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58 *リアン視点
しおりを挟むマーガレットを取り調べたが、ベルゼウス伯爵のしている事に関与はしていなかった、とリアンはマーガレットに述べられていた。
「主人と娘の会話が、時折理解出来ずにおりました………ドレスの件も、仕立てた後に私は見せて貰いまして、ピンクは止めた方が良い、とも一度言いましたが、引く娘ではなく………濃い色のだから、と………夜会当日……フェリエ侯爵令嬢のドレスが娘のドレスと似ていたのには本当に驚いておりました」
「その後、娘はドレスの事で何か言ってはいなかったか?」
「…………主人にキツく怒られてはおりましたが、それ以降は特に……ただ、もうお前は何もするな、と………不満そうな顔をしておりましたが」
「…………ベルゼウス伯爵夫人」
「はい、皇妃陛下………」
皇妃は無表情で口元に隠す扇を当て、揺れる事なくマーガレットを見据え問うた。
「其方………何故娘を止めなかったのです……あれ程奔放な振る舞いをさせておいて、ベルゼウス伯爵家の名誉さえ傷付けているのに……」
「…………娘は……私の言う言葉が耳に入る娘ではありませんでした……欲しい物は、主人は何でも与え、嫌な事は避けてしまう娘に育ち、主人の話は聞けども、私が注意すると私をも嫌だと避けていたのです………自分は皇太子妃になるべくして産まれたのだ、と………主人からの刷り込みもあった様で………」
「…………ふざけた事を……」
僅かに皇妃の扇を持つ手は怒りで震えている様だった。
「本末転倒だ………それで、私が令嬢に靡かなかったからと言って、他の貴族の令息達と関係を結べば、心象も悪くなるのを教えもしなかったのか」
リアンはルティアとの経験が初めてではあるが、特に女に純潔さを求めていた訳でも、女への貞操を大事にしていた訳でも無い。
好きになった女であれば、というぐらいだ。
だが、シスリーの様に手当り次第、男を食い物にする考えは、嫌悪が向く。
「あの娘がそんな事をしている等、私には全く………」
「令嬢の最近迄付き合っていた男が拘束されたのは知っているな?」
「は、はい……」
「1つの領地が、財政逼迫させられたのだ!その金はベルゼウス伯爵領に渡り、武器を作る為に採掘場を広げ、戦をしている両国に武器を売っていた!…………其方の夫は隣国を滅ぼす行為を行っていたんだ!それを知らなかったでは済ますには、時期が遅い!」
「っ!…………わ、私は……贅沢な暮らしをさせて貰っているとばかり………申し訳ございませんっ!」
「…………皇太子」
「…………はい……」
皇妃が扇を綴じ、溜息を漏らしてひと呼吸取ると、感情的にならない様に、と目で訴えていた。
「…………気が焦りました……」
「落ち着きなさい………監督不行届なのは今気が付いても、もう手遅れです。何も知らなかった、では済ませませんが、貴女にも責任はあるのですよ、ベルゼウス伯爵夫人」
「償える事であれば、どんな事でも………」
「ベルゼウス伯爵の行き先に心当りは?」
「領地ではないのでしょうか………私には連絡も無く………」
「それが居ないのだ、ベルゼウス伯爵夫人。近隣領地、武系貴族にも確認しているが分からない。既に国外に出た可能性もある」
「…………そ、そんな……」
「もし、連絡があったら教える様に………邸に送らせるが、暫く謹慎を命ずる。監視付きになる事だけは伝えておくぞ………皇妃陛下、それで宜しいですか?」
「…………良い、皇太子の判断に任せます」
「…………娘の事は如何なるのでしょう………」
「…………まだこれから事情を聞く」
マーガレットに逃亡する勇気は無いだろう。
再び事情を聞く必要があるかもしれないので、監視下に置かれる事になった。
「失礼します………皇太子殿下………」
いち早く、ベルゼウス伯爵邸でのニオイを落としたライナスの部下が、シスリーを連れて来れた、と伝えに来た。
「ベルゼウス伯爵令嬢が到着した様です」
「シスリー………」
「ルティアに聞かせるなら聞かせよ………先日の事もある。あの娘が傷付くと思うなら、貴方の判断で決めなさい」
「分かりました………私はティアを会わせたくないので事後報告します」
リアンが皇妃達と離れ、ライナスの部下と部屋を移動する。
「ん?何か臭いな………香水のニオイか?」
「え!まだニオイますか?風呂に入って来たのに………」
「着け過ぎたのか?」
「いえ………ベルゼウス伯爵邸で令嬢が暴れ、皆香水を被りまして………ライナス様が全身香水塗れに迄なり………」
「は?………どれだけ掛けられたんだよ………」
「さ、さぁ………瓶ごと投げ付けられ、怪我した者も居ましたが、自分は3本は当たったかと……ライナス様は10本以上は………」
「避けれるだろ!女が投げたなら大した力が無いんだから」
「それが始めに椅子を投げ付けられ、それで騒動となりひしめき合ってしまって、避けるに避けれなくなり、足場もグチャグチャでバランスは崩れるわ、散々な有様で……」
「阿呆か………全く……ライナスともあろう奴が……」
後に笑い話にはなるだろうが、今は呆れるリアン。
リアンは、歩いている廊下で、ライナスやライナスの部下達が歩いたのが分かるぐらい、残り香があり、頭が痛くなりそうだった。
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