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しおりを挟む「ティア、追うぞ」
「あ、うん!」
スヴェンとシスリーにバレない様に、後を追うルティアとリアン。
「お待ち下さい」
「っ!………ライナス!」
「他の者にお任せを………ベルイマンもスヴェン卿達を見張ってます。それより観劇中のご報告を」
ライナスが劇場内で見張っていたらしく、リアンを止めた。
「ベルイマンがスヴェン卿を見ているなら任せるか………それで?」
「…………観劇なんて見てませんでしたよ、あの2人」
「見てない?」
「3階の貴族用個室に入ると、ベルゼウス伯爵令嬢は、スヴェン卿の膝に頭を………」
「スヴェン卿の膝に頭?………膝枕か?」
「まさか………途中、スヴェン卿の呻き声も漏れていた様ですよ。個室前に待機させていた部下がしっかり聞きましたし、ベルゼウス伯爵令嬢の声も………」
「そ、それはまさか………アレか!」
「…………十中八九ソレかと」
アレだのソレだの、ルティアは見当が付かない。
「ね、ねぇ………何?アレだのソレだの……」
「ティア………ちょっと耳を………」
「っ!…………な、な、な、な……」
「発狂しないでくれよ?街中なんだから」
宿屋でもないのに、劇場の個室で、事をシていた等とあってはならないだろう。
ライナスの話から、シスリーから仕掛けた行為だとするならば、初心なスヴェンには、刺激的で甘美な手解きをされた、という事だ。
「ティア、俺達も今度スる?」
「絶対に嫌!」
「こ、断られた………」
「当たり前でしょう………ベルゼウス伯爵令嬢だから出来たんでしょうから………他の令嬢なら嫌がりますよ」
「夢見たっていいじゃないか………」
「そんな夢でなく、国政を担う方が見本とならないで如何するんですか………ほら、追いますよ」
「あ、あぁ…………ティア、手を」
「……………シないからね!」
「分かってるよ!」
公共の場所で、閨事等行うとは何たる行為。
スヴェンが断らなかったのにも、ルティアは腹立だしく、リアンに八つ当たりをする態度を取ってしまった。
---ど、如何やってシたんだろ……ベッドも無いわよね…………もしかして、私達がこの前シた様に?…………あ、あれを人に見られるかもしれないのにヤれるの?し、神経おかしくない?あの人…………お、お兄様も何で断らなかったのよ!
悶々と想像してしまうルティア。
「ティア?………なぁに考えてるんだ?」
「っ!」
隣を歩くリアンに顔を覗かれ、ニタニタと見透かす様な含みある笑みを向けられていた。
「い、い、良いでしょ!お兄様が心配なのよ!」
「ふ~ん………俺はてっきり、あの場所でどう事をスるのかって考えてんじゃないかな、と思えたんだけど………」
「っ!」
「後で教えてやるよ」
「話で分かるの?」
「実践が良いならいつでも?」
「話で分かる様にお願い!」
予想だけで、それが正しいのが分からないので、その答え合わせだけでいい。
「追い付いたな………ベルイマンが足止めしてる」
「………え……何処に………あ……」
スヴェンとシスリーが向かおうとしていた方向は、治安が良くないとされる区間だった。
その区間に入ると、物取り被害に遭いやすいので、近付くなと言われた地域だ。
その手前で、スヴェン達は立ち止まっている。
リアンがスヴェンを見つける少し前、ベルイマンがスヴェンに声を掛けたのだ。
「スヴェン?………スヴェンじゃないか」
「え?…………ベル?」
シスリーに腕を取られ、引っ張られる様にスヴェンも歩いていたので、注視していたのだろう。
ベルイマンが近く迄行き、盗み聞きするとこんなやり取りが聞こえた。
『スヴェン様、この先に私のオススメのお店があるんです』
『シスリー嬢、この区間は治安が悪い………迂回して行きませんか?』
『あら、そんな事ありませんわ………私はよくこの区間を通りますし、危なかった事もありません。それにいざと言う時は、スヴェン様が守ってくれるのでしょう?』
と、ベルイマンは聞いたのだ。
そこで、声を掛けている。
何故なら、その区間の中に、ベルゼウス伯爵が経営するカジノの一店舗があり、一番タチの悪い店なのだ。
繁華街にもカジノはあるが、そちらは貴族御用達のカジノ。此方のカジノは平民用に作られたカジノだ。
イカサマで金を巻き上げる事を目的とした様な店で、リアンが一番潰しておきたいカジノの一つでもあった。
「街中で君と会うとは………久し振りじゃないか、ベル」
「久しいな、スヴェン」
ベルイマンは公爵家の公子ではあるが、スヴェンとは幼馴染で、子供の頃の時の様に、身分無視で話せる間柄だった。
公式の場では、流石に敬語で話はしているが、街中の為、その様な話し方はする必要は無いかもしれない。
「ヴィクトル公爵公子様、こんな所でお会いしたのも何かの縁、これから私達とご一緒致しませんか?」
「…………何故、下位貴族が勝手に私に話し掛けるんだ?無礼だろ」
「…………は?」
ベルイマンは、スヴェンとの会話に割って入るシスリーには冷ややかだ。
それに、シスリーは顔が引き攣る。
「スヴェン、こんな所で何をしてたんだ?良かったら今から俺の邸で飲まないか?」
「あ………いや……今此方の令嬢との約束があって………」
「そ、そうですわ!スヴェン様は私と約束してますの!」
「…………はぁ……スヴェンらしくないじゃないか……お前はもう少し女を見る目を養った方がいい………お前なら、この令嬢が俺に無礼を働いた事ぐらい分かるだろ?」
「そ、そりゃあ………」
下位貴族は上位貴族に話掛ける時は、きちんとした挨拶から始まり、上位貴族が返事をしなかった場合は、下位貴族は口を出してはいけない事が礼儀だ。
今、シスリーは挨拶をすっ飛ばし、ベルイマンを誘うだけの発言をした。
それにベルイマンはシスリーに対して冷ややかに出ていたのだ。
スヴェンとベルイマンは親しいので、省く事も許されていても、ベルイマンにはシスリーとの交友等全く無い。
街中だろうとも、礼儀は間違った事をさせる気は無いのだろう。
「俺は、お前の連れが誰だか分かってはいるが、俺とその女の家とも交流が無い以上、無礼は許せない。挨拶無くその女が行きたいという場所に何故俺も行かねばならん?」
「シスリー嬢、謝罪してくれる?僕にとっては大事な友人なんだ。侮辱した様な態度は僕も良くないと思いましたよ」
スヴェンにも言われ、シスリーは諦めたのか、か細い声で謝った。
「…………す、すいませんでした……」
「…………それで?一体何処に誘うつもりだったのか教えてくれるのだろうな?怪しい場所なら、スヴェンを連れて行こう等考えない事だ」
「…………ち、父の………経営するお店に……」
「ベルゼウス伯爵の店?」
「カジノだろ」
「え?カジノ?………それ、本当なのかベル!」
「お前に嘘吐いて如何する」
「…………シスリー嬢……流石に僕はカジノには行けない………賭け事の様な、身を滅ぼす物は嫌いなんだ………申し訳ないけど」
「っ!…………お、覚えてらっしゃい!」
「…………え?………あ!シスリー嬢!」
シスリーはスヴェンに断られると、その区間の路地へと入って行ってしまったのだった。
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