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冒険者の街 リュカ

スキル「七色の刀」後編

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「な、何だその剣は!?」

「あぁ、こいつか。俺のスキルだよ」

「スキルだと!?いつの間に発動した?」

「爆炎の中で発動したに決まってんだろ」

 そういうと隊長の顔が驚愕に染まる。
 普通ならそんなことありえないことが起きているから驚くのも無理はないと思う。
 通常スキルを使うときはとあるプロセスをクリアする必要がある。
 それは魔力は集中すること。
 スキルは魔法と同じく魔力を使用して発動する。
 だが魔法とは違い、魔力を魔法に変換せず自分のスキルに由来するものや自分の体に魔力を直接流し込む。
 一見魔法よりも簡単だと思うがこれには精密な魔力コントロールが必要なのだ。
 だから攻撃を受けたりなんらかの拍子に集中が解けると魔力が空気中に飛散してしまい、魔力の無駄遣いになってしまう。
 だから普通は剣に魔石という魔物の核の部分を取り付けて自分の魔力を使わずにスキルを発動する。
 先ほど隊長が使っていたスキルも盾のどこかに魔石が取り付けてあったと思う。
 多分。

「ありえない!そんなことできるわけないだろ!」

「それができるんだよ、俺のスキルだとな」

「なんだと!?そんなことあの人達は言っていなかったぞ!」

 情報ね、誰が漏らしたんだ?
 もしかしてだけどルナとかおじさんから聞き出したかもしれない。
 二人を巻き込みやがったな、こいつら。
 孤児のことといいこのことといい俺の村の奴らにちょっかいかけやがって
 俺の中で怒りが沸々と湧き上がる。

「情報の出どころはなんとなくわかるがお前らふざけたことしやがってこれは俺とお前らの戦いだろうが、部外者を巻き込んでじゃねえよ!」

「巻き込んでなどいない、我々は君と」

「君と話したいだろ、いい加減聞き飽きた。何度でもいうぞ、話は終わった。それだけが真実だ」

 話を遮り剣の切っ先を隊長に向ける。

「ついでにさっきのあんたの疑問にも答えてやる。俺のスキル<七色《なないろ》の刀《かたな》>はその名の通り七色の刀を操るスキル、七色とはこの世界に存在する七つの元素のことだ」

「元素?属性のことか」

「いや少し違う、元素はこの世界を作ったとされる源。その欠片から生まれたのがあんたたちがよく知っている属性だ、俺は属性の源を扱うことができる。だからあんたの爆炎を吸収してスキルを使うことができた」

「そ、そんなことありえない!」

 混乱しているのか激しく首を振るう。
 それも当然だろう、今まで自分が当たり前だと思っていたことが違うと言われたら誰だって混乱するだろう。まぁ俺はしないんですけどね。

「そんなことはあり得るんだよ。この刀、七色一の刀 <紅焔《べにほむら》>の力でな」

 やれやれと首を振って刀を自分の左側に水平にして構えをとる。

「そろそろあんたたちの顔を見るのも反吐が出てきた。最後にチャンスをやるよ。
 部下とそこの馬鹿王子を連れて王都に帰れ、そしてここに二度と来るな!」

 ありったけの殺意と怒気を込めた声で叫ぶ。
 あまりの殺気にビビったのか馬鹿王子と隊長が一歩下がる。

「ミ、ミルユよ!なにをしている!は、はやくあいつを捕らえろ!」

 王子の余裕のあった態度から一転余裕がなくなったのか声が震えている。

「・・・承知しました」

 少しの沈黙の後、絞り出すような声で隊長が返事し剣を構える。
 あくまでも国のため、民を守るために戦うってことか。
 そこにあいつらがいればいい、でもそこにあいつらはいない。
 ホントにこの国の連中には反吐が出そうだ。

「・・・クズどもが」

「悪いが私は私の正義を貫かせてもらう。君の力はこの国の平和に繋がるんだ!
 だから君の力が」

「うるせぇよ、剣構えたんだからとっととこいよ」

 そういうと隊長は黙って構えをとり俺との距離を一気に詰め、顔面に向かって刺突を放つ。
 突きを首を少し右に傾けてと同時に腰を使った素早く重い一撃を鎧に打ち込む。 
 その瞬間、刀に貯めてあった炎を一気に解き放つすると紅焔の刀身から炎が溢れるようにあふれた。

「なっ!剣が燃えて!?」

「紅《くれない》の型《かた》壱《いち》ノ太刀《たち》 炎火《えんか》!!!」

 刀身からさらに炎が噴き出し、刀身を押し出す。
 その勢いに身を任せて刀を横薙ぎに振るう。
 勢いの乗った炎の斬撃が隊長の鎧を切り裂いて返り血が俺の頬にかかる。

「ガハッ!」

 腹部を抑えてたどたどしく後ろに下がる。
 相手を睨みつけながら刀を振り、付着していた血を払う。

「おい、今ならまだ大目に見てやる。とっとと消え失せろ」

 再度刀を向ける。
 隊長は痛みを顔をしかめながら左手で回復魔法をかけているようだが一向に回復する様子がない。

「な、なぜだ!なぜ傷が回復しない!」

「・・・剣術 紅の型壱ノ太刀 炎火はただ炎を纏った斬撃じゃない、刀に吸収された炎が消えるまで永遠に傷口を焼き続ける、だから回復魔法をかけてもきかない」

 俺の剣術というより俺に剣術を教えてくれた師匠の技、剣術 紅の型壱ノ太刀 炎火。
 刀に吸収した火炎を付与魔法のようにまとわせ相手を斬ることによって刀の火炎を相手の切り付けたところに炎を付着させる技。

「な、なんだと!?その技はの技じゃないか!なぜ君が使える!」

「・・・あの人は裏切り者なんかじゃねぇ。あの人は俺に技を教えてくれた、知恵をくれた恩人なんだよ!!!」

 裏切り者、俺の師匠はかつて世界を救うために召喚された勇者の一人だった。
 だが師匠は仲間たちを裏切り、敵側につき世界を滅ぼそうとしたという風になっているが真相は全く違う。
 あの人はただ自分の正義と信念を貫き通しただけだった。
 そんな師匠に俺は憧れた、でも世界は師匠を拒絶した。
 を思い出し、刀を握る手に力が入る。

「そ、そんな馬鹿な!?奴は勇者たちによって討伐されたはずだ!おい!ミルユよ、何をしている早くこいつを捕らえろ!いやもはや殺してもかまわん!!」

 王子の焦りがこもった叫び声をあげると隊長は傷の回復を諦めたのか、剣を杖代わりに立ち上がりゆっくりと剣を上段に構えた。

「わが主からの命令だ、この一撃で君を倒す!スキル<聖盾>開放!盾に宿りし力よ!我が剣に力を!!!」

 そういうと粉々に砕いた盾から突然光があふれだし、隊長の持つ剣に纏いだした。
 しばらくすると剣が神々しく光りだした。

「喰らえ、魔を滅する神聖なる光を!!!《神聖斬《しんせいざん》》!!!」

 神々しく光った大きな斬撃が俺に襲い掛かるが俺は慌てない。
 フゥーと息を吐いてから刀を上段に構える。
 師匠から受け継いだこの剣術の中で一番爆発力があるこの技であいつの技を真正面から叩き潰す!

「剣術 紅の型弐ノ太刀 爆炎斬《ばくえんざん》!!!」

 先程よりも大きく燃えた炎の刀を思いっきり振り下ろす。
 光の斬撃に炎の斬撃が当たった瞬間、光の斬撃が一瞬にして焼き斬れた。
 そしてそのまま俺の斬撃は隊長の鎧を焼き斬り、その隙間から血が噴き出す。

「な、何だと」

 弱弱しく呟くとバタリっと地面に倒れこむ。
 振り下ろした刀を恐怖の感情に支配されている王子に切っ先を向ける。

「今度はお前か?来いよ」

「ヒ、ヒィー---!く、来るなこの悪魔め!!」

「誰が悪魔だ、先に仕掛けてきたのはお前らだろが。そんでもってお前らにいい知らせだ。今後お前らが俺とこの村に近づかないと約束するなら逃がしてやってもいい」

 そういうと王子はすごい速度で首を縦に振ると

「わ、わかった約束する!こ、この村にもあなた様にも近づきません!」

「・・・いいだろう、とっとと部下を連れて俺の視界から消え失せろ」

 刀を鞘に納めてその場を後にする。
 まぁ、次近づいたらその時は。
 刀を強く握りしめて村長の家に足を向ける。






 争った場所から数分、ルナの家に到着した。
 扉をノックすると叔父さんが扉を開けてくれた、その時に叔父さんの顔を見たら何かを悔やんでいるように見えた。
 叔父さんは何も言わずに俺を家の中に入れ、騎士たちのいた部屋に案内された。
 俺が椅子に座ると

「ユーナ、すまない」

 といきなり頭を下げられた。
 騎士たちに俺の力を喋ったことに対しての謝罪だろう。

「叔父さん、俺の力を喋ったことはそこまで怒ってないよ、今俺が怒ってるのは俺の問題におじさんたちを巻き込んだことだよ」

 そういうと叔父さんは驚いた顔で頭をあげた。

「だから、叔父さん。俺、前々から決めてたことがあったんだ」

「そ、それは」

「俺はこの村を出るよ、叔父さんたちのためにも」

 俺は前々から決めていたことを初めて叔父さんに打ち明けた。
 ただ一つだけ俺はミスを犯した、このミスにより俺は後々にとんでもないことになること今の俺はまだ知らない。
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