お見合い、そちらから断ってください!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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避難という名の家出

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 翌日、亜里沙は会社で太輔と将太に会える様にした。

「お父さん、将太、ごめん呼び出して」
「如何したんだ?亜里沙……家では出来ない話とは」

 本社ビルで、自宅から工場には寄らず、本社に来ている亜里沙。

「私………身の危険を感じてるの」
「なっ!」

 突如として、娘からの告白に太輔も将太も顔色を変える。

「まさか、万里紗が原因だと言うのか!亜里沙!」
「お父さん……確かに最近の万里紗はおかしいよ……お姉ちゃんがここ迄言うんだから」
「…………だからね、お父さん………私、暫く家を出るよ……身の回りの服や日用品を少しだけ、今朝車に積んでおいたから、今日仕事終わったら、避難場所から会社に通う」
「避難場所?ホテルか何処かにか?」
「…………航さんの住んでるマンション」
「は?」
「お姉ちゃん、いつの間に!?航さん、て見合いした人だよね?速水さんの奥さんのお兄さん!」
「…………」

 太輔は、何も言葉を発しない。驚いている将太以上に驚いている様だった。

「………スマホの音声聞いたでしょ?お父さんも将太も………あの後、亜里沙………航さんの店に友達連れ立って、航さんの店に迷惑掛けてたの」
「…………な、なんだと!」
「航さんに追い出されたけど………万里紗、その事お父さんに言った?」
「…………い、いや……聞いてない……」
「万里紗の事もあって、航さんが避難して来い、て言ってくれて…………万里紗を病院に連れてって、何もなければいい……だけど、本当に病気で治療が必要になるなら、その診断が分かる迄、私は万里紗が怖いのよ………それに、あの娘私には一生で居なさいよ、と言ったわ……あの娘は私より優位に立っていたいのよ」
「…………小山内さんの方は、亜里沙を守ってくれるのか?」
「…………安心して、お父さん……航さんの友達も協力してくれてるの……速水さんだって、知恵を与えてくれて、避難の案は速水さんが言ってくれたから決めた事よ」
「分かった………お母さんには伝えておく」
「…………ありがとう、お父さん………これ、航さんの住む住所………万里紗には見せないでね」
「分かってる………必ず病院に連れて行く」

 ―――これで、後は万里紗の荷物に仕込んだボイスレコーダーを確認すればいい……

 録音機能の集音範囲内に居なければならず、万里紗が大学に行っている間は、航が近くで張ってくれる事になっていた。
 航の仕事に支障があるのは、亜里沙は反対をしたが、航は断固として譲らなかった。

『航、探偵雇ってもいいんじゃね?』
『………いや、平日昼間はなんとかすりゃ、俺も動けるし、如何ってことはない』

 と、今も航は万里紗の周辺を探っているだろう。
 
 ―――ん?……周波数キャッチ……

『万里紗!おはよ』
『おはよ~』
『彼氏と仲直りしたか?あの日から』

 ―――けっ!何が彼氏だ……その娘の彼氏じゃねぇっての………

『…………思い出させないで……アレからお姉ちゃん警戒しちゃって、話もさせてくれないの……彼のスマホ………私のスマホからの着拒されちゃって……絶対に、お姉ちゃんが彼のスマホ操作したのよ!………彼が気付いてなくて、私からの連絡が無いから、お姉ちゃんにその隙に取られたんだ………』
『性格悪っ!性悪だな、万里紗の姉貴』
私よりいい大学出たからって、私を虐めて楽しんでるのよ……』

 ―――女じゃなきゃ、殴りてぇな……おっと……警備員か?怪しまれるな……

 バイクの故障をした風に装い、警備員の目を逃れながら、航は万里紗の音声を聞く。

『任せろ、万里紗!俺が人集めて、干物女脅してやるよ!』

 ―――おっと……バッチリ証拠取れたぜ……まだ要るが………

『…………本当?……あ!でも脅すだけだよ?お姉ちゃんを怪我とかさせないでね?大事なお姉ちゃんなんだから!』

 ―――どの口が言うんだ?アレ……

『万里紗、優し過ぎだろ………ちょっとした知り合いに、強面の奴居るから、集めて貰うさ……怪我させない様にはするからさ』

 ―――ほざくな、餓鬼め……

 監視は続けなければならないが、実行する学生の顔は航は覚えている。ボイスレコーダー越して聞こえた声は、店にも来た学生だ。
 その後、暫く万里紗の周辺の音声を拾ったが、亜里沙について話した内容はなく、航は店に戻った。

「…………亜里沙、手伝ってくれるのか?」

 店に戻ると、亜里沙が着物を着て店の手伝いをしていた。

「おかえりなさい、航さん………だって、航さんのマンションの住所知ってても鍵無いし、私1人何もしないのは………だから、手伝いを申し出たんだけど、迷惑でした?」
「…………いや………いい……振り袖も似合ってたけど、それもいいな……」
「振り袖?………あぁ……お見合いの……年齢に不釣り合いの派手な振り袖ね」

 成人式に合わせて購入した着物だったが、亜里沙の今の趣味でもない着物だった。今の亜里沙には、柄が派手じゃない着物の方がしっくりきている。

「着付けも教えなくていいから、楽だわぁ」
「お袋………コキ使うなよ?昼も仕事してんだから………あ、親父さんの反応如何だった?」
「………了承貰えました……驚いてましたけど……私が家を出る、て行動したから」
「…………本当なら、挨拶してからのがいいんだろうがな………」
「航、そんな事を言ったら、父さん達だって挨拶せねばならんだろ」
「それもそうだな………」

 店の営業を終えると、徒歩で行ける距離の航のマンションに亜里沙の車で向かう。

「合鍵は部屋にあるから、後で渡す」
「はい」

 付き合い初めてまだ半月も経っていないのに、期間限定にはなるだろうが、同棲する事になる意味を亜里沙は知っているのかいないのか………。
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