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冒険者の街 リュカ

旅立ちと別れ

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 俺のその言葉に叔父さんは唇をかみ悔しそうな顔をしている。

「叔父さん、そんな顔しないでくれよ」

「いや、私はを守れなかった。自分たちの身を守るためにユーナの力のことを喋ってしまった。守るはずのお前を私は.........私は!」

「叔父さん」

 泣き始めた叔父さんの言葉を遮る。

「俺はもう成人したよ、だから自分の身は自分で守らなきゃいけない。
 それに守られるのは性に合わないしね」

「だ、だが」

「大丈夫、安心して!俺は死なない、俺はまだやりたいこともあるからね
 それに全部片付いたらまたここに戻ってくるよ」

 心配という感情が顔に現れまくっている叔父さんに笑顔でそう答える。
 叔父さんは俺の言葉に少し悩んだ後

「わかった、行ってこい。いつ出発する?」

「今からと言いたいところだけど多分明日の朝」

「そうか、なら村を出る前にうちによってくれ。お前に渡すものがある」

「俺に渡すもの?」

 俺は首を傾げる。
 何かあったっけ?自分の記憶を振り返っていると部屋の扉が開いた。
 扉を開けたのは持っていたと思われる果物を落とし立ち尽くしている俺の幼馴染だった。

「ねぇ、村を出ていくってどうゆうこと?」

「・・・・・・叔父さん、また明日」

 俺は刀を腰に差し立ち尽くしているルナの横を通り過ぎようとする。

「ねぇ、ちょっと待って!質問に答えて!」

 俺の前に両手を上げて通り道をふさぐ。

「なんだ、ルナ。悪いけど今忙しいからそこ通してくれない?」

「じゃあ、質問に答えて!村を出ていくってどういうこと!!!」

「普通に旅に出るだけだよ、俺もそろそろこの村から出ないといけないなって思って」

「嘘つかないで!」

 俺の言葉を遮りルナが叫んだ。

「あんたなんでいつもそうなの、何でもかんでも一人でやってどうして人を頼れないのよ!」

 胸倉を掴んで泣き叫ぶ。
 確かにここで叔父さんやこいつを頼れば力になってくれると思う。
 でもだ。
 今回の件はどう頑張ったってこいつらに解決できない。
 だから俺は

「俺が一人でやるしかないんだよ、この件は。ごめんな」

 優しく言葉をかけながらルナを手をほどく。

「ルナ、さっき叔父さんにも言ったけど俺はまだ死ぬつもりはない、全部片づけたらまたこの場所に必ず戻ってくる。だからその時まで信じて待っててくれ」

 そういってルナの涙を拭い、そっと抱きしめる。
 突然抱き着かれてルナの顔が真っ赤にしておどおどしているがそんなことは気にしない。

「今まで俺と一緒にいてくれてありがとう、じゃあな」

 耳元で優しくささやいて、頭をなでる。
 そしてゆっくりと離す。
 先程以上に顔を真っ赤にしているルナが可愛かった。

「叔父さん、また明日早朝に」

 そういって今度こそ部屋から出る。
 改めて戦う決意を今ここで決めよう、あいつらは俺の邪魔をしたし俺の大切なもんに手を出した、あいつらを滅ぼす理由は十分にある。
 だから俺はあいつらを徹底的に滅ぼしつくしてやる。
 心の中で静かに強く決意を固め、叔父さんの家を出た。
 しばらくは見れない村の景色を目に焼き付け、岐路につく。
 家に帰って軽めな夕食をとって荷造りを始める。
 昔、師匠からもらった大きめの背嚢《はいのう》に服、金、テント、刀の手入れ用の道具、食料、水、ランタンを詰める。
 荷造りをすますと教会とお世話になっていた村の人たち、そしてルナに手紙を書く。
 内容は感謝とやるべきことなどを書いた。
 三枚の手紙を書き終えると濡らした布で体を拭き、ベットに横になる。
 しばらくベットで寝ることができないからしっかりと感触を噛みしめながらゆっくりと意識を落としていく。








 朝特有の優しい光で目を覚ます。
 体を起こし、体に異常がないか確認しながら軽くストレッチをする。
 ストレッチを入念に行い、クローゼットからいつも来ている丈夫な布で作られた黒服と同じ素材で作られたズボンに着替える。
 着替え終わると腰に普段からつけている帯刀ベルトを装着しベット脇にあいてある刀を差す。
 背中側の方に素材などを入れるダンプポーチをつけ右サイドのポーチにポーションなどを入れた。
 旅の準備はこれで完了した、最後に家の中をぐるっと一周する。
 この家は俺が三歳くらいの時に師匠が村の人に頼んで建ててもらった思い出の家だ。
 部屋を一つずつ回っていくたびに思い出が蘇ってくる。
 いつの間にか流れていた涙を拭った後背嚢を背負い

「さようなら、我が家」

 家に別れを告げ、家から出る。
 俺が帰ってくるまでの管理はルナやリルたちに管理を任せるつもりだ。
 この村での思い出を振り返りながら叔父さんの家に足を向ける。





 振り返りながら歩くこと数分、叔父さんの家に到着した。
 この場所にくるのもしばらくは無理だな、そう考えるとなんか感慨深いな。
 そんなことを考えながらノックをする。
 しばらくして扉が開いた、そこにいたのは若干疲れが残っているのか疲労が顔に出ている叔父さんだった。

「来たな、ユーナ。ついてきてくれ」

 そういって家の中に案内される。
 叔父さんの後についていくと同時にこの家のことも自分の記憶に叩き込む。
 昔からここにきてるからここにも思い出がいっぱいある。
 そんなことしながらついていくと叔父さんの部屋についた。
 部屋に入ると叔父さんはクローゼットの扉を開け、深緑のクロークと少し大きめな箱を取り出して俺に差し出す。

「叔父さん、これは」

「これはあの人、燐《りん》さんがもしユーナが旅に出る時になったらこれを渡してくれって頼まれたんだ」

「師匠が!?」

 今更だが俺の師匠の名前は藤原燐《ふじはらりん》。
 俺に剣術、体術を叩き込み人としての礼儀や心を鍛えてくれた人だ。
 師匠は今から五年くらい前に元の世界に帰ると言ってどこかに行ってしまった。
 今、どこで何してるかはわからないけどあの人のことだから普通に生きてると思うしぶといし。

「あぁ、それとこれを渡すように頼まれた」

 叔父さんは胸元のポケットから手紙を取り出す。
 それを受け取り、手紙を開く。

 ユーナへ
 この手紙を見てるってことはお前は何らかのトラブルでこの村から出て旅に出るってことだろう。
 そんなお前に私からプレゼントだ、箱の中にお前専用の布製防具が入っている。
 使ってくれ、それとは別に認識疎外の付与魔法が付与されているクロークを渡す。
 お前のことだからすぐに扱いに慣れると思う。
 最後にユーナ、自由に世界を回れ、自分の大切なものを見つけろそしてそれを守れる男になれ。


                                     お前の師匠より

 説明が相変わらず、淡々としてあっさりしてるな。
 でも師匠から最高の激励をもらった、自由に回ってくるよ師匠。
 手紙を読み終わると箱を開ける。
 箱の中身は手紙に書いてあった通り、黒のクロースアーマーと頑丈な布で出来ている手甲と手甲と同じ素材で作られている脛当てが入っていた。
 使わせてもらいます、師匠。
 背嚢を下ろしてクロースアーマー、手甲、脛当てを順番に装備する。
 自分の動きを制限してないか体を動かす。
 動かしてみたが全く俺の動きを制限していない、すげぇなこれ。
 地面におろした背嚢を背負いなおしクロークを羽織る。
 クロークも装備と同じく違和感は全くない。

「うっし、そろそろ行くか。んじゃ叔父さん行ってくる」

「あ、ちょっと待て」

 全ての準備が終わったので部屋から出ようとすると叔父さんに引き留められる。
 振り向くと叔父さんはポケットから少し大きめの革袋を俺に渡す。
 不思議に思い開けてみると中には金貨が数枚入っていた。
 驚いて叔父さんの顔を見ると

「私と燐さんからの餞別だ、自由に使え」

「叔父さん、ありがとう。大切に使うよ」

 革袋を懐に入れて今度こそ部屋を出る。




 叔父さんの家を後にし、村の入り口まで歩いてきた。
 入り口付近に誰かの人影を見つけた、近づいてみるとそこには

「・・・なんでいるの?ルナ」

「・・・うるさい、馬鹿ユーナ」

 俺の疑問に対してやや顔を赤らめて俺に罵倒を飛ばす。
 君は言葉のキャッチボールというものを知っているのかい?

「何の用だ?あ、もしかして俺がいなくなって寂しいのか?以外にお前ってかわいいところあるんだな」

「な、何言ってんのよこの馬鹿!」

 思いっきり肩を叩かれる、結構痛い。
 かなりスピードの乗ったいい打撃だった。

「いてぇよ。それで本当にどうした」

「・・・心配だっただけよ」

 強気に出たと思ったら急に塩らしく成りやがって可愛いじゃん。
 そう思い頭をなでてやる。

「お前に心配されるまでもねぇよ、ルナ。行ってくる」
 わしゃわしゃと思いっきり頭をなでてから別れを告げ頭から手を離し、村の外に出る。

「・・・ユーナ!!!」

 後ろから名前を呼ばれ、振り返るとチュッと俺の唇からそんな音が鳴る。
 突然すぎることに呆然としていると

「わ、私からのお守りよ。大切にとっておきなさい!」

 顔を赤くし早口で言うと物凄い速さで村の方に戻る。
 それを眺めながら俺はほぼ無意識的に唇を触る。
 その時の唇はいつも以上に暖かった。

「ふっ、やられたなこりゃ」

 様々なものを託された、師匠からの激励、叔父さんの優しさ、そしてルナの思い。
 それらを背負って旅をする、その重さは尋常じゃないくらい重いと思う。
 でもその重さがいい、自分のやるべきことを見失わなくていいからだ。
 だから俺は俺のやるべきこと、やらなきゃいけないことを必ずやり遂げてやる。
 その瞬間、いつもの草原の方から強い風がふく。
 まるで俺の背中を押してくれてるような感じだ。

「ありがとう」

 そういって俺は生まれ育った村を出た、託された思いを胸に抱きながら。
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