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プロローグ
しおりを挟む―――全く……出勤前に母屋に寄れって、何なのよっ!
メイクやファッションはそれなりに流行に沿った姿で、離れの平屋の日本家屋から真新しい3階建ての家に入る女。
「亜里沙嬢様、お父様がお待ちしてますよ」
「…………嬢様止めて、て言ってるでしょ、幸枝さん」
「あら、間野家のお嬢様ではありませんか」
「お嬢様ってのは、万里紗の事を言うのよ!」
間野家の長女亜里沙、そして7歳離れた万里紗、亜里沙と万里紗の間には将太という弟が居る、5人家族だ。亜里沙の父は食品加工会社を経営し、他にもフランチャイズの飲食店を持つ会社社長だ。
「おはようございます、お父さん」
「おはよう、亜里沙」
「お姉ちゃん、おはよう」
「おはよ、万里紗……如何したの?お父さん、出勤前だから手短にしてくれる?」
朝食中の両親に弟妹。亜里沙の分は食卓には並んではいない。
亜里沙は自立と称し、離れの日本家屋の方で、自分自身で生計を立てて生活している28歳だ。弟の将太は父の補佐の仕事をし、万里紗はまだ大学に通っている。
「まぁ、座りなさい。会社には送ってってやるから、時間はあるだろ」
「1人で行きたいんだけど……帰り困るし」
「それなら、帰りは迎えを寄越せばいい」
「1人が気儘」
「……………ああ言えばこう言う……」
大人なのに、いつまでも父に反抗的な態度の亜里沙に、父は少々困り顔ではあるが、慣れているのだろう話を続けた。
「亜里沙、速水物産は知っているな?」
「速水物産?当然でしょ、取引先じゃない」
「そこの、常務である速水さんから、お前に見合い話が来ている。今週末予定したから引き篭もるなよ」
「…………は?今………見合い、って言った?」
「そうだ、見合いだ」
「絶対に嫌だ!無理無理無理無理無理無理!!絶対に無理!」
「将太はそろそろ結婚したいそうだ……今付き合っている彼女もいいお嬢さんでな………同居は嫌がるだろうからお前の住む離れを建て替えて、将来的にはそこに将太家族を住まわせるつもりだ」
「な、何勝手な事を言ってんのよ!私の家じゃないの!」
実際は亜里沙の家ではない。
亜里沙が大学を卒業し、自立したい、独り暮らししたい、と言って、元々家族全員で住んでいた日本家屋の家を残し、庭に新築の家を建てたのが、今両親や弟妹が住む家だ。
それは、亜里沙に会社を任せようとしていた父の考えでもあったのだが、後継者を将太に決めたのは、亜里沙が独り暮らしを始めて、暫く経ってから父は考えを変えたのだ。
「行き遅れては困る……会社も辞めろとも言わん、現にお前に任せている加工会社も功績は悪くない………だが、嫁に行け」
「嫌だって言ってんでしょ!見合いなんて行くか!」
「亜里沙!何処に行く!」
「仕事行くに決まってんでしょ!」
見合いなんて、亜里沙には以ての外。結婚する気も無ければ、見合いもする気もない。
好きな事を好きなだけする為に、仕事をしてお金を稼ぎ、好きな事に注ぎ込む事に総力を向けている。
―――クソ親父め……一体何回目よ……追い出されてたまるか!引越し費用だって無いんだからね!
そう、食費や光熱費等切り詰めて好きな事に金を注ぎ込んでいる為、貯蓄も無く引越し費用も、新たに引越し先を探す手間も取りたくは無いのだ。
「………あなた……」
「亜里沙め………絶対に今回は見合いして貰うからな……相手は速水物産の紹介だ……無下に断ると会社に影響及ぼすかもしれんのだ……絶対に見合いし、結婚してもらうからな!亜里沙!」
「お父さん、万里紗じゃ駄目なの?」
「………将太、それは流石にな………歳も考えなさい。万里紗はまだ21歳だ。相手は32歳だと聞いている……それなら年齢的に亜里沙だろ」
「お姉ちゃん、結婚する気無さそうよ、お父さん」
「…………万里紗が代わりに見合いするか?」
「私、恋愛結婚したいから嫌~」
亜里沙とは違い、万里紗は恋に前向きの様子。
恋に全く興味のなさ気な亜里沙がどう、見合いから逃げるのか、父とのバトルがここに始まる。
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