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呼び出された先
しおりを挟む万里紗が航の店での一件で、亜里沙は航に店に呼び出された。
日曜日の昼間という時間で、店は営業はしていなかったが、羽美と律也も交え、話があると言う。
「…………そんな事が……」
航の説明が一通り終わり、亜里沙は落ち込んだ。
「ごめんなさい………私があの日家で騒がしくしてた万里紗達を追い出したから……」
亜里沙は、店であった事の前、間野家での事を録音したデータをスマートフォンに残していた。
「………なんつぅ奴等だ……」
「頭の悪い子供だな………速水物産でも就職はお断りだ」
「………亜里沙さん、妹さんを病院には?」
「…………連れて行けてません……流石に両親は連れて行こうとして説得してますけど、万里紗は自分はおかしくないと一点張りで……」
「大学の友人達を誘導している感じがあるな……」
「誘導?そんな事、この娘が出来るってのか?」
「…………難しい事じゃないさ……カリスマ性を持ってれば、ちょっと言葉を要所要所で真実と嘘を入れながら話して信憑性を持たせるだけ」
「…………万里紗は人付き合いが上手いから……」
律也は眼鏡を外し、埃が付いていたのかハンカチで取っていた。掛け直すと再び会話に入る。
「証拠集めようか、亜里沙さん」
「証拠?」
「そう………この音声の録音、何故君は録った?」
「…………それは、また癇癪起こされて暴れられたら困るし、両親が留守中だったのでどちらが正しいか、判断してもらいたくて……」
「妹さんの、大学での様子、知りたくない?」
「…………万里紗にボイスレコーダーを持たせるんですか?」
「持たないだろ、それ」
「荷物にコッソリ入れとくんだよ、録音機能付きカメラでもいいが、妹さんが電車通学だったらマズイから、ボイスレコーダーがいいと思う」
「何でカメラじゃ駄目なんだ?」
「お兄ちゃん……痴漢が多い電車内でもし、痴漢なんかあったら、証拠にはなるけど他で見付かったら盗撮の疑いが妹さんに掛かるでしょ?」
航の疑問に羽美が答えた。律也は航に冷ややかな目を送っていたからだ。『そんな事も分からないのか』と。
「律也………目で馬鹿にすんな」
「気付いたか………盗聴も犯罪にはなるんだけどね………で、ボイスレコーダーを持たせる方法として、妹さんの荷物に紛れ込ませられるかどうか………あと回収も、亜里沙さんがしなきゃならないけど………」
「あ、あんまりそういう類いは詳しくなくて……ボイスレコーダーも何がいいかなんて分からないし………」
「裕司は詳しくないのか?航」
「…………ん~……どうかなぁ……裕司とは会ってない空白10年あるからなぁ……彬良はその辺りは全然疎いだろうし……」
「一応、聞いてみるか………」
そう言うと、律也はスマートフォンを出し、裕司に連絡を入れ始めた。
「亜里沙」
「…………はい」
「俺ん家に避難するか?」
「避難?この店に、ですか?」
亜里沙と航の話声で聞き取りづらいのか、律也は亜里沙と航から離れて会話を裕司としている。
「んにゃ、此処から徒歩10分ぐらいで行けるマンション……俺は此処に住んでねぇし」
「…………そ、それは流石に……」
「万里紗ちゃんと会わない様にしてんだろ?」
「両親が居ればまだ、万里紗は癇癪起こしても酷くありませんから」
「…………そっか……」
「………亜里沙さん、避難した方がいいよ」
「え?」
それでも、律也が裕司と電話中にも関わらず、割って入って来る。
「電話終わったら、その話するから待って」
「律也………器用だな………知ってたが………」
「律也さん、私なんかより手際いいもの」
「ホント…………ムカつく……」
「素敵じゃない」
「あ?………俺の前で律也褒めるんじゃねぇ、羽美」
「お兄ちゃんは、料理の腕があるからいいの」
「…………お、おぉ……」
―――シスコン、ブラコン………速水さん、コレいつも見てるんですね……嫉妬する気持ち分かる気がする……
「亜里沙?如何した?」
目の前で兄妹愛を見せつけられ、亜里沙が初めて嫉妬するのを、航は気付いていない。
「航さん、羽美さんと仲良くて妬けます」
「っ!………う、羽美とはこんな感じだぞ!浮気だと思うなよ?」
「思わないですよ、別に………でも、私の姉弟間では、こんな関係じゃないから、羨ましいなって………そうだったと思ってたのは私だけだったな……」
「…………亜里沙……」
「亜里沙さん……」
全く違う兄妹関係で、亜里沙は益々落ち込んでいく。正座してスカートを握り締めていた亜里沙の手を、航は握った。
「…………本当に、万里紗ちゃんが病気だとして、治ったなら関係も良くなるさ」
「…………だといいな……」
「裕司がボイスレコーダー用意するってさ……後から此処に来る」
「マジか!裕司使える奴だな!」
「白河酒造に居た前のツテがあるんだってさ」
「おお、空白の10年………俺がヤキモキしていた時のアイツが今此処で役立つか!」
「…………そんな事は無いだろ」
「空白の10年、て何ですか?」
「あぁ、裕司は高校卒業後、疎遠になってたんだよ、俺と彬良とな」
航は裕司が逮捕歴がある事を亜里沙には言わなかった。裕司の居ない場で言う事は憚れる。
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