お見合い、そちらから断ってください!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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【航side】亜里沙

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「もしもし」
『あ………小山内さんでしょうか?』

 ―――万里紗ちゃんではないな……

「………そうですが?」

 航は少し間が開いてしまい、通話の相手の声が緊張している様に聞こえる。

『あ、あの……私先日お会いした間野ですが、突然すいません』
「…………ん?どっち?万里紗ちゃんの連絡先じゃないから、亜里沙ちゃん?」
『亜里沙………です……お忙しいですよね?……すいませんお時間取りませんので』

 万里紗とは違い、航への気遣いも見られる言葉が帰って来た事で、航も対応しようと返す。仕事をしなければならないが、電話で話す事の了承を得ようとする亜里沙には、印象を悪くは持たない。

「いや、まだこの時間なら忙しくないから……何だった?」
『先日、私失礼な事を言ってしまったので、謝罪をと思いまして………本当ならお会いして、頭を下げた方がいいんでしょうけど、連絡先を今日父から聞いたので』

 ―――姉妹でこの差………エライ違いだなおい……しかも、見合いの時と違って、こういう対応出来るのか………社交辞令シャコジだろうけど……

「…………いや?……謝罪するのは俺もだし、気にしなくていいよ」
『本当にすいません……私、航さんに指差しちゃったし』
「………あぁ、アレね……俺が若かったら喧嘩売られた、て思ったろうな………本当、気にしなくていいから」
『…………ありがとうございます……そう言って頂けると、気が楽になります』
「…………亜里沙ちゃんは万里紗ちゃんと違った雰囲気があるんだな」
『万里紗からも連絡あったんですね』

 無駄な話を始めた万里紗と、同じく亜里沙も手短に電話をすると言いつつ、脱線してしまっても、航は話が出来る。

「まぁね、彼女からはデート誘われたけど」
『………ま、万里紗が失礼しました……』
「まぁ、あの歳なら仕方無いんじゃない?怖い物見たさがあるし………それじゃ、俺仕事戻らせて貰うから………あ、良かったら店に食べにおいで……見合いなんかで会ったから来づらいかもしれんが、友達誘って」
『…………あ、はい……万里紗でも誘って、伺う事にします』

 ―――いや、あの娘は誘うな……

「…………じゃあ、な」

 一瞬、間がまた開いてしまったが、電話の向こうの亜里沙の声は平然としていた。

『失礼します』

 ―――一応、姉妹だもんな……共通の程度で来る分には仕方ねぇか……本当、全く違うな、対応が………俺もか………

「航さ~ん、大将がいつ迄サボってんだ、て怒ってますよ~!」
「あ、ヤベッ!………今行く!」

 慌てて、前掛けを結び直し、勝手口から厨房へと戻った航。

「航!何サボってる!お前がサボると下のもんがサボっていい、て思うだろ!煙草1本で何分掛かってる!」
「悪い………電話掛かって来て……」
「業者か?」
「いや………見合い相手」
「……………」
「若!見合いしたんすか!」
「美人でした?」

 航の父は、相手が見合い相手だと知り、怒るに怒れない。心情としてはそろそろ結婚してもらい、店を完全に任せたいと思っているから、邪魔はしたくない様だ。

「………まぁまぁな……」
「航………電話掛けて貰うなら、時間考えて掛けて貰え……」
「な、何か勘違いしてねぇか!親父!付き合うとかまだ考えてねぇからな!律也の顔立てて、電話出ただけだぞ!」
「律也君は、人を見る目ある……任せてそのお嬢さんと結婚しろ」
「…………俺に選択肢与えやがれ!律也ばっかり贔屓しやがって……息子も褒めやがれ」
「お前を褒める時は俺が料理人辞めた時だ、阿呆」
「………じゃ、一生包丁握って厨房立ってろ」

 お互いに尊重し合う親子。
 航は、一番父の料理人の腕をリスペクトし、目標としている。もっと、有名な料理人も数多く居るし、技術も上の人も居るだろう。だが、食べ親しむ父の味が航には合っていて、いつまでも超えられない壁であって欲しかった。
 ほくそ笑む航に、同じ様な笑みで返す父との関係は、働く料理人達にも励みになっている事は、お客にも伝わっていて、毎夜忙しい店でもあった。
 航が結婚相手に求めるのは、この店を共に引き立ててくれる女であって欲しいと思っている。そして、航が作る料理が好きでいてくれる女を求めていた。

「仕事しろ………今日の予約客は舌が超えてるんだからな」
「分かってるよ……ほら、仕込むぞ」
「「はい!」」

 父だけがカウンターで作業をしていると、航の母が開店準備で忙しくしていた。

「あらあら、嬉しそうな顔しちゃって……」
「っ!……い、一生包丁握ってなきゃならないからな」
「頼みますよ、大将」

 『いつまでも元気で居てくれ』と言われている意味と取れ、航の父は嬉しそうにしていた。

「…………あぁ………」
「店開けますよ」

 そして、割烹料亭おさないの1日は始まる。
 繁華街から、少し離れた郊外にあるものの、近隣の会社に勤める会社員や、落ち着いた雰囲気で食事をしたい接待でよく利用されるこの店。
 決して安い公衆居酒屋の様な店ではないが、この日も盛況に終わった。

「んじゃ、俺マンションに帰るわ」
「帰って来ればいいじゃないか、金の無駄だろ」
「そうなんだけど、もし俺が結婚したら2世帯じゃ生活しづらいだろ……せっかく近くに住めてんだから、キープしときたいんだよな、今のマンション」

 航が今借りているマンションは、以前茉穂が住んでいた部屋だ。結婚し、引き払った直後に、茉穂の紹介で航は契約をした部屋だった。家賃は高いが、将来的には必要になるかと思い、未だに借りている。
 店から徒歩10分程の距離は魅力的だった。

「本当に結婚出来たら無駄な金ではないだろうがな」
「相手見つかりゃ直ぐに孫の顔見せてやるよ!」
「それは、期待せず待っておく」
「…………けっ!……じゃな、おやすみ」

 結婚願望は元々あった航だが、相手に恵まれていたかっただけだ、と自分に言い訳をして、夜更けの中に消えて行った。
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