回した。
 俺の動向を窺う群衆の後ろに、立っているコウさんの姿が見えた。
 
 せっかく久々に会えたのに、少ししか会話ができなかった……。
 
 後ろ髪を引かれつつも、俺は慎重に馬を走らせた。
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