34 / 85
アニースの知り合い
しおりを挟む何度か、馬車の主の仕事を手伝ったアニースとタイタス。
「あんちゃん、俺の仕事手伝わねぇか?」
「そうしたいが、俺にも仕事があるんだよ。今日は休みであそこに居ただけだし。」
「そうか、そうだよな………そんな美人な彼女居たらデートだよな………本当助かったよ、早く仕事も終わりそうだ………ほらよ、大聖堂に着いたぜ。」
「俺達も助かったよ。これチップ、受け取ってくれ。」
「いやぁ、いいよ、久々に仕事も楽しかったからな。」
「いや、受け取ってくれ、これで馬の餌でもやってほしい。」
あくまでも、馬車代と言い張るタイタスに男は折れて受け取る。
「仕方ないな、有難く受け取っておくよ。ねぇちゃん、いい男捕まえたな、離すなよ!」
「!!」
「おいおい………俺のが努力要るんだよ、愛想つかされないようにしなきゃならないんだからな!」
「若いねぇ、幸せにしてやりなよ、あんちゃん。」
言いたい事だけ言って、馬車主の男は行ってしまった。
「アニース、何処にある?」
「…………。」
「アニース?如何した?」
「!!………あ、ごめん……何て言った?」
「店に行くんだろ?」
「あ、うん。…………ここからなら分かるから……あ、こっちだ。」
普段から大聖堂の人混みは凄い。
最近は特に賑わっている。
「凄いな、今日の大聖堂の周辺。」
「こらこら、走ったら危ないよ、迷子になるから!」
「だって、お母さん、大聖堂に入るんでしょ?皇太子妃様とラメイラ妃へのお祈りに。」
すれ違い様に、母娘が話ていた。
そう、ナターシャとラメイラが無事に出産出来るように、祈りに来る国民が居たからだった。
「そっか、お祈りか。」
「また叔父さんになるよ………。」
「ヴィオも可愛いからいいじゃないか。」
「…………まぁな………あれ?アニース?」
「…………ここっ!………人の流れに……ふぅ……。」
「逆方向に歩いてるからな………ほら、手。」
「え?」
「迷子防止。」
「…………なっ!」
「…………。」
手を繋ごうと提案したタイタスだが、顔が赤い。
タイタスも先程の馬車主の男から言われた事を意識したのだろうか。
アニースは緊張しながらタイタスと手を繋ぐ。
汗をかく季節ではないが、汗ばんでいくような感覚に陥った。
手から、お互いの温もりを感じながら、アニースが行きたかった店に着いた。
「ここだ。」
「何の店だ?」
「チョコレートの店。以前短期だが働かせてもらってた。ナターシャが好きな店だったらしい。今は懐妊しているから、ナターシャにチョコは無理だとは思うが、チョコ以外にも焼き菓子も売ってるから買って帰ろうかと思って。」
「…………アニース?……やっぱりアニースだ!旦那さん!!アニースですよ!」
「ミランダ!久しぶりだな!」
アニースの知り合いの女性が店の外から出てきたなのをきっかけに、アニースはタイタスの手を離す。
何故か、タイタスにはそれを寂しく思えてしまった。
「………………。」
「アニース、まだ王都に居たのなら、まだここで働けば良かったんじゃない?」
「一旦離れてアードラ迄行ったんだよ。レングストンの王都に戻ったのは半年ぐらい前かな。」
「…………ね、ねぇ、あんたのいい人?彼。紹介しなさいよ!いい男ね。あんた美人だからいい男寄ってくるよねぇ。」
ミランダがアニースの後ろに居るタイタスを見て、ここでも恋人同士だと思われる。
「あ、あぁ………今お世話になっている邸の方だ。」
「なぁに、アニース。貴族の邸で働いてるの?」
「まぁ、そんな所だ。」
「アニース!!元気だったか!………さぁ、入れ今日は久しぶりに会えたから、奢ってやる、さぁ連れの人も。」
店主の声で何とか根掘り葉掘り聞かれる事なく店に入れて安堵したアニース。
普段から賑わう店ではあるのだが、アニース達が入った時間は混み合う時間とズレていた。
「しまった………ミランダが居た日だったのか……。」
「如何したんだ?」
「彼女………おしゃべりで………大丈夫なのかな?タイタスお忍びだし。」
「俺がこういう店知ってると思うか?たいていは大衆食堂的な店でしか食事しないよ。」
「根掘り葉掘り聞かれるのはマズイだろ?」
「それはな。貴族の邸勤めはあながち間違ってはいないけど、俺も同僚、て事にしとくか。」
水が運ばれて来てから、タイタスはその水を飲む。
注文もアニースが好きな物を頼み、タイタスもアニース以上のケーキを頼んでいる。
どうやら、タイタスは甘党らしい。
「お待たせ、アニース。」
「ありがとう、ミランダ。」
「こんなに食べれるの?凄い量だけど……。」
「私は一つだけだ!後は彼が食べる。」
「す、凄いわね。それより早く紹介してよ!」
「あ、あぁ………。」
アニースはタイタスに目線を送ると、タイタスは口を開いた。
「アニースの同僚でタイタスと言う。今日はお互い非番でね。アニースが世話をしている主に土産を、と言うので付き添ったんだ。」
「タイタスさん、かっこいいですね。今度タイタスさんのお友達紹介してもらえませんか?」
「ミランダ、初対面でお願いする事じゃない!」
「いいじゃないよ~。」
「アニース、これ美味い…………ほら、食べて。」
タイタスはこれ以上、ミランダから言われたくないのか、自分が食べているケーキを一口大に掬い、アニースの口元に持っていく。
「タ、タ、タイタス………。」
「ほら、落ちる。」
「………………美味しい……。」
「……………一生やってなさいよ!アニース、結婚式には呼びなさい!祝ってあげるから!」
目のやり場に困ったミランダは、タイタスへのお願いを忘れ、仕事に戻って行った。
「………そんな事もやる人だったのか?タイタス。」
「いや、初めてやった…………彼女が鬱陶しかったからな。」
パクパクと次から次へケーキを口に運ぶ。
間接キスをしたフォークで……。
「………………。」
思い出すと顔が火照る。
アニースは食べたケーキは味さえ分からなかった。
アニースは自分の事で手一杯で気付く事はない。
タイタスもまた顔が火照り、耳が赤かったのを。
0
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる