秘密の花園で会いましょう【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「お義父さん、飲み過ぎじゃない?」

 縁側で、ビールとワインを傍に置いて座る義父に、美香は声を掛けた。

「美香…………話があるから隣に座りなさい」
「…………はい」

 酔っ払っていそうな義父だが、口調ははっきりとしていた。

「…………お義父さんはな……お前の本当の父親になりたかった……」
「娘だよ、私………血は繋がってなくても」
「聞きなさい」
「は、はい…………」
「母さんと、昔別れてなければ、私の元に美香が産まれたかは分からんが、家や家族を捨てて、母さんと逃げていれば良かった、と………克也の事を考えれば後悔し続けた………だが、それではが無い………」
「……………うん……そうかも」

 グラス片手に、注がれたワインの水面をジッと見つめながら話す義父の横で、美香も自分のグラスに映る顔と目を合わせていた。

「蒼汰も産まれていないな………きっと」
「実の息子と義理の娘を天秤に掛けた私を許さなくても良いが、美香はもっと我儘になってくれて良い…………遠慮さえしなかったら、天秤に掛ける事は無かったかもしれないんじゃ、ないか、とずっと思っていたよ…………美香」
「…………うん……」
「私に甘えられないのは知ってる………だから、笹島君にいっぱい甘えなさい」
「…………うん」

 義父は不器用だ。
 美香と克也が傷付かない方法を模索しながら、結果傷付く事をしてしまっていた。もう過ぎた事だ、と言葉を出すには時期早々で、美香自身、克也を一生許す事は無い。刑務所から出ても、克也と会わなければ良い、と心に刻みながら生きていかねばならないからだ。

「お義父さんは、お兄ちゃんには面会行った?」
「弁護士を通して、克也の様子は聞いているが、聞くか?」
「うん、聞かせて」

 克也は、美香の名前を呼び続けているらしく、独居防に移されて、刑務を全う出来る状態とは言えないらしい。義父は人を使い、克也がアメリカで住んでいたアパートメントを引き払わせたのだが、克也の寝室には、美香の写真が壁や天井に張り巡らされていて、異質な物だったと聞かされた。この状態を聞いても、克也の心は正常とは言えず、変われる事が出来るのか、と心配さえ過ぎってしまう。

「部屋の写真を見たが…………私には辛くてな……顔写真だけなら良いが………その……」
「何となく分かるからそれ以上は言わなくても………」
「……………聞きたくないだろうな……まぁ、想像通りだと思う」

 レイプされながら、美香は克也に何枚も写真やビデオを撮られ、それが貼られていたのだろう。日本の家の克也の部屋は、そんな写真は貼られてはいなかった。

「お兄ちゃん………アメリカに行ってから、エスカレートしちゃったのかな……」
「……………それは分からんが、我慢してその鬱憤が、アメリカのアパートメントだったなら、そうかもしれん………あっちは、性事情にオープンというか、閉鎖的な日本とは違うからな」

 美香と会えない事の反動がそれならば、海外出張という方法で美香と引き離してしまったからこその代償かもしれない。
 だが、克也が海外に居てくれたから、美香は多少なりとも安息で過ごせていたので、複雑な気持ちになる。

「皮肉だなぁ………日本にお兄ちゃんが居たままだったら、隔離しかなかったかもしれないと思うと、海外に行った分、自由には動けていた訳だし………私以外にお兄ちゃんの被害者が出なくて、ちょっとホッともしてる」
「結論は出ないだろうな………何が良かったか等………いや、お義父さんが違う方法を取っていたら良かった………それしか無いな………克也はお前には会わせない様にするからな」
「うん…………それはお願いします」

 美香が義父と話している所を、黙って見守る拓真は、焼き台の番をしていた。

「気になる?拓真君」
「あ、いえ………多分、兄さんの事話してるんだろうとは思ってます」
「……………克彦さんを擁護する訳ではないけど、あの人も悩みに悩んで出した結果なの………美香と家族になりたい、て強く思ってる人だから」
「俺の身内と違って、纐纈家の家族は羨ましいですよ………克也さんの事さえ無ければ……」
「拓真君も、大変だったわね………お父さんの事」
「…………まぁ、俺の場合は、親父だとは思ってなかっただけなので」
「世の中、しようもない人が多くて参るわね」

 美香の母は、それ以上は言わなかったが、正にそうだとしか言えないだろう。
 焼けた肉と野菜を皿に移すと、美香の母は美香と夫に持って行った。

「俺も、バーベキューセット買おうかな……その前に、家が要るか………」

 楽しむ纐纈家や纐纈家のお手伝いさん達をみていると、拓真も自分でやりたくなった様だ。だが、マンションでは出来ない。

「俺も飲みたい………」

 車なので、飲酒は出来ない拓真。せっかく美味い肉を用意してくれたのに、酒を断っている。

「へへへ………すいません、拓真さん……私が飲んじゃって……」
「酔っ払うな、美香………車、置いてこれば良かった……」
「泊まっていけば?貴方達」
「え…………それは……お母さん、ちょっと……」
「何言ってるの、美香…………家は広いのよ?美香の部屋じゃなくても、ほら其処の座敷でも寝れるじゃない………2階の子供部屋に行かなきゃ良いでしょ?そうしたら、拓真君も飲めるし」
「俺は、美香が良ければ良いぞ」
「……………じゃ、じゃあそうする……拓真さんも飲みたいだろうし」
「そうしなさい………お義父さんも、拓真君とお酒飲めるの楽しみだって、言ってたから、その様に座敷も準備してあるの」

 縁側の奥の座敷には、来客用の布団が畳んで置いてあり、美香達を迎える準備は万端だった様だ。そこ迄して貰っているのに、お呼ばれしないのも失礼になるし、美香も義父から甘えろ、と言われた矢先の事なので、泊まる事にするのだった。
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