放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
46 / 85

妃の素質

しおりを挟む

 アニースは王城内にあるサロンに来ていたた。
 勿論、妃候補としての勉強である。
 だが、講師は皇子達でもナターシャでもない。
 彼ら以外にも必要であれば他の講師も付けてくれている。

「アニース姫様、ご機嫌よう。」
「ミラー侯爵夫人、今日は宜しくお願いします。」

 ミラー侯爵夫人は、ウィンストン侯爵夫婦と親しくしており、食事マナーやお茶会、淑女としての嗜み等をアニースとラメイラに教える為に派遣された講師。
 だが、ラメイラは体調を考え、休みを取っている。

「あら?今日は3名参加だと伺っていたのですが?」
「…………ラメイラ妃ですか?」
「いいえ、アニース姫様の義姉様お2人ですわ。わたくしお会いした事はありませんが、妃候補の勉強に参加されると伺ってますの。」

 ミラー侯爵夫人は、淑やかに上品な初老の夫人で、ナターシャにも教えていた事があるらしい。

「ジャミーラとヘルンも来るのですね……。」
「仲がよろしくないのでしたよね?」
「はい………ミラー夫人もお会いになれば分かると思います。」
「ウィンストン公爵から伺っておりますわ。解釈がアニース姫様とは違うのですから、仲良くとは難しい方々かもしれませんわね。」
「…………そうなんです。先日も部屋を変われ、と言われまして、私よりになるのが好きではなくて。」
「アニース姫様、減点ですわ。」
「あっ!」
「淑女たるもの、公の場ではお相手を貶す言葉はご法度。そういう方は立てておくのが円満に進む事もありましてよ?」
「…………努力します。」

 公の場では『本音を見せてはいけない』という事をアニースはミラー侯爵夫人に教えられている。
 それは、ジャミーラとヘルンとは真逆。

「ふ~、探したじゃないの。」
「ジャミーラがもたもたして、迷うからでしょ!」

 侍女達をぞろぞろと引き連れ、また露出度が多い姿。
 ミラー侯爵夫人が懐中時計を取り出し時間を確認する。

「ジャミーラ姫様、ヘルン姫様ですね。わたくしミラー侯爵夫人でございます。今後わたくしがお2人にマナーや嗜み、淑女とは何たるか、をお教え致します。宜しくお願い致します。」

 ミラー侯爵夫人が一礼する。
 しかし、ジャミーラとヘルンは目の前の椅子に座った後、ミラー侯爵夫人を見る。

「あ、そう。」
「宜しく。」
「……………お2人、減点ですわ………メモを取って頂戴。ジャミーラ姫様、ヘルン姫様、挨拶無し。遅刻したにも関わらず謝罪無し。自己紹介無し。公の場のお茶会を設定するとお伝えしているにも関わらず、似つかわしくない服を着て来られた減点。椅子に座り足を組むジャミーラ姫様減点、肘をテーブルに立て、顎を乗せているお行儀の悪さでヘルン姫様減点………マニー、書けましたか?」
「はい。」
「なっ!何なのよ減点って!」
「何で謝罪が要るのよ!」

 ミラー侯爵夫人は、控えていた侍女にメモを取らせる。
 それがジャミーラとヘルンの癪に障った。
 遅れて来た事に謝罪もなく、初対面で自己紹介も無いのでは、何処に行っても恥をかくのは、本人だけでなく同席した者達。
 例え妃になったとして同席した夫が一番恥をかく。

「ジャミーラ姫様、大声で怒鳴りはしたない為減点。ヘルン姫様、謝罪をしなければいけない事を分からない為減点………これでは、満点には程遠くなりますわね、姫様方。アニース姫様は時間前にはこちらに来られ、わたくしとのご挨拶は、椅子から立ち、一礼したお姿は美しかったですわ。ジャミーラ姫様とヘルン姫様が減点になればなる程、アニース姫様の出来は際立ちますわね。」
「冗談ではないわ!アニースに負ける訳ないでしょ!卑しい女が産んだ娘なのに、王女の地位なんて許せないの!」
「ジャミーラ姫様……では、あなたがアニース姫様のようなお立場でしたら、同じ扱いされてしまうのかもしれないのですが、その様なお考えを改めるお気持ちはないのですか?ヘルン姫様も。」

 諦めにも近い蔑みの表情のミラー侯爵夫人。

「ある訳ないでしょ。私は自分で上に行くわ。」
「私も。」
「ジャミーラ、ヘルン………情けない。」
「は?」
「何が情けないのよ、アニース。」

 ミラー侯爵夫人は決して間違った評価はしていない。
 それさえも否定する2人をアニースは情けなく思う。

「あなた達は、ボルゾイの第一王女、第二王女として産まれたからそう思うのだ。王族に産まれて居なかったら今のように裕福な生活を求めたとしても、せいぜい側室止まり。王女だから、妃侯爵に入れてもらえたようなものだ。それを自分の功績のように言われては、努力してきた者達が気の毒だ。」
「そうですわね。わたくしもアニース姫様に賛同ですわ。マニー、これ以上はジャミーラ姫様、ヘルン姫様は妃としての品位、嗜み、マナーは期待出来そうにありませんので、もうメモは結構よ。わたくしから陛下にご進言させて頂きます。無駄な時間でしたわ、アニース姫様、わたくしとのご歓談続けましょう。ジャミーラ姫様、ヘルン姫様、お疲れ様でございました。」

 ミラー侯爵夫人によりジャミーラ、ヘルンの妃の素質無し、と判断された。
 他にも勉強がある為、その結果でも『素質無し』と見なされれば、否応なしにジャミーラとヘルンは追い出される事になる。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...