前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee

文字の大きさ
4 / 29

4

しおりを挟む
「――は!? 尚人が!?」 

「うん。ユウジは自分と付き合うことになったから、お前はもうユウジにつきまとうなって。相当俺のことが目障りだったんだろーな。あの頃俺は、いつユウジに告白しようって毎日悩んでたからさ。尚人から見たら、隙あらば恋人を横取りしようと企む嫌なやつだったんだろーね」 

 まさか。あの尚人が? 人前で手をつなぐことすら嫌がったのに? 
 信じられねー。信じられねーけど…… 
 ヤバい、ちょっと顔がニヤつく。そっかー、あいつ、あの頃そんなに俺にこと好きだったのか。 

「……だから言いたくなかったんだよ。そのニヤニヤやめろよな。結局捨てられたんだろ」 
「うっせーな」 

 ニヤけた顔を隠すように、寝返りをうって黒木に背中を向けた。 

 付き合い初めの頃の尚人は、本当に優しくて大好きだった。 
 黒木を牽制するほど俺のことを好いてくれていたのに、結局は女をとったのか。 

 バイなのは知ってたけど、まさか長年男と付き合ってたのに、女ともできてるとかほんとショックだよ。 

 俺のこと、いつから騙してたんだろ。……あの子、すげー幸せそうだった。あんな幸せな笑顔、俺には一生できないだろう。 

「――なあ、ユウジ」 
「ん?」 
「もし、もしなんだけどさ」 
「なんだよ」 
「尚人に復讐できるよって言ったら、したい?」 
「――え?」 

 思わず俺は起き上がって黒木を見た。黒木は片肘をついて俺を見上げる。 
 その黒木の顔には笑顔がなく、表情のない黒木のこんな顔、俺は初めて見た。 

「できるよ。ここならなんでも。尚人をどうしたい? ユウジの気が済むまで、やりたいようにできるよ。階段から落としてみる? それとも2人が乗ってる車を事故らせちゃう?」 
「な、なに言ってんだよ」  
「不運になるってのもいいよね。仕事でミスってクビとか、株で大損させるとかさ」 

 黒木の様子が変だ。 
 こんな物騒なことを言うやつじゃない。 

「おい、黒木……」 

 俺は黒木の言葉を遮って止めようとした。だが感情のない顔で、光のない真っ黒な闇のような目で俺を見上げ、黒木はなおも続ける。 

「詐欺にあわせるのもいいよねー。……ああそれか、お腹の子供をどうにかしちゃう?」 
「やめろ! 黒木!!」 

 それまで澄明で真っ白だった空間が、どことなくどんよりと薄暗く淀んだ空気に変わったように感じた。 

 黒木がむくりと起き上がると、俺と対峙するように向かい合わせであぐらをかき、その暗い目で俺を見据えた。 

「なんで? 天罰だよ」 
「天罰って……お前おかしいぞ。そんな怖いこと……」 
「怖い? なんで。だってユウジのこと騙して捨てたんでしょ? そんでユウジは死んだ。ぜーんぶ尚人のせいじゃん。それ相応の罰は受けるべきだと俺は思うんだけど」 
「でも、そんなの俺は望んでない……!」 
「本当に?」 

 黒木のその暗い闇の目は、俺の中のどす黒い感情を映し出しているように見えた。 

 たしかに俺は尚人のことを恨んでたかもしれない。 
 なんで俺がいるのに二股かけたんだって。しかも妊娠って……。 

 子供がそんなに欲しかったのか? 俺が男だから家族にはなれないって、そう思ってたのか? 
 俺とは遊びで、本気になれる相手を俺に隠れてずっと探してたのか? 

 ……もし俺が女で、俺に子供ができたなら、尚人は俺を捨てなかったのか――? 

「……俺が、尚人の望む人生を与えることができなかったから、尚人は俺を捨てたんだ」 
「……ユウジ。悪いのはユウジじゃない。全部尚人が悪い」 

 黒木が苦々しい顔で、俺を慰めるように抱きしめた。普通に生きてる人間みたいに柔らかい肉感。そして体温。死んだなんて思えない黒木の大きな身体と、その心音。 

「なぁ、ユウジ。俺と子供作ろーぜ」 
「は?」 

 いきなりなに言ってんだ? 

 この状況で子供? ふざけてんのかって思ったけど、黒木の顔はやけに真剣さに満ちていて、俺には冗談なのか本気なのか、区別がつかない。 

「ユウジが望むなら、子供作れるよ」 

 黒木がそっと俺の腹を撫でる。 

「腹にさ、赤ん坊ができるように祈ればいい。そしたら子供ができるよ。――ここは神が俺に与えた空間だから。俺が望めばその通りのことがおきるんだ」 
「は……?」 
「本当だよ。復讐だって、赤ん坊だって、なんだってできる。ユウジが望むことなら、俺は何でも叶えてやるよ」 
「え、あ……、なんでもって、嘘だろ?」 
「嘘じゃない。ね、ユウジ。俺とセックスしよ。俺のものになってよ。ずっと待ってたんだ、ユウジに会えるの」 
「え? 黒木? ちょ、冗談……!」 

 痛いくらい黒木が俺を抱きしめ、クフッと肺から息が漏れる。 

 さすが登山で鍛えただけあるその身体は力強く、通勤くらいしか体を動かさない貧弱な俺が敵うはずもなく、そのまま押し倒されると、俺の後頭部にボフッとフワフワがぶつかった。 

 空気の淀みは酷くなり、眩しいくらい明るかった部屋は、今は灯りが必要なくらい薄暗い。 

「俺、本当にユウジのこと好きだったんだ。こうして2人にきりになって、キスして、エッチなことしてさ。俺だけにしか見せない表情を、俺は見たかった。なのに尚人が邪魔したんだ」 

 黒木の手が俺の腰を撫でる。腰から尻、そして太ももを黒木の手が這い、もうちょっとで股間に伸びるのを、必死で体をよじって逃げる。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?

あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

処理中です...