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断って下さいを断わらないで下さい
しおりを挟む「万里紗ちゃんが、精神的病気って?」
「………多分……」
「多分?病院行ってないのか?」
車を発車させ、亜里沙の家へと向かう車内。
店内で話し難い話を匂わせておいた亜里沙は、律也や裕司にも注意して欲しかったのだ。それにより、念頭に入れておいてくれるだろう。あとは、航に詳しく話せばいい。
「両親が渋ってるんです……万里紗は、気に食わない事があると癇癪を起こしやすく、物を壊す傾向があって………」
「それで、亜里沙のスマホが壊されたのか」
「………はい………機嫌がいいと、愛想も良くて大丈夫なんですけど、その笑顔の下で本音も隠すのが上手くて」
「治療出来るもんなんか?それ」
「分かりません………でも、昨日私が帰った時、私の部屋を荒らされて、いろんな物が壊されてました」
「…………あぁ………そりゃ、困る行動だな」
「根っからのお嬢さん育ちで、お見合いの日……羽美さんが羨ましい、て言ったんです」
「羽美が?何で」
「イケメンにただ1人囲まれてチヤホヤされてるから、あの位置に居たい、て」
「……………うわっ……」
航が心底嫌そうな顔をしている。
羽美がそういう風に見えたのは、裕司や彬良の配偶者である紗耶香と茉穂が居なかったからであって、あの場で男達は羽美をチヤホヤ等してはいない。ただ、親しいから話をしていただけだし、航は妹として接したし、律也に限っては夫の立場だ。そう見るのはおかしいのではないだろうか。
「航さん以外は既婚者だし、分かってて連絡先を聞くにしたって、遠慮すると思うんですよ……でも万里紗は上機嫌だと、見境なく遠慮もせず、何かを求める子なので」
「…………それで、あの電話か……」
「あの電話?」
「見合い後の初めて連絡来た時にデートしないか、て………」
「お見合いで失礼な態度を取ったから詫びをしろ、と私は父に言われて航さんに連絡したのに………あの子だって、失礼な事言ったりしたのに……」
「おかげで、俺は亜里沙への印象うなぎ登りだったがな」
「そ、それでもです……来年には社会人になるのに、万里紗はいつもあんな調子で……言いたくないけど、医者に診てもらいたい、て両親に懇願したの私ですし」
「俺はまぁ………万里紗ちゃんの番号着拒してるし、会う事はねぇと思うけど、亜里沙と会ってると、亜里沙が危険だな………」
航は運転手側の窓を開けた。
「悪い、煙草吸っていいか?」
「どうぞ」
「……………亜里沙の妹だが、苛々する……」
「すいません………こんな話……したくなったけど、しとかなきゃ、て思ったし……」
「…………ちょっと寄り道していいか?」
「………あ、はい……」
航は煙草を咥えながらハンドルを切り、亜里沙の家の方向からズレた道に入る。するとその先は大きな公園でそこの駐車場に停車した。
「………それは……俺と付き合うから、知っておいてもらいたい、て意味に取れるんだが………」
「っ!」
「俺の自惚れなら言ってくれ」
「…………自惚れ……じゃないです……」
「……………」
航がまだ吸えるのに、煙草の火を消す。
「煙草臭いけど、キスしたら亜里沙怒るか?」
「っ!…………き、聞きます?それ!」
「嫌な女居るだろうが!煙草の匂い」
「煙草の匂い好きじゃないですけど、キスの了承される人、私初めてですよ!」
「…………俺は、無理強いしたくねぇんだよ!強引がいいなら言え………だが、昨日のが強引だったって自覚してるし、迫って嫌な思いされると、俺は凹むしよ……」
航が頭を掻き毟りながら、亜里沙から目線をずらす。照れている様にも見える仕草は、亜里沙に羽美の言葉を思い出させた。
「…………強引だと思わなかったですよ?」
その瞬間、航が亜里沙の方を見る。
「……………」
亜里沙は亜里沙で航に見つめられて、目線が外せない。
「………ドキドキしました……あ、あんなキスしてくれる人なんだ、て………やだ………凄い恥ずかしくなってきた………もう!漫画やドラマみたいなキスなんて、私経験した事無いし!昨日のは正にソレじゃないですか!あんな往来であんな甘いの………忘れたくても絶対に忘れない!………3次元の男が何2次元並みの甘さ見せてんのよ!リアル恋愛シュミレーションしてる気分だった!」
航の照れが、亜里沙に移った様で、航に見つめられた事で、段々と恥ずかしくなり吐露する亜里沙。
「毎回、あんなキスばっかり出来るかよ……が、頑張るけどよ……」
「わ、私もそ、そんなに求めてません……心臓持たない………」
「………俺もだよ………」
航が自分のシートベルトを外し、亜里沙に顔を近付ける。手に付いた煙草の匂いが亜里沙の頬から鼻に突く。
―――煙草吸う人とキス……初めて……かも……
目線が交わり、亜里沙が目を閉じると、もっと濃い煙草匂いの航の息が掛かった。
「2次元でも、俺と比べんじゃねぇぞ、亜里沙」
「………え………っん……」
何を突然言うのか、と思った矢先、亜里沙の唇が開き、その隙に開かれた口端から、航の舌がねじ入れられた。
軽いキスでは満足したくなかったのだろう、航。亜里沙が、何か他事を考えていたのを察知し、それが2次元の世界の推しキャラだと思い、独占欲から深いキスにしたかった様だ。
頬に当てられた航の手が、亜里沙の頭を抱え、助手席のシートが倒される。
「!………んんっ!」
「…………車ん中でシたきゃスルが?」
「………車は嫌!………は、初めてだから!」
「………は?」
「わ、私………し、処女だから……車は………」
「…………わ、悪い!……恋愛経験はあるとかは、ちょっと聞いてたから、てっきり経験あると……」
「……………そこ迄になる前に……終わった……から……」
航に助手席のシートを戻され、頭を撫でられた亜里沙。
「流石に、車は嫌だよな……悪い」
「…………め、面倒くさい……ですよね」
「………そういう男も居るけどな………俺は別に面倒くさいとかは思わない………処女相手も何度もあるし」
「…………経験豊富なんだ………やっぱり……」
「…………裕司や彬良、律也達よりは少ないと思うぞ?あいつ等は、来る者拒まず去る者追わずだったしな………あいつ等の下半身は鬼畜。俺は普通…………」
煙草を再び更かし、シートベルトを嵌めた航。
「さ、今度こそ送ってく」
「………付き合いは………?」
「続行に決まってんだろ………何言ってやがる……」
「………処女でもいい……?」
「諄い!…………処女でも好きになった女を放すか!」
「…………嬉……し……」
「…………お、俺は……見合い断わらねぇからな!」
「………断って下さいと言った事………断らせて下さい!」
「…………プッ………結婚前提で俺と付き合ってくれ」
「は、はい」
お見合いから始まった出会い。ハチャメチャな出会いだったからこそ、粗が出ていて今更素を隠す迄も無いから、亜里沙は今回のお見合いが印象深かった。
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