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冒険者の街 リュカ

スキル「七色の刀」前編

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村長の家から歩くこと数分、村の中心に到着した。

「あ、ユーナお兄ちゃん!」

声が聞こえたほうに顔を向けると俺と同じ黒髪で身長が少し小さめな女の子がいた。

「おぉ久しぶりだな、リル。こんなところで会うなんて珍しいな」

俺に声をかけてきたのは俺のもう一人の幼馴染のリルだ。
昔はよくリルの兄貴とルナと俺とリルの四人で遊んでいたが今は村の仕事でみんな忙しいため全然遊べていない。
確か前あったのが2,3ヶ月くらいだったと思う。

「お兄ちゃんがここにいるなんて珍しいね、どこかに用事でもあるの?」

「ちょっと用があってな、久しぶりにシスターとあいつらに会いに行こうと思って。リルも行くか?」

「うん!!私も行く!!」

そういうとリルは俺の腕に抱き着いてくる。
いつからか忘れたけどリルはよく俺の腕に抱きついてくる。
今更だけどリルの性格は一言で言えば純粋である。
誰に対しても優しく純粋に接し、ルナと並ぶ村のアイドル的存在だ。
純粋で、人を疑うことを知らないのでたまに悪い虫がつくことがあるがそいつらに関しては俺と個人的なお話をしている。
話をした数日後にそいつらは何処かへ消えてしまっている。
どこに行ったんだろうね?
でもまぁ、俺にも下心がないと言えばうそになる。
昔はなにも感じなかったがこの年になるとね、リルは着やせするタイプなの抱き着かれるとですね、たわわに実った果実さんが腕に当たるんですよ。
これが役得ってやつか。

「んじゃ、行くか。教会まで」

そういってリルに抱き着かれながらシスターのいる教会まで足を運ぶ。











村の中心から歩いて数分、村のはずれにある教会に到着した。
俺は教会のドアをノックして

「シスターいるか!ユーナだけど!」

そういうと扉の内側からバタバタと何かが走ってくるような音が鳴って勢いよく扉が開く。

「ユーナ兄ちゃんだ!!!!」

「久しぶりだな!!!お前ら!!!」

と大勢の子供たちが勢いよく飛び込んでくるのでけがをさせないように優しく受け止める。

「元気にしてたか、お前ら!」

「うん、元気にしてたよ!!」
「兄ちゃん!遊ぼうぜ!!!」
「ユーナ兄ちゃん、ごほん読んでよ」

子供たちが俺の服や腕を引っ張りながら一気に喋りだす。
ここにいる奴らは全員親に捨てられた孤児だ。
赤ん坊の時にここに来た奴もいれば、四歳くらいの時に来た奴もいる。
中には、全身血だらけの状態でここに運ばれた奴もいる。
様々な事情を持っている奴らばかりだが俺にとってこいつらは可愛い弟、妹だと勝手に思っている。


「こ~ら、ユーナが困ってるでしょ。いったん離れなさい」

教会の奥の方から、優しい声が聞こえてくる。
視線を向けると金色の髪で右の眼の下にほくろがある若い女性がほかの子供たちと手をつないで出てきた。

「久しぶり、シスター。ばあちゃんたちも元気か?」

この人はシスターアスカ。俺の二つ上でつい最近、王都の宗教学校からここの教会に帰ってきた。
昔から幼い子供たちのお世話が大好きで俺も面倒を見てもらったことがある。

「えぇ久しぶりねユーナ。他のシスターの皆様もお元気よ」

「ならよかった、最近こっち来れてなかったからな。心配だったんだよ」

「なぁなぁ、もういいだろ!それよりさ風に乗せてくれよ、ユーナ兄ちゃん!!」

「おぉ、じゃあ久しぶりにやるか!!!」

突然だがこの世界には魔法というものが存在する。
魔法は誰でも使えるわけではなく、生まれてきたときに魔力を持っているものにしか使えない。
この村で魔法を使えるのは俺しかいない。
俺は魔法の修行もかねて魔法を使って子供たちと遊んでいる。
俺は子供たちから少し距離をとって、両手に魔力を流し始める。
ある程度魔力が溜まったら、魔力を魔法に変換する。
この時、本来ならば詠唱が必要なのだが俺は無詠唱で魔法を扱うことができる。
理由は後々。
すると俺の両手から小さな竜巻が出てきた。

「『竜巻《トルネード》』」

そうつぶやくと両手の竜巻の力が増した。
トルネードは風魔法の中では割と初級魔法である。

「んじゃ、乗りたい人!」

そういうとリルを含めた全員がものすごい速さで手をあげだす。
こいつらの気迫がすごい!

「じゃあ、カイトからな」

「よっしゃ!やったぜ!」

「後の奴らは順番通りに並べよ!」

この孤児院の元気代表のカイトから遊ぶ。
カイト以外の子供たちがまた元気よく返事をする。
竜巻を地面に向かってゆっくりと置くとカイトは俺の魔法によじ登って座る。

「兄ちゃん、動かしてくれよ!」
「へいよ」

カイトにせかされ、俺は魔法に魔力を込める。
魔法はカイトを乗せたまま、上に上昇し始める。

「わぁ~~相変わらず、兄ちゃんの魔法はすげぇや!村があんなに小さく見えるなんて!」

「カイト、そろそろおろすぞ!後の奴らが待ってるからな!」

「えぇ~早くない?」

カイトは不満そうに顔をしかめるがやがて

「兄ちゃん!おろして!」

素直に言うことを聞いてくれた。
俺は魔力を徐々に弱めていく、魔法もそれに応じるように下降していく。

「ほいじゃあ、次の人!!」

そんな調子で25人とリルの合計26人の遊び相手をすること数十分後。

「お~いそろそろ終わりだ!!おろすぞ」

「はぁーい!」

こ、これで全員終わった。
まじで疲れた、同じことの繰り返しはきついってやっぱり。

「これで全員終わったな!楽しかったか?」

「「「うん!楽しかったよ!!!」」」

子供たちが声をそれてうれしいことを言ってくれる。
疲れなんてぶっ飛びますよ、子供たちの元気のある声と純粋な笑顔なんて見たらね!

「あ、兄ちゃん!騎士様だよ!!!カッコイイ!!」

カイトのその声に俺はゆっくりと振り向く。
そこにいたのは叔父さんの家にいた聖騎士たちだった。
・・・どうやら、人の話を聞いていないらしい。

「お前ら、ちょっと俺用事ができたからさ。教会の中でおやつでも食べてな。
リルもシスターの手伝いしてやってくれ」

「「「は~い」」」

俺は笑顔で振り返って子供たちに指示を出すとシスターのところまで一緒についていった。
子供たちを部屋まで送りさっきいたところまで戻ると聖騎士たちが教会の外庭に足を踏み入れる瞬間だった。

「止まれ」

静かに、叔父さんの家よりか強めの殺意を込めた声を発した。
騎士たちは先ほどと同じく、いやそれ以上に動きを止めていた。

「てめぇら、何しにここに来た」

「き、君に話があるんだ」

「どうやら耳が悪いらしい、さっき俺はあんたたちに話は終わったって言ったはずだ」

後頭部を掻きながら、目つきを鋭くする。

「なんでここに来た、誰に聞いたこの場所を」

「こ、この場所は村長殿に聞いたのだ。君ともう一度話を」

「だから言ってんだろ、あんたとの話は終わった。とっとと荷物まとめてこの村から消えろ」

俺は一方的に話を終わらすと教会の方に足を向ける。
あとでおじさんに勝手なことをするなって言っとかないとな、まったく勝手に面倒なことしやがって。
叔父さんへの不満を心の中で呟きながら玄関のドアに手をかけようとした瞬間

「・・・子供を人質にしませんか?そうすれば奴も話に応じるかもしれません」

その言葉が聞こえた瞬間、頭が真っ白に染まった。
あいつは今、なんて言った?
子供を人質にする?
あいつらの誰かが怖い目に合うってことだよな、俺が話に応じなかっただけのたったそんだけの理由であいつらがまた恐怖を味わう。
そんなこと、そんなこと!

「そんなことさせるわけねぇだろが!!!」

あいつらの泣いている顔が頭の中を横切り、俺の中の感情が爆発した。
足に一瞬で魔力をためて一気に解き放つ。
人間離れした速度でふざけたことを抜かした騎士の懐に入る。
そして右の拳に魔力を込めて、鳩尾の辺りを感情に任せて殴りつける。

「グハっ!?」

唾液を飛ばしながら派手に後ろに倒れこみ、うめき声をあげてのたうち回っている。
苦しんでいるようだがそんなこと関係ない。
追撃をしようとすると真横から殺気を感じた。
しゃがんでよけると頭のすれすれを剣を振りぬかれた。
その状態から肘打ちを相手の鳩尾に打ち込む。
そいつも唾液をまき散らしながら後ろに倒れる。

「お前ら、これが最後の忠告だ。二度とここに来んじゃねぇ!」

怒気を込めた言葉を相手に放つ。
しばらくの間、その場所は氷のように冷えていた。
するとどこからか拍手が鳴る。
音がするほうに視線を向けると副団長が不気味な笑顔で手を叩いている。

「素晴らしい!やはり君の力は我が国に必要だ!ミルユよ、手段変更だ奴を捕まえろ!腕一本なくてもかまわん!」

おいおいお前、副団長だろ。
自分の上司を呼び捨てにするなよ。

「承知いたしました、

団長は自分より立場が低いはずの奴に頭を下げている。
それに王子って言ったよな、てことはもしかして

「お前、確かこの国の第二王子、確か名前はクズリウス・ホープだったか。なぜここにいる」

顔をよく見てなかったから気づくのが遅れたけど、なにかの新聞でこいつの顔を見た気がする。

「ほう、どうやら洞察力も高いらしい。ますます君が欲しい!!」
 
「悪いけど俺は誰のものでない、俺自身のものだ!」

殴りかかろうとするとどこから出したか知らないが盾を持った隊長が俺の拳を防いだ。

「スキル<聖盾《せいじゅん》>」

そう隊長が呟くと盾が神々しく発光する。
すると盾から物凄い力でぶっ飛ばされ、数メートル先の地面に倒れる。
咄嗟の判断で受け身をとったので衝撃によるダメージはないが盾を殴った右手がやけどを負ったようになっている。
めちゃくちゃひりひりするしいてぇ。
どうにかしてけがを直そうとしたがそんな隙を相手が与えてくれるはずもなく

「悪いが君を拘束させてもらう」

隊長は腰から剣を引き抜き一気に俺との距離を詰めて剣を横に振るう。
それをすれすれで避けて今度は魔力を纏った拳で反撃する。
だがまた盾で防がれる。
ジュッと焼けるような音がする、急いで盾から拳を離してみてみるとまた拳がやけどみたいなけがしている。
おそらくだがあいつのスキル聖盾の効果だろう。
スキルの名前からして自分や仲間にとって害のあるものを拒絶するとかそんな感じだと思う。
通常の打撃は効かないし、魔力を拳に貯めるやつもさっきやってみたけど効果がない。
だったらやることは一つ。
俺は魔力を拳から右腕に変更する。
普段よりも魔力を集めるのに集中し、腕に集める。
魔力が溜まり拳を構え、その状態を保ったまま隊長の懐に入って拳を突き出す。
当然今まで通り盾で防ごうとする、だが

「無駄だ、私のスキルに君の拳は効かない!」

「表面上ならな、でもならどうかな!」

俺はそのまま拳を盾に当てる。
そして当たった瞬間に腕にためた魔力を振動のように震わせ、盾に放射する。
すると盾が粉々に砕けた。

「拳術 震撃《しんげき》」

砕けた余波で隊長の体が後ろに傾く。
隊長の顔は唖然としている。
だが一瞬で正気を取り戻し、剣を構える。


「一つ聞かせろ、あんたはなんのためにその剣を振るう」

「何故今そのようなことを聞く!」

「あんたの戦う理由が聞きたい」

「・・・私はこの国の民の平和を守るためにこの剣を振るう、私は民を守りたいんだ!!!」

隊長から出された気迫が俺に突き刺さる。
だが

「じゃあその民に孤児達は入らないのか」

「そんなことは」

「なら、なんで孤児達を危険な目にあわせるようなことをしようとした!」

声を荒げて隊長の声を遮る。

「そ、それは」

「てめぇ、いやこの国の奴らは孤児や貧しい人たちのことなんて考えない!
お前らは自分の私利私欲のために他人を傷つけるクズでしかない!」

怒りを爆発させ、感情のままに腰に差してある刀を引き抜く。
俺は刀を構えて

「行くぞ」

足に魔力をため、踏み込むと同時に貯めていた魔力を開放する。
隊長の懐に入り、刀を横に振るう。
狙いは右腕。
傷をつけて痛みで剣を持たせないようにするのとあわよくば右腕を切り飛ばして二度と剣を握れなくして相手の精神にダメージを与えるこの二つのどちらかができればいい。

「ハァッ!」

だが相手は腐っても騎士団隊長。
俺の攻撃をしっかり避けて迎撃の一手を放ってくる。
その一撃をしっかりと受け止めた。
俺の刀と隊長の剣が金属音を立てて拮抗状態になる。

「悪いけどあんたをぶっ倒す!」

拮抗状態を俺の方から一方的に終わらせることにする。
自分の力を抜いて刀を剣で滑らせて相手の体制を少し崩す。

「オラッ!」

刀を左手に持ち替えて隊長の後頭部にエルボを叩きこむ。

「グハッ!」

隊長は後頭部に強い衝撃を受けて地面倒れた。
だが剣を杖の代わりにしてよろよろしながらまた立ちあがる。

「き、君を拘束する。この国のために!!!」

隊長は声をあげながら左手を俺に向けてきた。

「紅蓮の業火に燃えよ!『紅蓮炎《クリムゾンフレイム》』!」

手のひらからちょうど隊長の半身くらいの大きさの炎が放たれた。



ミルユside

私の放った魔法が彼に直撃する。
我ながら大人気のないことをしてしまった。
まだ成人したばかりの子供にスキルを使用し、挙句の果てに中級魔法で攻撃してしまった。
だがこれも王子からの命令だ、断ることなどできん。

「ようやく拘束することができ」

「誰を拘束するって?」

私は耳を疑った。
確かに私の中級魔法を喰らって燃えたはずだったのに!

「な、なぜ生きている!」

その声に応じるように爆炎がかき消された。
その場に立っていたのは赤黒い刀を持ち、鋭い目つきをした彼が立っていた。












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