放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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説得

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 アニースはそのまま皇女宮の5階に来る。

「ジャミーラとヘルンに会いたい。」
「アニース姫様…………。」

 何人も侍女を侍らせているジャミーラとヘルン。
 廊下に10人程の侍女と2人の兵士。
 侍女達の手や顔には痣がある。
 小声でアニースの名を呼ぶと、涙を流す侍女も居た。
 怯えた虚ろの目。

「手当て、後からしてやろう。医者を呼ぶから。」

 小声でアニースは呟くと、すすり泣く声が廊下に響く。
 ジャミーラとヘルンの部屋は廊下を挟み侍女が待機しているようだ。

「ジャミーラの部屋にヘルンを呼んでくれ。」
「お待ち下さい、今お呼びします。」

 コンコン。

「ヘルン様、アニース様がおみえです。ジャミーラ様のお部屋にお越し頂けますか?」
「ジャミーラ様、アニース様がおみえになりました、お通しして宜しいですか?」
『アニースに付けるんじゃない!』

 パリンッ!

「も、申し訳ありません!」

 ジャミーラが室内で、何かを投げて割ったのだろう。
 ボルゾイから持って来た物ならいいが、レングストンの物だとしたら質が悪い。

『言い直せ!』
「アニースがジャミーラ様にお会いになりたいと…………。」
「何なのよ、ジャミーラまた暴れてんの?」
「ヘルン……。」

 ヘルンは侍女の言葉に素直に出て来たが、寝ていたのか、夜着を着ている。
 若い兵士も居るのに、気にもしていない。

「何?」
「せめて、隠して出て来たらどうだ?兵士の目のやり場が困るだろう。」
「は?別にいいじゃない。」
「…………。」
(それで妃になりたい、とよく言えるな……。)
『アニースが何の用なのよ!』
「入ったら話す。ヘルンと入れてくれ。」
「…………入れば。」

 ジャミーラの許可が出て入るアニースとヘルンはジャミーラの部屋に入る。
 ジャミーラは上半身裸。
 アニースは呆れながら、先程の音の主を確認する。
 それは、アニースもこの部屋で使っていた水を入れている硝子のピッチャー。

「………すまないな、ジャミーラ、ヘルン。」
「それで、何よ、何の用?」
「アラムが即位式を行うらしい。ジャミーラとヘルン、私でボルゾイに帰らないか?」
「…………何でよ。行かないわよ、そんなもの。」
「私も行く気ないわ。」

 2人はボルゾイに帰る意思はない様子。
 それにはアニースは驚いた。
 2人は故郷への愛着が無いのだろうか。

「どうして行く気ないんだ?」
「行った所でどうするのよ。アラムの御代になったら、アラムとお母様以外王宮から出て行かなきゃならない事ぐらいアンタだって知ってるわよね。」

 ヘルンは王宮以外に住む場所を持っていないが、ジャミーラは持っている。

「知ってるが?別にいいじゃないか。ジャミーラは前夫の邸を持っているだろう?」
「あんなちっちゃい邸なんて物置だわ。王宮の私の物運んだらもう入れる所ないの。いずれこっちに持って来させればいいし。」
「私だって、面倒くさいわ、行って帰って来ると4、5ヶ月は掛かるんだから。」

 2人共、レングストンに居座る気な様だ。

「そんなに皇太子と離れたくないのか?望みが無いのに。それならタイタス殿下とコリン殿下は未婚なのだから、彼らの妃を考えればいいのに。」
「第三皇子?………あぁ、あのアンタが惚れてる………。」
「皇太子殿下やトーマス殿下は既婚だが、愛人を持つ気もないだろう。だがあなた達はの立場でなければ納得しない、。それならタイタス殿下とコリン殿下のを狙ったらどうだ?知っているだろう?レングストンは一夫一妻制なんだ。狙うなら未婚で初心なタイタス殿下やコリン殿下を狙えばいい。」
(…………タイタスをにして着いてくるだろうか……怒られそうだが、レングストンから離さなければ。)

 ジャミーラの言葉に肯定も否定もしないアニースは、タイタスで釣る。

「じゃ、アンタが居ない間、私がタイタス殿下を落としてあげる。」
「私も、ジャミーラに負けないわ。コリン殿下はまだ子供だもの。年下は興味深いないけど、タイタス殿下ならまだマシよ。」
「…………ボルゾイに行くタイタス殿下をどうやって落とすんだ?私が行く事を決めた時、タイタス殿下はレングストンからの使徒として、セシルと同行するんだが?」
「何ですって!」
「何でタイタス殿下が行くのよ!こういう場合、皇太子が動くでしょ!」
「皇太子殿下もトーマス殿下も、妃が懐妊中だ。ボルゾイに行ってしまったら、妃達が不安がるというので、レングストンから離れない。」
(……………多分、そういう意味だろうと思うが……。)

 否ではあるが、その意味はアニースにウィンストン公爵は教えていない。
 アニースとタイタスの距離を縮めたいだけで同行させるつもりなのだ。
 それでも、リュカリオンの心情はナターシャの出産に立会たいだけで、トーマスを行かせようとしなかったのは、いち早くコリンに仕事を覚えさせたかっただけの事。
 アニースにそこ迄言う事でもないのだ。
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