皇太子と結婚したくないので、他を探して下さい【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
5 / 88

4

しおりを挟む

 走り出したルティアだが、リアンの方が歩幅も大きく、背も高いのもあり、直ぐに追い付かれてしまう。

「待てよ!」
「は、放してっ!1人で帰れるわ!」
「俺からの返事を聞かずにか!」
「っ!」

 腕を捕まれたルティアはリアンの顔を見れない。
 俯いたまま、涙が溢れそうになるルティアは、捕まれていない腕で、目を拭った。

「…………ほら、顔を上げろ……ティアのハンカチは俺の汗ついて汚いから、俺のハンカチを貸してやる」
「い、いい!」
「黙ってろ!」
「っ!」

 顎を上げさせられたルティアは、一瞬の出来事で何が起きたのかさえ分からなかった。
 驚き過ぎて、涙が止まる。
 目の前にリアンの顔が近付き、唇をリアンに奪われたからだ。

「………リ………ア……」
「………う、嬉しかったさ………俺だって……ティアに会いに店に行ってたんだから」

 リアンに捕まれた腕は解かれ、ルティアはリアンに抱き締められていた。

「う…………嘘じゃ……」
「俺は自分の気持ちに嘘は吐かない」
「ゔっ………ぅ………っく……」
「…………如何して泣くんだよ」
「…………う、嬉し……」
「そっか………」

 ポンポン、と頭を撫でられるルティアは、そのままリアンの胸に顔を埋め暫く泣いていたが、直ぐにある事を思い出す。

「あっ!」
「な、何だ?」
「…………リアン!お願いがあるの!」
「お願い?」
「わ、私の…………じ……じゅ……純……潔を……も、貰ってくれない………かな?」
「っ!…………な、な………お前……今何………あ、いや………その……」

 余りにも突拍子無い事をルティアに言われたリアンは、周囲に誰も居ないかを確認し、挙動不審になった。
 ルティアの言葉に察したのは、ルティアにも分かる。
 突然な事で、リアンも驚かない筈はないのだ。

「私………結婚したくないの………」
「…………は?………あ……あぁ………そ、その男と?」
「…………うん………なんだって………」
「…………は?………誰がそんな事………あ、いや………まぁ……そりゃ順序を考えたら……」
「私がな女だったら、結婚が無くなるんじゃないかな、て………両親も諦めてくれるんじゃないかな、と………それにお相手も………」
「…………無くなるか如何かは、相手次第じゃねぇの?ティアの両親からは、かなり怒られるだろうけど」
「無かった事にならないのかな………私がリアンに抱かれても………」
「…………さ、さぁな………お、俺なら無かった事にはしないぞ」
「…………私……リアンとは結婚出来ないの?出来る方法は無い訳?」
「…………あ、いや………か、考えてみる……」

 どうも、リアンは歯切れが悪い。
 ルティアを好きだと態度で示しているのに、ルティアの婚姻を壊す様な話方にはなってはいないのだ。

「リアン?やっぱり………私とはそこ迄考えれない?リアンがその気なら、私家出する覚悟だって…………っ!」
「ティア…………それを考えたら駄目だぞ」

 口元にリアンの指が当てられ、ルティアは言葉を留めた。
 ルティアの両親、フェリエ侯爵やカリーナをリアンは知らない筈で、リアンは親を捨てさせたくないから、そう言ったのだと思われた。

「で、でも………私……多分、このまま家に帰ったら、外出もさせて貰えなくなりそうで………」
「ならないさ」
「そんな事分からないじゃない!」
「その婚約者と会ってた、とでも言っておけば?」
「…………それこそ、信じないわよ。だって、街に出て来る様な人じゃなさそうなんだもん」
「…………どんな印象してんだよ、ティアの中で……」
「え?…………多分忙しい人なんじゃないのかな」
「…………それしか知らないのか」

 ルティアから見れば、皇太子ジェスターは雲の上の存在でしかない。
 社交界にもまだ出た事のないルティアに、想像でしか言えないのは仕方ない事だった。

「会った事無いし………ここ数日、会いたいと連絡もあるけど、全部断わってるし」
「…………会えば?」
「会ったら、話が進んじゃうでしょ!」
「…………なる程ね」
「リアンは良いの?私がそのお相手と会って、結婚の話が進んだら!」
「…………立ち話もそろそろ止めないと、本当に外出禁止にさせられるぞ、ティア」
「はぐらかしたわね!」
「いや、本当にマズイだろ」
「ゔっ…………」

 気持ちを通い合わせられても、リアンに現実に引き戻され、はぐらかされた事を聞きたいのに、フェリエ侯爵家の事を思い出すと、聞くに聞けなくなってしまったルティア。

「送ってくから」
「と、途中迄で良いから!」
「…………男と一緒に居るのを見られたくないよな………分かった。近く迄な」

 余り、リアンに送って貰いたくなかったルティアだが、今の様に男達に絡まれたくなかったので、邸の近く迄送り届けて貰った。
 フェリエ侯爵家が建つ区域は貴族の邸が多い。
 そんな区域にリアンを連れて行きたくなかったが、リアンは気にする素振り等なかった。

「こ、此処で良いわ!ありがとう。送ってくれて」
「…………気を付けてな、ティア」
「う、うん………リアンも」
「俺は大丈夫だ。もしティアが両親に怒られて外出出来なかったら、外出可能な人間に使いを出せ。そうだな………楽器店の店主に使いを出せば、迎えにきてやるから」
「う、うん……そうする」
 
 ルティアはリアンの手を放して、足早に邸の方へと走って行った。

「殿下」
「…………今の輩達は捕まえたか?」
「はい………拘束してございます」
「聴取したら解放していい。くれぐれも再犯しない様に念を押してな」
「殿下は直ぐにご帰還をなさって下さいね。執務を放り出したんですから」
「分かってるよ!」

 先程の警備隊の1人がリアンの背後から声を掛けてきていた。

「馬を此方に連れてきていますので」
「あぁ…………俺も帰る。引き続き、フェリエ侯爵邸の近辺の監視を怠るなよ。ルティア嬢やフェリエ侯爵にも知られない様にな」
「はっ………ジェスター殿下」

 偽名を使い、リアンもまたルティアと会っていた、シャリーア国の皇太子、ジェスター・ミリアン・シャリオルト。
 ルティアとの結婚を望んだ男だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...