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その後
しおりを挟む「実家に帰ってもいい?」
航がマンションに帰って来たのを待ち、亜里沙は言った。
この日、団体予約のお客があり、亜里沙は仕事を終えた後、手伝いに行ったが、団体客が引けた後は、もう大丈夫だから、とマンションに帰らされた。だからといって、航の仕事は終わった訳でもなく、航は店に残っていて、深夜0時過ぎに帰って来たのだ。
「数時間?」
「ん~、何日か何週間か……」
「何でそんなに?」
「ほら、お父さんだけじゃなく、お母さんにも説明しなきゃならないし、心配してる筈だから」
「…………その点なら、律也から話する、て言ってたぞ……その日は調節するみたいだが、律也が警察に全対応してるんで、親父さんにも話は行ってる筈だ………今日、親父さんに会ったか?」
「会えてない」
「親父さんは、律也に万里紗ちゃんの事を警察に隠したいと言ってたらしい……まぁ、自供されたら無理だろうが………だから、亜里沙が攫われる前に手を打つ必要があった」
「…………うん」
太輔の願いは亜里沙も同じだ。万里紗の闇の所為で、早く太輔が対処していれば、此処迄の事にはならなかった筈なのだ。
「あと、俺達4人の事もある」
「4人?」
「俺、裕司、彬良、律也……何故、俺達は予めあの惨事を知り、探偵紛いの事して、盗聴、盗撮、暴動に加担したのか……理由は律也が矢面に立たなきゃならねぇ事情もある………律也以外、警察には何度も厄介になっていて、裕司なんて前科があるからな………今は社会的に真っ当に生活して犯罪なんて手は染めてないが、犯罪スレスレだったからよ……警察からは、律也も説教受けてるんじゃないかな………アイツ、隠してるけどハッキングもしたとか何とか…………」
「え!」
「街中の防犯カメラも覗いてたんじゃねぇか、て彬良がな」
「大丈夫なの?速水さん」
「…………分かんね」
航を見ると、律也を心配している様に見える。同じ歳とはいえ、義理の弟でもある律也を心配するのは至極当然と言える。日頃言い合いは絶えない会話を亜里沙は見ていて、付き合いが長くなくても心配なのだ。亜里沙以外の者ならもっとだろう。
「風呂入ってくる………亜里沙はもう寝てろ」
「…………寝れないよ、そんな事聞いたら」
「昨日の今日………あ、もう一昨日か……いろいろあった後だし、その後疲れさせたから、寝れるさ」
「か、身体は疲れてるけど!」
「………此処に住んでから、生活リズム変わったろ?よく眠れてない筈だ。実家に戻ってもいいから、両親と過ごして来い………別れる訳じゃねぇしな、迎えに行く………その時は、彼氏として挨拶もしねぇと……」
「………うん」
航が風呂から出ると、亜里沙はスヤスヤと眠っていた。
―――分かんないもんだな……今迄、女を心配する事も無かったのに、今はこんなに不安になる……
航は寝息を立てる亜里沙を抱き締めて眠りについた。
♢♢♢♢♢♢
翌日、亜里沙は律也に呼ばれ、警察に太輔と来ていた。
「速水さん!大丈夫なんですか?私の事で、警察と対応してると聞きましたけど!」
「大丈夫……最終確認みたいなものだよ、今日は」
「本当ですか?」
「あぁ、俺達は罪に問われる事は無いさ………こっち側は、情状酌量で書類送検ぐらい………何より、全部学生達が罪を引っ被ってくれる様に持って行ったからね」
「…………万里紗は?万里紗は如何なりますか!」
「診療結果を急かしておいたから、今日呼ばれたんだよ、警察に………身内として被害者として、話をしたい、とね」
警察署に入ると、律也が持っていたPCやタブレット端末が返された。
「………全く……危険な事に首を突っ込まないで頂きませんと」
「ですが、コレのおかげで私達が、被害者側だと証明されたでしょう?」
「…………不本意でしたがね……もう、10年以上前、この界隈で悪さしていた輩が、今や大企業の役員やら、人気店の料理人に迄成り上がって、また警察に名を思い出させるとは思いもよりませんよ」
「彼等は暴力を振るってませんからね、間野 亜里沙さんを助け出しただけです……私もね」
「…………物的証拠は確認取れましたから………ただ、逮捕した者の中で、頻りに間野 万里紗さんの名が出るんですがね………精神的にまだ聞き出せる状況では無いと聞いてますが、お姉さんの亜里沙さんや、父親としてはどう見ておられたんですかね?」
刑事は、万里紗に疑いの目は持っている様だ。
「以前から、精神的病気ではないかと思えて仕方ない事はありました……病院にも行ってくれず困っていたんです……大学で学友達に話していた事を、誘導と捉えてらっしゃるんですか?警察の方は」
「それが病気であるかないかが問題なんですよ………責任追及が問えるか否か……出廷をお願いされるかもしれませんな」
警察沙汰になった以上、万里紗が罪に問われる可能性は精神鑑定に委ねるしかないようだった。
「何方にしても、学生達の罪は殺人等より軽く、保釈はされるかもしれません………その後の間野さん方、関わった方々の身の安全にはくれぐれもご注意を」
「大丈夫でしょう……亜里沙さんには小山内 航が居ますから……それに、彼等が我々に手出しがもう出来ない様に手は打ってます」
「………それは?……」
「大学退学は勿論免れる事はありません。就職内定取消、不採用は彼等について回ってきます………私達に牙を向いたんですから当然の報いです……犯罪はしてませんよ?一企業家としての正攻法ですから」
―――速水さんの、この笑顔怖いわ……
律也の元に、大学や学生達の保護者や学生本人達からの謝罪が来たという。謝罪だけでなく特に親達からは、就職内定取り消しを無かった事にして欲しい、と懇願されているらしい。しかし、律也はとりあってはいない。
失礼に当たる言動を後先考えず、漏らした者は普段からその様な事が頻繁だという事。雇用者として企業マイナスになり得る者は最初から要らないのだ。
謝罪を受けたからと言って、取り消す事はしなかった。
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