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妃の素質
しおりを挟むアニースは王城内にあるサロンに来ていたた。
勿論、妃候補としての勉強である。
だが、講師は皇子達でもナターシャでもない。
彼ら以外にも必要であれば他の講師も付けてくれている。
「アニース姫様、ご機嫌よう。」
「ミラー侯爵夫人、今日は宜しくお願いします。」
ミラー侯爵夫人は、ウィンストン侯爵夫婦と親しくしており、食事マナーやお茶会、淑女としての嗜み等をアニースとラメイラに教える為に派遣された講師。
だが、ラメイラは体調を考え、休みを取っている。
「あら?今日は3名参加だと伺っていたのですが?」
「…………ラメイラ妃ですか?」
「いいえ、アニース姫様の義姉様お2人ですわ。わたくしお会いした事はありませんが、妃候補の勉強に参加されると伺ってますの。」
ミラー侯爵夫人は、淑やかに上品な初老の夫人で、ナターシャにも教えていた事があるらしい。
「ジャミーラとヘルンも来るのですね……。」
「仲がよろしくないのでしたよね?」
「はい………ミラー夫人もお会いになれば分かると思います。」
「ウィンストン公爵から伺っておりますわ。解釈がアニース姫様とは違うのですから、仲良くとは難しい方々かもしれませんわね。」
「…………そうなんです。先日も部屋を変われ、と言われまして、私より下になるのが好きではなくて。」
「アニース姫様、減点ですわ。」
「あっ!」
「淑女たるもの、公の場ではお相手を貶す言葉はご法度。そういう方は立てておくのが円満に進む事もありましてよ?」
「…………努力します。」
公の場では『本音を見せてはいけない』という事をアニースはミラー侯爵夫人に教えられている。
それは、ジャミーラとヘルンとは真逆。
「ふ~、探したじゃないの。」
「ジャミーラがもたもたして、迷うからでしょ!」
侍女達をぞろぞろと引き連れ、また露出度が多い姿。
ミラー侯爵夫人が懐中時計を取り出し時間を確認する。
「ジャミーラ姫様、ヘルン姫様ですね。わたくしミラー侯爵夫人でございます。今後わたくしがお2人にマナーや嗜み、淑女とは何たるか、をお教え致します。宜しくお願い致します。」
ミラー侯爵夫人が一礼する。
しかし、ジャミーラとヘルンは目の前の椅子に座った後、ミラー侯爵夫人を見る。
「あ、そう。」
「宜しく。」
「……………お2人、減点ですわ………メモを取って頂戴。ジャミーラ姫様、ヘルン姫様、挨拶無し。遅刻したにも関わらず謝罪無し。自己紹介無し。公の場のお茶会を設定するとお伝えしているにも関わらず、似つかわしくない服を着て来られた減点。椅子に座り足を組むジャミーラ姫様減点、肘をテーブルに立て、顎を乗せているお行儀の悪さでヘルン姫様減点………マニー、書けましたか?」
「はい。」
「なっ!何なのよ減点って!」
「何で謝罪が要るのよ!」
ミラー侯爵夫人は、控えていた侍女にメモを取らせる。
それがジャミーラとヘルンの癪に障った。
遅れて来た事に謝罪もなく、初対面で自己紹介も無いのでは、何処に行っても恥をかくのは、本人だけでなく同席した者達。
例え妃になったとして同席した夫が一番恥をかく。
「ジャミーラ姫様、大声で怒鳴りはしたない為減点。ヘルン姫様、謝罪をしなければいけない事を分からない為減点………これでは、満点には程遠くなりますわね、姫様方。アニース姫様は時間前にはこちらに来られ、わたくしとのご挨拶は、椅子から立ち、一礼したお姿は美しかったですわ。ジャミーラ姫様とヘルン姫様が減点になればなる程、アニース姫様の出来は際立ちますわね。」
「冗談ではないわ!アニースに負ける訳ないでしょ!卑しい女が産んだ娘なのに、王女の地位なんて許せないの!」
「ジャミーラ姫様……では、あなたがアニース姫様のようなお立場でしたら、同じ扱いされてしまうのかもしれないのですが、その様なお考えを改めるお気持ちはないのですか?ヘルン姫様も。」
諦めにも近い蔑みの表情のミラー侯爵夫人。
「ある訳ないでしょ。私は自分で上に行くわ。」
「私も。」
「ジャミーラ、ヘルン………情けない。」
「は?」
「何が情けないのよ、アニース。」
ミラー侯爵夫人は決して間違った評価はしていない。
それさえも否定する2人をアニースは情けなく思う。
「あなた達は、ボルゾイの第一王女、第二王女として産まれたからそう思うのだ。王族に産まれて居なかったら今のように裕福な生活を求めたとしても、せいぜい側室止まり。王女だから、妃侯爵に入れてもらえたようなものだ。それを自分の功績のように言われては、努力してきた者達が気の毒だ。」
「そうですわね。わたくしもアニース姫様に賛同ですわ。マニー、これ以上はジャミーラ姫様、ヘルン姫様は妃としての品位、嗜み、マナーは期待出来そうにありませんので、もうメモは結構よ。わたくしから陛下にご進言させて頂きます。無駄な時間でしたわ、アニース姫様、わたくしとのご歓談続けましょう。ジャミーラ姫様、ヘルン姫様、お疲れ様でございました。」
ミラー侯爵夫人によりジャミーラ、ヘルンの妃の素質無し、と判断された。
他にも勉強がある為、その結果でも『素質無し』と見なされれば、否応なしにジャミーラとヘルンは追い出される事になる。
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